第242話 ドワーフ王との謁見
ソーマ達はマグラードに戻る際、森の中を抜けていた。
今まで旧火山帯を走っていたが、火山活動が再開され所々にマグマが流れ、岩もかなりの熱を帯びている箇所があったのでルートを森に変えた。
マグラードの城下町では火山復活に関する話題が持ち切りになっており、ソーマ達は活気あふれる街の人々を横目にローガンの店を目指した。
いつものようにマキナが元気よく扉を開けると、ローガンの他に二人の壮年の男がいる。
片方は以前にも会った参謀長官のグレース=レイドである。
「おーおっさん、戻ったぜ! リュージの靴は出来てんのか?!」
マキナは二人のドワーフに構うことなくローガンに話し掛ける。
「んな早く出来るかよ! まあでもあと一日半ありゃなんとかなるぜ。おいソーマ、こっちはマグラード王国大臣のノルドだ。グレースは前に会ってるよな?」
「グレースさんに会ったのって何日か前ですからね、さすがにマキナじゃないし覚えてますよ」
そう言うとソーマはグレースとノルドに挨拶をし、自己紹介をした。
「ノルド=ムシュラだ。此度は火山の復活、誠に感謝する」
「あ? なんであたしらがやったって知ってんだ?」
マキナが割って入るも、ローガンがすぐに前に出て事情を説明する。
「お前ら各国と繋がりがあるだろ。今後の世界情勢を考えるとドワーフ国もパセドの誓いと友好関係にあった方が良いと思って俺が話したんだ。なんだかんだ言ってもここは俺の故郷だし、祖国だ。俺が王に口利いてやっからよ、今から王様に挨拶してやってくんねぇか?」
「ローガンの頼みを断るわけないよ。色々世話になってるしね」
ソーマの言葉に後ろの四人も大きく頷いている。
それほどまでに皆はローガンが作ってくれた防具を気に入っていた。
「ありがとよ。じゃあ早速行くか!」
そう言うとローガンは王国家臣の二人とソーマ達を連れ、マグラードの王城へと向かう。
王城に向かう途中では家臣の二人がソーマ達に色々とドワーフ国について話をしてくれた。
職人気質の人が多いドワーフ国は自国の軍事力や兵器、武具にプライドを持っている人が多いらしく政治や経済に関しては保守的な者も多々いるらしいが、移り変わる時代と価値観に付いて行く為にも少しずつ国の中枢から変化の必要性を呼び掛けているとのことだ。
二人の家臣の話しぶりから、ソーマは連合国の中では一番話が出来るのではないかと少し期待を寄せていた。
王城の入り口はさすがに家臣がいるので顔パスであった。
マグラード城は王都マグラードの城下町の中心に、五芒星型の大きな城壁があり、その中に円状の石造りの城がある。
籠城戦に特化した造りになっており、城壁内にも数々の兵器が眠っていることは容易に見て取れた。
ローガンは王城の門を潜ると真っ直ぐに廊下を進み、階段を二つ上がって大きな扉の前に来た。
「王にゃ大して気ぃ遣うこともねぇ。いつも通りで良いぜ」
「そういう方がありがたいね」
話をするローガンとソーマの前に家臣の二人が出ると、扉を開いて五人を促した。
模様が入った赤い絨毯を進むと壇上の玉座に座ったドワーフ国の王がいた。
ソーマは内心「当たり前だけどドワーフ国の王もやっぱり背が小さいんだな」などと思いながら、王を眺めた。
見た目は意外と若く、金色の髪を撫で付け、如何にもドワーフ国の王らしい豪奢な衣装とマントを羽織っている。
衣服や装飾品の質は一目で見ても分かるほどの超一級品と思われた。
「王様よ、連れてきたぜ。パセドの誓いだ」
「ローガン、感謝する。初にお目に掛かる、私はドワーフ国王のレイフォード=マグナオルト2世だ。此度は火山復活、ドワーフ国を代表して礼を言おう」
「パセドの誓いリーダーのソーマです。本日は御招き頂き光栄です」
ソーマは礼をすると、パーティメンバー全員を紹介した。
「ふむ、話には聞いていたが随分礼儀正しい冒険者だな。そなた達には色々聞きたいことがあるのだが、火山復活に関する仕事が山積みでなかなか纏まった時間が取れない。こちらの都合で申し訳ないのだが、明日の昼食時に一時間ほど時間を頂けないだろうか。食事の時間を兼ねてしまって失礼を承知の上なのだが……」
「良いぜ! その代わり最高の飯食わせてくれ! 良いだろ、ソーマ?」
相変わらずのマキナにローガンは豪快に笑い、他のメンバーの四人は若干呆れた顔である。
王も一瞬驚いた表情を見せたが、ソーマが了承の意を伝えるとすぐに顔を綻ばせた。
「要望を聞いていただき感謝する。では明日の11時にローガンの店に使いを送ろう」
「あ、いえ、食事の時間10分前くらいに僕たちが城を訪ねます。ローガンには今もう一人装備を作ってもらってるので忙しいと思いますし」
「ふむ、そなた達の装備は皆ローガンのものだな。羨ましい限りだ。私も作ってくれと十年以上頼んでいるのだが一向に聞き届けてもらえなくてな」
そう言うと王は困った顔でローガンを眺めた。
「へっ、俺は装備は使いこなしてなんぼだと思ってんだ。ソーマ達が俺の防具に見合った実力を持ってたってだけの話だぜ」
「耳が痛いな全く。話が逸れたな。では明日12時の10分前に城に来てくれ」
「分かりました。では明日」
こうして五人はローガンと共に王城を後にした。
その後ローガンは制作に戻るというので、五人は秘密基地で3時間ほど稽古をこなし、宿に戻ってシャワーを浴びると城下町に繰り出した。
今日は火山ダンジョン制覇の祝杯である。
ソーマ達は騒げる程度にフランクな店の中では高級な部類入る店を選ぶと、テーブル一杯に料理を注文して乾杯を上げた。
「っかぁー! もうあのダンジョンに潜んなくて良いと思うと最っ高の気分だぜ!」
「本当に今回はツラかったです! 人間国はもう少し、なんて言うんですかね、気持ちが滅入らないダンジョンが良いですね!」
「マキナちゃんもフィオナちゃんも今まで見たことねぇってくらいやる気なかったもんな」
リュージはカラカラと笑いながら二人を茶化す。
事実マキナは攻略においてほとんど出番がなく、フィオナも第四層で虫を避けて通るたびに嫌悪感を露わにしており、それを何度も何度も潜り直すことになるので平常心を保つのが精いっぱいといったところだった。
「しかもファイストスがあんな感じだったからね。ドワーフ国は結構話が出来そうで良かったけど、ファイストスとはもう二度と関わりたくないな」
「うむ、何度も言うようじゃがわたくしは力を返せと言われた時は死ぬかと思ったのじゃ」
丸眼鏡がそう言うとマキナが再度、パニックになった丸眼鏡の言葉遣いを茶化して大笑いしていた。
「ひぃー! 笑い過ぎて腹痛ぇ! あんな丸眼鏡ッち見たことねぇかんな!」
「そう言うがの! マキナ殿もいきなりあんな神に力を返せなど言われたら絶対焦るのじゃ!」
「いやーどうかな……俺、言葉遣い注意されたばっかりなのにマキナが『おっさん! この装備最高だぜ!』って言った時は心臓飛び出るかと思ったからね。こいつは多分焦ることないんじゃない?」
ソーマの言葉にはマキナ以外の三人も激しく同意し、本当に勘弁してくれと心底思ったという想いの共有が始まった。
それからはリュージの神滅竜砲が相変わらず溜まるまで遅いなどの話題になり、ダンジョン攻略による安堵と開放感に五人は大いに盛り上がった。
夜も更けてきた頃、フィオナが思い出したように口を開く。
「あ、そう言えばこの前思いついたことなんですけど、Sランクパーティってあるじゃないですか。で、前にソーマさんが『ギルドシステムは神が作ったはずで、Sランクがあるなら絶対に昇格した時に何かあるはず』って言ってましたよね」
突然の真面目な話に、四人も一旦落ち着いて耳を傾ける。
「それで、もしかしたら神関連の依頼が昇格条件なのかなって思ったんです。例えば人間国の聖地復活を人間国から指名依頼されるとか」
「うわ、それ全然気づかなかったけど、めちゃくちゃ可能性あると思う。絶対試す価値はあるね」
丸眼鏡とリュージもなるほどと納得する中、マキナがソーマに突っ込む。
「だけどお前、人間国じゃお尋ね者だろ? あたしらにそんな指名依頼出してくれんのか?」
「んーそこは難しいかもしれないね。でもアマテラダンジョンで竜人国からの指名依頼は受けれるから、そっちで試しても良いかな」
それにはマキナもなるほどな、と納得した。
そして話は人間国ダンジョンへと移る。
「ちなみにソーマさん、人間国ダンジョンってミスタリレの王宮が管理してるんですよね? どうやって入るつもりですか?」
フィオナの問いには他のメンバーも気になっていたようで、ソーマの言葉を待つ。
「そこなんだよなー。この際正面から聖地復活したいからダンジョンに通してって言うのもありかなって思ってたんだけど、あそこの王の性格的にまずは自国で攻略しようってなる気がするんだよ。それならいっそ初めから忍び込んじゃった方が良いかなーって思ってるんだけど」
「そっちの方が良いんじゃねーか? あたしはめんどくせーのは嫌いだぜ」
マキナはあっけらかんと言い放つも、丸眼鏡とフィオナは思う所があるようで、うつむきがちに考え込んでいる。
「ううむ、しかしそうなるとまたソーマ殿はご両親に会いに行きにくくなると思うのじゃ」
「それ、私も今考えてました。結局ソーマさん、リルムを出てから一度もご両親に会ってないじゃないですか。それはちょっと寂しいかなって」
「たしかになー……って今思い出したけど聖地復活させた件、ヴァンとエルに報告し忘れてた! 明日話してみて、次は人間国行くこと伝えてダンとエルに相談してみようかな。気遣ってくれてありがとね。俺も正直、ダンとエルとはゆっくり話したいんだ」
四人もそうした方が良いと言ったところで店員が閉店を告げてきたので、ソーマ達は最後に一杯だけ酒を注文して乾杯し、宿へと戻った。
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