第69話 ソーマvsマキナ
稽古や常時討伐依頼等をこなしたソーマ達は夕方、ローガンの店を三人で尋ねていた。
「お、来たな。ソーマから聞いたぜ、どうやら大層なことをやらかしてるらしいじゃねぇか」
勿論ソーマも、ローガンに全て話したということはマキナと丸眼鏡に話してある。
「聞いたぜおっさん! こいつの防具ホントだせぇからよ、カッコイイの頼むぜ!」
マキナは相変わらず話を聞いてないのか、ローガンの問いに答えず自分の言いたいことを言っている。
「……まあいい。でだ、世界を変えるってくらいのパーティだとしたらリーダーの防具だけ作るってのは俺の性分に合わねぇ。見たところおまえらの装備も悪くねぇが、これからのことを考えると心細いだろ」
「マジかよおっさん! おい丸眼鏡、あたしらの分も作ってくれるってよ!」
「うむ、それはたしかにありがたいのう……。じゃ、じゃがこれも気に入ってるのでなるべく可愛いのを頼みたいのう」
「あ、そうだな! あたしもカッコイイの頼むぜ!」
わいわいとはしゃぐ二人の様子を見てソーマは苦笑いし、ローガンは頭が痛そうにこめかみを抑えている。
「と、とりあえずまずそっちのダークエルフ……と魔族のハーフか、ちょっとこっち来い」
「マキナだ、よろしくな!」
マキナがローガンの元に寄ると、ローガンはマキナの装備を一瞥する。
「海竜防具に耐魔スカーフか。悪くねぇな。剣はソーマと変わらずとびっきりだが……。そのかんざしはアダマンタイトなんて上等なもんのわりにゃ、付いてる魔石が平凡だな。弓は世界樹か……その双剣は何に使うんだ?」
「あ? 一応職業は闇の魔術師になってるけどよ、弓も双剣も使うぜ。強い敵の時はこの紅竜刀を使うんだ」
ふむ、とローガンは椅子に深く腰掛け、腕を組んで考え込む。
「ソーマから見てマキナはどうなんだ?」
そうだな……とソーマはマキナの特徴を考える。
まずマキナは三人の中で最もステータスが高く、特に魔力とすばやさが突出している。上位魔法を使えることもあり、パーティ内で最も火力が高い。
弓の実力はかなりのものだが、剣はまだスキルが剣士まで上がってないのでそこそこ。
しかし属性付与の魔法に剣の攻撃力があるので戦力としては十分だ。
属性も攻撃寄りで、補助系の魔法は疾風くらいなものだ、とソーマは説いた。
なるほどな、とローガンは手元のメモに色々と書き足していく。
次にローガンは丸眼鏡を呼んだ。
「お、お前の装備はドワーフ製だな? フォレストワームの絹ローブにレッドベアのブーツか、色もデザインもセンスがあるな。杖は……おまえらのパーティは武器はとんでもねぇもんが揃ってるな……。お前の役割は?」
「ふむ、得意なのは非戦闘時の探知や鑑定、結界解除じゃの。戦闘時は補助と回復かのぅ。攻撃魔法も使えんことはないのじゃが、お二人の方が強いからの。あとわたくしの名前はハワーヌ=ルイ、小説家の端くれじゃ」
ローガンはメモをしながら、丸眼鏡についてソーマに尋ねる。
丸眼鏡はどちらかと言えば非戦闘時に本領を発揮するタイプだが、高いステータスと身体強化を使って戦闘時も素早く移動しながら補助に回れるのが強みだ。
回復も使えるのでソーマが前線で手一杯の時に後ろからヒールを飛ばせるのは大きい。属性も補助寄りである、とソーマが伝える。
ローガンは都度メモを書き足している。
「で、嬢ちゃんたちから見てソーマはどうだ?」
「あ? そーだな……頭良いよな、作戦とかすげー思い浮かぶし。あと剣は一番上手いな。っていうか何でも出来るぜ」
「うむ、そうじゃのう、オールラウンダーで視野も広く戦略家じゃからな、常に戦況を見極めながら適切に仲間に指示を出して、自身も柔軟に対応しながら動く印象じゃのぅ。あれだけの属性魔法を使いこなしながら剣も一流じゃから、相当な努力をしておるじゃろな」
「そうそう! こいつ早朝から深夜までアホみてぇに稽古するよな!」
ローガンは、良い評価されてるじゃねぇか、とソーマに呟きながら、やはりメモを書き足していった。
「そうだな、ソーマと眼鏡ちゃんは何となく分かったがマキナの戦闘スタイルがまだよく分からん。ちとすまんが裏でソーマと模擬戦を見せてくれ」
そう言うとローガンは三人を家の裏へと案内した。
裏へ歩いていく間、三人とも心の中で「いくら名乗っても丸眼鏡を作家名で呼ぶ人はいないんだな」と思っていたのであった。
ローガンの家の裏は広い空き地になっており、それを見てソーマはダンとエルとの稽古の日々を思い出していた。
剣は互いの愛剣を使うよう、ローガンに勧められた。どうやらファーストソードでの動きを見たいらしい。
特に制限なく魔法を使うことも許可されている。
ソーマとマキナは互いに距離を取って向かい合った。
「へっ、いつも稽古してるとは言え、こうやってやりあうのは初めてだな、死ぬなよ?」
「マジになり過ぎて建物とか壊すなよな」
ソーマはそう言うと全身に身体強化の赤い光を纏う。
「あんだよ、身体強化使うのかよ」
「使わなきゃおまえの速さについてけないだろ。いつでも良いぞ」
その瞬間、マキナの姿が消えたかと思うとギンッと剣と剣の交わる音が聞こえた。
気付けばソーマの姿も消えており、空き地ではソーマとマキナが剣の打ち合う連撃音が響き渡り、ソーマの身体強化の赤い光の残像が縦横無尽に動き回っている。
魔神ダンジョンでレベルを大幅に上げたうえ、常に疾風の習熟度を上げているソーマが身体強化を使ってようやく今のマキナの速さにギリギリ付いていける。足りない速度については風探知を使ってマキナの位置を把握することで補っていた。
それほど今のマキナの速さは尋常ではない領域に足を踏み入れている。
その二人が打ち合うとなれば一般人はまばたきをすれば見失うほどである。
時折中空に火の玉が現れてトリッキーな動きをしては剣線のようなものに消される。
ランダムに地の壁が幾度も空き地の地面から立ち上がっては消えを繰り返し、代わりに黒い雨が降り注いだ。
その間も剣と剣が交わる連撃音は途切れることが無い。
次に礫を纏った、ソーマを包むほどの極小の竜巻が現れたかと思うと、もう一つ炎を纏った同程度の大きさの竜巻も現れ、その二つがとてつもない速さでぶつかり合う。
礫を纏った竜巻はソーマが使った風と地の二属性複合の中位魔法鋭礫嵐で、炎の竜巻はマキナの火と風の二属性複合の中位魔法炎熱嵐である。
骸骨剣士戦で鋭礫嵐が攻守とも優れていると学んだソーマは鋭礫嵐を纏う戦い方を取得したが、地属性が使えないマキナは代わりに炎熱嵐を纏うことに成功していた。
ぶつかり合う度に炎熱嵐は燃え上がり、互いの竜巻は大きく弾かれて間合いを開けていたが、そのうちソーマが鋭礫嵐の周りに水を纏うようになると炎熱嵐の竜巻の方が押され始めた。
直後、今度はマキナの影が現れ、竜巻を追いかけるように矢を頭上に放つ。
竜巻の回転の中心は空気抵抗を受けにくいことを見抜いたマキナは矢を大量に放ち、矢の着地点にソーマを誘導するよう速度を使って立ち回り始める。
もちろんマキナ一人では弓を射る余裕は生まれないので、ドッペルゲンガーに矢を打たせる作戦だ。
高位の闇属性魔法であるドッペルゲンガーは自身の半分のステータスの影を生み出す魔法で、スキルや魔法の類は使えないが単純に数が増えるので非常に強力な魔法である。
さらにこうげきりょくとぼうぎょりょくは装備込みで半分なので、紅竜刀や世界樹の弓を持つマキナの影はそこらの騎士団や冒険者に引けを取らないこうげきりょくを持っていた。
「おいおい、ドッペルゲンガーもありかよ」
「はっ! 制限無しって話だぜ、文句言うなら使ってみやがれ!」
「そう、じゃ遠慮なく」
直後、マキナのドッペルゲンガーの背後から水平斬りを見舞う一体の影が現れた。
影はマキナの影を斬り飛ばすと、即座にソーマに加勢する。
マキナは実質二対一となり、あっという間に地面に取り押さえられてしまった。
「おまえいつの間に……」
「ドッペルゲンガーって滅茶苦茶使い勝手良さそうだったからね、密かに練習してた」
すっかり模擬戦の事など忘れて戦いに夢中になってたソーマとマキナは、互いの戦い方やスキルのタイミングなどの議論で盛り上がり始める。
ローガンは二人の戦いとその後の様子に呆れていた。
ローガンと三人は再び工房へと戻っている。
「見せてくれてありがとよ。随分デカいこと言ってるやつらだと思ったが……今のを見せられちゃハッタリってわけでもなさそうだ」
「あたしはまだまだ本気出せるぜ、さすがにデカい魔法は街を壊すからな」
「いや、デカい魔法使っても勝敗は変わらなかっただろ」
ソーマの言葉に「あんだと?」とキレ気味のマキナに対し、ソーマもじゃあ何をどうやったら勝てたのかとか、灼熱天柱ぶちかますぞとか、あんな大技当たるわけないだろなどと言い合いを始める二人を見て、ローガンは再度呆れたようにこめかみを抑え、丸眼鏡は「け、喧嘩するほどプラトニックラァァァブ!!!!」と訳の分からない咆哮を上げて興奮していた。
「と、とにかく三人の防具の方向性はなんとなく固まった。各々の戦闘スタイルやパーティの連携なんかで防具の方向性は全然変わっちまうからな。あとは細かい部分と、マキナと丸眼鏡はデザインの最終確認もしてくれ。見た目に関しちゃそんなにわがままは取り入れられねぇが一応女だしな」
その後、深夜まで三人の防具の方向性やデザインの検討が為された。
最終的にマキナと丸眼鏡がデザインでかなりわがままを言い始め、ついにぶちぎれたローガンに怒鳴られ、珍しくたじたじとなった二人を見てニヤニヤしてるソーマにマキナが突っかかるといよいよローガンが疲れ果てて頭を抱え、その横で丸眼鏡はまた謎の咆哮を上げて興奮していたり、したのであった。
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