第74話 話ができない人たち
翌日から三人は砂漠の街シスにて諜報活動を開始した。
黄色味を帯びた白い建物が立ち並ぶ街の中には、どこかから水路を引いているのか街の至る所に水が流れており、そのおかげか水路の周りは少し涼しく気持ちが良い。
三人はまず、領主の住まう建物を遠目から眺めながら丸眼鏡とソーマが探知を使って中の様子を色々と探ってみた。
さほど大きな街ではないシスの中ではひと際豪奢なその屋敷にはかなりの数の使用人がいるようだ。丸眼鏡はムフフの耳も併用して屋敷の中の人達から情報を集めようとしたが、日常的に何かキナ臭い話をしているわけもなく適当な所で切り上げた。
次に三人はゴールドメイスの屋敷に向かった。こちらもかなり大きな屋敷となっており、如何にもガラの悪そうな見張りが二人、門の前に立っていた。
三人が門の前の道路脇にある水路に腰掛け、会話をしながら探知を使うと見張りの一人がやってきた。
「そこで何をしてる」
「え、普通に観光して疲れたから休憩してるだけだ」
「他所に行け」
どうやら屋敷そのものにも近付けたくないらしく、見張りによって追い払われる形となった。
少し離れたところで探知を試みるも、やはり目立った会話は聞き取れなかったので、その後ギルドへ向かう。
ギルド内は閑散としていた。
ソーマは地域振興に関する窓口に行き、シス周辺の依頼やギガントタートルに関する情報を聞き出す。
ギルドは世界中に支部を構える民間企業なので、特に国や領主に肩入れすることもなく、中立的な立場での考えを聞けるので概ね信頼出来る情報と言って良い。
窓口担当曰く、昔は領主からのギガントタートル狩猟依頼も多く冒険者もかなり訪れており、それに関わる護衛依頼等もあったが現在は街の住人からの依頼などが主であるとのことだった。
ギガントタートルが生息する洞窟に関しては、領主の領地であるのでそこを解放するかどうかは領主の一存で決まるらしい。
一通り情報を仕入れたソーマ達はギルド内で、シスで流行っているパルテドリンクを飲みながら話している。
ソーマはパルテドリンクを飲みながら、ハーブの利いたレモンスカッシュみたいだなと思っていた。
マキナと丸眼鏡も気に入ったらしく、早速飲み干しておかわりを頼んでいる。
「昨日の熊さんから聞いた情報を目で確かめたって感じだったね。何か新しい動きを起こすには波風立てる必要がありそうだ」
「そうじゃの。王国からギガントタートル狩猟依頼でも出してもらうかのぅ」
丸眼鏡はそう言いながらムフフの袋から取り出した紙に何やら色々書いている。
「他にどんなこと書いてんだ?」
「うむ、昨夜の熊男殿から聞いた内容とわたくし達の考察、直接見聞きした内容なども書いておくかの。王国所属の諜報部辺りを派遣してもらえればこちらで波風起こした時の領主、ゴールドメイスの動きも直接見てもらえるのじゃが」
丸眼鏡の立場はもはや民間人であるので、王国からすると立場は低いが、王国直属の諜報部となればそこで収集した情報は信ぴょう性を持つため、ソーマ達はただ波風を起こして情報を出やすくするだけで良いわけである。
手紙を書き終えた丸眼鏡はギルド職員にそれを渡し、その後三人はギガントタートルの生息地である洞窟に向かうことにした。
ギガントタートルが生息している洞窟はシスからさらに南にある。
シス以南は砂漠が広がっており、その左右に山があり、その山の向こうは海となっていた。
西の山に沿って南に10kmほど行くとギガントタートルの洞窟があった。入り口には3つの石造りの建物があり、ゴールドメイスの構成員と思しき獣人達が数人見える。
ソーマ達は疾風で近くまで寄ると、そこからは歩いて洞窟入り口に近付いていった。
「なんだてめぇら。ここは立ち入り禁止だ」
ソーマ達に気付いた虎風の男が詰め寄ってくる。
「ただの冒険者だ。ギガントタートルの洞窟があるって聞いて見に来たんだけど」
「だから立ち入り禁止だっつってんだろ」
「へー、なんで立ち入り禁止なの?」
虎男はうるせえガキだとかさっさと立ち去れと言って持ち場に戻っていく。
その虎男の後ろについて洞窟まで近づく三人。
すると建物から数人が出て来てソーマ達を取り囲んだ。
「おいおい兄ちゃん、立ち入り禁止ってのが聞こえねぇのか?」
「いや、聞こえてるよ。で、なんで立ち入り禁止なのって聞いたのが聞こえないわけ?」
ソーマの態度にヘラヘラと笑うガラの悪い獣人達。
中には下卑た視線をマキナと丸眼鏡に向ける者もいる。
「兄ちゃん、威勢が良いのは嫌いじゃねぇが長生き出来ねぇぞ?」
「ボス、俺エルフの女好きなんすよ、良いんじゃねぇっすかヤっちまって」
「じゃあ俺はちっこい狼ちゃんでも楽しむとするか、ぐははは」
ソーマはこいつら話にならんなと半ば呆れながら、再度問う。
「で、どうして立ち入り禁止なわけ?」
ガラの悪い獣人達は大笑いしながらソーマの真似などをしている。
「おいソーマ、さすがにあたしも腹立ってきたぞ」
「もうちょっと待ってね」
マキナが今にも斬りかかりそうになっているので、ソーマはマキナをなだめ、スキル・覇気を放った。
圧倒的な威圧感と殺気を叩き込むことにより相手の戦意を喪失させる、覇気というスキル。魔神戦で取得して以来使い所が無かったのでなかなか試せなかったが、良い実験場が巡ってきたとばかりにソーマは使ってみた。
先ほどまでヘラヘラと笑っていた獣人の大男達は、ソーマの威圧と殺気に気圧され、リーダーと呼ばれていた虎男を残して全員がその場にへたり込んで黙ってしまった。
ひぃっと情けない声を上げる者もいれば、歯をガチガチと震わせ恐怖に打ちひしがれている者もいる。
(凄いスキルだな……こんなに目に見えて効果があるものなのか)
「これ聞くの四回目なんだけど、どうして立ち入り禁止なのかいい加減教えてくれる?」
「い、いや、領主様が規制出してるだろ。そんな当たり前のこと聞いて――」
ソーマは再度覇気を放つ。
ついにへたり込んだ獣人の中には気絶する者まで出た。
「当たり前? 分からないから聞いてるのにそんな当たり前のこと言わないでくれる? で、領主が規制してるってことはあんた達は領主に雇われてるってこと?」
「い、いやそういうわけじゃねぇ」
なるほど、そこは否定するように言われてるんだなとソーマは一つ情報を得た。
「じゃあなんであんたらに立ち入り禁止って言われなきゃならないわけ? 見張りじゃないのに洞窟の入り口に建物まで立てておかしいよね?」
「お、俺達はただ上から言われて……」
「ふーん、上って誰?」
「そ、それは言えねぇ……!!」
虎男がそういうなり、今度はマキナがソーマに並んで覇気を放つ。
ついに後ろでへたり込んでいる獣人達は全員気絶し、虎男も腰が抜けたようにへたり込んでしまった。
どうやら覇気による威圧は、精神にかなりのダメージを与える効果もあるらしい。
「えっと、なんで俺たちがそんなに聞きたいかって言うとね、とある国の職人さんからギガントタートルの鬼甲羅を調達して欲しいって頼まれてるわけ。で、来てみたらこんな感じでしょ? 一頭で良いから狩猟したいんだけど規制されてるなら交渉したいし、あんたらが誰かに頼まれて見張りしてるならそこにも交渉がいるよね? 教えてくれる? それとも……」
「……ゴ、ゴールドメイスだ! 頼むから命だけは勘弁してくれ!」
「なるほど、領主が規制していてゴールドメイスが見張りをしてるのか。分かったありがとう。あと俺たち別に言わなきゃ殺すぞなんて物騒なこと言ってないからね。ただ、誰が規制してて誰が見張りしてるのか聞いただけ。その理由も説明した。そうだよね?」
虎男は恐怖と戦慄に押しつぶされそうになりながら顔を何度も縦に振っている。
「じゃあ、教えてくれてありがとう。ちょっと領主さんに交渉してくるかな」
「あんがとな! あと『威勢が良いのは長生き出来ねぇ』ってあんたがあたしたちに言った言葉、あんたの部下にも言っとけよ!」
そう言うと三人は疾風を使ってその場から姿を消した。
洞窟から戻った三人はシスの街の中央広場でパルテドリンクと砂ウサギの照り焼きサンドを食べている。
「いやぁマジであたし斬っちまおうかと思ってたんだけどよ、覇気にあんな使い方があるとは思わなかったぜ! ありゃ面白れぇな!」
マキナはスカッとしたような笑顔でサンドイッチを頬張っている。
「結構効くみたいだね。でもあんまり人前で無暗に使うなよ?」
「わーってるって、どのくらいの範囲まで効くのかまだ分かんねぇしな」
こんな広場で喧嘩になった相手に使ったら周りの一般人まで巻き込みかねないので、範囲に関しては要検証である。
「でも良い情報を得られたね、領主とゴールドメイスの繋がり、隠そうとはしてるらしいし、実際に繋がってるってことも分かったし」
「そうじゃの、あとは手紙を読んだ王都の出方次第かのぅ。返事はおそらく4、5日以内には来るはずじゃ」
「そっか、じゃあ返事来るまではのんびり稽古や依頼でもやるか」
ソーマはそう言うが、一般的な冒険者は依頼を受けるのが普通の仕事であり、さらに早朝や夜に稽古をするなどというのは決してのんびりと呼べるものではない。
ソーマ達の強さの秘訣は、まさに恵まれたスキルと属性をフルに活用する、こう言った努力にあるのであった。
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