第43話 丸眼鏡の実力の片鱗
「よっっしゃぁぁー! 勝ったぜ!! へっへーん、一杯奢れよソーマ!」
街門の前でガッツポーズをしているマキナの横で、ソーマは汗だくになりながら膝に両手をついて肩で息をしていた。
「……相変わらず速過ぎだろ……こっちは身体強化まで使ってるのに」
「韋駄天のマキナ様に勝とうなんざ100年早ぇよ!」
勝ち誇るマキナを見てソーマは決意した、疾風の習熟度をもっと上げねばと。
シャワーの後、「勝利のタダ美酒ほど美味いもんはねぇ」と機嫌よく一杯あおったマキナと渋い顔で自身の麦酒をちびちびと飲むソーマは宿の部屋でベッドに腰掛け、向かい合って話をしていた。
「で、マキナは気付いてなかったと思うけど今日回ったとこ、行けば必ず数人の魔族に囲まれてたな。マキナは気付いてなかったと思うけど」
「あ? おまえまだ負けたこと根に持ってんのか?」
少しの沈黙の後、再びソーマが口を開く。
「で、そんな状況だったからあの時は何もないって言ったけど、かなり怪しい」
「お、ってこたぁなんかあったのか?」
「……見てくれ」
そう言うとソーマはベッドの上に地図を広げる。
「実際のところ、岩も泉もなにかあったわけじゃないんだけど、今日行った場所全てに地下水脈が通ってたんだ。で、地図上で今日行った場所を結んでみると……」
「……なんか歪な三角形だぞ?」
「そうだな、この三角形が出来るとなると……おそらくあと二か所か三か所、怪しい場所があると思う」
どういうことだ? とマキナは急かす。
「俺の予想だと最初の大岩が地属性、泉が水属性を指してる。次の広場は分からないけど、この三箇所を結んで直角二等辺三角形になるなら、あとは風属性だけかなって目星を付けてたんだ。正方形が出来るからね。でも出来たのは歪な三角形ってことは……」
そう言うとソーマは地図上に架空の地点をマークし、今日行った地点と線を結んでいく。
「……こりゃあ……五芒星か?」
「ああ、残りの火と風、それと光かな。そこに何らかの条件を揃えると闇のダンジョンが現れるとか、そんな感じじゃないかと思ってる。多分全部の箇所は地下水脈で繋がってるんじゃないかな」
「……なるほどな、言われてみりゃそんな気がしてくるぜ。っていうかおまえ、よくあんな短時間でここまで予想出来るな」
「謎のダンジョンの入り口は謎解きをしないと現れないのは常識だろ」
ソーマは前世でやっていたゲームの記憶を辿り、数々の意地悪な謎解きを思い出す。
「そんな常識聞いたことねぇよ……ま、とりあえず明日あたしが他の場所見てくるぜ」
「気を付けてね、かなり魔族の監視が厳しくなってると思うから」
「おう、任せとけ」
(なんだろう、マキナのこういう時の任せとけって全然信用出来ないんだよな……)
ソーマはそんなことを思いながらも、今日は一切手出ししてこなかった相手を考え、まあ大丈夫かと楽観的に捉えていた。
翌日、一応護衛依頼を自分から申し出ていたソーマは勝手な行動をするわけにも行かないので魔神神殿跡地の調査団の護衛に就いていた。
この6日間で神殿跡地のほとんどを自分なりに探知し尽くしたソーマはMPを余さないよう適当に探知や突風などを使いながら時間を潰している。
昼食後、あまりの暇さ加減と暖かな陽気に眠気を感じていたソーマの下に、焦燥した様子の丸眼鏡が駆け寄り、小声で話しかけてきた。
「……ソーマ殿、数十キロほど離れた五芒星の一番上辺りの地点でマキナ殿が魔族達に捕縛されたようじゃ……」
一瞬「何言ってるんだこいつ?」と思ったソーマだが、丸眼鏡の真剣な眼差しと、見たことのないアメジストの瞳の揺らぎを見て直観的にそれが嘘ではないことを悟る。
「おまえ……全部聞いてたのか」
「その件は申し訳ないのじゃ……ただ、今はそれについて話している場合じゃないと思うのぉ……」
盗聴防止に風壁を張っていたソーマだが、丸眼鏡の言ってることが本当なら数十キロ先の状況まで探知出来るほどの探知術士である、ソーマの風壁を突破して盗聴するなど容易いことなのかもしれない。
「おまえ、速く走れるか?」
「ソーマ殿が身体強化を使わずに走る速度の七割程度なら行けるかの」
(こいつ……なんで俺の身体強化と速さのことを知ってるんだ……)
「……それなら十分だ、一緒に来てくれるか?」
「うむ、調査団にはもう話は付けてあるからの」
話しが早いな、と早速ソーマと丸眼鏡は、マキナが捕縛されたとされる場所に向かった。
ソーマと丸眼鏡は森のなかを疾走していた。
丸眼鏡が遅ければ突風で追い風でもつくってやろうと思っていたソーマだが、風属性を使えるようで既に丸眼鏡は疾風と突風を使っていた。
それに加えてソーマの身体強化のような魔法も使っており、全身が微かに青い光の粒子を帯びている。
(結構速いな……ミスタリレ王国トップクラスまで行かなくともそれに匹敵するくらいは出てるぞ)
基本的に魔術師や鑑定術士などの魔法が主体の職業はすばやさが伸びにくい。
マキナは例外だが目の前の鑑定術士らしき丸眼鏡がここまでの速度を出せるのにソーマは驚いていた。
「向こうもかなり移動してるの、それになかなか高度な認知阻害系魔法を使っておるようじゃ。追っ手を嫌って術士一人で運んでるようじゃが……向かってる先のアジトらしき場所に人が集まっておるからあまり意味がないのぉ」
相変わらず丸眼鏡はその丸眼鏡の奥の瞳を淡く発光させている。
ソーマも向かってる先に目一杯風探知を飛ばしているが、全くと言って良いほど何も捉えられなかった。
(こいつもバケモンかよ……世界は広いな、自分が無力に感じるぞ)
さらに数十分ほど走った先、切り立った山の崖から数十メートル手前の何もない森で丸眼鏡が足を止めた。
「着いたの。一触即発と言った感じだのぅ。ソーマ殿、結界魔法の準備じゃ」
何も見当たらない上に探知にも引っかからないぞ、と思ったソーマだが得も言われぬ不安に結界魔法の準備をする。
「では……解っ!」
丸眼鏡が腕を伸ばしてそう唱えた瞬間、目の前には小さな集落と弓や魔法を放つ準備をしていた十数人ほどの魔族が現れた。
ソーマはあまりの突然の出来事に一瞬驚くも、それは向こうも同じだったようで、ほんの刹那の間の後、矢と魔法が放たれると同時にソーマは結界魔法を張って攻撃を凌いだ。
「そこまでだ! そちらからノコノコとやってくるとはな。ディーノ様を追跡し認識阻害結界まで破るとはなかなかの術士がいるようだ」
集落の奥からそう言ってやってきたのは漆黒の長髪に端正な顔立ちの双角の魔族であった。
長身ですらりとした身に独特な柄の黒い衣装を纏い、腰にはレイピアのような長剣を携えている。
「あとはソーマ殿の役目じゃの……わたくしはこ、恋の行方を見守ぬふっ……見守る脇役だからにょぅんぬふっ」
丸眼鏡は小声でソーマにバトンタッチすると、役目を終えたとばかりに一人妄想の世界に帰っていったようだ。
急な振りにたじろぐソーマだったが、気を取り直して魔族に向き合う。
「随分な言い草だな、ノコノコやってきたんじゃなく、俺の仲間を返してもらいにきたんだ」
「ほう、あの忌まわしいハーフの女か。我らが神聖な森でチョロチョロとうるさかったものでな」
(へー、魔神原理主義みたいなやつら? からしたらダークエルフとのハーフはそういう扱いなんだな)
「我らが神聖な森っていうけど、一応ここは連合国領だぞ。俺個人的にも法的にもあんたらに理屈は通ってない。さっさとマキナを返せ」
「抜かせ偉そうに! 我ら魔族の国を侵略しておいて何が理屈だ!!」
「……いや、戦争で負けたんだろ……それがイヤなら戦争で勝って取り戻せば良いだろ……」
こういう自分のなかの正義を妄信して周りが見えなくなる、話が通じないタイプっているよなぁ……とめんどくさくなりつつあるソーマ。
「黙れ小僧! 今に我らが魔神ゴルム様の神殿が復活すれば連合国など――」
「喋り過ぎだストライカー!」
「っっは! 申し訳ございません!」
咄嗟に跪く、ストライカーと呼ばれた黒髪の魔族の後ろから、また違う男が出てきた。
この調子でどんどんマトリョーシカのように魔族が出てくるのかとうんざりしたソーマだが、出てきた男にはどこか見覚えがあった。
白髪に褐色肌、角は一角でエルフのような長い耳を持っている。パッと見はマキナそっくりで、ストライカーと同じような独特な黒の衣装に、やはりレイピアを携えている。
「あれ、おまえワイバーンに乗ってリルム襲った男か?」
「ん? 何故それを……っておまえはあの時の無茶苦茶な風使い野郎!!」
まさかの場所で、まさかの再会を果たすちょっとした因縁の二人なのであった…。
いつもお読み頂きありがとうございます!
良かったら感想、ブクマ、評価宜しくお願いします!
本日より12時、19時に更新時間を変更してみます。




