第41話 バカでかいスケールの話
「「「た、たいへん申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」」」
丸眼鏡とその助手はマキナが許してくれるまでひたすらに謝り続けていた。
「まあまあ、助手さん達もこれだけ謝ってることだし許してあげようよ」
「元はと言えばおまえが変なことしだしたのにも原因があるだろうがよぉおお!」
「いやーまさか角であんなに敏感に反応すると思わなくてね」
その後「てめえもぶっ殺す!!!」と殺意が込められた双剣を命からがら躱す羽目になったソーマ。
火に油を注いだのだから当然の報いである。
「てめえら、とりあえず命一個分の貸しだからな……」
ようやく落ち着いたマキナから物騒な貸し付け宣言を受けたことは置いとくとして、とりあえずは助かったと安堵するソーマと三人。
「も、もう二度としませぬゆえ!! してソーマ殿、魔族の角の移植をご所望ですかっ?」
「ああ、まあ、出来たらなってくらいだし、出来たとしても角でテレパシー出来なきゃ意味がないんだけどね」
ソーマがそう言うと、丸眼鏡はその丸眼鏡をキラりと光らせ、天を指さして豪語する。
「んぬふぅっ! なんとわたくしハワーヌ=ルイ、ある時は小説家! ある時は鑑定術士! そしてまたある時は――」
「ココネ博士は移植適合検査や移植手術みたいなことも出来るんですよ」
「あ、なるほど……」
―――のぉぉおおおおおクールな口上シーンがぁああ!!!
聞き飽きたと言わんばかりのアンリと、あまりにも冷静に応対するソーマに対し、貴重な口上シーンを奪われたと騒ぐ丸眼鏡。
「じゃあ移植出来そうか見てもらうことって出来ます?」
「も、もちろんであろう! プラトニックラブリーな若い二人がお、お揃いのつっ、角ぅわぉお!!」
丸眼鏡の欲望ダダ洩れの独り言にマキナが刀を半分ほど抜刀すると、虫のようにカサカサと後退る、丸眼鏡。
「……あの、一応皆さん待たせてますし全然話進まないんで見てもらってもイイっすか」
「そ、そうでござるな……ふむどれどれ……わたくしも魔族の角をマジマジと見るのは初めてだのぅ」
ぶつくさと小声で独り言を呟きながら、盗賊の角や額の周りに何やら魔法を流し込んだり触れたりする丸眼鏡だが、時折その丸眼鏡の先の薄く淡いアメジストの瞳が、ほんのりと光を帯びながら揺らめいている。
「ううむ、まあ予想通りじゃが基本的な組成は骨と同じだの、密度が高いぶん硬度は増しておるが……。それに神経がかなり集中してるようじゃの。角を移植したとしても神経までは繋げんから飾りになってしまうのぅ……まあ飾りでもおそ、お揃いぬふっ! お、お揃いの角ぉおお――――」
「なるほど、じゃあ移植は無しだなー」
「そう簡単に出来ると思わなかったぜ。おまえはたまに発想がぶっ飛んでるよなぁ」
もうあいつには構うだけ時間の無駄と判断したソーマとマキナは「お時間取らせてすみませんでした」と御者、調査隊に言って先に進むことにした。
「ソォマ殿ぉ、ソーォマ殿ぉ……角は移植されんのかのぉ……」
丸眼鏡はその後も移植について云々と言っているが、ソーマが受けたのは“護衛依頼”であり、わざわざ構う必要はないとばかりに無視を決め込んでいた。
そうこうしているうちに昼前に『崩壊した魔神神殿跡地』に到着する。
「はーここが魔神神殿跡地かぁ、思ったより賑わってんなぁ!」
そこは半ば観光地化した遺跡となっており、観光客の他にも敬虔な魔族達の巡礼者のような人たちが見られた。
アンリ曰く、連合国側が魔族の聖地であるここを立ち入り禁止していた時期は度々反乱のようなものが起こっていたので、観光地化して入場を許可することにより魔族からのヘイトを減らす対策を取ったとのことだ。
観光地化された後、人が多く行き来するのでゴルモールという街が出来た。街の名前は魔神ゴルムに由来する。
獣人国の官吏補佐官は管理事務所のような場所で此度の調査許可書を貰い、二人の元へ戻ってきた。
「この度は護衛ありがとうございました。こちらは報酬です。我々はおおよそ五日から十日ほど調査する予定ですので、もしご予定が合えば是非帰りの護衛もご検討ください」
マキナは早速報酬を受け取り、中身を確認している。
「あ、その件なんですけど、調査の護衛って出来ませんか? 僕も神殿に興味があるんで」
補佐官は「少々お待ちください、官吏に確認します」と言ってその場を離れる。
「随分退屈じゃねぇか、ダンジョン潜った方が楽しいだろ」
「目当てはそれだよ」
「あ? どういう意味だ?」
マキナは的を得ないと言った具合だが、説明する間もなく補佐官は官吏を連れてきた。
「ええっと、調査の護衛依頼ですか。基本的には連合国管理の場なので危険は少ないと認識してまして、報酬はお出し出来ません。調査結果に関しても当然お伝えは出来ません。万が一危険があった場合に対処頂けた場合のみ成果報酬といった形でしたら可能です」
「あ、じゃあそれでお願いします。わがまま聞いてくださってありがとうございます」
こうして二人は入場許可書を受け取り、神殿跡地探査の護衛を務めることとなった。
と言ってもやることはほとんど無いので、マキナは早々に飽きて「宿探してギルドでも見てくらぁ」と神殿跡地周辺にある街のどこかへ行ってしまった。
ソーマは一応護衛としての体裁を保ちつつも、周辺をしらみ潰しに風探知や地振動探知を進めていった。
その様子を丸眼鏡はその丸眼鏡を光らせながら、面白そうに眺めていた。
半日の探査が終了し、ソーマとマキナは宿で夕食を取った後に部屋で今回の目的について話している。
前日の丸眼鏡盗聴事件があったので、風壁による盗聴防止にも余念がない。
「あ? ってこたぁ各種族の失われた聖地はダンジョンになってて、ボスを倒せば復活するってことか?」
「俺はそう睨んでるんだけど、ひとつ聞きたいのが世界樹のダンジョンで“神樹食い”を倒したあとに何があったんだ? 俺気絶してただろ?」
マキナは、ああそれな……と視線を逸らして頬を掻いている。
「いや、あんときおまえにまた命助けてもらっちまってよ、あの変な紫の敵の攻撃庇って、おまえの身体中に痣みてぇな紫斑が出てたんだ。それでヤベェと思って直前で手に入れた世界樹の粉塵をバラまいたんだ」
ソーマはなるほどな、と得心して続きを促す。
「そしたらさすが、あっという間に顔色良くなって紫斑が消えてよ。安心してたら暗闇だってのに粉塵がキラキラって宙を舞ってて、その……、綺麗で見惚れてたんだ。で、気付いたら大樹もどんどん粉塵引き寄せて治ってよ、あんときは世界樹だなんて思ってなかったから敵も復活すんのかよって焦って逃げようとして……あとはおまえも知ってる通りだ」
「そうだったのか、となると益々予想が確信じみてきたな」
なんでだよ、と今度はマキナがソーマを促す。
「ダンとエルから聞いた話だけど、王国管理のダンジョンの最下層付近でも稀に“女神の涙”というアイテムが出るらしい。効果は世界樹の粉塵と全く同じだ。おそらく全ての聖地跡はダンジョン化されていて、ダンジョン内で手に入るレアアイテムをボス戦後みたいな何らかの条件を満たした状態で使うと、聖地が復活する仕組みになってるんだと思う」
「……なるほどな、たしかにそりゃ説得力があるぜ。おい、今あたし鳥肌立ったぞ……それ、すげえゾクゾクするぜ」
マキナは心底驚いたように目を丸くし、何度も頷いている。
「それに覚えてるか、世界樹を復活させた時に出た妖精が『世界樹を復活させし選ばれし者よ』って言っただろ。おそらくだけど、聖地を復活させるたびにあのSSランクのスキルが手に入る。全部の聖地を復活させたら効果が謎だったSSランクのスキルの全貌も分かると思うんだ」
「……おいソーマ、おまえ自分が何言ってるのか分かってんのか?」
そう言うマキナは眼がギラギラと輝き口から笑みがこぼれていた。
「世界中を敵に回すか……世界中から英雄視されるか……いずれにせよ、バカでかいスケールの話だ」
「おうよ! あたしはノッたぜ! そもそもあのダンジョンで二対の神剣が出た時点でこういう運命だったのかもな! 世界最強タッグになってやろうぜ!」
こうして二人は再度拳を突き合わせ、これから起こる未来を夢想するのであった。
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