第65話 冥利に尽きる
早朝、ソーマは一人外に出て稽古をしていた。
魔神から聞いた剣士スキルを剣豪スキルに上げるための条件を満たす為、まずは剣スキルを得ようと無心に剣を振っている。
剣豪スキルはレベルとステータスに加え、一定の剣に関するスキルを取得する必要がある。
その一つである斬空剣というスキルは、ソーマの感覚としては剣の振りによって風の刃を飛ばすことの出来る遠距離攻撃だ。
遠距離攻撃の出来ない剣士からすれば非常に強力なスキルだが、風刃という魔法を無詠唱で使えるソーマからすれば剣豪スキルを得るための過程、とソーマは思っていた。
30分ほどすると珍しくマキナが起きて来たので、まずはマキナの剣術スキルを剣士スキルに上げる為に稽古をする。
丸眼鏡はかなり遅くまでドワーフ達と飲んでいたようで、今日は起きてこなかった。
稽古の音で他の者を起こすと悪いので、ソーマとマキナは少し離れた場で剣を打ち合うことにする。
斬空剣についてはマキナも知っているので、各々打ち合いをしながら隙を見て斬空剣を飛ばすイメージだけを持って遠距離攻撃も織り交ぜている。
お互い疾風の習熟度も上げる目的もあるので、とんでもない神速の勝負となっていた。
「ん、昨日鹿を取った森辺りから十人くらいこっちに向かってるな」
稽古中でも時折風探知を使っていたソーマが人影を捉えた。
「あ? こんな時間にそんな人数ってなりゃ盗賊じゃねぇか?」
「一応鋼の絆のリーダーに伝えてくるよ」
ソーマは鋼の絆のテントまで行き、中に入るのはさすがにまずいと判断して外から声を掛けた。
「ルゴル、ソーマだ。遠くの森から盗賊がこっちに向かってる、10人程度だと思う」
物音がした後、ステテコ一枚でテントから出てきたルゴルは再度概要を確認した。
「とりあえず向こうで待ち構えてるから、装備整えたら頼む。まだこっちに来るまでは時間あると思うから」
ルゴルは何でそんなことが分かるんだと怪訝な顔をしながらパーティメンバーを起こし、ブルーバードの面々も起こして回っていた。
マキナの元に戻ると走ってやってくる盗賊が肉眼でも見えた。
「おーおー、朝っぱらから元気だねぇ。マキナ様の稽古の邪魔をした罰を受けるとも知らずにご苦労なこった。まああと何分かはかかると思うからよ、稽古の続きしようぜ」
盗賊が襲って来ているのに全く意に介さないマキナは、早く剣士スキルを取得したいのか盗賊が来るまでの時間すら惜しいと言った感じだ。
ソーマも何もせず待ってる必要もないのでそれに応じ、マキナとの稽古を再開した。
ルゴル達が来る前に盗賊達がやってきた。
向こうも他の護衛に気付かれる前に少しでも数を減らしたいのか既に臨戦態勢である。
「抵抗しないなら見逃してやっても良いが、その代わりに女と馬車は頂いてくぜ」
いきなり上から目線で理不尽な要求を突き付けてくる盗賊に、ソーマは一体こういう奴らはどうやったらこの思考に辿り着くんだろうと不思議に思っていた。
「捕らえられて犯罪者として突き出されたくなかったら見逃してやっても良いけど」
「へっ! 口だけは達者なようだな! 殺るぞおまえら!」
盗賊達が威勢よくへい! と返事をすると同時、ソーマは全員の頭に礫弾をぶち当て一瞬のうちに気絶させ、手を後ろに回して地属性魔法で石の手錠を作り捕縛した。
「……よくこの弱さで馬車とか襲うよな」
「まあそんなんだから盗賊やってんじゃねぇのか? 海賊はもうちょい頭が回るやつが多かったが、バカなとこはすぐ潰れてたぜ」
なるほど、とソーマが納得していると、鋼の絆がようやく装備を整えてやってきた。
「ん? なにがあった?」
「あ、問答無用で襲ってきたから捕縛しといたんだけど……殺した方が良かったかな?」
ソーマの答えに鋼の絆のメンバーはゾッとしていた。
こいつは許可を出してればあっさりと殺していただろうと。
ソーマは気付いていないが、冒険者の中でも人を殺すべき時に殺せる者は稀である。
それほどまでにダンの殺し合いの教えを体現するのは難しく、そして貴重であった。
初心者だと思われたソーマ達が、この盗賊の数を無傷で一瞬のうちに捕縛し、必要とあらば殺すことにも躊躇なく、さらに野営時の建物や料理などを見れば、その実力は上位冒険者の中でもかなり上の方であろうことは明白であった。
「い、いや、盗賊は捕縛してギルドに引き渡すと金になるんだ。名が知れた盗賊ならそれだけで大金になる。盗賊捕縛専門でやってる奴らもいるくらいだからな」
そういうものなのか、とソーマは頷く。
「だが……実力差が無けりゃ殺しちまったり重傷を負わせちまうからな、ほぼ無傷で捕縛なんてよほど身の程知らずの弱い盗賊じゃなきゃ出来ねぇさ」
「ああ、じゃあこいつらはそのよほど身の程知らずだったわけだ。まあとりあえず金になって良かったよ」
「お、おう。あとは任せてくれ」
そういうルゴルはパーティメンバーと盗賊を起こしてまわり、今後の処遇について話していた。
中には命乞いをして泣き喚くのもいたが、あまり聞き分けが悪いのは武力で黙らせていたようだ。
一行はその後順調に進み、無事日没前に首都マグラードに到着した。
ソーマがほぼ無傷で盗賊達を捕縛したというのは鋼の絆からブルーバードの面々にも伝えられ、盗賊の護送は鋼の絆とブルーバードが担当してくれた。
護衛パーティは依頼人である商人から、依頼完了のサインを貰い、盗賊を引き連れてギルドへと来ている。
「さて、ソーマ達は盗賊の引き渡しは初めてみてえだから教えてやるぜ」
ルゴルはソーマ達を新人さんと呼ぶのは適当ではないと判断したのか、呼び方を変えていた。
ルゴルがエルフのリーダータスマルクとソーマを連れてギルドの依頼完了受付に向かう。
「Cランクパーティ『鋼の絆』のリーダールゴルだ。ノルゴールからの護衛依頼の完了報告と途中で襲われた盗賊の引き渡しを頼む」
「かしこまりました。では盗賊は隣の専用の引き渡し場で引き渡しをされて、そちらで受け取った用紙と共にもう一度こちらまで来て下さい」
ルゴルは了承の旨を伝え、一度ギルドを出てから他のメンバーが見張りをしている盗賊を引き連れて専用の引き渡し場へと向かった。
「盗賊の引き取りを頼む」
「はいはい、えーと10人ですね。怪我をしている方は……おお、いらっしゃらない。素晴らしいですね」
引取り所の受付は盗賊一人一人を確認して驚きの声を上げている。
「ん? ……この人相、もしかして最近名を挙げてる盗賊団リーダーの『暁のロンド』では?」
「けっ……マグラードまで名が知れ渡ってるなら盗賊冥利に尽きるぜ」
「やはり! いやあ私も仕事柄、大物の捕縛に立ち会えるのはギルド職員冥利に尽きます!」
どうやらそこそこ名の知れてる盗賊とギルド職員は謎の共感を得たのか、どちらも悪い表情ではなかった。
そしてソーマはどこに行ってもパーティ名や二つ名などを聞くので、早々にパーティ名を決めなければと決意したのであった。
「いやあ、こんな大物を無傷で全員捕縛なんて聞いたことありません! 報告書にはそのご活躍の旨、記載させて頂きます!」
そうして職員が報告書を作成している間、ルゴルはソーマに「大物だってよ」と小声で話しかけてきたので、ソーマは「たまたま捕まえれた」と無駄に謙虚に返していた。
無事報告書も貰い、ギルドで依頼完了報告を済ませた三パーティは、思いの外報酬が多かったこともあり、ギルドの外で分配をしていた。
「あんな大物だったとはな、お陰で報酬がとんでもねぇ額になった。本当に等分で良いのか?」
「ああ、合同依頼は等分が基本だからね。それにここまでの護送はそっちがやってくれたし」
「うむ、ではお言葉に甘えよう。お陰でドワーフ製の装備のグレードが上がりそうだ、感謝する」
タスマルクはそう言うとブルーバードの面々を引き連れて街へと消えていった。
「しかし兄ちゃん、実力はあるのに世間知らずだな。騙されねぇように気をつけるんだぞ」
「ああ、メンバーにこっぴどく叱られたから今後は気をつける。あとルゴルさん、この街で一番腕の良い鍛冶屋って知ってる?」
ソーマの問いにルゴルは「儲けさせてもらったし特別にタダで教えてやる」と、3店舗ほどルゴルおすすめの鍛冶屋、装備屋を教えてくれた。
「ありがとう、また機会があれば」
「おう、美味い飯が食えるんならいつでも歓迎だぜ!」
ソーマ達は鋼の絆とも別れ、まずは宿を探しに街へと繰り出した。
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