第319話 大天使
第10層へと転移したソーマ達。
ステージは荒廃した闘技場といったところだ。
『フィオナちゃんはバフと世界樹の神気! リュージくん神滅竜砲用意!』
敵が現れる前からエーヴィリーゼの指示が飛び、二人が準備を始めた時、ソーマ達の目の前に赤黒い光が渦巻く。
光の中からはくぐもった悍ましい叫びと共に、身体が爛れた赤紫の飛竜が現れた。
エーヴィリーゼはすぐさま6層の魔法陣を相手にぶつけ、弱体化させる。
「マキナ! ホーリーブレイド多様するぞ!」
「りょーかい! 任せろ!」
中距離からホーリーブレイド付与の斬撃波を放つソーマを、マキナとバフを掛け終えたフィオナが追い抜いて行く。
エーヴィリーゼの指示通り、フィオナが頭を狙いに行くのでマキナは縮地を用いて背後に回り、ソーマは二人の中間に位置するよう側面から斬撃波を放ち始めた。
『大きなブレスは即死判定があるから当たらないように! ソーマくんもう少しMP節約! 丸眼鏡ちゃん早く拘束するー!』
「ううむ……マキナ殿! 少し離れて攻撃してくれると拘束しやすいのじゃ!」
「わりぃ! りょーかいだ!」
エーヴィリーゼのテキパキとした指示に皆が即座に対応し、声を掛け合う。
マキナがすぐに距離を取り直し斬撃波の連撃に切り替えると、丸眼鏡は敵の手足をリキッドメタルで絡め取り、地に固定した。
オリハルコンの枷にて拘束された飛竜に対し、三人はここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。
だが、オリハルコンの枷は赤黒い煙を上げると、徐々に融解を始めた。
『丸眼鏡ちゃん、拘束し続けて!』
「うむ、幸い溶かす速度はそこまで早くないようじゃの」
丸眼鏡は即座にリキッドメタルで枷を再構築し、先程より強固なものへと変える。
飛竜は力一杯枷の破壊を試みるも、丸眼鏡は上手く枷の形態を変化させながら力を逃し、さらに形を変えながら力が掛からないよう飛竜の姿勢を変えていった。
そこからは一方的な展開である。
リュージの神滅竜砲が溜まるまでにマキナとフィオナが攻撃し続け、ソーマもMPに余力を残しながら斬撃波でダメージを重ねた。
ブレスも首まで固定されてしまった状態では、当たる余地もない。
「待たせたな、いつでも撃てるぜ!」
『全員撤退ー! 神滅竜砲準備……てぇええ!!』
直後、天使化したリュージから放たれた神滅竜砲が拘束された飛竜を飲み込む。
神殺しスキルの恩恵か、サリーナ葉巻やマグマライト結晶を使っていないというのに威力はいつものそれを凌ぐものになっていた。
オリハルコンが水のように一瞬にして気化し、敵の防御力など無視するかの如く飛竜の身体を消しとばしていく。
後に残ったのは、赤黒く蠢く小さなエネルギーの塊のようなもののみであった。
ソーマは即座にグングニルを発動。
直後、エネルギーの塊は砕け散ると、青い光となって霧散した。
『うんっ! 良い感じねっ!』
「あ、私大天使スキル取得したみたいです!」
「あ?! マジかよ! なんでフィオナが取れるんだ?!」
皆がフィオナに駆け寄りステータスプレートを覗く。
もちろんフィオナしか見えないのだが、丸眼鏡が全知の神眼を揺らめかせながら鑑定し、フィオナも各ステータスを確認している。
――――――――――
名前:フィオナ=グレインローズ
年齢:24
職業:世界樹の大天使
レベル:158
ランク:S
HP 2275
MP 2844
ちから 2302
すばやさ 2246
ぼうぎょ 2154
ちりょく 2857
こううん 1902
こうげきりょく 4002
ぼうぎょりょく 4664
――――――――――
『今のレベルアップで平均ステータスが2000を越えたのね! 順調順調っ!』
「へー、大天使化の条件は平均ステータス2000以上か、おめでとう。それにしても強くなったね、大天使スキルでステータスが1.5倍になると平均ステータスが……えーと、3700くらいだから、バフ込みで5000を越えるんじゃない?」
「そんな行くってか!? ってこたぁゴルム戦はあたしとソーマにフィオナも参加すんのか?」
ソーマの計算に皆が驚き、エーヴィリーゼの答えを待つ。
『んー、これからのレベル上げ次第かな? 当初の予定よりみんなかなり強くなってるとは言え、ゴルムのステータスはまだ分からないし、何よりフィオナちゃんがやられちゃうと勝率もガクッと落ちちゃうし』
「そうですよね、でも、私も皆さんの役に立てるようギリギリまでレベル上げ頑張りますっ!」
『そうね! とりあえず今日はここを周回しまくるから、頑張ろーっ!』
予想外のフィオナの大天使化により指揮が上がる中、皆を包むように魔法陣が出現する。
ソーマ達が二周目へと気持ちを切り替えていると、近くからうめき声のようなものが聞こえてきた。
「……くれ……たす……れ……」
「あ? なんだぁ? あの気味悪りぃ竜がまだ生きてんのか?」
「……た、たすけてくれ! 回復頼む!」
声の方を振り向くと、クレーターのようにえぐれた地面の中でリュージが必死に声を上げていた。
フィオナがすぐにマスターヒールを掛けるとリュージは急いで飛び起き、なんとか魔法陣内に入ったと同時、ソーマ達はダンジョンの外へと転移した。
眩しくも麗らかな太陽の下、ソーマ達は湖の縁に戻ってきたようだ。
「ったく取り残されるとこだっただろ! 頼むゼ!?」
「あはは、ごめんごめん、フィオナが大天使化したって言うからすっかり忘れてたよ」
「すみません、私も舞い上がってしまって……」
『まあまあ、無事一緒に戻ってこれたからいいじゃないっ! ってことで二周目行くゾ☆』
皆の言葉にリュージは再度「頼むゼ」と小さく呟き、皆は丸眼鏡のオリハルコン監獄に入ると再度湖底を目指した。
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