第259話 丸眼鏡の本気
丸眼鏡がコピーに向けて放った穿通礫錐は半球状に隙間なく展開され、逃げ場を奪う。
それを超速で相手に放つも、コピーは即座に半球状オリハルコンを展開し防御。さらに特大水球で穿通礫錐を飲み込むと永久凍土にてそれらの動きを止めた。
「やば……あの量の穿通礫錐をオリハルコンで作るとか、どうかしてるね」
「でもコピーも防ぎましたね、さすがです」
ソーマ達は丸眼鏡の全力に驚きを隠せなかった。
コピーは半球状オリハルコンを解除すると、その外側の凍った穿通礫錐に向けてオリハルコン穿通礫錐で逃げ道を作ろうとする。
しかし丸眼鏡も当然それは読んでいたので、逃げ道が作られる前に凍った穿通礫錐の中に特大水球を作り出した。
コピーはそれを球状障壁で身を守りながらようやく開けた逃げ道に飛び込む。丸眼鏡は無数の穿通礫錐と特大水球への魔力を切ると、抜け出そうと試みているコピーを再度囲うように円形の穿通礫錐を放った。
コピーは再度球状オリハルコンを作り出し、先ほどと同じように穿たれた穿通礫錐を水球を使って凍らせ、球状オリハルコンを消すと穿通礫錐で逃げ道を作り出し、飛び込んだ。
丸眼鏡はその逃げ道へ今度は超位魔法のサンダーストームを放った。
耳をつんざく大型の雷に、コピーは即座に対魔法障壁を何重にも展開。雷はバリバリと音をたてながら、周囲の氷とオリハルコンの錐を砕いた。
『なるほどのう、最初から全力でというアドバイスをもらったようじゃの』
コピーが額の汗を拭うと同時、今度は直径10cm大のミスリルの玉がコピーを囲うように無数に現れた。丸眼鏡製の礫弾である。
丸眼鏡はそれを全て操りながら、コピーに向けて放った。
『休ませてもらえんようじゃが、防げぬこともなさそうじゃの』
試しに対物理障壁を展開したコピーは、玉が十数回当たって一層が破壊されるのを見切ると、五層まで展開して反撃に出ようとした矢先。
ミスリルの玉は形状を変えてドリル型に変形し、再度障壁を穿った。
貫通力が上げたドリルはあっという間に障壁を貫き破壊してゆく。コピーは今度はミスリルで半球状のシールドを作ったのち、特大水球で周囲のドリルを凍らせた。
それを予測していた丸眼鏡はミスリルドリルへの魔力を切ると、コピーの頭上に特大のオリハルコンドリルを作り出し、それを高速回転させながら落とした。
コピーは即座にミスリルシールドと水球を消すと覇王の豪闘気と疾風を纏い局所突風を用いて逃げるも、丸眼鏡は特大オリハルコンドリルを液状化させてコピーを追い回した。
さすがにコピーの速度に追いつけないと察した丸眼鏡はムフフの袋からMP回復薬を出すとそれを二本飲み干しつつ、液状化したオリハルコンを消した。
「攻めも攻めだが守りも守りだな……ココネちゃんってあんなに強えのか」
「あー、だけどよ、思ったより突破力が無えな」
「私も同感です。物理系の魔法はオリハルコンシールドを突破出来ませんし、魔法攻撃は障壁で守られちゃってますからね」
「おいおい、今は丸眼鏡を応援する時だろ。なんで丸眼鏡攻略法っぽくなってるんだ」
感心するリュージとは裏腹に丸眼鏡同士の戦いを冷静に見ながら分析するマキナとフィオナに、ソーマは突っ込みを入れる。
コピーは攻め続けられると主導権を握られると思ったのか、丸眼鏡と同様にミスリル製ドリルを無数に作り上げて攻めに転じる。
同時に丸眼鏡もオリハルコン製ドリルを無数に展開。互いにドリルに囲まれる形となった。
コピーは三度、半球状オリハルコンシールドを展開しつつ丸眼鏡が作ったオリハルコンドリルに向かって水球を放ち、凍結を試みる。さらに丸眼鏡に向かって無数のミスリルドリルを放つという、とんでもない魔法コントロールをやって見せた。
対して丸眼鏡は覇王の豪闘気と疾風を纏うと、無数のミスリルドリルに向かって突撃しつつ杖で一点突破を試みた。
丸眼鏡は自身の魔法コントロールの限界を知っていた。コピーのように防御と攻撃にあそこまで魔法を使ってしまうと、相手の探知が疎かになってしまうことを。
丸眼鏡は襲い来るミスリルドリルを一点突破すると、凍り漬けにされたオリハルコンドリルを消し、相手のオリハルコンシールドを覆うような永久凍土をさらに覆うような形で半球状オリハルコン監獄を作り上げた。
無事捕捉した丸眼鏡はオリハルコン監獄の厚みを増しつつ、徐々に小さくしていく。しかしコピーも内側からオリハルコンシールドを広げるように展開し、一歩も譲らない。
ここまで来てしまえば我慢比べだ。
大きさが全く変化しないオリハルコン監獄だが、丸眼鏡とコピーは全集中力をもっての攻防を繰り広げる。
「どうなってるんですかね」
「コピーも内側で同じものを作って、潰されないように抵抗しているんじゃないかな」
解説するソーマに、リュージはピアスを借りて丸眼鏡に声援を送る。
「頑張れココネちゃん! 気持ちで絶対に勝つんだ!」
「丸眼鏡、相手は暗闇の中で抵抗してるから気持ち的に滅入りやすい。MPが心許無かったら回復薬ガンガン飲んで良いから、そのまま押し潰せ!」
リュージとソーマに続いてマキナとフィオナも声援を送り続ける。
丸眼鏡は時折覇王の豪闘気のオーラを上げるも、その地味な攻防は30分ほど続き、その間に丸眼鏡は15本のMP回復薬を飲んでいた。
「おいソーマ、なんとかなんねぇのか! さすがにずっと全力で魔法使ってたらココネちゃんもしんどいだろ!」
リュージは思わずソーマに助けを求める。
「あいつ全力じゃないんだよな、この状況になって優位に立ってるからちょっと安心してるんだよ。たまに覇王の豪闘気を切ってるのはMP節約してるんだ。このままじゃ勝負付かないから本当なら覇王の豪闘気使い続けて、軍神の覇闘気を戦闘中に得るくらいの気持ちじゃなきゃまだまだ続くよ。でもあんまり檄飛ばしてちょっとでも弱気になったらって思うと声も掛けにくくてさ」
思い詰めたソーマの言葉を聞いた三人は、一瞬呆気に取られた顔を見せると、三人同時にソーマの胸ぐらを掴んで声を荒げた。
「「「それを早く言えっつーの!!!」」」
「おいこら丸眼鏡ッち! てめえなにMP節約してやがる! さっさと軍神の覇闘気取って押し潰せや!」
「そういう微妙に弱気なところがクソメガネって言ってるんですよ! 小説のこの戦闘シーンは私が代筆しますからね!」
「ココネちゃん、オレぁ全力で戦ってもダメなら助けに行くっつったけどよ、攻め切らねぇのは違うんじゃねぇか?! 前に軍神の覇闘気取れないって相談されたことあったけどよ、そういう所なんじゃねぇの!?」
今まで全力の攻防を30分も続けていると思った三人は、裏切られたとばかりに怒声を浴びせた。
さらに三人はソーマを睨み、お前も言えよと視線で凄む。
ソーマはたじろぎながらも、冷静な声で丸眼鏡に声を掛けた。
「……ここで軍神の覇闘気取って勝たなかったらパーティ追放だ」
ソーマの辛辣な一言に、散々言いたい放題だった三人は驚きながら「それは流石に言い過ぎでは」と突っ込んでいた。
直後、丸眼鏡から覇王の豪闘気のオーラが上がる。
「の、のぉぉおおおおおお!!! 代筆はダメなのじゃ!!! 追放は絶対にダメなのじゃぁぁぁあああ!!!」
溢れるオーラは一回り、二回りと大きくなり、オリハルコン監獄へ込める魔力が一段と増える。
監獄の中のコピーも必死に抵抗しているのか、未だに大きさはさほど変わらないが、それでも震えながら収縮を繰り返していた。
「行け丸眼鏡ッち! 気合いだ! 死ぬ気で押し潰せ!!」
「ココネさんがパーティ追放されたら私がここから先のストーリー書いちゃいますからね! さっさと勝って下さい!」
「ココネちゃんなら軍神の覇闘気くれえ余裕だ! ぜってー取れる! もっとハートの底から力を捻り出せ!!!」
三人は叫ぶように声援を送り続けた。
そしてついに、丸眼鏡を包むオーラはオレンジ色から輝く黄金色に変化した。
「「「「っしゃあ! やっちまえ!!」」」」
「のぉぉおおおおおお!!! 勝つのじゃぁぁぁああああ!!!」
丸眼鏡は全魔力を集中して監獄に込めると、オリハルコン監獄は一気に収縮し、中からは青い粒子がほのかに立ち上った。
目の前の光景に丸眼鏡は肩で息をしながら、達成感に満ちた笑顔を浮かべた。
四人は闘技場に転移すると丸眼鏡に駆け寄る。
マキナとフィオナは二人でしゃがみ込み、丸眼鏡に抱き着くとわしゃわしゃと頭を撫で回した。
「っひゃーカッコ良かったぜ丸眼鏡ッち!」
「ほんとです! それでこそパセドの誓いです!!」
「む、むう。ありがとなのじゃ。何というか、勝って気持ちが良いと思ったのは初めてじゃのう」
照れ笑いをする丸眼鏡にリュージも跪き、手を握る。
「カッコよかったぜココネちゃん。ココネちゃんの魂の勝負、オレは感動したぜ!!」
よく見るとリュージは感動のあまり、涙を流していた。
それを見た丸眼鏡は嬉しそうに照れ笑いすると、一枚の小さなタオルを出し、水球で濡らして固く絞るとリュージに渡す。
「まったく仕方のない男じゃのう。心配掛けてすまなかったのじゃ」
「心配なんてしてねぇよ、オレぁ初めっから勝つって信じてたからよぉ……」
男泣きをするリュージを見たマキナとフィオナはくすくすと笑う。
ソーマも丸眼鏡に歩み寄り、労いの言葉を掛けた。
「お疲れ様。良い勝負だったし、結果的に軍神の覇闘気も取れたね」
「むう。ソーマ殿は意地悪なのじゃ。アドバイスは理に叶っておったが、さすがにパーティ追放は辛かったのじゃ」
いじける丸眼鏡に、ソーマ以外の三人も「あれは言い過ぎだったよな」と賛同し、ソーマはなぜ俺が悪者になるんだと肩を竦めた。
丸眼鏡が軍神の覇闘気を取って勝利したことにより、パセドの誓いは第15層を突破し、次の第20層を目指す。
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