第54話 マキナ、レアアイテムを引く
三人は現在第19階層の転移レリーフ前まで攻略を進めていた。
16~19層の敵も厳しい相手ではなかったが、低位魔法を使う敵が明らかに増え、その威力も増しているようだった。それにステータスが上がってきているのか三人の範囲魔法でも倒し漏らす相手が少しずつ増えてきている。
幸いなのはマキナと、そして特にソーマはレベルが高くないので、かなりの経験値を稼いでレベルを上げることが出来ている。
「さーて、あたしの宝箱の番だ、二人も最強の防具が出ることを祈ってくれよ!」
「あ、その件なんだけど、マキナってなんで防具が欲しいの? なんか今の装備、想い入れがありそうじゃん?」
たしかに剣に加えて防具が出れば攻守隙無しとなるのではあるが、ソーマはマキナによく似合っている使い込まれた海竜の革鎧に、マキナは一種の愛着さえ感じているように思える。
「あー…、言ってなかったっけか、あたし小さい頃に海賊に拾われて育ってよ。それで冒険者になりてぇって行った時に餞別としてもらったのがこの鎧と靴なんだよ」
「じゃあ別のものを祈った方が良いんじゃないか? 俺の勝手な予想だけど、今本当に欲しいものを祈ったほうが出るような気がするよ。例えば火属性を強めるアクセサリー的なものとかさ」
なるほどな、じゃあそれで頼むぜ、と軽いノリでマキナは答え、三人で祈りの言葉を口にした。
『女神様、どうかダンジョン攻略に必要なアクセサリーをお授け下さい!!』
意気揚々とマキナが開けるとそこには……。
非常に美しい漆黒の棒の先に、小さくあしらわれた真っ赤な宝玉が目を惹く、かんざしが現れた。
「おおおついに来たぜぇえええ!!! いやっふぅぅうう!!!」
マキナは早速髪を結ってポニーテールを作り、そのかんざしを刺してその場でクルクルと回り、「どうだ?! 似合うか!?」と子供のようにはしゃいでいる。
「うむ、マキナ殿に良く似合ってるのう。ほれ、せっかくなので鑑定させてくれぬか?」
丸眼鏡が褒めるとマキナは気分を良くしたのか、丸眼鏡とソーマに背を向けてかんざしを視てもらっている。
「ふむ、魔力伝導率の高いアダマンタイト製のかんざしに宝玉は火竜の魔石じゃの。装備していれば火属性魔法のダメージや効果が上がるはずじゃ。まさしく望んだものが出たのう」
「あたしからすりゃ紅竜刀以来のレア装備品だぜ! どうだソーマ!?」
マキナが喜びを表現するたびにフリフリと揺れるポニーテール、褐色肌と白髪の見事なコントラストが生む妖艶でセクシーなうなじ、視線を上に移せば左右に綺麗に伸びるエルフの長耳……。
無意識にソーマはゴクリと唾を飲み込み、その様子に魅了されていた。
ソーマは今の今まで忘れていたのである、自分がポニーテールフェチだったことを。
「おい! あたしがレアアイテム引いたんだぞ! なんとか言えよ!!」
「あ、ああ、その……めちゃくちゃ良い……めちゃくちゃ良いぞ……!」
マキナの両肩を掴み、今世界最大の真剣な眼差しでそんなことをのたまうソーマ。
「お、おう……そこまで良いと思ってたのかよ……」
余りに真剣なソーマの様子にマキナはたじろぎ、頬を赤らめている。
なお、丸眼鏡はすでに丸眼鏡の妄想の世界にいち早く転移していた。
レアアイテムを手に入れたマキナは上機嫌で、丸眼鏡の淹れてくれたお茶を飲み、干し芋や干し肉をつまんでいる。
三人は恒例のお茶会セットを囲んでMPの回復を待っていた。
階を追うごとに敵が強くなっているので、消費するMPも少しずつ増えている。
マキナがかんざしを確かめるように笑顔で頭を振るたびに揺れるポニーテールに、ソーマは都度視線を奪われ。その様子を見て丸眼鏡が悶える、というのを先ほどから繰り返していた。
「そういえば二人とも、まだ疲れたり眠くなったりはしてない?」
「あたしはまだまだ行けるぜ」
「うむ、わたくしもまだ余裕はあるかの」
ダンジョンに入り既に6時間ほど経過しているが、元ブラック企業勤めのソーマはもとより、まだまだ二人にも余裕があるようだ。
ダンジョン内には日の光が届かないので、時間の感覚を失うこともしばしばだが、地上ではまだ午後6時くらいだろう。
「ならもう少し進めるね、あとは次の骸骨剣士を誰が倒すかだね。順当にいけばあと二回だから俺かマキナが行けば良いけど、万が一もう一回骸骨剣士が出るようだと最後に丸眼鏡ってのはマズいよな」
「うむ、じゃがそろそろわたくし一人だと心細い強さにはなってきそうでのう……」
マキナは自分とソーマで行けば良いと言っているが、ソーマは最悪のケースを考えると丸眼鏡が出ておいた方が後々詰まずに済むという思いもあった。
しかし丸眼鏡の言うように骸骨剣士も強化されているので、強力な攻撃手段を持たない丸眼鏡で倒せないほど強化された骸骨剣士が出てしまえば下手をするとその時点で詰み、どころか丸眼鏡が命を落としかねない。
「うーん、悩ましいけど安全策でいくなら俺とマキナか。最悪6体目の骸骨剣士が出て来ちゃったら引き返すって手もあるしな」
「わたくしにもう少し威力のある魔法が使えれば良かったんじゃが……すまぬのう」
「そもそも一回でボスまでクリア出来る方が珍しいからな、あたしはそれで良いぜ」
今後の方針を再度確認し、各々武器の手入れなどを始めた。
杖は特に必要はないのか、丸眼鏡が二人の剣の手入れの様子をまじまじと見つめている。
「それにしても……魔神装備もお二人の話によれば世界樹の粉塵クラスのレアアイテムなんじゃろ?」
「あ? そうだと思うぜ。あたしは別に引きたかねぇけどな」
「ふむ……それほどのレアアイテムを一度のダンジョン攻略で引けるのもそうじゃが、わたくしの杖と言い大精霊の宝玉と言い、マキナ殿のかんざしと言い、ちとレアアイテムが出過ぎじゃのぅ。宝箱は開けた者のこううんステータスが関係するとも言われておるが、ソーマ殿のこううんが全員に影響を与えている可能性もあるのぅ」
マキナはなるほどな、と言いながら自身の紅竜刀を目の前にかざして眺める。
「たしかにその可能性はあんな。パーティ全員がオリハルコン装備を引くなんて考えらんねぇ」
「そういうものなんだ。俺がいないところでダンジョン潜ってた二人がそう言うなら、もしかするとそうなのかもね」
「うむ。他にもめぐり合わせと言ってしまえばそうじゃが、わたくしが魔神神殿調査に来たタイミングで魔族も調査をしておったところに、ソーマ殿達が来て魔神神殿ダンジョンに入れることが出来たりというのも、タイミングが違えば不可能じゃったからのぅ。未知なステータスゆえこじつけと言えばそれまでかもしれんが」
丸眼鏡の言葉に、ソーマもマキナもたしかにな、と納得する。
その後、MP回復中は特にやることがないので丸眼鏡は早々にムフフの袋から先ほど手に入れた小説を取り出し幸せそうな顔で読み始めていた。
ソーマは逆光で読みにくいだろうと思い、灯篭の高さを少し上げて丸眼鏡の方に寄せてあげた。
「む? お気遣いかたじけないの」
「そういえば丸眼鏡って獣人なんだよね? 獣人って補助魔法使いとかが多いの?」
「おお、わたくしは獣人とドワーフのハーフじゃからのう。鑑定術や補助魔法、背の小ささはドワーフの血じゃの。獣人は前衛職が多く魔法は苦手な者が多いのう」
ハーフの話に興味を示したのか、マキナも顔を上げる。
「ドワーフったら火属性使いが多くねぇか? なのに丸眼鏡は火属性は使えねぇんだな」
「うむ、属性は獣人族の影響が濃いかのう。火が使えないドワーフ、前衛の出来ない獣人と色々幼い頃は言われたもんじゃが……。そう言えばソーマ殿もてっきり魔族の血が入ってると思ったのじゃが違うんじゃの」
「多分純血のヒトだと思うけど、出自がよく分からなくてね」
皆色々と苦労をしてきたんだな、と三人は一様に各々の過去を想っていた。
特にマキナは、丸眼鏡の言っていたどちらの種族として半端もの扱いを受けたこと、そこからSランク鑑定術を使って獣人国に仕えたことを想像し、淡々と語ってはいるがその途中ではかなり傷付くこともあっただろうなと想像していた。
「湿っぽくなっちゃったね、MPも回復したし、そろそろ進もうか」
「次はあたしが行くぜ」
三人は気を取り直し、第20層へと転移した。
いつもお読み頂きありがとうございます。
先日久々に空色デイズを聴いたらグレンラガンを思い出して、あんな感動する物語を書きたいなぁと思ったのでありました。
運スキも、読んでいる方々の心に残るようなものを書けるよう、これからも頑張ります。
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※誤字報告ありがとうございます!