第333話 束の間の
「ど、どうなってやがる……。ソーマ達は大丈夫なのか……?」
世界樹跡地から遥か北、ドワーフ国首都のマグラード城で大地の揺れを感じながら、ローガンは空の一点を注視していた。
二度、三度と空に立ち昇った光の柱。
戦いの激しさを予感していたものの、次にまばゆいほどの極太の白銀の柱が空から降り注ぐと、少し間をおいてから轟音と、さらに遅れて大きな大地の揺れが起こった。
「無事を祈るほかあるまい。世界の平和が掛かっておるのだからな」
ローガンが声の方を向くと、ドワーフ国王レイフォード=マグナオルト二世もまた、真剣な表情で空を眺めていた。
◇
世界樹跡地には半径数キロにも及ぶ大穴が開いていた。
豊かな森は余波の風で全て吹き飛び、外輪山に茂る木々までもがすっかり吹き飛ばされ、あまりの威力か、穴の周りは所々大きく隆起陥没が出来ている。
ちょうどその穴の中心付近に、小さな三つの光がきらめきを放っていた。
その光は徐々に人の形を形成し、様々な色に変化しながら、最終的には三つの人を形成した。
「……あれ? 私、ソーマさんの光闇結界の中に……」
「世界樹の神気か。光闇結界すら貫通したってことだろうね。……マキナ、無事か?」
『あ、ちょっと待ってね、丸眼鏡ちゃんとリュージ君呼んで、私はヒルコちゃんの身体に戻るから!』
マキナの姿をしたエーヴィリーゼはどこからか秘密基地のレリーフを出すと、それを宙に浮かべて転移していった。
「収納魔法も使えたのね。それにしても……凄い威力だな」
ソーマとフィオナは眼下の大穴に目を向ける。
底が見えぬほどの大穴、その深淵の奥底で度々走る稲光。
いったいどれほどの威力の魔法やスキルを放てばこうなってしまうのか、二人には想像すら出来なかった。
「ゴルムが増幅反射の陣と言ってましたけど、数倍どころの威力じゃないですねこれ」
「世界中の魔力も集めてたって話だからね。とんでもない魔法だ」
唖然とする二人の元に、丸眼鏡とリュージ、マキナとエーヴィリーゼが戻ってきた。
皆一様に眼下の大穴に目を奪われ、想像を絶する状況に息を呑む。
『ふっふーん! これにて任務完了っ! みんなよく頑張ったゾ!』
相変わらずの調子に五人は互いに視線を合わせた。
「あたしたち、勝ったんだな……? 勝ったんだな!」
「どうやらそうみたいじゃの」
「やりましたね……!」
「はーっ、しんどかったゼ。でも何発も神滅竜砲撃った甲斐があったな!」
ようやく実感が湧いたのか、四人は顔を表情を綻ばせながら、ソーマを見つめる。
「みんなお疲れ様、エーヴィもありがとう。パセドの誓いの勝利だっ!」
ソーマの言葉に、皆が歓声を上げた。
マキナとフィオナは小さな丸眼鏡を抱きかかえては喜びを表現し、リュージは静かにソーマと拳を合わせると、葉巻に火を点ける。
そんな様子を、エーヴィリーゼは微笑ましく眺めていた。
「にしても上手く決まったね。当初のシリウスの矢作戦とはシナリオが違ったけど」
『ふふ、誰が作戦を指揮してると思ってるのよっ! と言いたいところだけど、本当はソーマくんのおかげかしらねん』
エーヴィリーゼの物言いに、マキナがどういうことだと突っ込む。
『相手の行動、約24%~97%ほどの振れ幅のある選択肢46項目、ほぼ全てこちらの思惑通り進んだの。こんなこと、絶対にありえないわね。戦闘が進むたびにみるみる勝率が上がっていった。“運が良かった”のよ』
「あんだよ、またそれかよ」
「まあまあマキナさん、たまたま“運が良かった”だけですよっ!」
「うむ、勝てば官軍と言うしの、ここまで全員が全力で努力した甲斐もあったはずじゃ」
丸眼鏡の言葉にはエーヴィリーゼも『その通り』と同意する。
「負けるよりははるかに良いゼ。にしても女神さん、随分派手にやったみてぇだが、大丈夫なのか?」
『多分だいじょーぶ! アデン様がここにもう一度世界樹を作るはずだから、その時に直してもらえるはず!』
エーヴィリーゼの言葉に、リュージのみならずソーマ達も安堵の表情を浮かべた。
この世ならざる光景は、見ていて気分の良いものではない。
「とりあえず、これから各国に戦いの終わりを報告して回ろうか。で、今夜は勝利の祝杯にしよう!」
「賛成だぜ! せっかくなら分担しようぜ、それなら夕方には獣人国集まれるだろ?」
「うむ、わたくしもマキナ殿に賛成じゃ」
「そうですね、全員で各国に回ると時間掛かりますし。私はエルフ国に」
「フィオナちゃん、俺が竜人国だと一番遠くて時間掛かるからよ、竜人国頼まれてくれねぇか? エルフ国には俺が行くからよ」
リュージの提案に、フィオナは笑顔で答える。
「ではわたくしがドワーフ国かの」
「あたしは魔族国行くぜ」
「じゃあ俺が人間国か。エーヴィ、それで良いかな?」
一応ソーマはエーヴィリーゼに確認を取る。
『もちろんっ。私はもう少しここで調査してから海龍神の祠でアデン様に報告してくるわね』
「よし、じゃあ獣人国集合で。何かあればピアスを通して連絡して」
皆は一度拳を突き合わせると、晴れ晴れとした表情で各地に飛び立とうとした。
――――――ッッ!!?!
直後、大穴の奥底から得体の知れぬおぞましい恐怖が、その場にいる全員を襲う。
「な、なんだっつーんだ!?」
「落ち着けマキナ! フィオナ、すぐにバフだ! 丸眼鏡、MP回復薬とマグマライト結晶を全員に配れ!」
ソーマの指示に二人が迅速に対応し、その間にエーヴィリーゼとソーマは謎の感覚の正体を探るべく感覚を研ぎ澄ます。
「……ゴルムが生きてるのか?」
『いや、それはありえないはずよ。何かしら……アミーちゃんの禁術ってわけでもなさそうだし』
息を呑み、大穴を注視する六人。
まるで心臓が掴まれているかのような感覚に、呼吸も忘れるほどだ。
しばらくすると、黒紫色のエネルギーの球体らしきものが、バチバチと音を立てながらゆっくりと浮上してきた。
「なんでしょうか……とてつもないエネルギーを感じます……」
『あれは……マズいわね……。クッソ、あんの馬鹿ゴルムッ!!』
見たことのないエーヴィリーゼの怒声に、その場にいる全員がさらに危機感を強めたのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
色々書き直したりしている間に投稿まで時間が掛かってしまいました。
完結まで宜しくお願い致します。




