第71話 鉱夫のマキナ様
早朝の稽古を済ませたソーマ達は朝のシャワーを浴びて朝食を取った後、早速火竜王の探索に出ていた。
まずは丸眼鏡の探知を使って半径数十キロに及ぶ円の中から竜と思わしき反応を片っ端から巡っては倒す、というのを繰り返しているが、大小に差はあれどどれもが普通個体の火竜のようだ。
火竜は素材としては悪くない値段が付くのだが、丸眼鏡がムフフの袋に入れたがらないので、心臓にある魔石のみを取り出している。魔石があるものもいればないものもいるようだ。
火竜は小さな翼はあるものの飛べず、四つ脚で歩くずんぐりむっくりな魔物である。
名前にふさわしく燃えるような赤い体表をしており、全長約3メートルほど、体高もせいぜいが2メートルと言ったものが多い。
ソーマは火を吹くことを期待していたのだが、特にブレスなどの攻撃手段は持たないようだ。
火竜王は旧火山帯にいると本で読んだのだが、意外と普通個体の火竜は裾野の森の方が発見率は高い。
午前中に数十頭狩ったものの、王と思わしき個体には出会わなかったので今は森の中の小さな広場のようなところで三人は食事をしている。
「全然出会わないな。遠くまで来たらいると思ったんだけど」
「うむ、ちとMPは使うが午後からは視覚化してみるかのぅ。このままじゃただの火竜虐殺隊じゃ」
丸眼鏡はムフフの眼という探知対象を視覚化するユニーク魔法を取得しているので、午後からはそれを使って通常個体を狩猟対象から外す方針となった。
午後からの探索は専ら丸眼鏡の探知と移動になってしまったので、暇を持て余したソーマは旧火山帯に穿通礫錐を放って採掘をしてみることにした。
昨夜話していたアダマンタイト探しである。お宝探しはマキナも好きなので、直径3メートルほどの穴を数十メートルほど下に掘っては灯篭を使いながら下に降りて、壁面にそれらしい鉱物が無いかを探している。
本来であれば丸眼鏡を潜らせた方が鉱物を見付けるには効率が良いのだが、本命は火竜王なので採掘はソーマとマキナの暇つぶしである。
マキナはお宝採掘が楽しいのか、それっぽい鉱石を見つけては集めて地上に持っていき、ある程度溜まったらまとめて丸眼鏡に鑑定してもらっていた。
まるで子供みたいだな、とソーマは思っていたものの、そういうソーマも楽しんでいるので同類である。
「ふむ……おお、これはマグタイト鉱石じゃの。ミスリルやアダマンタイト、鉄の合金素材で使われるので多少は値が付くはずじゃ」
「よっしゃついに鉄鉱石以外が出たな! もうそのナントカって石の特徴は覚えたぜ!」
そういうとマキナはまたソーマの掘った穴に降りていく。
さすがの丸眼鏡も半径数十キロの円の中にいる魔物を探知し、それらしいものを視覚化するとなるとそれなりに時間が掛かった。
何せ半径70kmであればおおよそ15,000平方キロメートルである。魔物や動物の反応は数百匹に及び、その中から火竜を抜粋して視覚化するとなるととてつもない集中力が必要になった。
合間合間の鉱物鑑定は丸眼鏡にとっても良い息抜きになってるようであった。
日が傾き始め、そろそろ本日のキャンプ地を決めようかと言った頃。
即席坑道ならぬ坑穴の5本目を採掘しているソーマとマキナは穴の底から大声で丸眼鏡を呼んだ。
丸眼鏡が降りると、そこには無数に煌めく赤色の宝石のようなものがびっしりと壁面の岩肌に見えた。
「凄くねぇか!? 宝石の山だぜ!」
「ふむ……魔石の類ではないとは思うが……宝石なのかのぅ」
「丸眼鏡でも分からないのか?」
ゆらめくアメジストの瞳をほのかに光らさせ、丸眼鏡はその赤い鉱石を見つめる。
「うむ……そうじゃな、むしろ何かの結晶という方が近いのぅ。魔力を微細に帯びておるが、魔石のそれとはちと性質が違っての。売れるとは思うんじゃが、ちと気になることがあるのじゃ」
丸眼鏡は王国図書館で読んだ本について語る。
どうやら火竜王は通常個体が長生きして大きくなったというわけではなく、稀少個体のようなものと認識している説もあり、生まれつきなのか後発的に変化したのかは謎だが、どの個体も魔力がかなり上がっており、何らかの方法で外部から魔力を摂取しているのではという説もあるとのことであった。
もしその後発的な変化過程でこう言った魔力を帯びた結晶が関係しているのであれば、むしろこれで火竜王をおびき寄せることが出来るのでは、というのが丸眼鏡の考察であった。
「なるほど。じゃあ早速採れるだけ採って、売る分はムフフの袋に入れてもらって、火竜王を呼び寄せる餌として使うなら大きめの横穴でも掘って置いておくか」
「おう! 鉱夫のマキナ様に任せろ!」
「うむ、わたくしも土魔法で掘るかのぅ」
ソーマは“鉱夫のマキナ様”という二つ名は果たしてカッコ良いのだろうかと一瞬思ったが、本人は楽しそうなので特に突っ込むこともなく土魔法で掘り進めながら結晶採掘に勤しむことにした。
ごっそりと結晶を採掘した三人は、次に適当な斜面に大きな横穴を開け、その奥に結晶をバラ撒いた。
比較的美しい状態の売却分はすでにムフフの袋に入れてもらっている。
「さて、とりあえずこれで様子を見るか。ちょっと離れたところにキャンプ地を作ろう」
「そうじゃの、わたくしもかなり魔力を使ったからちと休みたいのぅ」
「じゃあソーマ、さっき採掘した鉄鉱石も結構丸眼鏡に持ってもらってるからよ、斬鉄剣の練習しようぜ!」
その後ソーマ達はキャンプ地で土魔法かまくら式住居を作成し、ソーマとマキナは斬鉄剣の稽古に打ち込んだ。
斬空剣と同じく剣豪スキルを得るために必要な剣術スキルで、暇を見つけては二人は練習用のミスリルソードで練習していた。
なんだかんだとマキナも熱心に稽古に励んでおり、すでに二人とも斬空剣は取得している。
ソーマは斬空剣を当初、剣の振りで風の刃を飛ばすようなものとイメージしていた。しかし実際に会得してみるとそれは空間そのものを切断するものといったイメージだった。
斬鉄剣に関してもただの鉄鉱石であれば、二人のステータスで神剣を振るだけで斬れてしまう。しかしそれはただ鉄鉱石を斬っただけで、斬鉄剣ではない。
おそらくソーマは、斬空剣・斬鉄剣ともに切断の概念を得るものである、と思っていた。
剣豪スキルの取得条件は他にも不斬剣というものがある。
剣であるのに斬らないとは面白い名前であるが、こちらは斬撃を放ったのに切断しないという技で、ソーマは前世の漫画でそう言った表現を見たことがあった。これも切断の概念を得る技なのであろう。
これらに熟達すると、例えば物理耐性が異常に高い火山ウサギなどに離れたところから斬撃を放ち、身体内部の心臓のみ切断するといったことも可能なのでは、とソーマは思っていた。
剣術スキルから剣士スキルに、魔術スキルから魔術師スキルに変わるだけで、剣も魔法も次元の違う強さを得た。
おそらく剣豪、大魔術師の両スキルも得られればこれまでとは違う次元の強さを得ることになるだろうと、ソーマは心を躍らせていた。
日没を迎えても稽古を一向に止めないソーマとマキナの邪魔をせぬようにと、MPが回復した丸眼鏡は夕食の動物の狩猟に出掛けた。
その間丸眼鏡は一切の魔法を使っていないので、ソーマが時折探知をしている。
いくら鑑定術士と言っても、レベルは高いのでそこらの動物や魔物であれば相手にならない。
最近は鹿やウサギばかりだったのでたまには鳥でもと探知の範囲を広げた時、結晶を置いた洞窟に遥か遠くから近付くとある大きな魔物の存在を捕捉した。
丸眼鏡は急いで鳥を捕獲すると二人の元に戻り、その旨を伝える。
「お、ついに来たか。さすがにまだ俺の探知範囲では認知出来ないな」
ソーマは丸眼鏡の言う方角に範囲を絞って探知距離を伸ばしてみたが、それでも相手を捕捉は出来ないようだった。
「ちったぁ強い竜だとおもしれぇんだけどな」
「ううむ、火竜王はBランクパーティなら挑んでも良いと書いてあったからの、どこまで強いか分からぬのぅ」
丸眼鏡曰く、まだ結晶の洞窟に辿り着くにはかなり時間がかかりそうだとのことなので、三人は軽く腹ごしらえをしたのち、疾風で先回りして待ち伏せすることにした。
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