第291話 中ボスとアイテム
第46層はまるでロールプレイングゲームの魔王城のようなエリアだった。
曇天の下に佇む西洋の城の周りには枯れ果てた木々が所々に生えており、コウモリやカラスが止まっていた。
(うわぁ……まさしく魔王城って感じだな。逆にテンション上がるぞこれ)
ソーマは王道テンプレ魔王城の見た目に内心うきうきしつつ、仲間と共に城へと進んでいった。
尚、こういったものを見たことが無い四人は薄気味悪いなどと漏らしており、初見ではやはりこういう感想になるのかとソーマは興味深そうに眺めていた。
かなり大きな城のようで、背丈の数倍はあろう木製の重厚な扉をソーマとリュージで開けると、眼前には無数の魔物の群れが現れた。
どうやら第46層は、この城の大広間の敵と戦うことになるらしい。
即座にソーマと丸眼鏡は結界と障壁を展開。
無数に飛んでくる魔法から身を守りながら、フィオナのバフを待った。
「とりあえずどでかいの一発、派手にぶちかましてやるぜ!」
天使化したマキナは結界の外に特大の炎獄嵐を放とうとする。
その瞬間、不思議な光の魔法が結界と障壁を貫通して前衛のマキナとリュージに当たって消えた。
直後、マキナの魔法は不発に終わる。
「あんだぁ!? 魔法が出ねぇぞ?!」
「丸眼鏡、状態異常か?!」
「うむ、魔術封じ系の魔法かの。結界と障壁を貫通させるスキルか魔法を持っておるのかもしれぬ」
ソーマはすぐに光魔結界を展開。
フィオナに前衛二人の状態異常を回復させる。
「厄介な敵がいるな。フィオナは魔術封じ系に絶対にやられないように。結界解いたら、まず俺とマキナで広範囲の魔法放つ。それでかなりの頭数を減らせるだろうから、残った魔物のタイプを見て適宜分担しよう」
四人もその作戦に了承し、ソーマが結界を解いた瞬間に炎獄嵐と黒炎嵐が大広間に広がった。
賢王と天使化を取得した二人の炎の嵐はあらゆるものを瞬時に蒸発させてしまうほどの灼熱の炎渦である。
魔物たちの阿鼻叫喚も一瞬、炎が止むと、ゴーレム系やガーゴイル系などの魔法が効きにくい魔物のみが残っていた。
その様子を見たリュージとフィオナは即座に飛び出す。
すばやさが低いゴーレム系をリュージが、翼と石化攻撃を持つガーゴイルをフィオナが担当し、大広間の中を縦横無尽に暴れまわった。
「あの手の敵は刃こぼれがおっかねぇよな。丸眼鏡ッち、リュージの持ってたアダマンタイトの槍貸してくれよ」
「うむ、無理はなさらぬよう」
マキナは槍を受け取ると、すぐに飛んでフィオナと共に上空のガーゴイルの相手をしにいった。
どうやら飛んで戦えるのが楽しいらしい。
槍の扱いこそ不慣れで、槍術というよりは鈍器として扱っているように見えなくもないが、ステータスだけは申し分ないのでそこそこ戦えているように見える。
「結構敵の耐久力も高そうだし、丸眼鏡も杖で戦ってきたら?」
「わたくしの杖はこうげきりょくが低いからのう。というか、地属性魔法で戦えば良いのかの」
ソーマはなるほどと頷き、二人は上空のガーゴイルに超重量級のタングステンの球をぶち当て、ゴーレムの上からはタングステンの立方体を落として潰したりしながら三人のサポートをしていった。
耐久力重視の敵だけあって時間は掛かったが、それでも40分ほどで全ての敵を倒し終えた五人は一度大広間の中央に集まる。
前衛三人は汗を額に浮かべ、息を整えていた。
「さすがに経験値が豊富だね。さっきの層でレベル上がったけど、また上がったよ」
「あたしも上がったぜ。ちなみに槍術スキルも上がったぜ。こりゃおもしれえな」
マキナは楽しそうにぶんぶんと槍を振り回しながら笑顔でそう語る。
ちなみにリュージもレベルが上がったようで、着々と天使化に向かっているようだ。
「この階層はこれで終わりかの。転移レリーフが見当たらんのじゃが……」
「結構背の高いお城でしたから、階段とかあるん――皆さん、上です!!」
階段を探して上を見上げたフィオナが見たのは、上空で渦巻く深紅の光の粒子であった。
フィオナがすぐに英雄神の歌を掛けなおした直後、光の渦からは赤黒い大きな飛竜が現れた。
飛竜は口に炎を溜めると、特大の火球をソーマ達に向けて放つ。
再度天使化したソーマ達は各自上空に散開。
ソーマは氷結剣を付与した斬撃波を、マキナはすぐに大精霊の宝玉を麻痺と毒に付け替えて斬撃波をそれぞれ連撃で放った。
「丸眼鏡、鑑定はどうだ!」
「ステータスがおおよそ平均1200でHPが15万じゃ!」
「りょーかい! 火山ダンジョンのボスの要領でやればすぐ倒せるね! 丸眼鏡、永久凍土で捕捉してくれ!」
ソーマの策に丸眼鏡はすぐに特大水球を作り出し、敵を飲み込むと凍り付かせる。
飛んでいた火竜はそのまま落下し地面に激突。
直後にソーマが氷結剣の斬撃波を連撃で叩き込む。
悲鳴のような咆哮を上げる火竜に対し、上空から急降下してきたリュージは武御雷槌で渾身の一撃を脳天に叩きつけて離脱。
フィオナは水属性を付与した破砕の拳を両手に組むと、リュージが攻撃した箇所と寸分たがわぬ場所にガントレットを叩きつけた。
ソーマはその間にフィオナと剣線が被らぬよう相手の背に回り、連撃を叩き込み続ける。
こうしてあっという間に火竜は青い粒子と化して消えた。
「あら、私もレベルが上がりました」
「うむ、わたくしもじゃ。このエリアで全員がレベルを上げたことになるのう」
「経験値が旨いね。ここから毎層ごとにこういう中ボス出るなら、50層で終わりかな?」
「かもしんねぇな。楽しみだぜ」
「次の層はあの魔法陣か? 中ボスを倒すと現れるっぽいな」
リュージは広間の中央に現れた魔法陣を指差してそう言う。
宝箱も出ており、ソーマがそれを開けると中からは珍しい色の大精霊の宝玉が出てきた。
色は赤黒く、アメリカンチェリーのようにムラがある。
ソーマはすぐに丸眼鏡に手渡し、鑑定をしてもらった。
「おお、これは素晴らしいのう。大精霊の宝玉には間違いないのじゃが、付与属性が火と闇の二属性じゃ。今までマキナ殿の紅竜刀は二つしかセット出来なかったゆえ、これと風属性の宝玉を付ければ全属性強化が可能じゃの」
「それは凄いね。じゃあこれはマキナ用かな」
「ありがてえ、やっぱ風属性付けてっと疾風と局所突風の効果が上がって速く動けるけどよ、火力出してえなら火と闇だかんな。ありがたく貰っとくぜ」
マキナは嬉しそうに紅竜刀に大精霊の宝玉をセットした。
その後五人はMP回復の為に小休憩を挟んだ後、魔法陣に入って次の層へと転移する。
第47層は同じような大広間で、海龍神ダンジョンの時のように全面が氷で覆われていた。
転移直後が大広間の中央だったので、いきなり大量の魔物に囲まれたことになる。
ソーマとマキナは即座に炎獄嵐を放射状に展開。
フィオナはすぐにバフを紡ぎ、丸眼鏡は障壁を多重展開した。
「いきなりでちょっとビビっちまったぜ」
「とりあえずさっきと同じ感じで! 結界使ってる魔術師系の敵がいるみたいだから、炎獄嵐止んだら俺がそっちを倒しに行く! 四人は残ったゴーレムとかガーゴイル倒して!」
炎獄嵐が止むとソーマの言う通り、広間には魔術師系統とゴーレム、ガーゴイル系統の魔物が残っていた。
ソーマはすぐに魔術師系の魔物の掃討に走り、四人は先ほどと同様に耐久力の高い魔物を倒す。
おおよそ30分ほどで全ての敵を倒すと、今度は水色の飛竜が現れた。
マキナは即座に黒炎龍王砲をぶちかました後、黒炎剣を付与した双剣で斬撃波を無数に叩き込む。
先ほどの火竜は属性の相性の都合で活躍できなかったため、ここぞとばかりに張り切っているようだ。
あっという間に一人で水竜を倒したマキナは得意げに双剣をクルクルと回し、鍔鳴り音を響かせて納刀する。
「へっ、こんだけ強そうなわりには大したことねぇな」
「楽しそうでなによりだよ。ここの宝箱も水となんかの複合属性を持つ大精霊の宝玉だと良いな」
ソーマの言葉にどれどれとマキナが宝箱を開けると、やはり美しいコバルトグリーンの宝玉が出た。
鑑定結果は水と風の属性を強化する大精霊の宝玉とのことで、ソーマは迷った末に丸眼鏡にそれを渡した。
フィオナも水と風を持っているが、どちらかと言えばフィオナであれば光属性を強化したい。
「丸眼鏡の杖は六つ装着出来るけど、実質七つ装着出来るようになったようなものだね」
「うむ、全ての属性を二つ付けたうえで、戦況に合わせて三属性の中からさらに強化したいものを選べるのは戦略の幅が広がるのう。ありがとなのじゃ」
丸眼鏡は水と風の二つの宝玉を杖から外すと、今出た宝玉に加えて地属性強化の宝玉をはめ込んだ。
リキッドメタルや穿通礫錐、オリハルコンシールドなど、地属性魔法を使う場面もかなり多いというチョイスだろう。
この層でも全員がレベルを1上げたソーマ達は、MP回復のための小休止を取ることにする。
小休止中でもマキナとフィオナは魔法を一切使わずに剣王闘気・拳王闘気の取得に向けて模擬戦を繰り返していた。
英雄神スキルを持つソーマのステータスを見れば、まだまだ自分たちが強くなる余白が残されているのは一目瞭然である。
次は第48層。時刻は午前十時。
ヘルド戦を明日に控え、5人はギリギリまでレベルを上げ続ける。
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