第61話 卑怯なゴルちゃん
ソーマがこの世界に生まれることとなった因縁の女神が突如現れ、何やら可笑しそうにお腹を抱えて笑っている。
『あっはっは、いやぁ本当はこうやって世界の住人に干渉するのは御法度なんだけどね、そこに既にルールを破った挙句とんでもない失態をやらかす寸前だったのがいるからさぁ』
ソーマは女神の話し方や表情を見ながら、ああこんな感じだったな……と心底疲れた顔をしてそれを眺めている。
『おっと、あんまり喋ると私まで罰則受けちゃうっ☆ まあ詳しい話はあっちのゴルちゃん……んと、魔神さんに聞いてね! あと魔神さんが変に誤魔化して丸め込まれちゃったら可哀想だからネタバレするけど、最初の敵を倒した時点でダンジョンボスは攻略済みだからね! 大方自分の手下が瞬殺されてバトルジャンキーの血が疼いて戦ってみたくなっちゃっただけだと思うんだけどっ☆』
『おいエーヴィリーゼ! それ以上――』
『はぁぁぁぁ??!? ア、ン、タ、さぁぁああ!! 私が彼の魔法止めなかったらどうなってたか、ワ、カ、ル、よ、ねぇ?! 貸し一つだからねぇ?』
口出ししようとした魔神に物凄い剣幕と口調で凄む女神、その様子を見てソーマは「ヒトはこいつを崇めているのか……」とさらに疲れた表情を滲ませている。
『ま、そういうことだから私はそろそろ帰るからね! 人間に幸多き未来を!』
そういうと女神は『ミッミッミッミッミスタリレ♪』と謎の歌を口ずさみながら消えていった。
後に残されたのは、三人と一神。
「……で、ゴルさん、どうしてくれるんですかこの状況」
女神曰く、魔神は自身のダンジョンをあっさり攻略した三人とちょっと戦って遊びたいくらいの感覚で現れたらしいが、ソーマ達からすれば不退転の覚悟で臨んだ決死の戦いである。
神とは言えさすがに悪戯が過ぎると、腹わた煮え繰り返る思いが込み上げるソーマは魔神に対して鬼の形相で凄む。
『う……うむ……その、余は骨のある若者が好きでな、少し手合わせを願おうと……』
「いや、なら先に言うべきでしょそれ」
「おっさんよぉ、こっちは死ぬかと思ったんだぜ?」
「うむ、それにマズい状況になれば命乞いなどしおって、本当に神だとしたら情けないのう……」
ソーマの怒りが伝播したのか魔神に対して畳み掛けるマキナと丸眼鏡。
もとより女神が言うには、神はこの世界の住人には干渉してはいけないらしいので、これ以上魔神の私情で襲ってくる心配も無いというのも後押ししている。
『その、すまなかった。その代わりきちんとSSランク、Sランクのスキルを授けよう』
「いや、何を寝言言ってるんだ、それは元々もらえる予定だったから」
容赦無いソーマのツッコミに尻込みする魔神。
魔神も人間如きにここまで詰め寄られることなど無く、本来であれば尊大な態度に怒るところだが、理はソーマにあるので強く出れずにいた。
もし女神がこの様子を見ていれば大爆笑していることだろう。
『そ、そうだな。では……おぬしら、挑戦や逆境というスキルを持っておろう。あの最上位であるSランクスキルを三人に授けよう。どうだ?』
「……そのスキル名と効果を教えてくれ」
魔神はしばらく黙った後、ボソリと『神に挑みし者、効果は自分より強い相手との戦闘で全ステータスアップ特大だ』と呟いた。
ソーマは考える。何故わざわざそのスキルなのかと。
効果を考えれば途轍もなく有効なスキルだが、魔神は一貫して何かをソーマ達に差し出したく無いと言った姿勢から、あっさりとそんな有効なSランクスキルを全員に授けるだろうか。
さらにスキル名、そして魔神の説明の仕方からソーマは、ある答えを導き出す。
「なるほど、魔神ともなるとスキルを新たに付与する力はあると。じゃあ別のスキルにしてくれ。その神に挑みし者ってスキルは……そうだなあ、勘だけど実際に神に挑んだんだから、付与されなくても発現するような気がするんでね」
『な……っ! ならん! 神が直接世界の住人にスキルを付与するなどいかんぞ!!』
ビンゴ、と確信したソーマはここぞとばかりに畳み掛ける。
「いや、さっきSランクスキルを三人に授けるって言ったよね、矛盾してるんですけど。ってことはやっぱり元々そのSランクスキルって発現するんでしょ? あんたさっきから、俺たちが元々得られるものばっかりをまるで自分が授けるみたいな言い方してるよね」
『ぐっ……しかしそれはならぬのだ』
ソーマは神と言えど自らの立場をわきまえず、偉そうに振る舞い、誠心誠意謝罪することも頼み込むこともなく、自分に都合の良い嘘ばかりを塗り固めて相手を丸め込もうと言った手段を取るヤツが心底嫌いであった。
「そもそもルールを初めに破ったのはそっちでしょ、しかも心から謝罪することもなく元々得られるものをあたかも自分が与えたように見せかけて許してもらおうとか虫が良すぎるだろ。そんなに嫌なら魔神神殿が復活してスキルが付与されたら、神殿ぶっ壊して魔族も根絶やしにしてやるからな」
『な……っ! 無礼な、神を脅すのか!!』
深い深いため息を吐き、ソーマはめんどくさそうに口を開く。
「あのさぁ、話聞いてる? 最初っから最後まであんたの行動や言動に筋が通ってるものは一つでもあったわけ? 無礼なって言うけどどっちが無礼なんだ?」
(魔族も話が通じない奴が多かったけど、魔神がこの調子だからなのかねぇ)
ソーマはつい最近、似たようなやりとりをしたなと遠い目をしながら思っていた。
その後も魔神は『ならぬ』の一点張り、それに対しソーマは「最初にSランクスキル付与で手を打とうって言ったよね」とか「神殿壊しても良いんだね」とか「魔族がこの世界から消えちゃうなぁ」などと貼り付けた笑顔で脅しに脅し、ついに魔神が折れることとなった。
『……全く女神と言い人間と言いどうしてこうなのだ。一人一つだ。それ以上はやれんぞ』
「いやだから最初っからそう言ったのはあんたでしょって。で、スキルだけどマキナと丸眼……ココネは限界突破で頼む」
いいよな? とのソーマの視線に二人はコクリと頷く。なんだかんだとレベルも50を超え、今後も上がり続けることを考えると最も伸び代のあるスキルを選んで間違いはない。
「で、俺なんだけど……剣士とか魔術師のスキルって上位スキルはどこまである? Sまであるのか?」
『……それは言えぬ』
「じゃあ俺のSランクスキル付与を諦める代わりに剣士と魔術師の上位スキル全てとその取得条件を教えてもらうのは?」
魔神はしばらく考え込んだ後、了承したようでその詳細を全て教えてくれた。
曰く剣士の上には剣豪、剣王があり、魔術師の上には大魔術師、賢王があるとのことだ。
さらに剣王と賢王を発現すると英雄神というSランクにランクアップするとのことであった。
取得条件はステータスやレベル、関連魔法やスキルの習熟度が関係するらしく、その詳細も全て聞いたソーマは、丸眼鏡のムフフの本に、その内容を書き写させた。
マキナと丸眼鏡への限界突破スキル付与も無事なされた。
「うん、有用な情報とスキル、ありがとう」
ソーマに続きマキナと丸眼鏡も礼を言う。
『全く……今日はとんだ災難だったわ』
「いや、それはこっちも同じだからね。大体女神が去った後に誠心誠意の謝罪があれば許したし、下手な嘘ついてややこしくしたのはそっちだからね」
『……うむ、もう良いそれ以上言わんでくれ。では、魔神神殿を復活させし者達に加護を』
魔神はそう言うと女神のように光の粒子となって消え、同時にダンジョン内が大きく揺れ動き大きな魔法陣が地面に浮かび上がった。
時間にしてわずか数分だろうか、ソーマ達は地上へと転移する。
そこはダンジョンの入り口があった五芒星の中心地だと思われたが、その場所には大きな黒い石造りの神殿が姿を現し、ソーマ達はその神殿の入り口付近へと転移してきたようだった。
ちょうど陽が西の空に沈む時間だったようで、斜陽が三人を射してその影を長く伸ばしている。
柔らかな風が芳醇な森の香りを運んできて、空高く浮かぶウロコ雲は鮮やかなピンク色に染まっていた。どこからか小鳥のさえずりが届いてくる。
「ああ……色々あったけど、ようやく外に戻ってこれたな……!」
「最後のおっさんは締まらなかったけどよ、あたしも丸眼鏡もスキルも貰えたし結果オーライだな!」
「うむ、久々に美味しいご飯とシャワー、ふかふかのベッドで寝るのが楽しみじゃ!」
三人は拳を突き合わせて互いの健闘を讃えたのち、歓声を上げて走り回り芝生の上を寝転びながら、沈みゆく夕日と降りてくる帳を眺めていた。
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ティロリロリン♪
ボス『魔神の手先』を倒しました。
ソーマは闇属性の魔法を取得しました。
低位魔法『暗黒』『シャドウアロウ』を覚えました。
スキルに『魔族の王』『魔神の加護』『覇気』が追加されました。
スキル『逆境』は『神に挑みし者』にランクアップしました。
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