第314話 審判の門の試練へ
しんと静まりかえる砂漠の夜明け。
丸眼鏡は目を覚ますと水球で喉を潤した後に、ムフフの袋から歯ブラシを出して歯を磨き、顔を洗って外に出た。
すでに陽は登っているようだが、砂漠を囲む東の山脈が長い影を作っており、皆が眠るかまくら式住居はその影の中にある。
ステータスプレートで残りMPを確認した丸眼鏡が適度に習熟度を上げていると、上空からエーヴィリーゼとソーマが戻ってきた。
『おっ! 丸眼鏡ちゃん、朝から習熟度上げとは精が出るわねっ!』
「ううむ……わたくしの名前はハワーヌ=ルイなんじゃがのぅ。神にまで名を呼ばれぬのはちと寂しいのじゃ」
「いや、お前の名前ココネだからな? にしても寝不足だと思うけど早起きして大丈夫?」
「うむ、スッキリしたのじゃ。むしろソーマ殿は寝なくて大丈夫かの?」
目の下にクマを作っているソーマを心配する丸眼鏡に対し、ソーマは笑顔で大丈夫だと答える。
『んーと、もう6時半ね。ソーマ君は一時間くらい寝たら? 私もちょっと肉体の方が悲鳴上げてるから、秘密基地借りようかしら』
「じゃあお言葉に甘えて寝ようかな。にしても肉体と精神が離れてるんだね、眠いとか疲れたとかってメンタルにも結構影響あるものだと思ってたけど」
エーヴィリーゼ曰く、人の世界の肉体は神の世界の身体とは根本的に組成が違うらしく、稀にこうして肉体を借りたとしても自身の精神とは感覚的にかなり乖離しているように感じるとのことだ。
ちなみにエーヴィリーゼは肉体の疲労を回復させる際、寝るのではなく瞑想に入るらしい。
寝るのが消極的回復だとするなら、瞑想は積極的回復らしく、習熟すれば圧倒的に短時間で寝るよりも肉体も脳も回復するとのことだ。
ソーマとエーヴィリーゼはそれぞれ休憩に入ったので、丸眼鏡は習熟度上げを手早く終わらせたのち、皆が起きてくるまで一人執筆に勤しむことにしたのであった。
一時間後、ソーマ達は朝食を摂るとそのまま審判の門の前まで向かった。
尚、エーヴィリーゼは試練を一緒に受けることが出来ず、他にやることがあるということで別行動を取っている。
「そういや昨日は女神さんと何やってたんだ?」
ソーマに尋ねるのはマキナだ。
他のメンバーも気になっていたらしく、ソーマに注目する。
「いや、俺もよく分からなかったよ。聞いたけど、俺たちには内緒だって」
「あ? なんだそりゃ。まあ良いけどよ」
「うむ、何かしらの策があるかもしれんのう。さて、海底に着いたようじゃ」
前回と同じ手順で海底の星形転移レリーフに並んだ五人は、両側に大きな滝がある橋の上に転移すると、そのまま審判の門へと向かった。
エーヴィリーゼの情報では、十分に余裕を持って戦える強さを五人は備えているとのことだ。
現在ソーマの平均ステータスは大天使スキル使用時・バフ無しの状態で4000を越え、マキナは同条件で3200を超えた。
バフ込みであればソーマの平均ステータスは優に5000を越え、マキナも届くところまで来ている。
丸眼鏡とリュージは小天使スキル使用時・バフ無しでも平均ステータスは2000弱、フィオナは英雄神スキルを取得しているので2350ほどだ。
天使化条件が平均ステータス1000越えとして、小天使スキル込みで1300程度と考えれば、ソーマとマキナは別格としても他の三人も十分に天使化初期に比べて大幅にステータスを上げていると言えよう。
五人は自信に満ちた表情で、門前の精霊の所へと辿り着く。
精霊はお決まりのセリフを五人に投げかけた。
『ようこそいらっしゃいました、審判の門へ。この先の試練を乗り越えたパーティは永遠の誓いを結び、全員で天昇の門を通る資格が得られます。試練をお受けになりますか?』
「受けます。宜しくお願いします」
ソーマの言葉に精霊は少し微笑むと『健闘をお祈りします』と告げて光の粒子となって消えた。
この先へ進めということだろう。
「っしゃ、サクッと倒そうぜ」
「マキナさんは大幅に強くなりましたからねー。私はココネさんとリュージさんと頑張りますー」
「おいおい、フィオナちゃんだって俺たちに比べりゃめちゃくちゃ強いだろ。オレぁ神滅竜砲が必要なきゃ出る幕ないんじゃねぇかって心配だぜ」
「まあ勝てばよいからの。油断せず行こうかの」
「そうだね、いつも通りやれば勝てるはずだ。じゃあ、行こうか」
五人は門の先の蜃気楼のような歪へと足を進め、消えた。
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