第89話 獄炎双竜剣のマキナ様
「さあ張った張った! ロバーツ海賊団船長のジャックと娘のマキナの一本勝負だ! マキナの仲間がマキナに大金貨200枚賭けてるよ! ガッポリ稼いでくれ!」
いつの間にか海賊団は即席の賭け用の受付を作り上げ、進行役が場を盛り上げている。
慣れているのかオッズボードまで出してきており、ソーマ達がマキナにオールインしたおかげで異常に高くなった倍率のジャックに、海賊は街の人まで巻き込んでどんどん賭けられているのか、ジャックの倍率が凄い勢いで落ちていく。
「凄い賑わいになってきたな。随分慣れてそうだし海賊ってこういうのが日常茶飯事なのかな」
「ううむ、どうかのぅ。わたくしはこういう祭りのような雰囲気は好きじゃが。にしてもマキナ殿に全額賭けて良かったのかの?」
「おまえ、俺が大丈夫だとか言ったら『んぬふぅ! 絶大なる信頼を寄せるプラトニックゥ!』とか言って興奮するつもりだろ」
「のぉぉ……頼むのじゃぁ……最近推しカプの萌え成分が不足気味なのじゃあ……」
一体こいつはどこからそう言う言葉遣いを仕入れているんだと呆れたソーマは目の前の喧噪に視線を移す。
「さぁて皆有り金全部賭けたか!? 良いな!? よぉーし締め切りだ!! 此度の挑戦者はダークエルフと魔族のハーフ、闇属性の申し子マキナだ! Sランクスキルに三属性持ち、ジャック直伝の双剣使いが長きに渡る旅を終えて我らが海賊団に帰ってきたぞ! みんな応援してやってくれ!」
飛び交う大歓声の中、マキナは華麗に双剣を抜いて躍るような剣技を披露した後、頭上に炎熱嵐を一瞬打ち上げて場を盛り上げた。観客はそれに応えるように喝采を浴びせている。
「迎え撃つはこの世の海を制するロバーツ海賊団の船長ジャックだ! SランクスキルこそないがAランクスキル3つに二属性持ち、さらにマキナの双剣の師匠だ! 海に生きる者ならジャック=ロバーツの名を知らねぇやつはいねぇよなぁ?! この戦い、マキナが勝てばロバーツ海賊団はマキナのパーティの大海竜狩猟に全面的に協力するぜ!」
大海竜狩猟という言葉に観客は一瞬どよめくも、面白いスパイスとなったのか一気に歓声が沸く。
海賊は酒樽まで持ち出して販売まで始めており、まさに盛り上がりは最高潮を迎えていた。
ソーマと丸眼鏡も酒を買い、せっかくなので観戦を楽しむことにする。
「久しぶりの親子対決! この試合に立ち会えたラスタの民は幸せもんだ! 余所見は厳禁だぜ?! さあ、勝負だ!!」
進行役の海賊が勝負の開始を告げるも、マキナもジャックもその場から動かずに睨み合う。
観客は歓声やら野次やらを飛ばして二人をはやし立てていた。
「どうしたマキナ、ビビってるのか?」
「あ? 弱いヤツから攻めるのが普通だろ、いつでも良いぜ?」
「てめぇ、口は相変わらずだな。良いだろう、ここは可愛い娘を立てて俺から攻めてやる」
ジャックは腰に帯刀しているうちの一本を抜くと、マキナに向かって斬りかかった。
それに対しマキナもカットラス一本で応戦する。
お互い本気を出してないのか随分余裕があるように見えるが、素人から見ればかなり激しい打ち合いなので街の観客は歓声を上げている。
「ちったぁ強くなったってのは本当のようだな、父としては嬉しいぜ」
「おいおい、こんなんじゃ準備運動にもならねぇぞ? もうちょい速度上げていこーや」
「へっ、すぐ負けんなよ!」
ジャックはそう言うともう一本のカットラスも抜き、双剣でマキナに襲い掛かる。
マキナはそれをたった一本のカットラスで全て捌き、弾いていた。
剣と剣が交差するリズミカルな音が辺りを包み、場を大いに盛り上げていく。さらにはマキナが未だ剣一本で応戦しているのを見て海賊たちは船長に向かって野次を飛ばしていた。
ジャックは野次を受け、何が何でももう一本のカットラスを抜刀させたいのか攻撃がどんどん激しさを増すも、マキナは相変わらずスキルも使わずに疾風のみを纏いながら全ての剣を捌き切っている。
ジャックは一度間合いを取り直しマキナと向き合った。
「ほう、強くなったってのはマジみてぇだな」
「へっ! 右手ばっか使ってっから左手があったまらねぇなぁ!」
マキナはわざと観衆をたき付けるように大声でそう言うと左腕をぐるぐると回して挑発した。
観客もまさかの展開に、マキナに賭けたものは狂喜し、ジャックに賭けた者は大声で野次を飛ばしている。
「ほんとアイツは目立ちたがり屋っていうかなんて言うか……いつも楽しそうに戦うよなぁ」
「うむ、まあ見ていて楽しいがの。ソーマ殿の戦いは素人受けはせんかもしれんのぅ」
次第に街の人が騒ぎを聞きつけどんどん増える観客に、マキナは煽るように右手で剣を回してパフォーマンスを魅せている。
「ったく、娘相手にこのスキルを使うとは思わなかったがここまでナメられちゃ仕方ねぇ。覚悟しろよ」
直後、ジャックの身体を覆うように現れたオレンジ色のオーラに、ジャックに賭けた者たちが大歓声を上げる。
「お、ライル国王も使ってたスキルだね。同じようなのでミスタリレの騎士団長も使ってたんだけど、あのスキル名分かる?」
「うむ、あんまり覗き見はしたくないんじゃがのぅ」
散々ソーマとマキナの事は盗聴に覗き見を繰り返してるくせにそこは倫理観があるのかと思ったソーマだが、丸眼鏡に関しては今更何を言っても手遅れ感しかないので、瞳をアメジストに揺らめかせているのを眺めながら鑑定が終わるのを待つことにする。
ソーマは何気に鑑定術士の瞳が好きだった。鑑定の際に揺らめく引き込まれるような美しく淡い瞳は見る者を魅了する力がある。
「ふむ、Aランクスキルの『覇王の豪闘気』というものかのぅ。効果は全ステータス上昇大じゃの」
「あ、やっぱステータス上昇系か。なんだか威圧のAランクと名前が似てるね。まああそこから全ステータス上がったところでマキナに勝てるとは思わないけど」
「んぬふっ……パートナーを信頼するカップル……良いのぅ! 良いのぉぉおお!!!」
観客の熱に負けず劣らずの盛り上がりを見せている丸眼鏡を他所に、再度ジャックはマキナに飛び込んでいく。
先ほどより数段上の次元の速度とパワーを手に入れたジャックの攻撃に、マキナは相変わらず剣一本で捌こうと試みるが、さすがに受けきれないと判断したのか躱せるものは躱しながらの応戦となった。
特にちからに関してはジャックが上回ったらしく、マキナは受けからいなしや流しで対応している。
それでもやはり二本目の剣を抜かないマキナに対し、ジャックは容赦なく双剣の連撃を見舞う。
「おいおい……御頭が豪闘気まで使ってもまだマキナの奴、剣一本で対処してるぜ……どうなってやがる」
「マキナは疾風で速度にバフかけてるからね。見たところジャックさん疾風使ってないみたいだし、元々マキナはすばやさが高いからスキル使ってもまだマキナの方が速いんじゃないかな」
ソーマの隣の海賊が信じられないようなものでも見ているかのような声を漏らしたので、ソーマは解説してやった。
二属性持ちとは言っていたが風を持っていないのだろう、豪闘気まで使って疾風を使わないということはないだろうとソーマは読んでいた。
一般人から見れば考えられないほどの速度と重さを伴う連撃を、マキナは人外の速度で易々と躱していく。ソーマや丸眼鏡から見ても反撃の機会は多々あるのだが、マキナはすぐに決着を付けるのが面白くないと思っているのか一切手を出さずに守りに回っていた。
ジャックはそれを、反撃出来ないと思ったのか攻撃の手を緩めることなく挑発する。
「おいおい、攻撃しねぇと勝てねぇぞ? いつ双剣スタイルを捨てたのかは知らねぇがこのまま俺が疲れるまで受け続ける気か?」
「ああ? 遅すぎて二本も使う気にならなかったんだがよ、そんなにお望みなら使ってやっても良いぜ!」
マキナはジャックの頭上を跳び越えて反対側に回ると、右手のカットラスをくるりと回して左手に持ち替え、わざと鞘から刀身までしっかりと観客に見えるようにゆっくりと紅竜刀を抜刀した。
深紅の鞘から引き抜かれたのは白銀に煌めく刀身、その刀身には燃え盛る炎のような波紋が浮かび上がる。
その余りにも美しい神剣に、ある者は魅了され、ある者は大歓声を上げて双剣スタイルとなったマキナを盛り上げた。
さらにマキナのパフォーマンスは続く。
観客にその紅竜刀の美しさを存分に見せ付けたあとはその剣にファイヤブレイドを付与し、如何にも炎の神剣と言った具合の演出を見せた。
まさに盛り上がりは絶頂を迎え、歓声怒号野次などが大声で飛び交う。
「おい! さっきあたしのことを闇属性の申し子ってダセェ紹介したの誰だぁ!? あたしは火の神にも愛されちまった双剣使い、獄炎双竜剣のマキナ様だろうが! オヤジ、本気で掛かってこねぇと火傷じゃ済まねぇぜ?!」
そう言うとマキナは自身が見えなくならない程度に控えめな炎熱嵐をその身に纏った。
マキナの周りをゆらゆらと回転する炎と、紅竜刀の刀身に纏わりつく炎。
まさしく火の神に愛された――ように見えるそのマキナの姿に、観客は絶叫の大歓声を上げていた。
「……マキナって中二病気質あるよな」
「なんじゃそれは……じゃが謎の説得力があるのぅ、その言葉には」
明らかに演出用の魔法だと分かるソーマと丸眼鏡に対し、マキナはチラッと視線をソーマに送ると勝ち誇ったかのようなドヤ顔を見せて歓声に応えている。
(見た目は百歩譲ってカッコいいとしても、獄炎双竜剣のマキナ様は絶対数年後に黒歴史になってると思うんだが……)
今後一生呼ばれるであろう痛い二つ名を自分で付けてしまったことを哀れに思うソーマとは裏腹に、マキナは不敵な笑みを浮かべてジャックと向き合った。
「全く目立ちたがりも変わんねぇもんだぜ。そろそろ終わらせるぜ……豪滝!」
ジャックは双剣を持ったまま、マキナに向かって両手をかざすとそこからおびただしいほどの水流が巻き起こりマキナを襲った。
マキナもそれを読んでいたのか真っ向から纏った炎熱嵐で受け、とんでもない火力でその水を蒸発させていく。
本来火属性に対して水属性は圧倒的に優位なのだが、魔法の威力そのものが違えば大量の水を一気に蒸発させてしまうことも可能である。
その辺りはさすが、ステータスが魔術師寄りなだけはあった。
本来マキナは剣より魔法の方が圧倒的に強い魔術師タイプなのだ。本人は剣で戦うのが好きなようだが。
ジャックの豪滝を全て蒸発させきったマキナは瞬時に間合いを詰め、きちんと観客に見えるようにジャックの前で止まった後に左右に一度ずつ回転斬り、それでジャックの双剣を根元から斬り落とすと二回転バク宙で間合いを取り直し、クルクルと双剣を回しながら甲高い納刀音を響かせて双剣を納刀し、纏っていた炎熱嵐を解いて観客に一礼をした。
その後の場の荒れよう、盛り上がりようと言ったら途轍もないものであった。
ソーマ達がマキナにオールインしたのでほとんどの海賊や街の人はジャックに賭けており、総掛け金の9割ほどがソーマ達の取り分となった。
しかしあまりにも圧倒的かつ美しい勝利のマキナに街中が大騒ぎとなり、海賊も負け分を取り戻そうと船から酒樽や食料を大量に下ろしてはその場で販売を始め、飲めや歌えやの祭りとなり、街の警備隊が出動になれば場所を移して祭りとなり、港で屋台を営む獣人達は稼ぎ時だとばかりに気合いを入れ、英雄扱いのマキナは気を良くしたのかそこらじゅうで火属性魔法のパフォーマンスをして火事になりかけたりと、それはもう街を上げたどんちゃん騒ぎが朝まで続いたのであった。
またマキナがやらかすのではないかとひやひやしていたソーマは、付かず離れずの距離から監視しており、火事を起こしかければ火消しをしたりとフォローしていたため、明け方には倒れるように眠りについたのだった。
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