第88話 再会
ソーマ達は現在、初めて獣人国を訪れた際に着いた港町ラスタで船の手配に奔走していた。
フィオナは王都ライルに残っており、お馴染みの三人での冒険に戻ってる。
港町ラスタに来る際、王は馬車を手配しようと言ってくれたのだが、走った方が早いからと遠慮すると「たしかにそなたたちならそうだな」と豪快に笑っていた。
よく笑う王で、少なくともソーマは獣人国王を気に入っていた。
船の手配は難航した。
大海竜狩猟など船乗りにとってみればわざわざ命を落としに行くようなものである。そんなところに何処の馬の骨かも分からぬ若い冒険者を連れて行くような変人などそうそう居るものではなかった。
ついにマキナが「あたしの実力を見てから言え!!」とブチ切れて騒ぎを起こしてからは、ソーマ達の話を聞くものなどいなくなり、三人は現在ギルドで『大海竜狩猟のための船の手配』という依頼をギルドで出した後、ギルド内で休憩をしていた。
当然そんな依頼を出されたギルドの受付嬢は「こんな依頼受ける人いねぇよ」とばかりに苦笑いをしながら依頼掲示板に貼り付けたのであった。
「ったくあいつらよぉ、あたしらの実力も知らねぇくせに命知らずだ馬鹿だアホだって頭来んに決まってんだろって」
「うむ……しかしこうなるとなかなか厳しいのぅ。王に言えばなんとかしてくれるかもしれぬがさすがに甘え過ぎも――」
その時、ギルドに飛び込んできた浅黒い肌の魔族の男がこちらを見て声を掛けてきた。
「お、やっぱマキナじゃねぇか! 久しぶりだな!」
「んあっ!? テリ兄か!? あんでこんなとこにいんだ!?」
テリ兄と呼ばれた魔族とマキナは大きな声を上げながら再会を喜びあっているようだ。
「いやよ! さっき港で騒ぎが起きてると思ったらマキナの声が聞こえてきたもんだから追っかけてきたんだ! 相変わらずどこ行ってもトラブル起こしてやがんな!」
「っるせぇよ! おいソーマ、丸眼鏡ッち! あたしの兄貴分のテリ兄だ、海賊時代のな!」
「あんだぁマキナ! 男出来たのかよ! っかぁーあのおてんば娘のマキナがねぇ! よう、オレはテリーってんだ、ロバーツ海賊団の副船長やってる、よろしくな!」
「おぉあ!? おめぇ副船長になったのか!?」
その後も「誰におめぇって言ってやがる」だのなんだのと二人で盛り上がり続ける二人を、ぽかんと口を開けて眺めるソーマと丸眼鏡。
どうやらマキナが冒険者になる前に乗っていた海賊団の船員らしく、たまたま航海中にこの港町に停泊しているとのことであった。
「せっかくだしオヤジに挨拶でもしてくっか! おいソーマ、丸眼鏡、あたしの育ての親に紹介するぜ、着いてきな!」
そういうとマキナとテリーは昔話に花を咲かせながらギルドを出て行ってしまった。
結局ソーマと丸眼鏡は一言も発さぬうちに取り残されてしまったが、着いて行くより他にないのでいそいそと二人のあとを追った。
マキナとテリーは港の端の一角に停泊している船に向かって歩いていた。
パッと見は普通の商船とさほど変わらない様子だが、全ての船の横には黒い文字で大きく『ロバーツ海賊団』と書いてある。
どの船も海賊船とは思えないほどに品が良く、船員も港の獣人達と笑顔で話しているところを見るに、海賊であっても受け入れられているのだろう。さすがは海賊狩り専門の海賊と言ったところだ。
「おーーいオヤジィ! あたしだ!!」
マキナはそういうと一際体格の大きな男に向かって駆け寄り、その傷だらけの厚い胸板に飛び込んでいった。
「おお! マキナじゃねぇか! ったく全然連絡もよこさねぇでこのクソ娘が! 元気そうだな!」
「おうよ、あれからめちゃくちゃ強くなったぜ! 今ならオヤジにも負ける気がしねぇ!」
「おいおい言いやがるな! いつだって相手するぜ!」
オヤジと呼ばれた男はマキナの頭をわしゃわしゃと撫でながら嬉しそうに笑っている。
ウェーブのかかった白い長髪を後ろで結い、長い白髭に強面の顔とは裏腹に顔をくしゃくしゃにして笑う男は如何にも可愛い娘を持つオヤジと言った表情だ。種族はヒトらしい。
「おお、わりぃわりぃ、紹介遅れた! あたしのパーティメンバーのリーダーのソーマと……えーっと、丸眼鏡ッちだ!」
「ソーマです、よろしく」
「ハワーヌ=ルイじゃ! よろしくのぅ」
ソーマはいい加減誰も呼んでないしココネじゃダメなのかと思ったが、本人は至って真面目なので諦めることにした。 それにどうせココネとも呼ばれないし。
「おう! ソーマに眼鏡だな、船長のジャック=ロバーツだ、よろしくな! うちの娘が世話になってるようで。して……おまえらはもうヤッたのか? あ?」
「お、おいエロオヤジ! いきなりそれかよ!」
「あ、いえ、マキナとはそういう関係じゃないので」
「んぬふぅぅうう!!!! プラトニックラァァアアアアブ!!!!」
突如叫び始めた丸眼鏡にジャックは若干引きながらも、残念そうな顔でソーマに耳打ちする。
「おてんば娘を頼むな。あとおめぇ、マキナ泣かしたらぶっ殺すかんな? あ?」
「あ、はい、どちらかと言うと俺がいっつも泣かされそうっすね、いろんな意味で」
ジャックは「いろんな意味ったぁどういう意味だ?」とニヤニヤしながら聞くので、ソーマは直近で言うと国王との模擬戦で王を殺しかけたことなどを伝えると、ジャックは腹を抱えて大爆笑していた。
「ひゃっひゃっひゃ! おてんばも落ち着くどころか酷くなってるじゃねぇか! こりゃ傑作だ!」
「おいソーマ! オヤジに変なこと言うんじゃねぇぞ! こいつに言ったら世界中の船乗りに広まっちまうかんな!」
ソーマは肩をすくめて返事をすると、いつの間にか船員が集まってきてマキナと再会を喜びあっていた。
仲の良さそうな仲間に囲まれているマキナを見ていると、ソーマは何故か少し安堵した。
昔を語る時のマキナはどこかいつも寂しげであったが、こんな環境だったからこそひねくれずに真っ直ぐ純粋に育ったのかもしれないな、とその様子を眺めていた。
「でマキナ、おめえらはこんなとこで何やってんだ?」
「あ? あたしら大海竜を狩りに行きてぇんだけどよ、船出してくれるとこ探してた……ってそうだ、オヤジ船出してくれよ!」
大海竜という言葉にマキナを囲んでいた海賊達は騒然とする。
中には冗談だろと笑ってる者もいた。
「ほう、あのチビマキナが大海竜狩りったぁおもしれぇな。協力してやっても良いが一つ条件があるぜ」
「あんだ?」
「俺と勝負して勝ったら連れてってやってもいい。どうだやるか?」
「はっ! 上等だぜ、強すぎてちびるなよオヤジ」
マキナの言葉に海賊達は大盛況を見せ、二人を囲んで円状に離れたあとはどちらが勝つかの賭けが始まる。
あまりの展開の早さについていけていなかったソーマと丸眼鏡もとりあえずと、所持金全額をマキナにベットして様子を見守ることにした。
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