第321話 シリウスの矢作戦
『どう? だいぶイメージは出来てきた?』
エーヴィリーゼの問い掛けに女子三人は暗い表情を浮かべた。
ソーマもこのままでは打開が難しいと踏み、アドバイスを求める。
「正直かなり厳しい戦いになりそうだね。俺のグングニルなりリュージの神滅竜砲なり、何か突破口がないと厳しい。普通に闘うだけだと今のところ勝機が見えないかな」
『うんうん、そこまで分かれば上出来! じゃあ作戦会議を始めよー!』
「あんだよ、そういうことなら最初から説明しろよ」
マキナの言葉にはフィオナも同意のようで、隣で小さく頷いている。
『じゃあついでに言い忘れたこと説明するけど、ゴルムはリュージくんみたいに闘気硬化も持ってて、生半可な攻撃は通さないの。つまりソーマくんが言うように、グングニルなり光闇消滅砲なり神滅竜砲なり、切り札クラスの魔法を確実に当てていかなきゃ行けないのね』
エーヴィリーゼの言葉に、その場にいた全員が息を飲む。
ゴルムとエーヴィリーゼが天使だった頃、二人は全く対照的な稀代の天才と称されていたとのことだ。
エーヴィリーゼはステータスこそ低いものの、軍師としての才能と優秀なデバフによってチームを栄光へと導いた。
対してゴルムは天使界最強のアタッカー兼タンクとして、前衛職で名を馳せていた。
遠近自在の抜きん出た攻撃力に加え、豊富な自衛手段と強靭な防御力。
前衛として必要なものを全て兼ね備えているのがゴルムである。
回復や補助こそ無いものの、シンプルゆえに、強い。
生半可な策などゴリ押しで突破してくる圧倒的ポテンシャルには、エーヴィリーゼも手を焼いたと言う。
『オマケにタケルくんみたいな気配察知系の上位スキルも持ってるから、探知は使えなくても死角からの攻撃を避けてくるし、経験による読みも冴えてる。今のまま普通に戦って勝てる相手では無いわね』
「はっ、そこまで聞きゃあたしだって厳しいってのは分かるぜ。審判の門で戦った火の天使もそこまでステータスの高さは感じねえわりに全然攻撃が当たらなかったかんな」
マキナの言うように、経験による読みと気配察知系を併せ持つ相手がどれほど強いかはルツエルで認識済みである。
ステータスも相手に分があるとなれば、さらに厳しくなるのは目に見えていた。
「でも、グングニルならまだしも神滅竜砲や光闇消滅砲をそんな相手に当てるのは厳しいんじゃないですか?」
『そう、だからこその作戦ね! これからどうやって当てるかをみっちり教えるから!』
「はー、にしても女神さんよ、いつも言うのが遅えよな。言うことあんなら全部先に言ってくれよ」
マキナの言葉には皆も同意なようで、いつも振り回されているような感覚に不満を抱いていたようだ。
『あはは、とりあえずここからは隠し事なしだから! 全力でゴルムを倒すわよっ!』
こうしてエーヴィリーゼとソーマ達の、綿密な作戦会議が始まった。
「はーなるほどな、こう動けばいいってことか」
「地形を使うんですね」
「うむ、たしかにこれじゃと行ける気がするのじゃ」
ムフフの本を用いたエーヴィリーゼの解説に女子三人は食い入るように眺めていた。
何度かパーティを離れていたエーヴィリーゼは地形を下調べし、時に加工しながら罠を多数用意したとのことだ。
ソーマはそれらを見ながら、眉をしかめる。
(本当にこれで倒せるのか? これすらも策で、むしろ俺たちをエーヴィリーゼだけが知る策に組み込んでいるような感じがするな)
黙ってムフフの本を眺めるソーマに対し、すぐさまエーヴィリーゼが声を掛けた。
『ソーマくんに関してはあとで個別に教えることがあるから、そのつもりでいてね』
(まだ隠してることがあるのね。まあマキナ辺りは演技も苦手だろうし、知らない方がやりやすいってことはあるだろうけど)
意図を察したソーマは余計なことは言うまいと、そのまま作戦会議に参加した。
自らの役割と動きを再確認した五人は動きの確認を済ませた。
ここまでかなり無理をしてレベル上げもしてきたため、明日の決戦に万全の態勢での臨む意味も含めて早めの就寝となる。
エーヴィリーゼは最後にソーマを呼び出し、光魔結界まで用いて二人きりになると、地属性魔法で椅子とテーブルを作り向かい合った。
「で、なんの話?」
『んー、本当の作戦について、かな』
やはりそうかと得心したソーマは、特に動じずに話を促す。
『はは、やっぱり見抜いてたのね。本当は私一人でと思ってたんだけど、やっぱりちょっと厳しいのよ。これから伝えることは皆にも秘密だから、約束守れるかしら?』
「ああ、全員無事で勝てると保証してくれるなら、約束する。仲間を犠牲にするような作戦なら乗らない」
そうキッパリと言うソーマに、エーヴィリーゼも『アデン様の使徒が確約してる5人を殺すわけにはいかないから』とある意味自己都合による理由で応え、ソーマも下手に取り繕われるよりは信用出来ると笑みをこぼした。
『ありがとう。それで、結論から言うけどリュージくんの神滅竜砲でも、ソーマくんのグングニルでも、ゴルムは倒せない。ゴルムを倒すにはこの前の夜に手伝ってもらった、空の魔法陣を使う必要があるの』
「ああ、祖竜を倒して光闇両儀の器を手に入れた日の夜に作ってたやつだね。あれでどう倒せるわけ?」
エーヴィリーゼの話では、空の魔法陣は少しずつ世界の魔力を集めているとのことだ。
決戦当日の作戦の一つに、地中に潜ったリュージが上空を通過するゴルムに神滅竜砲を撃つというものがあり、その神滅竜砲が向かう先に魔法陣があるという。
徐々に集めた世界の魔力と、大気圏に向かう神滅竜砲、それらを吸収し、集約させた特大の魔力エネルギーを地上へと撃ち返す。
それで決めきるとのことだ。
「まあ一見筋は通ってるけど、これだけなら皆に伝えても良かったんじゃない?」
『いや、無理よ。魔法陣から放つ巨大なエネルギーは位置の指定が出来ない。つまり、放たれる瞬間にゴルムをその場に陽動しなきゃいけないの。ソーマくんならまだしも、あの女子三人がゴルムに勘付かれないように陽動出来ると思う?』
エーヴィリーゼの言葉に、ソーマはたしかにと頷く。
『だからソーマくんにはゴルムを上手く誘導して、上空からの魔力エネルギーが降り注ぐ際には皆を退避させて欲しいの』
「結構難しそうだね。座標とタイミングは?」
二人は地図を広げながら、再度入念な確認をする。
リュージが上空のゴルムと見せかけてその先の魔法陣に放つ神滅竜砲は、サリーナ葉巻と紫結晶を用いたものだ。
祖竜戦ではリュージの姿かたちも消し飛ばしてしまった技だが、今回はフィオナの世界樹の神気で即死を防ぐ。
その超々エネルギーの神滅竜砲を上空の魔法陣は5倍に増幅して撃ち返す為、直撃すればいくらゴルムでも耐えられないという。
ただ、神滅竜砲を吸収して放つまでにおおよそ30秒のラグがあり、その間に所定の地点へゴルムを誘導しなければならない。
ソーマ以外の四人にエーヴィリーゼが伝えた作戦とは、まさにこの上空からの超々エネルギーをゴルムに当てるための布石と言える。
『名付けてシリウスの矢作戦! これが当たらないと、世界は終わりよ?』
「エーヴィリーゼが言うならそうなんだろうね。サリーナ葉巻と紫結晶の神滅竜砲の五倍か……そりゃあ俺たちじゃどうにもならないわけだ。必ず当てよう、そのシリウスの矢を」
『ええ。あと、特別にエーヴィで良いわよ。神の世界じゃみんなそう呼んでるから』
「分かった、エーヴィ。それじゃあもう少し確認させて欲しい」
その後ソーマは再度細かな点を確認し、万全の状態で臨むために床へと就いたのだった。
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確定申告やら新しい仕事やらでてんやわんやの1,2月です。
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