第39話 元魔族大陸とソーマの目的
目の前の犬耳鑑定術師(仮)はソーマの前で大きな丸眼鏡を輝かせながら一人ヌフヌフ言っている。
(まためんどくさいヤツが来たな……なんで俺の周りにはこうめんどくさいヤツが集まってくるんだ? ……まさか類は友を呼んでるとか?! それは嫌だぞ……)
「マ、マキナ殿と言いましたね、そのっ! 彼女とはど、どういうっ!」
「あ、いや、普通に冒険者の仲間ッスね」
「……んぬふっ! ふぉおおおプラトニックゥゥウ!!! 異種族ハーフ同士のプラトニックラブはど真ん中でござるぅううう!!!」
丸眼鏡が頭と腕と尻尾を振りながら興奮している。
(……こいつはさすがにちょっとヤバさの次元がぶっ飛んでるぞ)
「はぁ……はぁ……取り乱して申し訳ありませぬ、わたくし獣人族大陸で、その、しょっ、小説家っ! ぬふっ! 小説家をしております、ハワーヌ=ルイと申しまして、是非ともお二方に後学の為にしゅっ、取材をしたくっ……」
「あ、ココネ博士またこんなところでサボって! 公務員は乗船中も書類仕事あるんですからね、早く戻ってください」
――は、はぅうああああああぁぁぁ……。
こうして真面目そうな獣人の男に首根っこを掴まれて丸眼鏡は去っていった。
(……なんだったんだあいつは)
おおよそ24時間の航海を続けた船は無事、元魔族大陸の港町デュラントに辿り着いた。
散々飲み明かしたマキナは盛大によだれを垂らして爆睡していたが、起床してからはケロっとしていつもの調子に戻っている。
「で、どこ行くよ?」
「とりあえず腹ごしらえだな」
お、賛成だぜ、というマキナと共に早朝市場に二人は足を運んだ。
「魔族っつっても他の種族と食うもんは大して変わらねぇんだな」
市場にはミスタリレ王都やリルムと大きく変わらない品揃えをした店が多かった。
港町ということもあって鮮魚は豊富で、地域柄か魚の種類こそ違ったが、それでも食生活は大きく変わらない様子であった。
「もっとなんつーかさ、アブナイ肉とか虫とかあると思ってたぜ」
(一応おまえの血の半分はその魔族なんだけどな……)
ソーマは心の中でツッコミを入れながら、干し肉や干し芋、ドライフルーツなどを買い足していく。
まだ収納魔法を使えないソーマは、遠征の際に最も苦労するのは食料である。
賑わう市場の一角に屋台が並ぶ箇所を見つけたので二人は吸い込まれるように入り、ソーマは魚介と野菜のたっぷりスープとパン、マキナは同じスープに甘辛ソースの鶏肉サンドを頼んだ。
新鮮な魚介と野菜の出汁が出た温かいスープにソーマがほっこりしていると、屋台の店主がマキナを見て声を掛ける。
「おねーちゃんダークエルフとのハーフかい!? 珍しいねぇ! ここ数十年でドワーフやヒト、エルフとのハーフもすこーし増えたけどダークエルフは見たことねえ!」
マキナは慣れているのか、まあな、と適当にあしらっていた。
ソーマが辺りを見回すと、一角や二角のツノを持つ純血であろう魔族が大半だったが、中には耳の長い者や獣の耳を持つ者もちらほらと見られる。
ミスタリレ王都ではかなり魔族に対しては偏見が見られたように感じたが、実際他国の下町では異種族間の交流は盛んなのかもしれない。
ただ、ソーマが訪れた街や都市の中では初めて外壁の無い街であり、その辺りは連合国領が魔族の街にお金を掛けられないと言った事情が垣間見えた。
もしかすると、万が一街を魔族に占拠されたとしても外壁が無ければ攻めやすいという理由もあるのかもしれない。
「おにーさんは魔族とヒトかい! ツノは生えてねぇがその髪の色は魔族だわな!」
ソーマもははは、と愛想笑いを返し、食事を済ませると二人でギルドに向かった。
ギルドは国の機関から独立した民間の大組織である。
営利団体ではあるが神の庇護を受けていると言われ、どこの国、種族も基本的にはギルドの配置を認可している。
神の庇護を受けていると言われる最も強い根拠はステータスプレートであり、それは全世界共通の安全安心な身分証明書として扱われていた。
ソーマはギルドに入ると地域振興を担当する職員の元に赴く。
「ミスタリレから来たソーマと言います、こちらの大陸は初めてで護衛依頼を受けようと思ってるんですが、襲撃してきた盗賊等を殺してしまった場合の処罰等はありますか?」
「いえ、その場の目撃者の証言が一致していれば問題ありません」
ギルド職員はこう言った国ごとの法律的解釈の違いの質問に慣れているのか淡々と話してくれる。
「じゃあもう一つ、もしパーティのみで移動中に盗賊に襲われて正当防衛の上、殺してしまった場合はどうなりますか?」
「証明のしようがありませんので、襲われた盗賊の残党による調査依頼が無ければそのままとなります」
ソーマはなるほど、連合国統治とあって王国とさほど変わらないな、と理解する。
「何度もすみません、昨日船旅で海賊に襲われちゃってから繊細になってて。殺しちゃった場合、死体ってどうした方が良いです?」
「……埋めてもらうか、魔術師がいるなら焼却して頂けると助かります」
「分かりました、物騒な質問ばかりですみません。ありがとうございました」
質問を終えて礼を言うとソーマは依頼掲示板に目を通す。
「……なんだよお前、まるで盗賊なら殺しても良いのか聞いてるみたいだったぞ?」
「まあ、まさしくその通りだよ。気分を悪くしないでくれ、あとで話すから」
そしてソーマは「ちょうど良かった」と一つの依頼カードを持って依頼受注の手続きをした。
「なになにー、『崩壊した魔神神殿ヘの調査団護衛』か、依頼主は獣人族国ねぇ。国の仕事ってこたぁ金はそこそこだな」
「俺の行きたいところとやりたい依頼が重なってるからな。それと依頼主に会う前にさっきの件話しとく」
そう言うとソーマはマキナを外に連れ出し、依頼主の元に行く前に歩きながら風壁遮断をして今回の目的について話した。
「そんなこと本当に出来るのかよ……聞いたことねぇぞ……」
「俺も単なる思い付きだけど、なんか出来そうな気がするんだよ。お、依頼主の馬車はあれかな?」
ギルドからの依頼説明文と馬車を確認したソーマは、護衛依頼を受けに来た旨を伝えると……。
「んぬふっ! ソーマ殿! マキナ殿! ご、護衛依頼でございますか!! こ、これは神の思し召しっ!! ハワーヌ=ルイ、感激なのじゃぁぁああ」
なんとそこには丸眼鏡がいたのであった。
「……おいアイツたしか船にいた」
ソーマは幸運値がマイナス振れしているんじゃないかと、手で顔を覆って俯くことしか出来なかった……。
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日から試験的に18時と21時の二話更新にしようと思っています。
17時以降からのアクセス数が多いので、仕事が終わってから寝るまでの間に読んで頂けていると思うのですが、12時は昼休み等で読めたらと思って更新してました。
何時に投稿するのが良いのか分からない部分が多いので、もしリクエストがあれば参考に致します。




