第56話 ソーマ作戦を練る
第21層の転移レリーフ前、三人は肩で息をして宝箱から出たばかりの回復薬を飲んでいた。
「結構やべぇな……やっぱあたしも火属性使って範囲魔法使った方が良いじゃねぇか?」
マキナは焦燥を滲ませた顔でソーマに問う。
第21層からはホールの大きさはさらに大きくなり、襲い来る魔物の数も一桁の層の頃に比べて1.5倍ほどになっていた。
それに加えて前衛の小さな骸骨剣士の体力が上がって打ち漏らしが増え、後衛のゾンビのようなローブを纏った魔物の範囲・単発魔法が厄介になってきていた。
敵の魔法は風、地が主だが、全方位から飛んでくる風刃と鋭礫嵐をソーマと丸眼鏡がより高威力な鋭礫嵐で跳ね返しながら殲滅し、打ち漏らした敵を適宜マキナが風刃で駆逐していくという方法を取っている。
だが、敵の数が尋常じゃない上にこちらも手数を絞っているので少しずつ被弾し始めていた。
「……いや、この階層で火を使い始めると次の骸骨剣士、さらに26層からの雑魚敵が収集付かなくなる可能性があるからな。一旦マキナに風属性の大精霊の宝玉を貸すよ」
ソーマはそう言うと碧竜刀に付けた風の大精霊の宝玉をマキナに渡した。
「どういうことだ?」
「俺と丸眼鏡の鋭礫嵐の配分を地属性多めにする代わりに、マキナの突風で威力の底上げをしてもらう」
ソーマはそう言いながら地面にミスリルの短刀を使って図を描き始めた。
「三人が背中合わせにホールの中央まで進むだろ、その後三人を中心に竜巻のように、外側に向かって鋭礫嵐を展開する。今までは丸眼鏡と俺の鋭礫嵐で対応したけど、次回からは俺と丸眼鏡の鋭礫嵐の属性配分を地属性7.5に対して風属性2.5で放つ。その代わりマキナがそこに突風を上書きする。そうすると、今まで俺と丸眼鏡合わせて地10風10の威力だった鋭礫嵐が三人だと地15風15で、威力が1.5倍になる」
マキナは途中からよく分からなくなった様子だが、丸眼鏡はなるほど、と頷いている。
「こうすると敵の前衛の打ち漏らしが減るから、そっちの対処をしなくて良くなる。あと後衛の風と地の魔法に関してもこっちの威力が上がった分、風刃は届かないし、敵の鋭礫嵐もこっちの爆発的な威力でどんどん巻き込んでいけるはずだ」
「ふむ、たしかにこれなら上手くいけば24層までは楽にいけそうじゃの」
「とりあえずあたしは二人と同じように突風で竜巻作っていけばいいんだな! 任せとけ!」
こうして初めて雑魚敵戦の作戦を考えた三人は、第22層へと向かった。
見事にソーマの作戦がハマり、第24層までは特に問題なく進んだ。
途中ソーマが宝箱から魔人のグリーブを得ており、おそらくキーアイテムはあと一つだろうという見解になった。
また、魔物の数と強さが上がったおかげで経験値も莫大に稼いでおり、三人は順調にレベルアップもしていた。
第24層の転移レリーフ前、恒例のお茶会をしている時にソーマが口を開く。
「さすがにちょっと疲れてきたんだけど、仮眠取らないか?」
「お、賛成だぜ。あたしも今回はさすがにちょっと疲れたな」
「うむ……お二人に二回も中ボスと戦ってもらって申し訳ないのじゃが、わたくしも21階層からの戦闘は疲れたのう」
ソーマの作戦によりかなり楽になったとは言え、それまでの階層と比べると遥かに魔法の威力や必要な集中力が上がっている。
この三人だからこそ、立て続けに四階層分進めているが、一般的なパーティではまず辿り着けず、上位パーティでも1階層ずつが決死の勝負となっているだろう。
「よし、じゃあちょっと仮眠しようか」
「うむ、その前に安眠効果があると言われておる、エルフ大陸のお茶を入れようかの。あれだけの戦いの後じゃ、なかなか寝付けないかもしれないしのぅ」
三人は丸眼鏡の淹れたお茶を飲み、マキナとソーマはダンジョンの床に横になり、丸眼鏡は壁を背にしてうずくまってしばしの休息を取った。
ソーマは微睡みの中で二人の女性の楽しそうな会話を、ぼんやりと聞いていた。
意識が戻ってくると、マキナと丸眼鏡は目覚めのお茶を飲みながら干し芋や果物をつまんで話していた。
その二人の姿を見てソーマは、背中を任せられる心強い仲間の存在をありがたく、また誇りに感じた。
「お、起きたか。随分熟睡してたな」
「今ソーマ殿の分のお茶も淹れますゆえ」
ソーマは目をこすり、大きな伸びをした後にテーブルに着いた。
「時計ないから分からないけど結構寝てたみたいだな。MPが全回復してる」
「意外と疲れてたんじゃねぇのか? 丸眼鏡のお茶も効いたのかもな。しっかしよくこんな硬い地面で熟睡出来るよなぁ」
「昔は寝れる場所があったらどこでも寝てたからな……」
過去のことを思い出して陰鬱そうな顔をしているソーマを見て、マキナと丸眼鏡は親も出自も分からぬと言ったソーマが孤児や浮浪者の様な生活をしていたのかもな、と改めてソーマの人生を想像し心を痛めた。
「さて……次は俺だな。出来るだけ手の内は見せたくないけど、次の骸骨剣士とそこから29層まではそうも言ってられないかもしれないから、安全第一で行こう」
「なんだかんだおまえなら上手いことやりそうだけどな」
「うむ、まあ無理だけはなされぬよう」
三人はひと時のお茶会を楽しんだあと、しっかりと身体と脳を覚ましてから第30層へと転移した。
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