第34話 ユーリの涙とソーマの強さ
ソーマが振り向くとそこには魔術師の格好をした女の子がいた。
「……えっと……誰だっけ?」
「ユーリよ!! ザイオンの孫の!!」
一瞬考えたソーマだが、ああ!と思い出す。
「あの図々しくて失礼な!」
「そういうのは覚えてなくて良いから!」
顔を真っ赤にして怒るユーリを見て、たしかになんかこういう感じだったな、と思うソーマである。
「で、なんか用?」
「……えっと……その……この前やってたアレあるじゃない、アレにどういう意味があるのかって言うのと……やりかたとかあれば教えて欲しいんだけど……」
すっかり忘れているソーマはその“アレ”と言うのを顎に手を当てて考えた。
「ああ、アレか」
そう言うと二人の間で火と水、土の塊を作り出して風を使ってクルクルと回しはじめる。
「そうこれ! これってどんな意味があるの?」
「魔法のコントロールの練習だよ」
「これの練習がどう役に立つの?」
ソーマは、ザイオンの孫ってわりには察しが悪いなと思いつつも整理して話す。
「例えば霧探知を使いながら敵を補足して火球や礫弾で牽制しながら疾風を纏って近付くってなると四属性全部使うだろ。その際に全属性を別々に正確に操作出来なきゃいけないからな」
「……それとこの練習がどう結び付くの?」
「……いや、これはウォーミングアップみたいなもんだからな。実際にはもっと個別に探知は探知、疾風は疾風で練習してるぞ」
そこまで言うと黙りこくるユーリに対して、ソーマは助け舟を出してやる。
「何が目的でそんなこと聞いてきたんだ?」
「……魔法……上手くなりたいから」
「学園でも色々教わるだろ」
「だって……! 学園じゃあんたみたいな練習見たことないし……それに賢者がやってるくらいだから何かとっておきのコツとかがあるのかと思って……」
そこまで言い終えるとユーリはまた俯いて黙ってしまった。
なんだか前回に比べると随分しおらしくなったなと、ソーマは拍子抜けしていた。
「なんで魔法上手くなりたいんだ?」
「……私だけ……下手だから」
「学園で?」
「……学園でも家族でもよ。お爺ちゃんもお父さんも立派な魔術師なのに……私だけ……学園で落ちこぼれで……それで……っ」
そこまで言うとユーリは、口を真一文字に結んで声一つ漏らさずにぼろぼろと涙を流し始めた。
ソーマはそんなユーリの気持ちが、少し分かるような気がした。
優秀な魔術師家系で落ちこぼれで、なかなか上手くいかずにどんどんプレッシャーだけが重なって卒業まで一年を切って、焦る気持ちとは裏腹に魔法の腕は変わらない。
そんな時に自分より年下の才能溢れる男の子が見たこともない練習をしていたら、すがりたくなる気持ちも分からなくはない。
「悔しい気持ちは分かるけどなユーリ、おまえちょっと勘違いしてるぞ」
ユーリは初めて名前を呼んでくれたことに、胸が少し熱くなった。
「ユーリ、属性は?」
「……水と風」
「二つもあるのか、凄いな。俺ここに来るまでは人前だと水と風しか使ったことなかったんだ。水球と突風の習熟度は?」
「大体……15くらい……」
「いいか、信じられないかもしれないが俺は魔法を使えるようになってからまだ10か月も経ってない。その俺の水球と突風、風探知の習熟度は50を超えてる。どういう意味か分かるか?」
ユーリは分からない、と言った風に首を横に振る。
「努力したからだ。早朝から深夜までMPを余すことなくずっと使い続けて暇さえあれば風を動かし、近所の人達の水瓶を満たした。剣の稽古をしている間もずっとだ。俺の魔法の師匠も、スキルが強さじゃないって言ってる」
さらにソーマは続ける。
「よく聞けよ、レベルや習熟度があるから努力は絶対に裏切らないんだ。やればやった分だけ強くなるし、魔法も上手くなるんだ。ユーリは一日何時間稽古してるんだ?」
「……1時間くらい」
「それを一日10時間にすれば卒業までには今覚えてる魔法全部、習熟度は50を超えるしスキルの魔術は魔術師になるだろ。それが学園でどれくらいの魔術師かユーリなら分かるだろ。悔しかったら練習しろ」
そこまで言うと、ユーリはまたぷるぷると震え声も漏らさずに泣きはじめた。
ソーマは小さなため息をついて、手を差し伸べる。
「俺がこの稽古場にいる間くらいは練習を見てもいいよ。その代わり俺がこの稽古場に来た時くらいはいつもいるくらいの気持ちは見せて欲しいな」
ユーリは泣きながら、静かに頷く。
「俺いつまでいるか分かんないからな、ユーリがめちゃくちゃ努力して水と風くらいは俺を追い越して、努力すれば強くなるってこと、王国の魔術師全員にユーリが教えてやってくれ。じゃあ早速だけど、やるか!」
ユーリは涙をマントで拭って、辿々しい水球を作っては放ちを始めた。
それを横目にソーマも鉄球を自在に変化させる練習をする。
こうして残り少ない王都暮らしの間、ソーマはユーリの稽古を付け、努力の大切さを教え込むのであった。
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