第37話 脱出、再会、そして旅立ち
脱出の日の未明。
まだ空が暗いうちからソーマは起床し、部屋中を分厚い金属で覆っていた。それは壁のみならず、床、天井まで、隅々である。
そして窓から3メートルほど離れた場所に、砲身の長い大砲のようなものを作り上げた。
砲身の内側には螺旋状にライフリングを切り、その砲身に収まるような、ちょうどソーマが立ったまま入れるほどの円錐状の巨大な弾を作り上げる。
その円錐状の弾を砲身に収め、先を切り落とし、中を繰り抜いてその中に入って先端を魔法で接合した。さらにソーマは自身の周りを隙間なく氷で埋めていった。
その際にソーマはミスリルの防具をフルセットで装備している。
(いよいよだな……めちゃくちゃ緊張するし怖いけど、これなら絶対に脱出出来るはずだ)
ソーマは王都内での日々を思い出す。
最初は王国全てが憎く許せなかったが、豊富な研究論文、スキルや魔術への理解、この世界の仕組みなど、今後に役立つ情報や知識を数多く仕入れることが出来た。
さらに尊敬出来る先人に、向上心のある(?)後輩など、全ての人がイヤだったわけでもない。
(まあ、だからと言って未練はないけどな、三人には礼も贈ったし、もう頃合いだ)
するとソーマは、まず砲身を窓から突き破り10メートルほどに伸ばす。そして部屋中を覆った分厚い金属があった場所に大量の水を入れ、深呼吸をして身体強化をありったけかけたあとに、その大量の水の中に向かって火と風の複合属性中位魔法『炎熱嵐』を渾身の魔力を使って放った。
「いっけぇぇえええええ!!!!!」
――ッドゴォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
密閉された金属の中で起こったのは水蒸気爆発だった。
水が水蒸気に変化する際、その体積は約1700倍になる。部屋中に貯めた百数十トンの水は一気に膨張し、逃げ場を失ったそれはソーマが入り込んだ弾丸を超大出力で押し出す。
ソーマはその際、風属性魔法を用いて弾の加速を助けるよう、螺旋状に突風を使った。
ライフリングを切った砲身によってジャイロ効果を得た弾丸は螺旋状に回転しながら結界を薄はりの氷の如く易々と突き破り、遥か南東の空目掛けて超速で飛んでいくのであった。
ソーマはとてつもない回転と発射の衝撃を必死に耐えながらハイヒールを常に重ねがけする。
弾丸には内外から氷魔法を随時重ねがけし、空気との摩擦によって生じる熱を逃がしていった。
ちなみに魔法によって作られたモノは術者が魔法を解くと自然消滅するので、ソーマの部屋からはすでに大砲や水などは消えている。
常識では考えられない人体への衝撃を防具による防御ステータスの底上げと、とてつもない回復力を誇る回復魔法によって緩和し続けるソーマ。
長く感じる時間をソーマは必死に回復魔法で耐えながら、50km以上離れた陸地に着弾し、地面の奥深くへと突き刺さった。
着弾による衝撃を常にハイヒールで回復し続けた後、ソーマは弾丸を消して今度は上に向かって穿通礫錐を放ち地上へと這い出た。
周囲を確認して安堵したソーマは満面の笑みだ。
「うぉぉぉおおおおお無事に脱出したぞ!!! それにしても結構海が近いな、想像以上に飛んだかな、さすがにちょっとめっちゃ普通に死ぬかと思った!!!」
深呼吸して興奮する脳を落ち着かせて朝の空気を味わったのち、もう一度念の為にヒールを掛け、身体強化と疾風、突風を使いルトの方角に走り出す。
その速度は例え王国の斥候がヨーイドンでスタートしても追いつくこと叶わぬ速度である。
無論、余りの速度ゆえに地上に足跡が深く残るが今回ばかりは気にしない、それよりも速さが大事だった。
一方王国では、空がようやく白んでくる未明の時間に起きた天地揺るがすほどの大轟音により、王都民全員が飛び起きることになった。
見れば城の一部が崩れ、賢者ソーマが住まうとされる部屋には大穴が開いている。
皆鳴り止まぬ耳鳴りと混乱に取り乱れ、その騒ぎは一日中続き、回復術師は王都民の鼓膜の回復に付きっ切りとなった。
民の大半は賢者を狙った他国の陰謀という説が大きかったが、音の大きさと被害状況、王都から南西に何か飛んで行ったという複数の目撃情報から、ソーマが何かしらの魔法を使って脱出したのではないか、という説が濃厚になった。
王都内部はソーマ逃亡対策部隊が不自然な行動を察知していたので、すぐに斥候がソーマを追跡し始めていたが、弾の速度とソーマの足に追い付くことは叶わなかった。
全速力で二時間ほど走り通したソーマは無事ルトの街に付き、船着場で数ヶ月ぶりにマキナと再開した。
「ったく遅えぞ!! 二ヶ月以上待ったんだぞ!! ふざけんなよ!!」
「本当にすまなかった、文句は全部後で聞く! 準備は出来てるか?」
「ったく覚悟しとけよ! 食いもんも全部買ってあるからあとは乗るだけだぜ!」
そう言うと二人はどちらともなく拳を合わせ、直後ソーマはマキナを抱きしめた。
「本当にすまなかった、もう二度とマキナと離れないようにするから」
マキナは恥ずかしさと嬉しさで言葉に詰まり、やり場の無い手をわきわきさせている。
「よし行こう、さすがに追っ手はまだまだ来ないと思うけど油断は禁物だ」
そうして二人が乗り込んだのは元魔族大陸行きの船。
漁師や朝の市場などで賑わう人たちの中、船は6時きっかり出航する。
ソーマとマキナは並んでデッキに立ち、離れ行くルトの街とミスタリレ王国を眺めていた。
「マキナ、ありがとな。俺、マキナがいなかったらもしかしたら抜け出してなかったかもしれない」
「あ? どういうことだよ」
ポケットに手を突っ込んで問うマキナに対し、ソーマは実に清々しい表情でどんどんと遠ざかる街を眺めている。
「酷い仕打ちをされたと思ったよ。許せなかった。でも王都も悪い人ばかりじゃなかったし、魔法研究の資料なんかも豊富だったし、別にそこまで居心地が悪いわけでもなかった。昔の俺だったら賢者として必要としてくれる人がいるとか、別に悪いことばかりでもないとか言って自分をごまかして妥協して、文句を言いながらも現状を受け入れていたと思う」
「つまんねぇ生き方だな、それ」
「ああ、でもマキナが待っていてくれて、マキナと旅に出たいって思えたから絶対逃げ出してやるって思えた。俺はこれから自分がやりたいって思えたことは大切にするよ。改めてよろしくな」
マキナは、おう! と返事をするとどちらともなく笑顔で拳を合わせた。
いつもお読み頂きありがとうございます!
ようやくマキナと再会出来ました。
明日からは18時と21時の二話更新になります、よろしくお願いします!




