第87話 新スキルと王との会食
静まり返っていた場内に徐々にどよめきが広まっていく。
目の前で起きたことを認識出来た者は、当人たちを除いて誰もいなかった。それは王にとってもソーマ達にとっても幸いなことだった。
稽古場の中心でへたり込む王とソーマはどちらともなく視線を合わせる。
「……私は斬られたのだな。そなたが回復してくれたのか?」
「ええ、いや、ホントにすみません。あいつ周りが見えなくなっちゃうタイプで……」
王は神妙な面持ちで自身の胸に手を当てて擦っていた。
おそらく斬られたということを認識は出来なかったが、潜在意識では確固たる死を認識しているのだろう。
「そうか……。まあしかし、殺す気で来いと挑発したのは私だからな。それを咎めるわけにもいくまい」
「いやいや、そうは言っても限度ってものがあるでしょう。あとでキツく言っておきます」
「よいよい。多少周りが見えなくなることがあるとは言え、あの純粋で真っ直ぐな気持ちはマキナの代え難い才能だ。わざわざそれを潰す必要もあるまい。こうしていざという時にフォロー出来る者も近くにいるわけだしな」
王はそう言ってソーマを見ると、ソーマは勘弁してくれと肩を竦めた。
その姿を見て、王はカラカラと笑っている。
「さて、そろそろ後ろで倒れている勝者を起こしてやってくれ。話は食事をしながらでもしよう」
そう言うと王はマキナの勝利を兵たちに伝え、若き冒険者達に負けぬよう一層稽古に励むよう鼓舞した。
ソーマはマキナの回復を済ませて起こしてやる。
「お疲れ様、一応勝ったみたいだからな、おめでとう」
「……そうかよ。王は生きてんのか?」
「ギリギリハイヒールが間に合ったからね、ちょっと遅かったら死んでたかも」
再度そうかよ、と頷いたマキナは少し考え込んでから小さな声でソーマに礼を言った。
ソーマ達四人はその後、プライベートな場としての食事会に招かれていた。
王宮の食事会ということでソーマはアホみたいに長いテーブルをイメージしていたが、王の人柄なのか個室に10人掛けほどの大きな円卓が置かれている、王との食事会というには少々質素な――にしてもさすがに豪華な内装ではあるが――個室での食事会となった。
現在王は席を外しており、四人は席について王を待っている。
マキナが相変わらず大人しいのでソーマが気を遣って話しかけていた。
「で、結局身体強化のスキルを得たのか?」
「あ? まあな、なんかあん時ぜってぇ負けたくねぇって思ったら急に身体に力が溢れてきてよ」
「マキナが身体強化まで手に入れちゃったらいよいよもって誰が勝てるんだって感じしかしないな」
呆れた顔でソーマがマキナを見るも、マキナはさほど嬉しくないようだ。
「まあステータスが高いのは認めるぜ。でもそれだけじゃ勝てねぇってのは分かったからな」
「戦闘スタイルはそれぞれだからな。結果的に勝てれば勝ち方なんて何でもいいと思うよ」
どこか自信ありげなソーマにマキナは少し腹が立った。しかし例え身体強化を得たとしてもソーマなら自分に勝てるかもしれないという想いがこみ上げ、悔しさを滲ませる。
「悔しいと思ってるかもしれないけどそれは俺も同じだからね。スキルも属性も俺の方が恵まれてる上に、四六時中稽古もしてる。なのになかなか追い越せないのは結構堪えるものがあるよ」
「どうだかねぇ。それより覇気のスキルがランクアップしたけどおまえもしたか?」
そう言えばなんかテロップのような音を聞いた気がするな、とソーマはステータスプレートを取り出し確認する。
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・スキル詳細
A:覇王の豪威圧…何人も抗えぬ覇王の威圧。威圧耐性大
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(なるほど、神や王って結構特別な相手なのかな。そういう相手と戦うことによってのみ得られるスキルがやっぱりあるのかもしれないな)
「俺もAランクスキルになってたね。丸眼鏡も王様と戦ったらランクアップするんじゃないか?」
「ランクアップする前に負ける未来しか見えんのじゃが……さすがに後衛一人じゃ勝負にならんじゃろ」
「丸眼鏡ッちも剣豪スキルゲットしたら前衛も出来る職業にクラスチェンジするんじゃねぇか?」
「向いてないことはやらぬ主義じゃし、そもそも私はモブキャラゆえ……」
ソーマとマキナは同時に「こんな目立つモブキャラいねぇよ」と突っ込み、その横で空気と化しているフィオナは「ココネさんがモブキャラだったら私は一体……」と心の中で泣いていた。
その時、王が部屋へと入ってくる。
「いやあすまない、待たせたな。楽にしてくれ。盗聴防止などは好きにしていいからな」
王は屈託のない笑みを浮かべて席に着くと、料理人に食事を運ばせた。
コースではなく一度に全ての料理が出てくるタイプで、円卓の脇に数種類の飲み物のボトルが置かれていった。
「コースだと話に集中出来ないと思ってな、飲み物も各々飲みたいものを自由に飲んでくれ。では我がライル王国とソーマ達との出会いに、乾杯だ!」
王がそう言うとマキナは麦酒用の大きなグラスに葡萄酒をなみなみに注ぎこみ、豪快に飲み干しては注ぎ直している。
ソーマ、丸眼鏡も各々好きな酒を注ぎ、フィオナは酒があまり得意ではないのか少量の葡萄酒を少しずつ飲み始めた。
気遣いのいらぬ王と分かった四人は、腹が減っていたのもあり各々好きな料理から食べ始める。
さすがに王との会食用料理とあってどれも凝ったものが多く、また素材も厳選されているので、ソーマは初めて食べる異世界王宮料理の味に感動していた。
マキナは口の周りを汚しながらガツガツ食べているが、王の親戚の丸眼鏡、世界樹の巫女のフィオナは気を遣っていないとは言え上品な食べ方で、ソーマも前世で多少テーブルマナーの心得もあったので意識して食事を楽しんだ。
「我が獣人国の料理は口に合いそうかな?」
「最高にうめぇよおっさん!!」
ソーマ達が頷く中、マキナは口の中のものを飛ばす勢いで返事をしている。
さっきまでしおらしくなっていたのが嘘のように食事を楽しむマキナを見て、こいつの精神年齢は一体いくつなんだろうなと苦笑いするソーマであった。
「はっはっは。それは良かった。足りなければ運ばせるからどんどん食べてくれ」
そんなマキナの所作を気にも留めない王を見て、ソーマもフィオナも良い国だなとしみじみ感じていた。
その後は食事をしながらソーマとマキナとの戦いに関することなど、お互いが感じあったことなどを話していた。
王はとにかく戦うのが好きなようで、久しぶりに対等以上に戦える相手との模擬戦にかなり興奮していた。
ソーマとマキナもそれは同じで、現時点での自分達の本気をぶつけられたことを嬉しく思い、感謝を口にした。
食事も落ち着いてきた頃、王が口を開く。
「模擬戦の前にも少し話したが、ソーマはミスタリレから来たのだろう? そなたはヒト族なのか?」
「ええ、自分の出自に関しては自分でも良く分かってませんが、ミスタリレ王都にいたのは確かです」
王は差し支えなければ、と言うのでソーマもこの人なら話しても良いかなと、王都に行くことになった経緯や抜け出した理由などもざっくりと伝えた。
どうやら世界樹の復活により連合国内の力関係を危惧したミスタリレは大々的にヒト族から賢者が生まれたことを世界中に発表したらしいが、その後ピタリと賢者の話はしなくなり、さらに各国に忍ばせているスパイからの情報で賢者が逃げ出したかさらわれたらしいという情報は、各国掴んでいるのことであった。
しかしミスタリレ側はそれを公表するわけにはいかず、王は水面下でソーマの捜索隊が世界中に広がっているだろうと見ている。
ただ、魔神神殿も復活したとあって現在各種族間ではかなり緊張状態が続いており、ソーマ捜索隊に注力してばかりもいられないだろうというのは王の個人的な意見であった。
「ありがとうございます、あの後ミスタリレ王国の動きが少し気になっていたので情報助かりました」
「よいよい、して三人は何故獣人国に?」
「今防具を作ってもらおうと思ってまして、その素材の一つがギガントタートルだったものですからそれの調達に来ました」
王は防具に興味を持ったらしく、その他の素材もソーマ達に尋ねた。ソーマも特に隠すことではないので全ての素材を王に伝える。
「ほう、火竜王に大海竜、ギガントタートルに幻彩鳥か。となると職人はローガンだな?」
「え、王様、ローガンさん知ってるんですか」
「はっはっは、何を隠そう私の武器、防具は全てローガンのだよ。もう何十年と作ってもらっている。そうかそうか、あの頑固おやじもそなたたちを認めたか。はっはっは!」
王はローガンと懇意の仲なのか、愉快だとばかりに大笑いをしていた。
「では次は大海竜かエルフ国か。大海竜を見つけるあてはあるのか?」
「いやーそれが結構困ってましてね。探知で探すにも海だと広すぎますし」
「そうであろうな。獣人族の中に海人族がいるのは知ってるな? 我らが信仰する海龍神様の祠を守ると言われている海人族であればおそらく大海竜の居所も知っているだろう。私から書簡を出すから、まずは海人族を訪ねてみるといい」
「え、本当ですか! それは助かります!」
王は内容を忘れぬよう小さな紙にメモをして、胸のポケットに仕舞っている。
「よいよい、一度命を懸けて戦った相手は友人だ。時にフィオナ、そなたは今後どうするつもりなのだ?」
突然話を振られたフィオナは少し驚きつつも王と向き合う。
「はい、ソーマ様達と共に旅をしたいと思っています」
「ふむ、やはりそうか。だが身体的強さはもとより、その精神力でこの者たちに付いていけるのか?」
王の問いにフィオナは即答出来なかった。
付いていけるようになりたいとは思っている。しかしこの短期間にソーマ達と過ごしてみて、あまりにも離れすぎた実力と、強さを求める根本的な気持ちに、付いていく自信がないというのが正直なところであった。
「うむ、自分でも分かっているようだな。シスの街を救ってくれたお礼と言ってはなんだが、大海竜狩猟の間、私がフィオナの面倒を見ても良いぞ。一応何十年と国の騎士団を束ね育てている身だ、多少のコツは心得ているよ」
王の破格の申し出にソーマと丸眼鏡は驚くも、こんな滅多な機会はないだろうとフィオナを見つめる。
「……ほ、本当に一国の王ともあろうお方にそこまでして頂いてよろしいのでしょうか?」
「まあ決めるのはフィオナ、そなただ。私は構わぬぞ」
フィオナは迷っていた。自分如きがソーマやマキナと渡り合えるほどの強さを持ち、実務などにも追われて多忙であろう王に面倒を見てもらう等ということが迷惑なのではないかと迷っていた。
その時、テーブルを叩き割らんという勢いでマキナが拳を叩く。
「おいクソエルフ、何迷ってやがる。あたしは強くなりてぇなら王だろうが神だろうがなんだって利用するぜ。手段選べるほどてめぇは強いのか? 今までは黙って見てたがここで迷うようなら今後二度と着いてくるんじゃねぇ」
フィオナも腹が立ったのか反論しようとした矢先、ソーマがすかさずフォローを入れる。
「口は悪いけど訳すと、王の稽古受けて強くなってくればパーティとして歓迎するってことだ」
「ああ?! あたしはそんなこと言ってねぇぞ?!」
これ以上話をややこしくするなとソーマはマキナを諫める。それはフィオナに対しても同じだ。
今フィオナがすべきことはマキナへの反論ではなく、王への申し出である。
「分かりました。ではライル国王、宜しくお願いします」
「うむ、だが私は強くなるための方法を教えるまでだ。強くなることを選ぶのは自分自身だからな」
フィオナは自身に言い聞かせるように「はい」と強く返事をした。
かくしてソーマ一行は、王との模擬戦を経てソーマとマキナはまたパワーアップし、課題であった大海竜狩猟の目途は立ち、懸念事項であったフィオナに関しても王が面倒を見てくれるとのことで、非常に実りのあるライル王国での一日を終えたのであった。
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