第233話 リュージの防具
第8層に転移すると、五人は暗闇に包まれた。
ソーマ、丸眼鏡、フィオナは即座に探知魔法を使おうとするも、なんと魔法が使えない。
「魔法が使えません!」
「俺もだ! みんな離れるなよ! マキナ、常夜眼は使えるか!?」
「おうよ! スキルはバッチリだぜ! とりあえず敵も虫もいねぇし罠っぽいもんもねぇから安心しな!」
マキナの言葉にひとまず大丈夫かと安心した四人は、すぐに声を掛け合いながらお互いの場所を把握して手を握り合う。
「丸眼鏡、松明あるか?」
「あったはずじゃ、少し待って――む? そういえばムフフの袋も魔法じゃから使えんのじゃ」
「え、と言うことはこのエリアはマキナさん頼りですか? さすがに四人とも目が見えないのは厳しいですよね」
ソーマは暗闇の中で、どうすれば良いかを考える。
「一応聞くけど、このエリアはどんな感じ?」
「あー、洞窟っぽいぜ。一本道が続いてるっぽいけどよ、その先までは分かんねぇ」
なるほどね、とソーマは顔をしかめる。
「いやー……面倒だけど一回戻ろうか。少し先まで見てみたい気もするけど、さすがにマキナだけ先に行かせるわけにもいかないし四人目が見えない状態で付いて行くのも何かあってからじゃ遅いからね」
「あたしは行ってみてぇけど、まあなんかあってからじゃ遅えってのは分かるし別に良いぜ。このダンジョンが時間掛かるのは今に始まったことじゃねぇからよ」
「うむ、ちょっと先の様子を見てからという思考も罠に掛けやすそうじゃしの。慎重に行く方が良いとわたくしも思うのじゃ」
五人は後ろ髪を引かれる想いで一旦転移レリーフに触れ、外の泉へと転移したのだった。
時刻はまだ午前の11時、青空と日差しの中、五人は走りながら衣服を乾かしマグラードに辿り着く。
かまくら式住居でシャワーを浴びて着替えたのち、広場で昼食を取ってから今度は冒険用品店へと出向いた。
魔法が使えないので松明を20本と着火用のマッチを20箱、HP回復薬に解毒薬、解麻痺薬、それに大量の水と携帯用食料、ロープ、ペグ、ハンマー、シャックル、メモ帳とペン、数個の鉄鉱石とそれらを背負うためのリュックを人数分揃えた。
これらをムフフの袋に詰め込み、第八層の転移前に出して全員が背負う形を取る。
「はー、なんか懐かしいぜ。丸眼鏡ッちが仲間になる前はあたしもリュック背負ってダンジョン潜ってたかんな」
「そうだね、食料も前はドライフルーツとか結構買ってたもんね。まあ水は水球あるから当時から持ってなかったけど、マキナはそれに水もだから、良くソロで潜ってたよね」
ソーマが感心するも、マキナは「その代わりあたしは松明はいらねぇ」と補足を入れた。
「でもそう言われてみるとそうですよね。私はココネさんがいないダンジョンに潜ったことがありませんけど、言われてみたら結構大変ですよね。なんだかちょっとワクワクしてきました」
「オレぁ荷物持ちは良いんだけどよ、翼が邪魔くさくてこりゃ背負いにくいぜ」
リュージは買ったばかりのリュックを背負おうとするも、翼のせいでなかなかしっくり来ないようだ。
それを見たソーマはローガンに加工してもらおうと提案し、五人は一旦ローガンの店へと足を運んだ。
いつものようにマキナが元気にドアを開け放つと、店内ではローガンときちんとした身なりの壮年の男が会話をしている。
「おう、ソーマ達か。ちょうど良かった、こいつは王国の参謀長官のグレースだ。紹介するぜ」
ローガンから紹介された王国の長官に、ソーマは笑顔で握手を求めた。
「パセドの誓いのリーダー、ソーマです。宜しくお願いします」
「マグラード王国参謀長官のグレース=レイドだ。ローガンの話通り、礼儀正しいパーティリーダーだな。宜しく頼む」
ソーマは握手を交わすと、パーティメンバーを順次紹介し、四人もグレースとそれぞれ握手を交わした。
「ローガンから君達のことは伺っている。落ち着いたら王城を訪ねて欲しい」
「分かりました。お招き頂けて光栄です」
グレースは終始丁寧な応対のソーマに感心しながら、礼を言って店を出て行った。
「あれ、話の邪魔しちゃったかな」
「いや良いんだ、話が落ち着いて世間話になっちまってたからちょうど良かったぜ。で、なんか用があるんだろ?」
「おう、おっさん、リュージのリュックちょっと加工してやってくれよ!」
マキナはローガンに懐いているのか、お構い無しにリュージを引っ張って行く。
ローガンはここに来て今更リュックかと言うので、ソーマはダンジョンで魔法が使えない旨を説明した。
「なるほどな。ちょっと待ってろ、すぐ終わらせてやっからよ。あとリュージ、ズボンと上着は出来てっから着てって良いぞ!」
ローガンはリュックを受け取ると、工房ですぐに解体を始める。
五人は壁に掛けてあるリュージ用の防具をまじまじと眺めた。
真っ白な絹のパンツの側面には黒のラインが入り、ソーマ達と同じように前面と側面は二重構造になっていて、間に竜の革を編み込んだ独自の強固な素材が入っている。
シルエットは全体的にダボっとした大きめで裾はブーツに入れる為かすぼまっており、ソーマは大工や鳶職人が履くような作業着をイメージした。
リュージは闘気結界と越理の防御を持っている為か、膝のパッドは付いておらず、もっぱら肉体で闘えということだろう。
上着も同じく真っ白な絹の着丈が長めのジャケットで、肩と肘のパッドはソーマ達の装備とは違い二重の絹に挟んであった。
ソーマ達は外から見えるが、リュージの防具はパッドが外からは見えないようになっている。
肩から手の裾に掛けてはパンツと同じく黒のラインが入り、両胸にボタンのついたポケット、さらに内ポケットが用意される。
「こりゃ最高だゼ。早速着替えてくらぁ」
リュージは意気揚々と隣の部屋に防具を持っていくと、すぐに着替えて出てきた。
真っ白な着丈が長めのジャケットとパンツに黒のライン、ダボっとしたシルエットはどこか特攻服のような雰囲気があり、リーゼントのリュージにぴったりである。
さらに光沢を抑えた絹の上質な素材が、高級感も演出していた。
「ローガンさん、コイツは最高だ。靴も期待してるゼ!」
「へっ、あったりめぇだろ。まあお前らが戻ってくる間には全部作っといてやっから待っとけ! あとリュックも出来たぜ」
もう出来たのか、とソーマ達は驚きの声を上げる。
ローガンはこんなもん訳ねぇよとリュックをリュージに向かって放り投げた。
「いやーほんとさすがだね。ありがとう。お代はどれくらい?」
「んなもんいらねぇよ、お前らはサッサとダンジョンクリアして来い。俺もそれまでにリュージの靴仕上げとくからよ!」
五人は再度礼を言うと、とりあえず今日は第8層の様子を見る為にと再度ダンジョンに向かった。
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