第72話 首無し竜の鉄像
三人が大きな火山礫の影から火竜王と思しき魔物を待ち伏せしていると、森の中から大きな足音を響かせながらそれはやってきた。
火竜の通常個体をそのまま大きくしたようなそれは、まさしく図書館の記載にあった火竜王の特徴と一致している。
辺りが暗くなっているので分かる程度だが、黄色の瞳、それに真っ黒で大きな爪には仄かに赤い光のような粒子を纏っている。おそらく魔力を帯びているのだろう。
「あんなデカいのどこにいたんだろうな……よっぽど数が少ないのか」
「うむ、今日だけでもかなり広範囲を探したからのう。もしかすると普段は地中などで眠っているのかもしれぬ」
たしかに、と納得するソーマの横で、早く戦いたいのかマキナはウズウズしている。
「戦ってみたいのは分かるけど今回は素材が目的だからな、あんまり傷も付けられないし魔法もやめてくれよ」
「あんだかなー、魔神ダンジョンと言い今回の素材集めと言い思いっきり戦えなくてストレス溜まるぜ。戦えると思ったら魔人みてぇな強え相手だしよ」
マキナの気持ちも分からなくはない。元々戦闘や思いきり自分の実力をぶつけられる相手との勝負が好きなソーマも大半の敵が雑魚になってしまったので、本気で戦える相手には餓えていた。
そういう意味ではローガンのところでのマキナとの模擬戦は久々に楽しかったというのは、二人の共通認識である。
「よし、じゃあ先に火竜王の首を落とした方が勝ちだ。首以外は傷つけるなよ」
「へっ、良いぜ、負けた方は稽古の受け役だ!」
マキナは言い終えるや否や疾風全開で駆け出す。そう来ると分かっていたソーマも既に身体強化を発動しており、疾風を使って火竜王に向かって一直線に向かっていった。
「んぬふぅっ! ……良きパートナーであり良きライバル、ええのぉ! ええのぉおおおお!!!」
頭と腕と尻尾を大きく振りながら心の叫びを上げる丸眼鏡の声を背後から聞きながら二人はあっという間に火竜王に迫った。
一瞬マキナの方が速く懐に入り、その太い首に向かって跳躍し斬り上げる。紅竜刀は深々とその首へと食い込むが切断には至らなかった。
火竜王は二人の接近に気付きはしたものの、元々そこまで素早くない上にあまりに一瞬のことで何が起こったのか理解が追い付いていないようだ。
ソーマはマキナが懐に入った時点で斬り上げを見舞うと予測し、すでに上空へと飛び上がっていた。
紅竜刀が食い込んでいる首目掛けて大上段から唐竹割りを、斬空剣のオマケ付きで思い切り振り下ろした。
火竜王の極太の首は美しいほどにスパッと斬り飛び、さらにソーマの斬撃の先の地面や木なども刹那遅れて剣線が走っていった。
思わずその美しさとカッコよさに見惚れてしまったマキナは、直後猛烈な悔しさに襲われる。
「んだよカッコつけやがって! 半分以上はあたしが斬ったんだから引き分けだな」
「ああ、引き分けでいいよ。俺は一瞬マキナが見惚れていたあの表情さえ見れれば満足だ」
そう言うとソーマは渾身のドヤ顔をマキナに見せ付ける。
「ぁぁあああクッソ!! あんな斬空剣の使い方あるなんてな!」
翌日からマキナが魔物を斬るたびに斬空剣の余波を走らせるのは、また別の話である。
「さて……予想はしてたけどかなりデカいな。どうやって運ぶかなこれ」
「丸眼鏡ッちの収納しかねぇんじゃねぇか?」
二人の元へ駆け寄ってきた丸眼鏡は非常にイヤそうな顔をしている。
本来収納魔法は別次元の魔法空間に入れたモノを仕舞う魔法なので、中身が混ざることも汚れることも無い。さらに言えば時の流れもほぼ止まっているため、生鮮物を入れても鮮度は保たれたままである。
収納魔法を覚えれば巨万の富を築くと言われている所以でもあるのだが、こと丸眼鏡に関しては生理的に受け付けないと言った理由で嫌がっていた。
ソーマもお世話になっている身でもあるので、その丸眼鏡の感情を効率だけで無下にしたくないと思っていた。
「いや……分かっておるのじゃがどうも苦手でのぅ……」
「うーん。火山ウサギの時みたいに、今度は鉄でコーティングしてもイヤか? 俺もなるべく早く収納は覚えようと思ってるんだけどなかなか発現しなくてね」
そう言いながらソーマは地属性魔法を繊細に操りながら、時間を掛けて火竜王を鉄で丸々コーティングした。これだけ見ると首を落とした竜の像として見えなくもない。
「鉄で出来た竜の彫刻みてぇなもんだろ、ウサギみたいに中で動くわけでもねぇしよ」
「うむ。ソーマ殿が取得するまでは我慢するかのぅ」
それでも丸眼鏡はどうも落ち着かないと言った様子だったので、ソーマ達はキャンプ地を移し、鉄像化した火竜王の隣でキャンプした後の翌朝、ムフフの袋に収納してマグラードへと戻ったのであった。
早朝出発したソーマ達は昼過ぎにはマグラードに到着した。
真っ先にローガンの店に向かい、裏の空き地にて火竜王を出すと、ローガンはその狩猟までの早さとあまりにも綺麗な状態に驚いていた。
実質三日間で火竜王を持ってきた上に傷は首の切断面のみとあって、ソーマ達の実力を再確認させられたと言った様子である。
素材は余るほどだとのことなので、必要ない分は売るなり買い取るなりして防具作成の費用に充ててもらうこととなった。
実際ソーマ達が集めている素材の他にも、流通している中ではかなり高級な素材も必要とするので、それらの購入費と制作工賃だけでもとんでもない金額となっている。
本来は手付金や前払いをすることになっているローガンの店だが、ソーマ達は今までさほどお金を稼ぐことを目的としたことはなく、手付金ですら払えない状態だったので、今回の火竜王素材の不要分を売却することで当面の仕入れ資金の目途が立ったとローガンは喜んでいた。
ついでにソーマ達は採掘した結晶とマグタイト鉱石もローガンに見てもらった。
こちらに関しては仕入れ先を紹介してくれるとのことで、鉱物専門店へと持ち込むこととなった。
マグタイト鉱石はお小遣い程度にしかならなかったが、赤い結晶の方はマグマライト結晶という鉱石らしく、需要のわりには供給が足りない結晶とのことで、大量に採掘したおかげで大金貨で150枚、日本円換算で1500万円ほどになった。
その時のマキナの喜びと言ったら、まさにクリスマスの朝にプレゼントを見つけた子供のようであった。
三人はまずは大型の魔物一頭の狩猟と想像以上の稼ぎを得たことで、王都内では美味いと評判の店で昼から宴会を開いていた。
「かーっかっか! あの結晶がまさかあんな金額になるなんてな! これだから冒険はやめられねぇぜ!」
「おいおい、あんまりデカい声で言うなよ、周りの客が聞き耳そばだててるぞ」
「バカ野郎、それが気持ちいいんだろうが! 強いヤツに憧れ、稼いだヤツを羨む、それが冒険者だろうが! かーっかっか!」
こいつはもう何を言っても無駄だと判断したソーマは料理に舌鼓を打ちながら静かに飲むことに決めた。
丸眼鏡も酒と料理と異種族ハーフカップルがいれば、その会話の内容がどうあれ幸せなようである。
その後しばらく飲みながら再度パーティ名ネタなどで大盛り上がりした三人は、宿に戻る途中でガラの悪そうな奴らに採掘場所云々の件で絡まれたが、酔った勢いで殺しかねないマキナをソーマがなんとか抑えている間に酒豪の丸眼鏡が冷静に礫弾であっという間に気絶させたのであった。
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なんだか本日すごーく伸びたので、もしかすると日間ランキングに入るかも?と思い、急遽の三話更新に致しました。
現在160話まで書けているので当分の間は一日2話更新が続けられそうです。
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