第324話 エーヴィの作戦
殺気を放つゴルム、ソーマとフィオナはマキナからそれぞれ左右に少し離れ、マキナは双剣を構えた。
(来いっ、この距離なら魔法じゃなく突っ込んで来るだろ!)
少しの間、相手が動かぬのに焦れたマキナの右腕がピクリと動く。
牽制として放とうとした斬撃波か、その予兆を見たゴルムが瞬時に縮地で距離を詰める。
直後、マキナの顔面スレスレにゴルムの拳が現れたところでマキナの縮地が間に合った。
「……っぶねぇええ!!」
遠く後退したマキナ。
ゴルムはソーマと一瞬目を合わせるとニタリと笑い、自身の周囲に爆発を起こした。
ソーマとフィオナはバックステップで遠退きながらも結界を展開、それでも間に合わない分のダメージを食らいながら吹き飛ばされる。
ゴルムは再度縮地でマキナとの距離を詰め、マキナも全速力でゴルムの攻撃を躱しながら後退していく。
『フィオナちゃん! 軍神の応援歌と英雄神の歌お願い!』
ピアスを通して伝わるエーヴィリーゼの声にフィオナが即座にバフを紡ぐと、マキナの速度がグンと上がる。
ちょうどゴルムの回し蹴りがマキナの頭を捉えようとした寸前でマキナは大きくバックステップを踏むと、背後の山肌にある崖に着地し、跳躍の構えを取った。
(十分引き付けろ、マキナ!)
マキナは魔眼を煌めかせながらゴルムの全身の動きを細かく注視した。
地を踏む足に力が入り、踏み込んだのを見届けたところで上空に跳躍。
空に逃れたマキナを追うようにゴルムも崖に足をつこうとしたその時、岩肌の一部が消えた。
そこはトンネルような形になっており、その壁は密度の高いオリハルコンで覆われていた。
神速でトンネルに飛び込む形となったゴルムは吸い込まれるようにトンネルの奥へと飛んでいき、さらに最奥には丸眼鏡の超電磁球電がゴルムを吸い込む力を加速させる。
『なっ!? 小癪な、エーヴィリーゼか!』
『っしゃぁ! ってぇぇ神滅竜砲!!』
「うらぁくらえええ!!!!」
直後、認知阻害結界から姿を現したリュージはトンネルに向かって神滅竜砲を放つ。
超高密度のオリハルコンの壁はゴルムに直撃するまでのコンマ1秒の間、そのエネルギーを分散させずに推進力と変えてゴルム諸共に山を貫通する。
さらにトンネルの入り口から漏れ出る神滅竜砲のエネルギーをソーマとフィオナ、丸眼鏡が結界と障壁で緩和させ、リュージに対しては絶えずマスターヒールを重ね掛けしていくことでダメージを最小化させていった。
数秒の後、山は綺麗に消し飛び、もうもうと土埃が舞っていた。
『第一作戦は成功ね、すぐに次に移るわよ!』
エーヴィリーゼの声と共にリュージと丸眼鏡はすぐにエーヴィリーゼの認知阻害結界にて姿を消す。
前衛3人はMP回復薬を飲み干すと、次の作戦へと備えた。
「しっかしこれ食らって生きてんのか? 紫結晶使っただろ」
「ああ、残念ながら生きてるっぽいよ。ダメージは入ってると願いたいけど」
三人は土埃を風魔法で払い終えた先に立つ、ゴルムを捉えていた。
背から直撃したのか、背中の皮膚は焼けただれ肉がむき出しになっている。
フィオナは即座に英雄神の歌を掛けなおし、秒単位でHPが回復する精霊神の癒光、そしてHPが0になっても一度だけ蘇生される世界樹の神気を紡ぐ。
(これでバフは最大、どこまで通用するかな)
『ふむ……なるほどな、どうやら本気で勝ちに来ているようだ。まあ今のが最大火力だろう、二度目は無いぞ。アミー! 余計な手出しは無用だぞ!』
ゴルムはどこかに身を潜めているだろうアミーに声を掛けると、首を回しながら構えを取った。
『来るわよ!』
直後、消えたゴルムの拳をマキナの目の前で受けたのはソーマのバックラーであった。
ソーマは打撃をその場で回転して受け流しながら、今度はゴルムの喉元に突きを見舞う。
その突きをゴルムは紙一重で躱すと、今度はソーマの背後を取って極太の両腕でソーマを拘束を試みた。
突きによって右腕が伸びきった状態のソーマは碧竜刀を手放すとその場にしゃがみ込みゴルムの拘束を抜ける。
同時に碧竜刀に上から礫弾を当てて手元に戻すと、二人の間に猛烈な風の谷を起こして距離を取りなおした。
ゴルムはその距離を詰めるようにソーマへと突進し、ソーマも斬撃波を放ちながら逃げ回った。
(攻撃は60%、すばやさは80%くらいでなんとかなるな。やっぱり軍神の応援歌の効果が大きい。なるべく時間を稼がないと)
『どうした、逃げ回ってばかりじゃ勝てんぞ?』
「本気で当てに来てないだけだろ」
ソーマの言葉にゴルムは縮地を用いてボディーブローを見舞う。
それをソーマはバックラーで受けた後、光闇結界を使って自身の姿を消した。
直後焼け爛れたゴルムの背中をマキナの灼熱覇王砲が襲う。
青結晶を用い、軍神の応援歌で威力を底上げされたそれを直撃したゴルムだったが、表情一つ変えずに振り返るとマキナへと標的を変えた。
ゴルムの連撃をギリギリのところでマキナは躱し、その間にもソーマが斬撃波でゴルムに応戦する。
『ちまちまと小賢しい!』
ちょこまかと動き回るソーマ達に焦れたのか、ゴルムは大範囲への黒炎嵐を放った。
マキナは縮地でフィオナの結界へと潜り込んでやり過ごす。
ゴルムはすぐにマキナとフィオナの元へ向かって襲い掛かった。
フィオナは先の腕がはじけ飛んだ件もあって、受けないように躱しながらも当たりそうなものは極力力を逃がすようにいなし、その間にマキナは距離を取っていく。
すぐにソーマが間に入るとフィオナと代わり、特大のタングステン球をぶち当てて距離を取りなおした。
『なんだくだらん、守る隙があるなら攻撃すればよいものを』
「俺の攻撃がどれほど通るかも疑わしいし、仲間が減ったら元も子もないからな。マキナ、フィオナ、無理するなよ。相手が速すぎると思ったらサポートで良い」
ソーマの言葉に二人はジリジリとソーマの後ろに回る。
その様子を見て、ゴルムは下卑た笑いを浮かべた。
『ふん、二人の女を守る騎士気取りか。女が神なら目の前で犯してやるのも面白いかもしれんが、生憎下位存在と交わる趣味は無くてな』
「その下位存在とやらに八つ当たりするためだけにわざわざ命を賭けて降りてきたとはね、まるで人の子供みたいな精神性だ」
ゴルムはソーマの安い挑発に腹を立てたのか、その場から黒炎竜王砲を三人に向けて放った。
それをソーマは光闇結界にて回避、直後ソーマとフィオナが全力でゴルムのボディに蹴りとシールドバッシュを叩き込み、さらには三人と丸眼鏡の局所突風で弾き飛ばした。
エーヴィリーゼが軍神の応援歌を抑えていたのは、その効果が絶大だからである。
軍神の応援歌とはフィオナのバフの中でも『ステータス上昇率を上げる(効果大)』という、他のバフありきの魔法だが、今やソーマ達が持つステータス上昇系スキルは多義に渡る。
身体強化系Sランクスキルの軍神の覇闘気、挑戦系スキルの神に挑みし者、大天使、英雄神、剣豪闘気など、それら全ての上昇倍率を上げる軍神の応援歌は、現在フィオナが持つバフの中でも群を抜いて強化出来るバフだ。
だからこそ序盤は苦戦を強いられていたと言えるが、その序盤のイメージを植え付けて油断させたのには理由があった。
吹っ飛ぶゴルムの下に突如穴が開く。
円柱状のそれの底には超電磁球電、さらにその奥にはマキナのダークマター。そして前衛三人と丸眼鏡、エーヴィリーゼの局所突風が落下速度を加速させる。
三重の吸引力によってゴルムは即座に穴へと吸い寄せられ、翼で出ようと試みるところに再度リュージが現れた。
『二発目、ってぇえええ!!』
「うぉおおおお!!!!」
紫のマグマライト結晶がはめ込まれた武御雷槌から放たれたのは神殺しのスキルによって威力が増加された神滅竜砲である。
当然穴の周囲は超硬度オリハルコンによって固められているので、神滅竜砲のエネルギーを余すことなくゴルムへと直撃させることが可能。
超高エネルギーは超電磁球電やダークマターをも飲み込み消滅させながら遥か地中深くまで貫き、地響きと共に穴の周囲は隆起陥没していった。
ソーマと丸眼鏡は結界と障壁を張りつつ、フィオナはリュージをマスターヒールの重ね掛けで回復。
二発目を撃ち終えたと同時に、再び丸眼鏡とリュージ、エーヴィリーゼは姿を消した。
「……とんでもねぇな、こんなの何発も食らって生きてんのか」
「生きてるっぽいよ、何か反応があるし」
「そう……ですね。MPの回復とバフ、済ませます」
三人は再度MP回復とバフを済ませると、次の作戦へと臨む。
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