第29話 王都からの呼び出し
翌日、騎士団から呼び出された三人は別々にギルドの応接室に入り、ワイバーン戦の詳細を説明していた。
ソーマもほとんどのことは話したが、相手が白髪の褐色肌という情報は今後マキナの身の振り方に影響が出そうなため、黙っていることにした。
1時間ほどの聴取の後、聴取員からキースと交代して騎士団の勧誘の話となったが、ソーマは頑なに騎士団には入らないという姿勢を貫いた。
そんな折、一人の騎士団員が部屋に入ってくる。
「隊長、王国より例の派遣員が到着致しました」
「そうか! 早かったな! ささ、ソーマ殿、外へ!」
ソーマはうんざりした顔を隠すことなくキースの後へと続く。
外には筋骨隆々の馬の隣に、乗ってきたであろう屈強な騎士、それに青白い顔をした、ソーマと同じくらいの年齢背丈の、眼鏡をかけて白のローブを纏った金髪の男の子がいた。
「御足労、感謝致します!」
キースはその屈強な騎士と男の子に敬礼し出迎える。
男の子は分からないが、騎士はおそらくキースよりもさらに上官なのだろう。
騎士はほんの少し頷き、男の子は馬に慣れていないのか顔色悪いままに息を整えている。
「ソーマ殿、こちらはブライアン騎士団長と……ロン補佐官です」
ソーマはめんどくさそうにどうも、と挨拶するも、二人が握手を求めてきたので適当に応じていた。
ロンは握手の際、じっとソーマの目を見据えて覗き込んでいる。
(なんだ? 変わった眼の色だな……淡く澄んだ水色……アクアマリンみたいだな。それに少し揺れてるのか?)
ロンの不思議な瞳の色に惹かれ、ソーマもまた握手をしながらじっとロンを見つめていた。
「……ソーマ様、大変恐縮ではございますが王命により重要参考人としてお迎えに参りました。つきましては早急に出立の準備をお願い申し上げます」
丁寧な口調でロンがそう言うと、ブライアンとキースは一瞬驚いた後に笑顔を浮かべる。
(……胡散臭いぞ……なぜ俺だけなんだ)
「いえ、俺は王宮には行きません。必要なことは全て騎士団員に話しました」
ソーマは堂々と王命を断るも、ロンは全く引き下がらない。
「ご存じかと思いますが、世界樹の復活は世界に大激震を与える出来事で、エルフはもとよりヒト族、ドワーフの友好条約の悪化の懸念材料になり得、それによる獣人族の牽制、さらには生き残りであるダークエルフの動向、それに乗じた魔族の動き等、今世界は100年ぶりの過渡期を迎えようとしています」
さらにロンは続ける。
「報告に上がったのが事実であれば、既に他種族は動き始めており、世界樹に最も近いこの街への襲撃に及んでいる可能性がございます。この事件は本日未明、連合国間で50年ぶりの危険度Sランクの事件の認定を受けており、連合国民は重要参考人であれば必ず王宮にて取り調べを受ける義務がございます。こと探知において事件の真相に最も明るいと思われるソーマ様には真っ先に聴取を受けて頂き、順次ダンフォード様、エルメア様も受けて頂く次第でございます」
そう言い終えるとロンは屈託のない笑顔を見せた。
(こいつ……どこまで本心か分からないけど、前世でもこういうやりにくいタイプいたな……。にしてもどうするか、困ったな)
「……すみません、一度ダンとエルと相談しても良いです?」
ロンの言うことも筋が通ってる上、事実であれば従わざるを得ないだろう。
それでもソーマは一抹の不安を感じていた。
「ソーマ様、お気持ちは分かりますが事態は急を要しております。ドワーフ、エルフも今回の事件詳細の開示を迫っており、一分一秒を争う事態となっておりますゆえ、どうか早急にご準備を」
ロンがそこまで言い終えると、ブライアンが続けて口を開く。
「何か懸念事項がおありか?」
「……ええ、キースさんが随分しつこく騎士団の加入を進めるので。僕は騎士団に加入する気はないし、王国で働く気も住む気もありません」
「そうか、部下の非礼、申し訳なかった。その件については安心して欲しい、今後一切騎士団へ勧誘することはしないと騎士団長の名に懸けて誓おう」
「……その件については分かりました。それともう一つ、僕としては一刻も早く冒険者としての普通の暮らしに戻りたいので、詳細を話したあとはすぐに解放して下さい」
それについてロンは「約束は出来ませんが努力はする」と言う。
まあ、一補佐官と騎士団長の立場ではソーマの身の振り方を約束できないというのはその通りだろう。
「さあソーマ様、我々としてはこうしている時間も惜しいのです。こちらの馬であれば夕方には王宮に着きますゆえ、早急にお向かい下さい。既に各国の反政府組織が動き始めているとの情報も入っており、事態は一刻を争います。ダンフォード様とエルメア様にはこちらから説明し、順次王宮へ向かって頂きます」
(くっそ……完全に行かなきゃいけない流れだ……)
ソーマはさらに騎士団には入らない。用が済んだらすぐに出ていくことを念押しし、ブライアンと共に馬に乗って街を出た。
馬は一度の休憩もなく王都へとたどり着いた。
馬上ではブライアンが、再度キースの勧誘の件を謝罪し、食事はブライアンの背の鞄から果物やパンなどをもらい馬上で食べた。
馬上から初めて見るリルム近辺以外の景色は非常に雄大で、地平線まで広がる平野や遠くに広がる険しい山脈、平野の中ほどを悠然と流れる大河など、その山紫水明の美しさには心奪われるものがあったが、これから王都で起こることを考えるとソーマは憂鬱で仕方がなかった。
王都の裏から入った馬は狭い道を駆け上がり、王宮の裏門と思われる場所より王宮に入り、すでに到着を待っていた騎士団と官吏と思わしき数名に出迎えられる形となった。
「ブライアン騎士団長、只今戻りました。こちらがソーマ殿だ」
「お待ちしておりました! 早速こちらへ!」
官吏に勧められるまま、護衛付きで王宮内へと足を運ぶ。
豪華絢爛な応接間に通されたソーマは早速王宮官吏に聴取を受け、事件の内容からソーマの出自や経歴、ステータスに関することなど洗いざらい聞かれることとなった。
当然と言えば当然なのだが、出自や経歴に関しては分からないことも多かったので、記憶喪失で倒れたところをダンとエルに助けてもらったことにし、属性に関しては風と水、スキルに関してはSSとS以外に関しては話すことにした。
さらに途中から、ロンと似たような雰囲気を持つ年上らしき女性が挨拶に来て握手を求められ、ソーマがそれに応えるとこれまた美しく揺らめく淡いライムグリーンの瞳に見つめられ、ソーマはこういう雰囲気の人はこういう変わった瞳を持つのかな、と魅了された。
聴取は三時間ほどに及び、大体聞かれたことに答えたソーマはぐったりと応接間のソファーに寄り掛かった。
「ご協力、大変感謝致します。私達はこれより聴取内容の報告を致します。足りない部分があると判断されれば明日またお話を伺うことになりますので、本日は王宮内に御泊まり下さい」
「ええ、それは良いんですが、明日の午後とかには解放されますか?」
ソーマの問いに官吏は「私には分かり兼ねます」と深々と頭を下げ再度礼を言って部屋を出た。
官吏と入れ替わりに20歳ほどの容姿端麗で艶やかな女性二人が現れた。
「本日は大変お疲れ様でした。宿泊用の客室にご案内致します」
二人の宮女はそう言うと、ソーマをこれまた絢爛華麗な宿泊部屋へと案内した。
それからはフルコースのごとき食事が運ばれては宮女が酒を注ぐのを断り、風呂に入ろうとすれば官女が背中を流そうとするのを断り、風呂から出れば着替えさせようとするのを止め、とひと時も休まることなく、寝る際にも官女が「私達がお相手でよろしければ、御用の際はいつでも……うふふ」なんて言うので、心底うんざりしたソーマは一刻も早く、それはもう一刻も早くここから出たいと祈りベッドに横たわった。
(やっぱこういう雰囲気嫌いだなぁ……こっちに来て初めて心底うんざりした気がする。まあでも豪勢なことを除いては思ったより普通だったし、思ったより早く解放されそうか?)
ソーマは、翌日から始まる悪夢のような日々を知る由もなく、泥のように眠ったのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
この後、マキナとの再会までちょっと話があいてヤキモキするかもしれません。
僕も書いててそうだったんですが、話の都合上必要と判断して書きました。
なので、マキナと再会するまでは一日三話更新でお送りしたいと思います!
更新時間は12時、17時、21時を予定しております。
楽しんで頂けたら嬉しいです!




