第51話 丸眼鏡の戦闘スタイル
ゆったりとした足取りで骸骨剣士へと向かっていく丸眼鏡を、ソーマとマキナは大きなホールの入り口で見守る。
「大丈夫か? あいつレベルは高えけどまともな攻撃手段ってそんなにないぜ?」
「んーどうだろな、マキナとの戦いも見てるしイケると思ったから行ったと思うんだけど」
丸眼鏡のまともな戦いを見るのは初めてだったので、二人は心配しながらも興味津々である。
まだ骸骨剣士が気付かぬ間合いから丸眼鏡は、風と地の二属性複合中位魔法「鋭礫嵐」を放った。
鋭礫嵐はその名の通り、竜巻のような風の中に刃物のように鋭利な大量の石の破片を飛ばして対象を切り刻む範囲魔法だが、丸眼鏡はその石の破片を鉄の刃に変え、範囲も骸骨剣士を包む程度に絞って出力を上げる工夫をしている。
丸眼鏡の一方的な初手により眼窩に光を灯した骸骨剣士はその場に小さく丸くなり、自身の周りに丸く地壁を作った後に地壁をどんどん広げて嵐を消し飛ばした。
「ふむ、なかなか賢いのう、最適解じゃ」
性質上、動き回ったり無理に脱出を試みるほどその身を切り刻むことになる魔法だが、風を通さぬ地の壁には弱い。
骸骨剣士はその場で両手を丸眼鏡に向かって突き出し、火球や礫弾、風刃などの魔法を駆使して丸眼鏡に襲い掛かった。
丸眼鏡は相手との間合いに気を付けながら、基本的に避けれるものは全て避け、際どいものは無理せずに反対属性の魔法を適宜当てて守りに徹している。
火球には水球を当て、礫弾は風で軌道を逸らし、風刃には礫弾を当てて消滅させると言った具合だ。
マキナとは違い、最小限の動きで無駄なく動くので見た目にはかなり地味だが、分かる人が見れば非常に洗練された戦闘スタイルである。
長期戦になればこういった無駄を省きMPを節約する動きは勝負の明暗を分けることさえあるだろう。
よく見ると犬らしき耳が時折ピクピクと動き、身体を捻る際にも尻尾を振る慣性などを使っている。
ソーマは初めてみる獣人の戦闘スタイルに、マキナの戦闘とは別の魅力を感じていた。
骸骨剣士も魔法戦では決めきれないと判断したのか、双剣を抜いて丸眼鏡に詰め寄る。
しかし丸眼鏡も上手に間合いを取りながら相手の動きに合わせて適宜礫弾や風刃などを放ち牽制する。
その魔法を骸骨剣士はクルクルと演舞するように剣で打ち消した。
その動きを見た丸眼鏡とソーマは、即座にマキナの動きと直観。
「丸眼鏡っ!」
「分かっておる、こやつら戦う度にこちらの動きをトレースしておるな、道理で水属性を使ってこないわけじゃのぅ。道中の大量の魔物もさしずめ、こちらの戦術をトレースするのが目的じゃろな」
マキナは「どういうことだ?」と的を得ていない様子だったのでソーマが補足して説明する。
骸骨剣士は先ほどのマキナのように疾風を使って丸眼鏡の後ろに回り込もうとするも、速度が足りておらずに丸眼鏡になかなか近づけないでいた。
「ふむ、双剣は悪手だったの、魔法が出てこん。マキナ殿の時のように片手に剣、片手で魔法を使われた方が厄介じゃったの」
事実、双剣を持ってから骸骨剣士は一度も魔法を放っていなかった。
しかし丸眼鏡も、あまりこちらの手の内を見せるとどんどん吸収して強化されると言った側面を鑑みて、極力無駄な迎撃や攻撃は控えていた。
結局、骸骨剣士の攻撃を避けるのみで戦闘は膠着状態が続いている。
「丸眼鏡、大丈夫か?」
「うむ、トドメの一撃は決めたのじゃが懐に飛び込むゆえ、もう少し敵の動きに慣れたいのう」
その言葉に気遣って声を掛けたソーマは少し安堵の表情を浮かべた。
前衛からするとまどろっこしい戦い方だが、防御力やHPの低い術士にとってこの慎重さは盾である。
マキナは飽きてきたのか、眠そうな目で戦闘を眺めていた。
それから数分、丸眼鏡は攻撃を避け続けたのちに敵の突きのタイミングに合わせて身体を捻って躱した後、骸骨剣士に向かって踏み込み、先ほどのマキナと同じく脊髄に杖を当てて局所的に穿通礫錐を放った。
次の瞬間、脊髄は砕けて骸骨剣士は崩れ落ち、少しの間のあとに青の粒子となって消えた。
丸眼鏡は安堵したように一息吐き、滲む額の汗を拭っている。
その丸眼鏡の元に二人が駆け寄った。
「お疲れ様、途中ちょっと心配したけど、結果的には危なげない勝利だったね」
「あたしは眠くなっちまったぜ」
「うむ、今まで魔物にもボスにもさほどお二人は剣を見せてこなかったからのう。ここまで剣主体で来てたらちと厳しかったかもしれんの」
ちょっとこれからの戦い方を考えなきゃいけないなというソーマに対し、マキナは「まずは宝箱だ!」と宝箱に向かって一目散に駆けて行った。
「今回はあたしの番だからな! 言っとっけど開ける前に変なこと言うのは無しだぜ!」
ソーマが何も言わずに促すと、恒例の祈りの言葉を唱えてマキナは宝箱を開けた。
するとなんと宝箱からは……。
禍々しい瘴気を放つ魔人の剣が出たのであった……。
マキナは両手と両ひざを地面に着き、言葉一つ発さずに絶望に打ちひしがれている。
「いやまあ、世界樹の粉塵並みと思われるレアなキーアイテムを引き当ててるあたりは凄いけどな……」
「うむ、結局いつかは引かねば魔神神殿の復活も出来ぬだろうしのう」
二人のフォローも届かないのか、マキナは一人絶望の淵を彷徨っていた。
「にしても……こっちの動きや魔法をトレースしてくるとはね。今まで何も考え無しに戦ってきたけどちょっと考えないといけないな」
「そうじゃな、極力スキルも使わないほうが無難じゃの。今のところ剣もさほど使っておらんし、このまま低位魔法主体で攻略出来れば良いのじゃが……」
厄介なシステムではあるが、裏を返せばマキナが個性的な双剣捌きを見せたことで早く気付けたのは僥倖である。
ほとんどの手の内を明かした後に気付いていれば、もしかすると取り返しのつかないことになっていた可能性すらあり、それを考えるだけでソーマと丸眼鏡は背筋の凍る思いになった。
「あとは何階層あって誰をどの順番で出すかだな」
「うむ、ダンジョンに入れるのは1パーティで5人までじゃから、おそらく25階層までこのパターンが続いて30階層で最下層かもしれないのう」
「あ、1パーティ5人なんて制限があるのか。だとすると3人の場合、4番目と5番目のボスに二回目の挑戦が出来るかどうかが気になるね」
落ち込むマキナの横で今後のダンジョン攻略について議論するソーマと丸眼鏡。
「まだ骸骨剣士は使ってこないけど、途中の魔物の大群に対してはほぼ範囲魔法で殲滅してるから、このまま行くと骸骨剣士は範囲魔法を主軸に戦うスタイルになってくと思うんだよね」
「うむ、同感じゃの。ソーマ殿とわたくしは結界魔法があるから問題なさそうじゃが、マキナ殿の守りが手薄になるのう」
「ラスボスはきっと三人で戦えるだろうから、それまでの中ボスの変化を見ながら30階層手前でもう一度作戦練ろうか。とりあえず今まで戦ってきた方法を主軸にして、なるべく多くの手数を見せない手段で行こう」
こうして方針を決めた二人はマキナを起こして説明し、魔法主体でスキルも極力使わずに行くことに決めた。
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