第312話 再戦
「で、エーヴィリーゼの強みはなんなの?」
近接もステータスもからっきしと言うエーヴィリーゼに対し、ソーマが問いただす。
『私は軍師兼デバッファーってとこね! 稀代の天才軍師と呼ばれた私に掛かれば脳筋バカのゴルムなんてイチコロよっ!』
「なるほどね、ゴルムのステータスが1万平均だとして、5000の俺とマキナでどう戦うのかと思ったけど、デバッファーとなれば納得出来る。いつもは俺が策を練っていたけど、神の策が楽しみだな。でも、となるとやっぱりアミーってダークエルフが厄介だね」
ソーマの言葉にはエーヴィリーゼも同意し頷く。
これまでの動向から察するに、アミーは慎重で狡猾、頭も相当切れる。
ゴルムがアミーの指示に従うとは思えないが、姿を潜めた光魔結界から六属性を使った補助が出来るとなると、やりにくいことこの上ない。
『まっ、その辺もきちんと考えてるから大丈夫っ! ソーマくん達はひとまず強くなることを最優先することっ!』
「へっ、女神さんが急ぐ理由も分かったぜ。もーちょい休憩は欲しいが悠長にやってる暇はねぇ、ガンガンダンジョン周回するぜ!」
「そうですね、世界が掛かってますから、頑張りましょう!」
マキナとフィオナは目標が明確になったことでモチベーションが上がったようだ。
五人は移動しながら軽食を済ませると、38層から魔物の掃討を始めた。
それから49層までは特に躓くことなく順調に階層を進めた。
前回に比べてマキナとフィオナが英雄神のスキルを取得し、ステータスを大幅に上げているのが功を奏したようだ。
45層からの飛竜系ボスからは再度二属性の大精霊の宝玉も出ており、各自魔法を強化している。
『よーうし! 次はルーツ・ドラゴンね。あ、ここでは祖竜って名前か!』
「そっちではそう言う呼び名なんだね。まあ良いや、前回はリュージの神滅竜砲でオーバーキルだったから、今回はサリーナ葉巻は使わず紫結晶だけ、もしくは紫結晶無しでサリーナ葉巻か――」
『ノンノン、結晶も葉巻も使わなくて良いわよん。リュージ君は前回と違って天使化も出来るし、私がデバフしてあげるから、だいじょーぶ!』
エーヴィリーゼは腰に手を当て、任せろとばかりに胸を張った。
「なるほどね、あの祖竜を結晶無しの神滅竜砲で倒せるのか」
「まああたしらは前回と同じで10万まで体力削りゃいいんだろ」
「マキナさんと私も英雄神を取りましたし、今回は楽出来そうですね!」
ソーマ達のパーティにはデバッファーがいなかったが、前回と比べて祖竜が弱体化し、ソーマ達は逆に強くなっている。
それでも素の神滅竜砲で倒せるかと言われれば怪しいところだが、ソーマはエーヴィリーゼが言うのだから大丈夫なのだろうと女神のデバフを楽しみに、第50層へと足を進めた。
前回と同様、魔王の間のような場所へと五人は転移する。
上空から白銀と漆黒の光が渦巻くと同時、フィオナが順次バフを紡ぎ、五人は天使化と軍神の覇闘気を纏う。
挑戦スキルが発動すると、エーヴィリーゼが祖竜の前に躍り出た。
『ふっふーん、ルーツ・ドラゴンとこんなところで相まみえるとはねん。まあ、大人しく負けてちょーだいっ!』
手をかざしたエーヴィリーゼの前に6層からなる特大の魔法陣が現れ、それらが祖竜へと向かい包んだ。
祖竜は何か言いたげな表情をこちらに向けるも、直後大きないななきのような咆哮を上げて白黒のブレスを放つ。
五人は上空に散開、ソーマ、マキナ、フィオナが真っ先に前線へと上がり、丸眼鏡とリュージは少し離れた所で機会を伺った。
「あ? スゲー攻撃通るぜ! 前回は手応えなかったのによ!」
「ホントですね! 打撃音が全然違います!」
「二人が強くなったのもあるけどデバフの効果が大きいね。属性攻撃もある程度ダメージが入るようになったみたいだから、マキナは魔法攻撃も使ってよさそうだよ!」
面白そうに攻撃を繰り返すエルフ姉妹を横目に、ソーマは様々な属性付与の斬撃を試しながら感触を確かめ、マキナにそう告げる。
前回は魔法が当たった途端に妙な光り方をして相殺されていたように見えたが、今回はそのままダメージになっているようだ。
「へっ、そう言うことなら遠慮なく打たせてもらうぜ! くらえ、灼熱覇王砲っ!!」
マキナはフィオナとソーマに射線が被らないよう、全力の灼熱覇王砲を祖竜に放った。
神滅竜砲を除けばパーティ最大火力を誇るマキナのそれは、周囲の酸素を一気に焼き尽くすかの如き超高温の光のエネルギー波である。
空間の温度を一気に上昇させるほどの熱量を持つ光線は祖竜を飲み込み、直後祖竜は丸焦げの姿で現れる。
『ほらリュージ君、ボサッとしてないで神滅竜砲溜めるっ!』
「お? もう溜めて良いのかよ」
「うむ、HPの減り方が前回と段違いじゃ、すでに5万を削っておる」
全知の神眼を揺らめかせる丸眼鏡の言葉にリュージは驚きながらも、地へと降りて神滅竜砲を溜め始めた。
天使化しているのでいつもよりそのオーラは大きいが、それでもやはり前回のサリーナ葉巻を用いた時に比べれば可愛いものだ。
「して、リュージ殿の護衛は……」
『私と丸眼鏡ちゃんでだいじょーぶ! あっちのブレスは私が弱体化させるから、丸眼鏡ちゃんはありったけの障壁張ってちょうだい!』
リュージの元に戻り掛けたソーマはエーヴィリーゼの言葉を聞き、祖竜の元へと戻る。
丸眼鏡はリュージの前に立つと、障壁を100層まで展開していった。
案の定何度かブレスは飛んできたものの、障壁に当たる前にエーヴィリーゼが白銀と漆黒の魔法陣をブレスに当てると、丸眼鏡の障壁でも20層ほど破壊されはするものの守り切ることが出来た。
おおよそ5分ほどで20万のHPを削り切ったソーマ達は、丸眼鏡とエーヴィリーゼの指示でHPを10万と1000ほど残し、上空で逃げ回っていた。
『ったく、ソレはもう少し早く溜まらないわけ?』
エーヴィリーゼは後ろでエネルギーを溜めているリュージに向かって溜め息を吐きながらそう告げる。
まさかここまで早く20万のHPを削れると思ってなかったソーマ達は、改めてエーヴィリーゼのデバフの強さを実感したのであった。
「こりゃあ審判の門も楽勝だな!」
「どうかな、あっちにもエーヴィリーゼが入れるならそうかもしれないけど」
「たしかに、永遠の誓いというくらいですから入れないかもしれませんね」
前衛三人はすでに軍神の覇闘気も解いて上空で祖竜を牽制している。
デバフが効いているのか動きも遅く、キレがない。
そうこうしているうちにリュージの神滅竜砲が溜まったので、マキナが最後の灼熱覇王砲を撃ち込むと、祖竜は両翼を広げて上空へと上がり、回復フェーズに移行した。
『よーし、目標祖竜! 放てーっ!』
「――ぅらぁぁあああああ!!!!」
掲げた武御雷槌からは特大の超エネルギーの塊が祖竜に向かって飛んでいく。
今回のはあくまで砲の体を保ったそれであったが、それでも天井を吹き飛ばしながら祖竜を消し炭にしていった。
ソーマ達はその様子を、リュージの背後で結界と障壁を張りながら眺めていた。
前回は砲と言うより大爆発に近かったが、今回はかなり眩しいのを加味しても目視出来ており、リュージの姿も消えることはなかったので、安心して見ていられたようだ。
ほんの数秒に及ぶエネルギーの波動が止むと、天井の半分が消し飛び、そこから宇宙空間のようなものが見えた。
祖竜の姿は跡形もなく消えており、無事討伐完了のようである。
「はー、やっぱこの技はヤベーわ。リュージにゃこれしかねぇかもしんねぇけど、これには誰も敵わねぇわな」
「マキナがリュージを褒めるのは珍しいね。リュージ聞こえてる?」
神滅竜砲の反動で小さなクレーターのようなものを作ったリュージは、その中心で仰向けに倒れていた。
「おう……そんなことより回復してくれねぇか……ってぇ! オイやめろや!」
満身創痍といった状態のリュージの隣にマキナが屈み、紅竜刀の柄で突く。
どうやらほんの少し触られるだけでも激痛が走るらしい。
フィオナがマスターヒールを掛けてやると、リュージは即座に起き上がりマキナに凄んでいた。
「にしてもデバフの力は凄いな。こんなに祖竜を楽に倒せるとは思わなかったよ」
『ふふ、そりゃそうでしょ、私はこれで神に昇格したんだもの!』
再度自慢げに胸を張るエーヴィリーゼ。
そこに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『ふう……元天使のおてんば女神が相手とはな。負けると分かってる戦でシステムのプログラム通りに戦わねばならんこっちの身にもなって欲しいものだ』
白銀と漆黒の光の渦から現れた祖竜はやれやれと言った具合に、ソーマたちの前に姿を現した。
いつもお読みいただきありがとうございます。
大変申し訳ありませんが仕事が多忙で書けない日が出てきてしまいました。
完結が近づいておりますが、更新頻度を落として週に3回ほどを目標に更新して参ります。
何卒ご理解下さいませ。
今後とも宜しくお願い致します。