第32話 マキナへの連絡と失礼な魔術師
ブライアンとの勝負を終えたソーマは、機嫌よく魔術師用の訓練所で日課のトレーニングをした後、ソーマ担当官吏の一人に頼み込んでダンとエルに手紙を出すことにした。
内容の全てを王都側が確認するであろうことも含め、きちんと読めばマキナに現状を伝えて欲しいということと、マキナに待ってて欲しいということを、ダンとエル以外の人が読んでも絶対にバレない上にごく自然な近況報告に見えるよう書いた。
(マキナ怒ってるだろうからな……それに関しては本当に申し訳ない)
一応脱出の計画の大枠は立ててあるが、魔法の制御が難しいのとかなり危険が伴うので実行にはそれなりの時間を要する。
その間にソーマは出来るだけ強くなるため、王国を利用しようと考えていた。
賢者としての実務をこなしながら、ソーマはさらに頼み込んで魔法とスキルに関する勉強の時間を取らせてもらった。
魔法やスキルの研究は国の軍事力に直結するため、王国でも昔から力を入れ続けており、膨大な量の資料が存在する。
ソーマはそこから魔法・スキルの概念から学び直し、己の糧へと変えていった。
ある日の早朝、ソーマはいつものように剣の自主トレーニングを終え、魔術師用の稽古場で魔法のコントロールのトレーニングを行っていた。
魔術稽古場は屋内になっており、広さ高さは十分取られている。
壁と天井は魔法の暴発等から守るために独自の魔法結界を織り込んだ素材で出来ていた。
ソーマはその稽古場の隅で、火・水・土の塊を目の前に出し、球体や正方形など形を変えながら風でくるくると地面と水平に回していた。
その後、同じものをもう1セット作り出し、同じく形を変えながら今度は地面と垂直に、先ほどのセットとぶつからないよう交差させながら回し始める。
魔術師は女性比率の高い職業だが、職業柄なのか性別柄なのかは分からないが早朝トレーニングに顔を出すのは大体2、3人であった。
その中の二人がソーマの巧みで緻密な訓練を見ながらコソコソと黄色い声を上げている。
そのうち、別の一人の魔術師の女がソーマに近寄って声を掛けた。
「ねえ」
ソーマはちらっと視線をやるものの、すぐに訓練に集中する。
「ねえってば!」
その瞬間、ぐるぐると回っていた三種六個の魔法はぶつかり合って消滅した。
もう一度視線をやると、そこには如何にも魔術師らしい黒の三角帽子に黒のマント、なにかの制服のようなものを着て、木の杖を持った灰色の髪の女の子がいた。
気の強さの象徴か肩ほどまでの髪は外にはね散らかっており、キリッとした吊り眉が特徴的だった。
「……なに?」
ソーマはめんどくさそうな顔で返す。
「今のやつ、どうやってやってるの?」
(なんだこいつ……人の訓練中に断りもなくずけずけと……)
「ねえ聞いてる?」
「……おまえ誰?」
「ユーリ! で、さっきのどうやってるの? なんか意味あるの?」
ソーマが深いため息を吐くと同時に、隅にいた二人の魔術師が一目散に駆け寄ってきた。
「こらっ! ユーリちゃん、賢者様の訓練を邪魔しちゃダメでしょ!」
「賢者様すみません、この子来年卒業の学園の子で! すみません!」
二人の魔術師は血相を変えてユーリを制し、ソーマに頭を下げている。
「なにが賢者よ! 私より年下のくせに偉そうに! 賢者だったら失礼な態度取って良いわけ?!」
「ぎゃあああ!! ちょっとユーリちゃん!!」
「賢者様ソーマ様! すみません! すみません!!」
二人の魔術師はユーリの啖呵に阿鼻叫喚、平身低頭ソーマに謝罪する。
ソーマは二人の魔術師のあまりにも大きいリアクションに、内心少し笑ってしまった。
「いえ、別に良いですよ。それよりおまえ、俺のこと偉そうって言うが人の訓練中に断りもなく声を掛けてきて、名乗りもせず、自分の聞きたいことばっかり話した挙句に年下だ失礼だって、どっちが偉そうで失礼なんだ?」
「べ、べつに良いでしょ減るもんじゃないし!」
「俺の訓練の時間が減るだろ。それに減らなかったとしたら断りもなく人の訓練の邪魔をして良いのか?」
ユーリは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。
ぐうの音も出ないユーリに、ソーマはやれやれと首を傾げ、訓練を中断して稽古場を後にした。
(俺だって好きで賢者呼ばわりされてるわけじゃないんだけどな、ああいうこじらせた輩に絡まれるのは勘弁して欲しい)
その後ソーマはシャワーと朝食を済ませた後、王国魔術研究所の研究資料室に出向いた。
実務はおおよそ朝10時から午後3時までなので、自分の時間にはかなり余裕がある。
研究資料室では魔術に関する書物が自由に読めた。極秘資料に関しては別室保管なので、王宮勤務の者であれば基本的には誰でも自由に利用出来、ここ最近ソーマはずっと空いてる時間には入り浸っていた。
ソーマが魔術の概念に関する書物を読んでいると、誰かが声を掛けてきた。
「これはこれは賢者様、毎日精が出ますな。今朝方は孫娘のユーリがご迷惑をお掛けしたみたいで、大変申し訳ありませんでした」
ソーマが顔を上げるといくつもの文様が刻まれた深い緑のローブに身を包む、長い髭を蓄えた壮年の魔術研究所所長が立っていた。
「え、ザイオンさんの孫だったんですか……全然似てないですね」
「ほっほっほ……あれは私の息子の奥さんに似たの、息子も尻に敷かれておる!」
ザイオンは長い髭を撫でながら屈託のない笑顔で語っている。
「あれだと騎士団に入ったら大変ですよ……来年卒業とか言ってましたし……」
「そんなに御迷惑をお掛けしましたか! うーむ、では私で良ければ勤務時間まで、聞きたいことがあれば伺いますぞ」
ザイオンはそういうとソーマの書物を見て目配せした。
(おおっ! 僥倖だ! この際気になってたこと全部聞いちゃおう!)
ソーマは目を輝かせ、ザイオンに隣の席に座るよう促した。
いつもお読み頂きありがとうございます!
もう少し、一日三話更新続きます!




