第67話 イベントクエスト
翌日からソーマは頑固なドワーフオヤジの店に毎日通い詰めた。
出て行けと言われたら素直に出て行き二時間後にまた顔を出す、というのを七日続けた。
途中何度も怒鳴られ、鍵も掛けられたりしたがそれでもめげずに通い続けた。
七日も続けていると少しずつ頑固オヤジのプライベートも見えてくる。
工房の上が自宅になっており、毎朝と夕方に孫娘のクレアという女の子が顔を見せた。
どうやら学校に通っているらしく、毎日同じ制服を着て出て行くクレアとソーマは顔見知りになり、挨拶してほんの少しだが世間話する程度の仲にはなっていた。
ドワーフそのものの背が低いので年齢は分からないが、話し方からおそらく人間でいうと中学生くらいなのでは、とソーマは思っていた。
一度店先で世間話をしていると、とんでもない剣幕で孫に手を出したらぶち殺すぞとオヤジに怒鳴られた。
そうして店に通い詰めてから10日目。
早朝と夕方からは稽古に出ているソーマは、今日も朝から王都の外壁の外にある草原でマキナと丸眼鏡と稽古に励んでいた。
この間にマキナのスキル・魔術は魔術師に上がっている。
「にしてもまだあの店に通うのか?」
「そうだね、作ってもらうって約束もらうまでは通い続けるよ」
マキナは何ヶ月待たされるのやら、と呆れた顔だ。
それでも日中は暇を持て余してしまうマキナと丸眼鏡は二人でギルドの依頼を受けたり、常時討伐の魔物を倒したりと充実した日々を送っており、なんならこの隙にもう一度ソーマのレベルを追い抜いてやるとマキナは密かな野望も抱いていたので、決して待たされるのがイヤなわけでは無かった。
丸眼鏡も国の仕事から解放されて、本人曰く理想の異種族間カップルの元で悠々自適な冒険者生活を送れているので一切の不満はなかった。むしろ毎日幸せそうである。
なんだかんだと充実した毎日を各々が送っており、稽古の時間も十分に確保されているので習熟度やスキルレベルも上がっており、皆一様に不満なく毎日を過ごしていた。
早朝の稽古を終えたソーマは朝食とシャワーを済ませて早速頑固オヤジの店へ出向く。
店に入ろうとした矢先、窓からオヤジの困った顔と、隣で心配そうな顔をしているクレアの姿を見たソーマは、店に入るのをやめて少しの間様子を見ることにした。
(なんだなんだ、問題発生か?)
しばらく眺めていたがクレアの登校時間が迫っているのか、後ろ髪を引かれるような顔でクレアが店を出ようとしたので、ソーマは少し店から離れたところでクレアを待つことにした。
「クレアちゃん」
物陰から小さな声で呼ぶソーマにクレアが気付きハッとする。
「なんか困ってたみたいだけど、お兄さんが役に立てるようなことある?」
「えっと……私が言ったって言わないでよ? お爺ちゃん、ソーマさんと話したって言うと本気で怒るから」
もちろん、とソーマはその先を促す。
「なんかね、明後日納期の装備に火山ウサギって言うとっても稀少な動物の毛皮が必要らしいんだけど、今日になって仕入れ先が在庫がないって言い始めたらしくて……長い付き合いの仕入れ先がそんなこと言うなんて今までなかったんだけど……」
ソーマは内心、時間限定素材狩猟イベントクエストきたぁぁぁああ!! とテンションが上がっていた。
「なるほど、火山ウサギね。何処にいるか分かる? 見た目の特徴とかも教えて欲しいな」
「昔は元火山の麓に沢山いたらしいんだけど、今は数が減って全然見当たらないみたい。灰色のウサギで物凄くすばしっこい上にとっても硬いみたいだから、剣で倒すの大変だけど魔法を使うと皮の価値が落ちるから捕まえるのも大変だよ?」
「ありがとう、時間ないのにごめんね」
クレアは気にしないでと笑顔で答え、走って行った。
ソーマは早速疾風を使ってギルドまで走り、マキナと丸眼鏡を探した。
ちょうどギルドで依頼を探していた二人を捕まえ、事情を説明する。
「なるほど、そういうことならそのナントカってやつ捕まえに行こうぜ!」
「うむ、ついに突破口になりそうじゃの」
こうして三人は元火山麓へと向かった。
火山ウサギを捕まえるのは想像以上に大変であった。
まず丸眼鏡が数十キロ範囲内の探知を使って見つかるのは数匹で、疾風を使って向かうも近付くとすぐ逃げる上、丸眼鏡の速度をギリギリ上回る超人的……否、超動物的速度で逃げ回るので一度見失うと丸眼鏡と合流しなければ再探知が難しかった。
さらにマキナの神速を使って追いかけるも縦横無尽のランダムに逃げ回るので、いくら速度で上回ったとて火山ウサギの方が上手で何度も逃げられる始末である。
そして追い詰めたとしても物理攻撃耐性が異常なまでに高く、魔法を使うと素材として使えなくなるというので捕獲も難しかった。
最終的にソーマは、火山ウサギ捕獲マニュアルを作り上げる。
方法としては探知して近付き、火山ウサギの周囲一帯の地面を水魔法で凍らせる。滑って速度の落ちた火山ウサギに球状の地壁を作って閉じ込めたあと、その球状の地壁をどんどん小さくしていき、大きなボールサイズまで小さくしてから、そのまま土の球ごとムフフの袋に入れてしまう。
トドメの刺し方がよく分からなかったので生け捕りにしたが、丸眼鏡は生き物を入れるのが苦手らしく、とても嫌そうな顔をしていた。
結局一日中かけて二匹しか捕まえられなかったが、火山ウサギ自体はウサギの中ではかなり大柄なので、とりあえず二匹持って行こうということで陽が沈む前にマグラードに帰ってきたのだった。
三人は頑固オヤジの店に向かう。
店に入るとオヤジは相変わらず作業をしていたが、その顔はどこか元気がなかった。
「こんちは!」
「ちっ……またおまえかよ。懲りねぇヤツだな、装備は作らねえぞ」
いつもは無視か怒鳴るかのオヤジが、こんな調子なところを見るに、まだ火山ウサギ素材の入荷の目処は立っていないようだ。
「あの、生きたままの火山ウサギ二頭捕まえてきたんですけど、貰ってくれますか?」
「……てめぇまたクレアと話しやがったな。……まあいい、物は見てやる」
オヤジがそういうので、ソーマは丸眼鏡に促し工房に二つの丸い土の球を出してもらった。
土の球の内側からはゴソゴソと物音が聞こえ、動いている。
「……収納魔法か。久々に見たな。で、この中にいるのか? どうやって捕まえた?」
ソーマは火山ウサギ捕獲マニュアルをそっくりそのまま伝えた。
頑固オヤジは腕を組んで唸っている。
「数十キロ範囲に及ぶ探知魔法に、火山ウサギより速い足、さらには氷魔法と土の球に収納魔法か。にわかに信じられねぇが……否定も出来ねぇな。とりあえずこの中が本物の火山ウサギか見せてみろ」
分かりました、とソーマは土魔法の一部を解いて手を突っ込み、火山ウサギの両足を身体強化した握力で力の限り握って土魔法を解いた。
とんでもない脚力でビヨンビヨンと暴れまわる火山ウサギを、身体中から身体強化の赤い光を立ち上らせて必死に抱き抱えて抑え込むソーマ。
「わ、わかった、もういい! とりあえず早くさっきの玉にしまってくれ!!」
こんなところで万が一暴れまわったりしたら店中が壊れちまうと言わんばかりに必死の形相で言う頑固オヤジの指示に、ソーマは一瞬で魔法を唱えてウサギ入りの土の球を作った。
「そうか……。いや、分かった、信じよう。とりあえず材料があると分かったら早速仕事に掛からなきゃいけねぇ。悪いがお前には手伝ってもらう。後ろの嬢ちゃん達はやることねぇから先に帰ってもらいな」
頑固オヤジの言葉を聞いたソーマは、マキナと丸眼鏡に向き合って礼を言う。
「ってことだから、俺は手伝ってくよ。今日はありがとうな」
「はっ、良いってことよ。タダ働きになんねぇように話つけてくんだぞ」
「うむ、わたくしが神聖な袋に生き物を入れたのじゃ、絶対に防具を作ってもらう約束を取り付けるのじゃ」
二人がソーマに拳を突き出して来たので、ソーマもそれに答えて拳で返す。
頑固オヤジはその様子を、懐かしいものでも見るかのような目で眺めていた。
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