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運に寵愛された転換転生者【完結済】  作者: 大沢慎
第1章 人間国編
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第28話 奇妙なワイバーン戦


 丘の頂上に陣を構えたソーマ達は、戦闘前の腹ごしらえとしてパンを食べていた。

 兵数は30に満たず、前衛が扇型に散会し、中央の弓士と魔術師を守る形の陣形となっている。

 弓士三人、魔術師はエルを含めた四人、残りの約20名が剣士である。


「随分少ないね」


 ソーマはダンに小声で愚痴る。


「ああ、先発の騎馬隊の探査隊と同時に馬車で隊を差し向け、伝書鳩が来た時点でなるべく多くの騎馬隊を差し向けたらしい。馬車の後発隊が着くにはあと数日かかるだろうな」


 なるほど、とソーマは納得する。


「この中でワイバーンを倒せる剣士ってどれくらいいるの?」

「俺とキースは倒せるだろうが……あとは2,3人で一匹って感じだろうな。殲滅は弓士と魔術師の仕事だな。厳しい戦いになるがエルがなんとかしてくれるだろ」


 そう言いつつもどこか余裕のあるダンを見ていると、不思議と本当にエルがなんとかするんだろうなと思えてしまう。


「そうそう、ワイバーン戦のコツを教えて欲しいな」

「ん? あーそうだな、基本的に前衛のやることは後衛を守ることだ、そう高く飛ばねぇけど口から火球を飛ばして来たり後ろ脚のデカい爪で襲ってくる。火球はシールドバッシュで打ち消して、爪は出来るなら突きで迎撃が基本だな。低空飛行で突進してきた場合は後ろの後衛との距離考えて、あまり距離が無けりゃ近くの兵と組んでシールドバッシュで抑え込む。これが一番危ないな。距離がありゃ避けてカウンター出来るんだが」


 ソーマは数時間前に見たワイバーンを思い出しながら戦闘のイメージを膨らませる。


「分かった、早いとこ数を削らないと厳しそうだ」

「そうだな、まあエルがいるからよ」


 どうやらエルがこの戦いの鍵になるらしいことをソーマは認識し、得も言われぬ不安もまた抱いていた。




 ソーマが街に戻ってからほぼきっかり3時間後、ワイバーンの群れが渓谷の上空に現れた。

 キースの大声の指示により各自装備を確認し陣形を取る。

 ものの十分もすれば接敵という距離、ソーマは自分の風探知の間合いに入ったのを確認すると静かに風を飛ばした。


(力強く羽ばたくせいで風が乱れてかなり探知しにくいな……)


 近付くにつれて風のコントロールもしやすくなるので、焦らずに捕捉し続ける。


(ちょっとずつコツは掴んできたけど……なんだこの違和感……)


「ダン、魔物って隊列組んだりするのか?」

「いや、基本的に魔物には作戦とか統率って概念は無いと思うぞ」


(……たしかにまばらに飛んでるって言えばそうなのかもしれないけど……意味がある気がしてならない)


 その後も真っ直ぐに飛び続けるワイバーンはソーマ達と300メートルというとこで滞空してこちらの様子を(うかが)い始めた。


「チッ、ぎりぎりエルの射程外か……妙なワイバーンだな……」


 ダンの小言の横でソーマはイヤな予感と違和感の正体を必死に探っていた。


(なんなんだ……? ほんの一瞬だけ何かを捕捉するんだけど妙に風が乱されてすぐに消える……あ、風使いか!?)


 ソーマがその可能性に気付き、ずっと敵の周りの風の捕捉に気を取られていたと慌てて自陣の周りの風を探知すると、風が静かに妙な動きをしていることに気付いた。


「ダン! 風探知使いがいるぞ! この距離飛ばしてくるし向こうを探知しようとしても風を乱して探知阻害してくる!」

「なんだって? ワイバーンの他にどっかにいるのか?」

「いや、おそらくどれかのワイバーンに乗ってる! そいつがワイバーンをコントロールしてると思う!」


 ソーマの言葉に周りの兵やキース、ダンも驚きを隠せないようだ。

 次の瞬間、勘付かれたとばかりにワイバーンはこちらに向かって全速力で飛んでくる。


「……おいキース!! スキル発動したか!? 俺より強いやつがいるぞ!!」


 キースも大声で私もです、と答える。

 それを聞いてソーマはほんの少し安堵した。


「ダン! 俺は発動してない、そいつの相手は俺に任せて!」


(よし、逆境が発動しないってことはダン以上俺以下の相手だ、それもおそらく今ので相手は一人だって分かったぞ)


 ソーマが最も心配していたのは、探知出来そうで出来ない相手の他に、もっと巧妙に探知阻害をしている格上相手がいるのではないかということだった。

 当初よりかなり危険であることは間違いないが、それでも勝てない相手ではない。


「分かった、ソーマはそいつを頼む! エル、開幕派手に頼むぜ!」


 緊張感漂う中、接敵まで残り100メートルのところでエルが詠唱を結んだ。


『火の精霊よ 神々よ 大地を穿(うが)つ流星群を顕現(けんげん)させ(たま)え 火流星群(かりゅうせいぐん)!!』


 その瞬間、直径1メートルはあろう炎を(まと)った無数の(れき)弾が上空に現れ、流星のごとくワイバーン目掛けて飛んでいく。

 そのあまりにも広範囲に及ぶ理不尽な魔法は、さながら戦術兵器と言ったところだ。

 エルの魔法を初めてみる兵や術士はその美しい光景に目を奪われていた。


 どんな敵をもほぼ殲滅するであろう、火流星群。

 それはワイバーンの手前10メートルのところで急激に失速し、炎を消してワイバーンの群れの下を通過し落ちた。


「なん……だと……?」


 一気に隊に動揺が走る。

 エルの魔法が不発に終わったということは50匹ほどのワイバーンを全員で相手しなければならないということだ。

 そんな戦慄の中でさらにワイバーンはお返しにと50匹が口元に火を溜め始めた。


「おい……嘘だろ……ワイバーン如きの火球が届くのか……?」


 あまりにも現実離れした悪夢のような状況にダンが驚きの言葉を漏らし、そこにいる全員に絶望感が漂う。

 そんな中、何かが吹っ切れたソーマは一人笑みを浮かべて隊の前に躍り出た。


「エル! あと何発撃てるの?!」


 ソーマの声にハッとしたエルは、あと5回は打てる、と返す。


「了解、合図したら出し惜しみせずバンバン頼む!! おい聞こえてんだろ、コソコソ隠れてないで出て来いよ!!」


 ソーマが大声で挑発した瞬間、ワイバーンたちは一斉に火球を放つ。

 本来のワイバーンの火球を見たことがないソーマは基準こそ分からなかったが、後ろからは悲鳴や怒号が聞こえるあたり、かなり強化されているのだろう。


「へっ、エルの魔法を防いだお返しだっ! 突風!!」


 ソーマの前には猛烈な風が出現し、50の火球をあっという間に飲み込み消滅させる。

 世界樹の加護のスキルを持ったソーマの風属性魔法は効果が飛躍的に上がっていた。

 さらにソーマはその俊足を生かしてそのまま突風を引き連れ、ワイバーンの群れの真下付近まで一気に駆け抜けた。


「引き摺りおろしてやんよぉおお! 突風・乱気流!!」


 普段より繊細かつ緻密な魔法のコントロールを鍛錬しているソーマが、スキルと魔力を用いて空を突風でかき混ぜる。

 ワイバーン達はコントロールを失い、互いにぶつかったり地に落ちたりと隊列が乱れた。


「エル!!」

「任せてー!」


 翻弄されるワイバーンに向けて次々と叩き込まれる火流星群。

 今度はワイバーンとそれに乗る何者かは防ぐこと叶わず、見事に群れを殲滅した。

 ソーマも適宜、エルが打ち漏らしたが墜落しているワイバーンにトドメを刺してゆく。


 そうして生き残った何匹かが遥か上空に舞い上がり撤退していくのを、ソーマは目を細めて眺めていた。


(ようやく最後になって姿が見えたけど…白髪に褐色肌っぽいからやっぱダークエルフか? ずっと姿が見えなかったってことは認識阻害的な特殊な魔法でもあるのかな)



―――――――――――

ティロリロリン♪


ソーマのレベルが37に上がりました。

詳細はステータスプレートをご覧ください。

―――――――――――


 後方で歓声を上げる兵たちを遠目で眺めたソーマは、またやらかしてしまったんじゃないかと一人項垂れていた。




 街に戻ったあとソーマとダン、エルの三人はキースに、一時的に借りたギルドの応接室へ呼び出されていた。

 やはりソーマがいなければかなり絶望的な戦況だったようで、キースは深々と三人に頭を下げて感謝を示していた。


「まあ、俺は何もしてねぇんだけどよ。で、今後はすぐ街の出入りは出来るようになりそうか?」


 ダンが今後の見通しについてキースに問う。

 キース曰く、事が事だけに王国には迅速に報告を行うが、世界樹の復活に加えて何者かが魔物を使役して街を襲ったと仮定すると、今後王国がどう判断するかは分からないとのことだ。


 その後話は(もっぱ)ら二人の騎士団復帰とソーマの勧誘となった。

 ダンとエルはうんざりした様子で、ソーマも苦笑いで話をはぐらかし、小一時間ほどで解放された三人はぐったりした表情で家へと戻った。



 家へ戻るなりダンは「これだから騎士団とは会いたくなかったんだ」と愚痴り椅子にどかりと腰かける。

 エルは三人分のハーブティーを入れて椅子に掛け、ソーマに対して指をクルクルと回すサインを出した。

 ソーマはそれを見て、盗聴防止の風壁(ふうへき)を家の中に張り巡らせる。


「にしても厄介なことになったわね……あの調子だと私たちは良いとしても、ソーマは王宮に連行されかねないかも」


 エルの物騒な言葉にソーマは頭を抱えて項垂れる。


「いや、ありゃしょうがねぇ、実際ソーマがいなけりゃ全滅もあり得たからな。ただ……そうだな、風魔法だけとは言え目立ち過ぎたよなあ……」


 もはや絶望の表情のソーマにダンは「強けりゃどこ行っても目立つのはしゃあねぇよ」とフォローになっていないフォローをする。


「逃がしてやりてぇのは山々だが、このタイミングだと益々問題になる確率が高ぇ。世界樹に関することでお尋ね者になっちまったらエルフやドワーフの国にも行きにくくなるだろうし……騎士団加入は絶対拒絶、極力王宮にも行かねぇって姿勢を貫きつつも情報提供には応ずるのが無難だわな」

「私たちの下にもこれから勧誘が来続けると思うと憂鬱ね」


 街を守った三人はそれぞれの今後について考え、皆一様に憂鬱になっていた。


いつもお読み頂きありがとうございます!

この後、マキナとの再会までちょっと話があいてヤキモキするかもしれません。

僕も書いててそうだったんですが、話の都合上必要と判断して書きました。

なので、マキナと再会するまでは一日三話更新でお送りしたいと思います!

更新時間は12時、17時、21時を予定しております。

楽しんで頂けたら嬉しいです!


※誤字報告ありがとうございます!

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