第40話 類は友を呼ぶ
ソーマ達は元魔族大陸の港町デュラントを発ち、街道を南西に馬車で進んでいる。
マキナは幌の上に乗って気持ち良さそうに昼寝をしており、ソーマは一応護衛依頼なので御者の隣に座って適当に風探知を放っていた。
獣人国の調査団は五人の少人数で、国の官吏と補佐官が一人ずつ、博士と助手二人といった構成だ。
「し、してソーマ殿っ! お二人は何故元魔族大陸にっ!」
「ココネ博士……いい加減やめてください」
―――ぐぬぬぬ。
丸眼鏡と助手のこのテンプレやり取りはもう既に何回も繰り返されている。
「ソーマさん、うちの博士が申し訳ありませんね」
そう言うと、狐風の獣人で金髪の真面目そうな助手らしき男性が三人掛けの御者席に着いた。名はアンリというらしい。
「ココネ博士、いつもあの調子で……。あの変な名前も自作の作家名なんですよ。小説家とか言いつつ趣味の範囲で別に出版してるわけでもありませんし」
後ろで丸眼鏡が騒いでいるが、もう一人の助手に取り押さえられている様子を見て、ソーマは苦笑いしか出来なかった。
そんな調子で三度の休憩を挟んだのち、日が暮れる前に野営の準備となった。
御者は慣れているのか、休憩地点も野営地点も開けた川の近くである。
調査団がある程度食材の提供をしてくれると言うので、マキナは近場で鹿を狩り、ソーマは土魔法でかまどと鉄製の鍋を作り、鍋に水球でぬるま湯を作った後に火球で沸かし、提供された野菜などを使ってシカのレバーやホルモンと野菜のスープ、それにシカ肉のバーベキューを振る舞った。
複数人パーティで魔法コントロールに長けた魔術師が豊富にいればここまで豪華な夕食を野営で振る舞うことも無くはないが、そんなパーティに出会うことは滅多にないため、調査団員には喜ばれた。
その後、調査団員と御者は馬車内で、ソーマとマキナは土魔法で作ったかまくらのような即席の建物で就寝となった。
ソーマはその建物の中で灯篭を灯し、日課であるMPを風探知や突風などで消費しながらマキナと向き合っていた。
「結局今日は盗賊が出なかったな。にしてもよ、魔族の角を移植なんて聞いたことないぜ?」
「まあ出来たらラッキーくらいの感じだからな。それに角を移植したところでちゃんとテレパシーを送れるかどうかも分かんないし」
ソーマが魔族大陸に来たかった理由の一つはこれである。
王都の書物には、魔族が魔法コントロールに長けている理由は、MPを使って体外に魔法として発現させるために角が一種の装置のような役割をしており、一説によると高位魔族は角を使って意思疎通が出来ると記してあった。
それを読んでソーマは、角を移植出来れば離れていてもいつでもマキナと通信出来るのでは、と思い立ったのである。
「そう言えば魔族の角ってちゃんと見たことがないな、ちょっと見せてくれよ」
「あ? 別に良いけどよ……」
ソーマはマキナの傍に寄り、角をじろじろと観察する。
「へー、もう少しざらざらしてるかと思ったけど意外と表面はつるっとしてるんだな」
骨のようなイメージがあったソーマだが、実際のそれは磨かれた象牙のような印象である。
ソーマがおもむろに角の表面を触ると、マキナはぴくっと反応する。
「ん? 触られる感触もあるのか?」
「そ、そりゃあるに決まってんだろ……身体の一部だぞ……」
そういうもんか、とソーマがすべすべした滑らかな表面を撫でる。
「……っ! ちょ、あ、あんま触んじゃねぇ……よっ」
「ああ、悪い悪い、最後にちょっと魔力流してみて良いか? 魔法伝達力が高いか知りたい」
マキナが無言で頷いて了承したので、ソーマは直接角に手を触れ、魔力を流し込んでみる。
「……っふぁぁっ!」
「お、大丈夫か? かなり魔法伝達力は高そうだけど身体にも負担があるのか?」
マキナは耳の先まで真っ赤に染めて、呆然としている。
「おーいマキナさーん、大丈夫ですかー?」
「……っるせえ!! あたしはもう寝るかんな!!」
(……これはもしかすると魔族にとって角は弱点なのでは?)
ソーマは少し悪い笑みを浮かべたのち、外に出て魔法コントロールの訓練をした後、床に就いた。
翌朝、いつものように早朝トレーニングをしていると、馬車から丸眼鏡が出てきた。
「んぬふっ!! のぉおおおおお!!」
(………………なんだあいつ)
なにやら寝てないのか目の下に大きなクマを作っていた丸眼鏡は朝からアクセル全開のご様子である。
そして昨夜寝るのが早すぎたのかマキナも起きてきて、共にトレーニングを始めた。
無論、その様子を見てさらに興奮して頭と腕と尻尾を振っている丸眼鏡を二人は全力で無視していた。
稽古後に水を含ませたタオルで身体を拭き、朝食の準備に取り掛かる頃、一団は10人ほどの魔族の盗賊に取り囲まれていた。
本来であれば護衛の数と相手の人数に不安の表情を浮かべるのが普通だが、御者を除いては船上で海賊の掃討を目の当たりにしている調査団は落ち着いた様子でソーマとマキナに対応を任せている。
「いいからさっさと金品武具食料全部置いていくんだな!」
如何にも雑魚モブという感じのリーダーらしき一角の魔族が語気を強めて言う間、ソーマはどの角が良いかと魔族を物色していた。
(やっぱあのリーダーっぽいやつが一番良さそうだな。マキナの角と大きさも色も似てるし)
ソーマが目星をつけると、盗賊リーダーに向かい合った。
「な、なんだてめえ! ぶった切るぞ!」
「……ほしければ、おれたちをたおしてから、うばうんだな」
一応正当防衛の体が欲しいソーマは咄嗟に思いついた慣れない悪役っぽいセリフをたどたどしく言い、その様子を見たマキナは「なんじゃそりゃ」と盛大に吹いて笑っている。
「こいつら……舐めやがって! やっちまえ!」
ソーマとしてはリーダーから手を出して欲しかったものの、周りの雑魚をけしかけられたので、めんどくさそうに礫弾を頭に入れて気絶させた。反対側はマキナが適当に双剣であしらっている。
「……くそっ……なんだおまえらバケモンかよ……!」
リーダーは結局一発もソーマに入れずに後退って逃亡を謀るので、ソーマはどうしたもんかと腕を組んで考えている。
「あ? なんだアイツをヤるんじゃねぇのか?」
「いや、結局あいつから手を出されてないなって」
「カーッ! あんだよ王都勤めで礼儀作法でも学んできたってかぁ?!」
マキナはそう言って弓を射ると、リーダーの左胸に深々と矢が突き刺さり絶命した。
「ったく手間取らせんなよ、あたしはそういうめんどくさいのは嫌いだぜ」
盗賊に突き刺さった矢を引き抜いて拭い、矢筒に仕舞いながら愚痴るマキナ。
「で、こいつの角を取るのか? 考えただけでも気持ちわりぃからおまえがやれよ?」
ソーマも遺体を前にしてこれからの手順を想像し、身震いする。
「……たしかにかなりグロテスクだな……やっぱやめるか」
「……おいおい、おまえ結構めんどくせぇやつだな……まあいいけどよ」
マキナの言葉にぐうの音も出ないソーマは、これでは類は友を呼んでしまうのも仕方がないじゃないかと項垂れている。
「ぬふっ! ソーマ殿、その魔族の角を移植して……マ、マキナ殿とお、おお、お揃いぬふっ! お揃いにしたいのですな?!」
背後から大きな丸眼鏡をキラりと輝かせ、興奮気味でやってきたのは丸眼鏡。
「あ? なんでおまえが知ってんだ?」
「んぐぬふっ! そそそ、それはっ! そ、そ、その見れば分かるでござろう!?」
「ココネ博士、また護衛さん達の話を盗み聞きしてたんですかっ!?」
――のぉぉぉおおおおおおおおおおおおんん……
その後昨夜の出来事を思い出し、全てこの丸眼鏡に聞かれていたことを察したマキナは耳先まで沸騰せんほど真っ赤にしながら「ぶっ殺す!!」と抜刀したのをソーマは全力で止め、丸眼鏡と助手達はひたすら許されるまで額を地面に擦りつけて謝り倒すことになったのである。
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