第73話 獣人国の砂漠の街シス
翌朝、もはや三人の習慣となっている稽古中に次のターゲットをギガントタートルと決めたソーマ達は早速宿を引き払って疾風で港町ノルゴールまで走ってきた。
マグラードからノルゴールへ向かう街道はそこそこ交通量があって目立つため、少し外れた草原を走っている。
草原にいる魔物は適宜魔法や斬空剣で除去し、ささやかながらの経験値稼ぎも兼ねた。
残りの魔物は大海竜、幻彩鳥アクロール、ギガントタートルだが、幻彩鳥はエルフ領土に生息しており、ギガントタートルは獣人領土、大海竜は海のどこかと言った具合なので、ドワーフの港町ノルゴールから反時計回りに獣人国、エルフ大陸と一周してドワーフ国に戻ってくるというルートを選んだ。
大海竜に関しては途中の港町で情報を集めるという算段だ。
ノルゴール発獣人国行の船は出航まで時間が無かったので、とりあえず腹ごしらえの料理だけ買って乗り込み、大海竜に関しては船内で情報収集をすることにしたのだが、まともに取り合ってくれなかったり、これから航海だってのに縁起が悪いこと言うなと怒られたりと全くと言って情報は集まらなかった。
「幻彩鳥も調べた感じだと見つけるの大変そうだけど、この調子だと大海竜も相当難航しそうだな」
「まあなー、実際逃げれりゃラッキーって言われてるからよ、見たことある奴なんてそうそういないと思うぜ。海賊時代でも酒の席で見たっつーやつはいたが、大抵そういうヤツは普段から話を盛るうさんくせぇヤツだ」
「火竜王みたいに何かエサにして一本釣りとか出来たら良いんだけどな」
「多分そんときゃあたしらの乗ってる船もエサだと思うぜ」
マキナのツッコミにソーマもたしかにそうだな、と納得する。
そもそも船の上からどうやって海の中の竜と戦うのかもイマイチ想像出来ないソーマであった。
ソーマ達は船に乗っている間でも習熟度上げは怠らない。MPが自動回復するので満タン状態を維持するのが勿体ないのだ。
この世界の住人は仕事の時間にしろ休日にしろ、かなり余暇を取っておりあまり時間に追われるということに慣れていない。そのせいかここまでMPを余さないようにしている魔術師は稀であった。
三人は現在デッキに出て、会話をしながらMPを消化していた。
ソーマと丸眼鏡に関しては地属性、水属性があるので海の中に地壁や豪滝などを放っても特に航海に支障はないのだが、マキナは火、風、闇なので使いどころに困る。
船長に確認を取って追い風を起こしても良いと許可を貰ったので、マキナは常に追い風を起こして航海を進めていた。
マキナの追い風のおかげで予定到着時刻の夕方4時よりかなり早く獣人国入りが出来た。
船長からは非常に喜ばれ、是非次の航海もうちの船を使って欲しいとのことだった。
「さーて、獣人国は始めてだけど……本当に色んな種類の獣人がいるんだな」
ソーマはその多種多様な獣人達に目を奪われていた。
港に着けばまずやることは腹拵えである。船上で火を使うわけにはいかないので、食事はどうしても簡素なものになりがちだ。
いつものように屋台の並ぶ通りに足を運ぶ。
「おお、食べ物だと獣人国が一番個性的なんじゃないか? やっぱり色んな種類の獣人に合わせて食事も随分な種類があるのかな」
「そうじゃの、まあ育った環境によっては好みもそこまで偏重することはないんじゃが、両親一族全員が一種族とかじゃと、かなり偏食になったりするようじゃの」
「丸眼鏡はどうなんだ?」
「わたくしは父が狼で母がドワーフじゃからな、かなり肉食に偏っておったが王国で働いてからは満遍なく食べるようになったのう。まあ肉は好きじゃが……」
「「え、丸眼鏡って犬じゃなかったのか……?」」
それから、ずっと犬だと思っていたソーマとマキナに小三十分ほど犬と狼の違いを丸眼鏡から力説されたのであった。
どうやら群青の毛色で耳と尻尾の先が白くなっているのは狼の一つの特徴らしい。それに今までさほど気にならなかったが、よく見せてもらうと犬歯と舌が他の種族に比べると若干長かった。
ソーマは一瞬、尻尾の生え際と肌の境目がどうなってるのか気になったが、それを聞くと非常にマズいことになる予感がしたので、気にしないよう努めた。
そんなこんなで昼食は丸眼鏡オススメの肉料理である。
今回は豪快な鉄板焼きのステーキらしく、屋台店主も狼男であった。
屋台の店主には珍しく寡黙で、三人は今後について話しながらゆっくりと大きなステーキを味わった。
三人はまず、ギガントタートルの生息地とされる砂漠近くの街シスを目指すことにした。
シスは獣人領の南、魔族大陸との国境の北に位置する。現在は獣人国の東端の港、ラスタという街でそこからソーマ達の足で一日半の道程だ。
翌日の夕方にシス入りをして宿を押さえたいソーマ達は、今日はなるべく進めるところまで進もうということで、疾風を使ってひたすら走ることにした。
日が沈んでからも走り続け、一番MPが低いソーマのMPが残り1割を切った辺りでキャンプ地を作って宿泊となった。
翌日も早朝稽古の後はすぐに移動を始め、三人は予定より早い夕方前にシス入りを果たした。
ここは獣人王国の貴族領の街となっており、砂漠と草原の境目に街が建設されている。
ソーマが砂漠の街と聞いてイメージしていた通り、外壁も建物も少し黄色味を帯びた白の石で出来ており、異国感漂う街並みとなっていた。
三人はまず宿の確保を優先したが、街内に三つほどある宿は品質から見ても今までのどの街より高かった。
値段にして約1.5倍ほどとなっており、最初は他の宿にと思ったのが全ての宿がおおよそ同じ設定価格であった。
妥協せざるを得ないので宿を決めて外食に出ると、食べ物も皆一様に全て割高である。
別にお金が無いわけではないソーマ達だが相場より高く払うのは気が進まなかった。
宿に戻って調理でもするかと野菜屋に寄ったが結局全て野菜や肉も全てが割高だったのでそういう街と割り切って外食で済ませ、今は宿内の酒場で酒を飲んでいる。
「なんでこの街はこんなに値段が高いんだろうな。砂漠近くだから作物とか取れないのか?」
「ううむ、昔はそんなことなかったと思うんじゃがの。ここに最後に来たのも10年ほど前じゃったから……」
そんなことを話していると隣の熊のような獣人が声を掛けてきた。
「お、あんたら冒険者か。隣いいかい?」
熊男はそういうと空いてる椅子に掛けて声を抑えて話し始めた。
「五年前に領主が突然変わってね、そこから徐々に税金が上がっていったんだ。どうも良くねえヤツらと付き合いもあるみてえで街の治安もだいぶ悪くなったのさ……」
そう語る熊男の顔はどこか寂しげだ。
どうやら元の領主の第一後継者だった長兄が王都への旅路の途中で失踪し、領主もその後病死したとのことだ。
その後第二後継者の次兄が領主となったのだが、元々領主となる前に婚姻関係にあった本妻がかなりの浪費家らしく、そこから少しずつ街がおかしくなっていったと言う。
昔はギガントタートルが狩れる洞窟の近くの街として冒険者も多かったが、領主がその洞窟の出入りを規制してから冒険者もめっきり減ってしまい、街全体の活気が無くなっていると言う。
さらに熊男は“ゴールドメイス”というヤクザ集団についても教えてくれた。
元々はギガントタートルの素材を冒険者から買い取って各地へ売り捌くブローカーのような集団だったゴールドメイスは、領主が変わってからギガントタートルの狩猟権を独占しており、莫大な富を築いていると言う。
あまり大きな声では言えないが街の少なからざる住民は、現領主の妻はゴールドメイスの刺客であり、元領主や長兄も何らかの陰謀によって殺害されたと思っているらしかった。
ここまで聞いたソーマとマキナは、そんなに腐敗しているのであれば他の街に移れば良いのにと思ったのだが、シスで生まれ育ち、美しい街並みと活気に満ちた昔を知っている者たちはなかなか故郷を離れられないとのことであった。
貴重な話のお礼に酒を一杯奢ったソーマ達は部屋に戻って今後について話し合っていた。
「まあ街の人達の想像は全て正しいとは言えないかもしれないけど遠からずって気がするね」
「うむ、祖国でこういうことが起こってるのはちと悲しいのぅ」
「あたしは許せねえな」
「おまえ昔は海賊だったんじゃないのかよ」
「一緒にすんな、あたしらは海賊狩り専門だ。武力を持たねぇ一般人を襲うなんて下衆以下だぜ」
なるほど、それはすまなかったと謝罪するソーマ。
「で、どうすんだ? ぶっ潰すのは難しくねぇと思うが貴族殺しはさすがにマズいだろ」
「そうだな、ギガントタートル狩猟ついでにゴールドメイスと領主の繋がりが暴ければ良いんだけどね。元領主と長兄殺しの証拠まで掴めれば最高だね」
「ふむ……ちと王都の顔見知りに連絡してみるかのぅ。時間が掛かるじゃろうから、それまではこちらで情報集めといこうかの」
方針を決めた三人は翌日から情報収集を始めるのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
七十二話の後書きにも記載しましたが、なんと昨夜初のランクイン致しました!
日間ランキング248位です!
これもひとえに運スキ!を読んで頂いている皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
評価、ブクマ、感想頂けた方々も、本当にありがとうございます。
今後も楽しんで頂けるよう頑張りますので、宜しくお願い致します!




