第85話 続・ライル王戦
魔法やスキルの威力は意志の強さに大きく左右される。
それは威力以外にも、取得までの早さ、習熟度が上がる早さにも大きく関係する。
何故なら、魔法やスキルとは自らの意志やイメージをMPなどを通して具現化するものものだからである。
そして今、ソーマは明確で強力な意志を以てその殺意を覇気というスキルに乗せて王へと叩き込んだ。
周囲の空気は一変し、次の瞬間王が殺されるのではないかというような極度の緊張感が場内を包み込む。
「はぁっっ!!!!」
王もまた威圧を放つ。
ソーマからの威圧を跳ね返すように放たれた王の覇気は、絶対的な勝利を確信したかのような挑発じみたものであった。
それに対し、再度ソーマは静かに殺気の籠った覇気を返す。
王とソーマの威圧の応酬に観客席の兵は、ある者は膝が震え、ある者は腰を抜かし、ある者は恐怖に慄いた。
フィオナもまた、その場にへたりこんでしまった。
丸眼鏡は額に一筋の汗を流し、真剣な目つきで二人の様子を見守っていたが、マキナはワクワクが止まらないのか目を輝かせ、無意識に腰の紅竜刀に手を掛けている。
張り詰めた空気の中、ソーマは静かに王の呼吸を読んでいた。
そしてその刹那の気の乱れ、達人の域に達した者にしか分からぬ揺らぎの間を突くように、ソーマはその場で『心眼居合斬空剣・シャドウブレイド』を放った。
目にも止まらぬ神速で放たれた遠距離抜刀居合斬りは斬撃耐性・物理耐性無効の空間を斬り割く斬空剣。さらには闇属性付与のオマケ付きであった。
初撃のように飛び込んでくると読んでいた王はその隙を突かれ、即座に仰け反るような形でソーマの斬空剣を胸に受けた。
その皮膚と少しの肉を斬り割かれた王に対し、ソーマはさらにその場から神速の心眼斬空剣を矢継ぎ早に放った。
王は大剣を担いでいるとは思えぬほどの速度で次々にその斬撃を躱して間合いを取っていくが、斬撃を飛ばしているわけではない斬空剣にとって距離による威力や速度の減衰は無い。
むしろ距離を取れば取るほど反撃しにくくなることから悪手と悟った王は、ソーマに対し炎熱嵐を放った。
それに対しソーマは斬空剣を繰り出しながら非常に高密度かつ低温度のミスト状の水壁を展開し炎熱嵐を相殺する。
炎熱嵐を消滅させることにより視界を遮られることなく一方的に神速の斬空剣の連撃を王へと放ち続けることが可能となった。
直後、王は大きな雄叫びを上げるとソーマと王の間を隔てる大きな地壁を作り上げた。
このままではジリ貧になると悟った王は一旦仕切り直す意味でも地壁でソーマの視界と斬撃を遮る手に出る。
ソーマはその大きな地壁に対し、渾身の力を込めて水と風の二属性複合中位魔法の豪水爆流を放った。
とてつもない水量の水が激流となって地壁へと衝突する。何百トンという重量の水が時速数十キロでぶつかるのだ、少々の土壁などいとも容易く砕いてしまう。
地壁を破壊したソーマはそのまま王を飲み込む勢いで豪水爆流を押しやる。
しかしいつの間にかオレンジ色のオーラを纏っていた王はその大剣の一振りで水流を斬り割き、さらにその斬撃による衝撃波はソーマにそのまま向かっていった。
ソーマは即座に飛び上がり、王に向かって斬空剣を放ち続ける。王もそれをギリギリで躱しながらソーマに対し斬撃波を放っていく。
その斬撃波をソーマは地壁で足場を作りながら飛んで避け、合間にも斬空剣を放ち続ける。
どちらもまともに食らえば無事では済まない技の応酬。
(ブライアンが使ってたスキルに似てるな! 動きが別次元に良くなったぞ! こりゃ長引くと厳しいな!)
早めの決着を望むソーマは先に仕掛ける。
力を込めて放たれた王の斬撃波、ソーマはそれをわざと対物魔結界にて受けた。
多重展開した結界が斬撃波によって破壊される瞬間、ソーマは斬空剣の連撃を放つ。
王はそれを避けながら再度斬撃波を放った。王の目は“何故ここにきて結界で防いだのか”を見極めようとソーマに注意深く注がれる。
その瞬間を狙ってソーマは王の背後にドッペルゲンガーを作り出した。
背後から静かに王の首を狙うその殺気を王の武人としての長年の勘は逃さなかった。
考えるより先に身体が反応し即座にしゃがみ込む王、その頭上を影の剣が空を斬った。
そして次の瞬間、王の脳に抗えない理性が生まれる。“この背後から突如現れたものの正体は何なのだ”と。
一切の油断が許されぬ極限の集中力の戦いの中、ほんの刹那、王の視界が背後に向きソーマの影分身を捉える。
その隙をソーマは狙っていた。
たった零コンマ数秒、王の思考と視線が背後に向いた隙、ソーマは超神速の心眼斬空剣を王に放つ。
王も瞬間、ソーマの意図を察したのか必死に身体を捻って致命傷は避けるも、右半身を大きく斬り割かれ、その場に倒れ込んでしまった。
肩で息をしているソーマ。
場内は壮絶な戦いに静まり返っている中、マキナが声を張り上げた。
「おいソーマ! 回復してやらねぇと死んじまうぞ!」
その言葉にハッと我に返ったソーマはすぐに王に駆け寄りハイヒールを掛けた。
「すみません、回復遅くなって。大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。それにしても強いな」
王はどこか寂し気で、それでも清々しいような、複雑な表情をしていた。
「僕も驚きました。あと30秒遅ければ負けてたと思います」
「よいよい、負けは負けだ。一対一で負けるなど何十年ぶりだ」
王はそうつぶやくと立ち上がり、ソーマに握手を求め、ソーマも笑顔でそれに答えた。
そこに目を輝かせたマキナが走り寄る。
「おいおっさん! あたしとも勝負してくれよ!」
待ちきれなかったと言わんばかりに駆け寄るマキナに対し、王は豪快に大笑いし、ソーマは「一国の王に対してもやっぱりマキナはこうなんだな」と呆れを通り越して笑ってしまったのだった。
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