第81話 ソーマのクラスチェンジ
今日も今日とて四人は陽射し照り付ける砂漠で稽古に励んでいた。
ソーマは鉄の棒を無心に斬りまくり、マキナは大量に放った焔弾を自身の突風でかき消したり風刃で消滅させたりしてひたすら習熟度を上げている。
熱中症にならないよう、ソーマは適宜水球を二人の身体に浴びせ、水分補給をしていた。
「っしゃあ! 焔弾と風刃の習熟度が50行ったぜ! 次は業焔弾だな!」
「おいおい、才能開花のスキルも持ってないのに早すぎだろ……」
「おまえは地属性上げりゃすぐ大魔術師取得出来るんだろ? 今のうちに差を詰めないと追い越されるのはあたしだからな」
たしかに、と納得しながら、ソーマは早く不斬剣を取得出来るようひたすら鉄の棒を斬り続けることにした。
一方フィオナは水属性魔法の取得に難儀していた。
三種目を霧探知にすると決めたフィオナだったが、そもそも水球を霧状に発現させることが難しく、霧が発生しないので霧探知を取得出来ないのであった。
魔術スキルが魔術師に上がればもう少しコントロールもしやすくなるのだが、そもそも魔法のコントロールは習熟度やスキルでは表せない技術である。
ソーマやマキナ、丸眼鏡がおそろしくコントロールに熟達しているのであって、一般的なレベルの域を出ないフィオナにとってはそれが非常に難しかった。
なので、今は自身に疾風を纏いながら突風を使って上空に風を起こし、その上で水球や水壁を霧状に変化させるよう稽古をしている。
非常に地味なのだがとてつもない集中力を必要とする訓練である。慣れない稽古にこのような集中力を必要とする稽古を早朝から深夜まで続けることは厳しい上、フィオナは少しでも早くソーマ達に追いつかなければいけないという焦りもあったため、それらは確実にフィオナの精神を蝕んでいった。
「あ、あのココネさん……皆さんはこういう基礎的な稽古をずっとやられてるんですか……?」
「うーむ。わたくしは年齢も上じゃからのんびりずーっとやってきたんじゃが、ソーマ殿は四六時中何かしらの魔法を使っておるのぅ。マキナ殿はソロでダンジョン潜っておったから剣も弓も魔法も使えないとということで練習したと聞いておる」
ちなみに丸眼鏡は相変わらず領主邸を調査と言う名の盗聴をしながら、気になった会話は適宜ムフフの本にメモしつつ、賢王スキルを目指すために必要な魔法の習熟度上げをしている。
簡単に見えるがムフフの耳とムフフの本という高難度のユニーク魔法を同時に使いながら、さらに別の魔法の習熟度も上げることを、小説を読みながらやっているので並大抵の魔術師では不可能な領域だ。
「まあ賢者は一日して成らずという言葉があるように、稽古は何ヶ月何年とずーっと続けて成果が出るもんじゃからの、あまり焦らず気楽にやることじゃな」
「で、でもそれじゃ皆様に追いつけません」
「焦りは禁物じゃ。義務感になるとツラくなるじゃろ。ソーマ殿とマキナ殿をよく見なされ、朝から晩まで楽しそうに稽古しておる。楽しんでる者にとっては稽古など努力するものでも頑張るものでもなく、遊んでるのと変わらん。遊んでるから夢中になって時間を忘れて、気付いたらとんでもなく強くなっておる。頑張ってると思ってる時点で追いつくことなど出来はしないのぅ」
フィオナには丸眼鏡の言ってることがよく分からなかった。
真面目にやるということは頑張るということで、強くなるには努力が必要だと思っているフィオナにとって、夢中になって遊んでいたら勝手に強くなるというのは考えられなかった。
しかもそれが頑張りを上回るなど、聞いたこともなかった。
国の教育機関では遊びは悪とされ、真面目に努力し頑張っている者が褒められた。
だからこそ辛い稽古や練習も頑張れた。
早朝から深夜まで、こんなに頑張っているのに何故褒められず、楽しく遊んでいるようなソーマやマキナには追いつくことが出来ないのか、フィオナには全く想像が出来なかった。
だからフィオナは歯を食いしばって辛い稽古を続けた。ソーマ達に追いつくために。
昼休憩前、ソーマがようやく不斬剣を取得した。
長かったなと安堵の息を漏らすソーマに、マキナが労いの拳を突き出すと、ソーマも笑顔で拳を突き出しそれに応える。
「で、クラスチェンジはしたのか?」
「ちょっと確認してみるよ」
ソーマはステータスプレートを取り出し、自身のステータスを確認する。
――――――――――
名前:ソーマ
年齢:15
職業:大魔導剣士
レベル:54
ランク:Dランク
・ステータス
HP 475
MP 379
ちから 479
すばやさ 367
ぼうぎょ 480
ちりょく 379
こううん 4867
――――――――――
「お、大魔導剣士だね。ステータスはHPとちからとぼうぎょが20%くらい上がってるな」
「あ? なんであたしが10%でおまえが20%も上がってんだ?」
「多分大精霊の恩寵のスキルが効いてるね。丸眼鏡も大精霊の加護があったから上昇率が少し高かったんだろうな」
「っはぁーさすがスキル持ちはちげぇなぁ」
マキナはつまんなそうな顔でソーマを眺める。
「ま、でも大魔導剣士ったぁかっけぇじゃねぇか。クラスチェンジ、やったな」
「ありがとう。早速大魔術師スキルに向けて魔法習熟度上げなきゃな」
「おめぇはちょっと休んでて良いんだぜ?」
こうなってしまえば大魔術師までの道のりはソーマの方が近い。
マキナも負けじと、今まで以上に魔法の鍛錬に打ち込んだ。
昼食時、いつものように広場でパルテドリンクを飲みながら四人はテーブルを囲んでいた。
丸眼鏡とフィオナからもクラスチェンジのお祝いの言葉を貰ったソーマは、少し照れながらお礼を言っていた。
「まあしかしソーマ殿は魔法剣士じゃったから剣も魔法も秀でておるのは分からなくないんじゃが、闇の魔術師じゃったマキナ殿が剣豪を得るというのは凄いのぅ。わたくしが剣豪スキルを取得するのとおそらくそう変わらんじゃろうからな」
「まーな、海賊の頃からカットラス振り回してたしあたしは魔法よか剣の方が性に合ってるかもな!」
「んー、でもステータス的に剣王はかなり厳しいだろうし、そう考えるとやっぱり大魔術師のスキル取ったあとは目指すなら賢者の方の賢王だろうね。近中遠距離、物理と魔法全部こなせるのはありがたいけどやっぱり何か一つ特化したものがあると良いね。まあそれは俺にも言えることだけど」
フィオナの加入を加味すると、今のところアタッカーはソーマとマキナということになる。二人とも剣と魔法を両立させているため幅広い敵に対応出来るのは強みであるが、ここ一番の突破力という面を考えるといずれはどちらかに特化させていった方が良いとソーマは考えていた。
そうなるとマキナは魔術師に特化させていく方が伸びは圧倒的であった。
ソーマは平均的なステータスだがマキナはスキル、ステータス共やはり魔術師向きである。
「あー、やっぱそうなっちまうか。ま、とりあえず大魔術師取ったら賢王目指すかぁ」
「ぶっちゃけマキナが賢王スキル取ったらこの世界でマキナの右に出る魔術師はいなくなると思ってるよ」
「うむ、下手すると一人で一国を潰しかねんのぅ」
1対1であれば剣士が強いが、一度に大勢を相手するとなると魔術師が圧倒的に強い。
剣豪の動きで戦術兵器クラスの魔法を放てるなど、悪夢のような存在であろう。
マキナは十分にそのポテンシャルを秘めていた。
「あ、あの……ソーマ様とマキナさんって稽古中凄く楽しそうですけど、やっぱり楽しいんですか?」
「あ? 楽しいに決まってるだろ! なかなかこんなに朝から晩まで集中して稽古出来る暇なんてないからな、あと一ヶ月やっても良いくらいだぜ」
「そうだね、なんだかんだ集中してやるとどんどん伸びるし楽しいね。なんでそんなこと聞くの?」
「え……稽古がツラくなったりすることってないんですか?」
フィオナの問いにソーマとマキナが視線を合わせて考え込む。
「うーん、稽古が出来なくてツラくなることはあっても稽古がツラいってことはないかな」
「あーでもこいつと旅し始めた頃はなんでこんなに稽古するんだって思ったことはあったな。朝はねみーし夜は疲れてんのによ。でもこんだけやりゃどんどん強くなるって分かってからむしろ楽しくなったな」
「そ、そうなんですか。マキナさんも頑張ったんですね……」
「あ? 頑張ったつー感じはねぇけどな。なんつーかこいつが隣でどんどん強くなるからよ、追い越されたら悔しいだろ?」
そういうとマキナはソーマに勝ち誇った顔をし、ソーマは「おまえローガンの所で俺に負けてるからな」と突っ込んだ。
そこからあーだこーだとお互いの強さ自慢を繰り広げている。
日に日に笑顔が消えていくフィオナを見て、前世でブラック企業に勤め何度も自殺を図ったソーマはその心情を察していた。
しかしソーマ達は誰一人としてフィオナに稽古を強制しておらず、ここにいて日々どうするかを決めるのはフィオナ自身であったため、危うくなるまでは放っておこうとソーマは決めたのであった。
何故強くなるのかも、誰とパーティを組むのかも、自身がどうあるべきかを決めるのも、全てフィオナ自身が決めなければ意味がない。
ソーマはそう思っていたし、マキナも丸眼鏡もそれが決断出来ているからこそ、ここまで明るく前を向いて毎日生きているのだから。
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