第57話 最善の突破
ついに三人は第25層の骸骨剣士まで辿り着いた。
予想が正しければ、こいつを倒せば第30層ではこの魔神神殿ダンジョン最下層のボスである。
「さて……双剣にするか迷うけど、一応カットラス一本を借りていくかな」
「おまえなら紅竜刀預けても良いぜ」
「……良いのか? それだと心強い」
マキナは帯刀している紅竜刀を、勝利を託すようにソーマに渡す。
「ありがとう、じゃあ、なるべく手の内を見せないように勝ってくるよ」
「おう!」
「無理せぬようにの」
ソーマは碧竜刀と紅竜刀を腰の左右に帯刀し、骸骨剣士へと駆け出した。
疾風を纏い、ソーマは骸骨剣士へと疾走する。
相変わらず骸骨剣士は双剣を携えており、ソーマが近付くとその眼窩に強い光を灯し、ソーマに向かって手をかざした。
最初の一撃はマキナのように懐に飛び込んでの横薙ぎと決めていたソーマは、さらに重心を低くして加速し、敵の放つであろう鋭礫嵐の下に潜り込むように突進していく。
直後、骸骨剣士はソーマに向かって鋭礫嵐を放つのではなく、自身の周りに竜巻のように纏い始めた。
そう来たか、と一瞬たじろぐソーマだが、構わずに全力で突進しその身を切り刻まれながらも碧竜刀を太い背骨へと一閃薙ぎ払い、そのまま骸骨剣士の背後に回り込むと垂直に飛び上がり、敵の肩の骨を踏み台にしてさらに跳躍して鋭礫嵐の範囲外へと逃れた。
「うわ、ありゃ結構痛そうだぜ……」
「礫が薄い刃状だったのが幸いだのう、防御として使うなら質量の大きい礫弾の方が正解じゃが、あれなら最速で突っ切れば被害が最小限で済むからの。諸刃の一撃じゃったが……どれほど体力を削ったかのぅ」
間合いを取り直したソーマに対し、骸骨剣士は鋭礫嵐を広げていく。
ソーマが落ち着いて後退して範囲の外へ外へと逃れると、骸骨剣士はソーマを追いながら低位魔法を放った。
しかし自身が周囲に纏っている鋭礫嵐に軌道を変えられ、威力も減衰されて全く効果をなしていない。
何度か試して学習したのか、自身で纏っている鋭礫嵐を解き、低位魔法や範囲魔法を放ち始めた。
ソーマは範囲魔法に関しては範囲外に逃げ、低位魔法は双剣で弾き飛ばす。
ただし今までのように読みやすい間はかなり減り、骸骨剣士はテンポ良く単発・範囲両方の魔法を的確に放ってきた。
その様子はそこらの魔術師より遥かに魔法の扱いに長けた術者である。
ここまでは骸骨剣士もかなり強化されてきてはいるものの、パターンとしては同じであった。
しかし先にソーマに異変が起きる。
弾いていた低位魔法の数がみるみるうちに減っていき、回避が増えてきた。
(ちっ……低位魔法も威力が上がってきたせいか、弾いてると手や腕がだんだん痺れてくるな。礫弾は重いし火球と風刃は剣で相殺出来なくなってきたぞ)
骸骨剣士もソーマの変化に効果があると思ったのか、よりソーマの動きを学習せんとばかりに低位魔法を連続で放つ。
(くっそ……どんどん学習してやがる。早めに倒したいけど、どうかな)
ソーマは迫り来る単発の低位魔法を掻い潜りながら間合いを詰め、ここぞというところで一気に踏み込む。
すると骸骨剣士は低位魔法をやめ、鋭礫嵐を纏いながら後退して間合いを取り直した。
「うーん、マズイな。たしかにこっちがやってきたことしかやって来ないけど、どんどん厄介になってるぞ」
開いた間合いを利用して骸骨剣士は鋭礫嵐を解き、低位魔法を連発する。
ソーマは弾くことを諦めて回避に徹することにした。
「おいおい、かなり強化されてんな。ソーマ大丈夫か?」
「むむぅ……迂闊に近付けん上に遠距離も制されるとなると厳しいのう。こちらも単発魔法で陽動出来れば隙を作りやすいんじゃが、ソーマ殿はまだそこまでコピーさせる気はないようじゃし……」
二人の心配を他所に、ソーマは間合いを詰めては骸骨剣士が低位魔法を切り替えて鋭礫嵐を纏うタイミングを何度も繰り返して見極めていた。
数度繰り返してタイミングを計った後、疾風の出力を最小限に絞りながら再度間合いを詰める。
骸骨剣士が低位魔法から鋭礫嵐に切り替える瞬間、ソーマは一気に疾風を最大出力にし、局所突風も使って速度を急激に上げて骸骨剣士に飛び込んだ。
まるで放たれた弾丸のように間合いを詰めたソーマは、纏われる鋭礫嵐の突破を再度試みる。
頬や首、手の甲など次々に切り刻まれるも構わず突っ切り、再び図太い背骨に碧竜刀を叩き込んだ。
一撃目と違ったのは、薙ぎ払いではなく打ち込むように放った水平斬り。碧竜刀の刃は図太い背骨に深々と食い込むも切断には至らなかった。
ソーマは読んでいたとばかりに、いつの間にか逆手に持ち替えていた左手の紅竜刀を大きく振り被り、渾身の力で碧竜刀の峰に打ちこんだ。
その瞬間、打撃音と共に骸骨剣士の脊髄は砕け散り、支えを失った上半身はバラバラと崩れ落ちて青い粒子となって消えていった。
ソーマは安堵の息を漏らし、自身にヒールを掛けた。
次に二対の神剣を目の前まで掲げて刃こぼれや傷などがないかチェックしている。
そこに二人が駆け寄ってきた
「おいおいすげえな! 武器破壊ならぬ骨破壊だったぜ!」
「お見事じゃったのぅ、結局攻撃魔法もスキルも使わずに倒してしまってあっぱれじゃ」
「たしかにそうだな丸眼鏡! おまえホントすげえよ、あたしなら絶対魔法ぶっ放してたぜ!」
ワイワイとはしゃぐ二人とは裏腹に、ソーマの顔は険しかった。
「まあ最善は尽くしたつもりだけど、かなり厳しかったね。最後のボスがどこまで強化されるかはここから29層までに掛かってると思う」
「まーたあの雑魚敵が強くなんのかよ……勘弁して欲しいぜ」
「ここからは総力戦じゃのぅ……まあここまで余力を残してきたんじゃ、最後くらいは気を引き締めて全力でやるかのぅ」
丸眼鏡の言葉に二人も賛同し、三人はそれぞれ視線を交わして微笑んだ。
「あ、あと峰打ちとは言え思いっきり紅竜刀を碧竜刀に打ち込んじゃってすまなかった。でもカットラスだったら壊れてたかもしれないから助かったよ」
「気にすんな、むしろ最強の神剣に最強の神剣の峰打ちを叩き込んだの、見てて鳥肌たったぜ!」
ソーマから渡された紅竜刀を受け取ったマキナは屈託の無い笑顔でそう答えた。
「ありがとう。じゃあそろそろ、宝箱開けて第26層に行こうか」
「おう!」
「うむ!」
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