第229話 しんどいダンジョン
一時間ほどティータイムを楽しんでいたソーマ達だが、突如ダンジョンが揺れ始めた。
「あ? なんだ? 地震か?」
「……いや、多分時間制限じゃないかな。あんまり無制限に休むのもダメってことかな」
「私はもう大丈夫です。行きましょう」
手早く片付けを済ませるソーマと丸眼鏡を横目にリュージが宝箱を開けると、中身は薬草であった。
リュージは丸眼鏡に薬草を渡すと、全員で第四層へと転移した。
第四層に入った直後、目の前の空間に巨大な白い蛾が現れた。
全員が身構え、フィオナは冷静にバフを紡いでいく。しかし、敵が動く気配はなかった。
「フィオナ、歌は一旦中止。もしかすると罠か? 生きてるわけじゃないのか?」
「うむ、どうやら飾りのようじゃの」
「なるほどね、第三層の精神状態で入るとアレを攻撃してしまうけど、もしかするとアレを壊すと罠が発動するのかもね」
構えを解いたソーマは丸眼鏡にエリア全体の探知を任せる。
エリアそのものは細長く天井の高い層で、進行方向上に白い大きな蛾が天井に張り付いている状態だ。
「特に罠らしいものは見当たらんのぅ」
「よし、とりあえず慎重に進もうか」
ソーマは球状結界を貼ると、慎重に歩みを進めた。
いつどこから罠が出てくるか分からないため、集中しながら五人は細い通路を進む。
ちょうど白い蛾の真下を通る際も、上を見上げながらゆっくりと進んだ。
蛾を通り過ぎると同時、今度は前方に巨大な白い毛虫が現れる。
探知をしても生命反応らしきものがないので、ソーマ達は直前まで歩み寄ると跳躍してその毛虫を越えた。
「ったく気持ち悪りぃな。悪趣味なダンジョンだぜ」
「結構な速度で走ってたら避けられなかったね。よく考えられてるし、造りもホンモノそっくりだね」
ソーマは後ろを振り返りながら毛虫もどきを見て、その精巧な作りに感心していた。
女子三人はなるべく見ないようにしているようだ。
進むにつれて天井が低くなっていき、毛虫や蛾も増えていく。
触れてはいけないものと察し、ソーマ達は慎重に避けながら進むも、どんどんと虫の密度が上がってきた。
「リュージ、翼が触れないように気をつけて。あと局所突風とか疾風も控えよう。風が当たるだけで罠が発動する可能性がある」
「分かったゼ。なるべく翼たたまねぇとな」
「わたくしは小さいゆえ皆より楽じゃのう」
その後も五人は身を屈めたり跳躍しながら、慎重に毛虫や蛾に触れぬように進んだ。
ようやく終着点という場所で、出口を塞ぐように毛虫が横たわっている。
「おいおい、こりゃオレは結構キチいゼ」
「右上の角が一番隙間が広いかな。丸眼鏡、鉄の棒をこういう感じで右上に伸ばせるかな?」
ソーマは、横に長い鉄棒のようなものを丸眼鏡に作らせると、それに手と足を絡めるようにして角を進み、転移レリーフのある方へと進んだ。
「なるほどな、こりゃ余裕だぜ」
「そうですね、行きましょう」
マキナとフィオナ、それに丸眼鏡も同様に進む。
「オレの翼が当たらねぇか見といてくれよ」
リュージも鉄の棒に掴まるも、若干翼が当たりそうで厳しい。
「んー、かなりギリギリだね。丸眼鏡、リュージの翼を拘束出来る?」
「胴に巻きつける感じで良いかの。痛かったら言って欲しいのじゃ」
丸眼鏡はそう言うと、リキッドメタルを環状に作り、硬化させながら少しずつ翼を胴に絞り上げていく。
「うお、こりゃ結構痛ぇゼ。まだ当たりそうか?」
「翼の先が広がってるから先も纏めちゃおう」
ソーマの提案に丸眼鏡は翼の先をリュージの太もも辺りに縛り付けていく」
「ふふ、なんだかココネさんがリュージさんを縛り付けていくの、面白いですね」
「リュージのヤローも意外と好きだったりしてな」
フィオナとマキナがクスクスと笑いながら茶化すも、リュージは必死なので反論出来ないようだ。
「よし、これなら良いかな。ちょっと窮屈かもしれないけど抜けれそうだよ」
「お、おう……だいぶキツいぜこりゃ」
動きが拘束されつつも少しずつ鉄棒を手繰り、リュージもようやくこちら側に辿り着いた。
「おう、丸眼鏡ッちに縛られた感想はどうだ?」
「何か新しい世界に目覚めたりしましたか?」
「おめーらよぉ……ヒトが必死こいて来たって言うのにそれかよ」
「まあまあ、無事辿り着いたわけだし。じゃあ次は丸眼鏡が宝箱開けて良いよ」
ソーマが勧めるので丸眼鏡が祈りの言葉を唱えて宝箱を開けた。
そこにはHP回復薬が一つ、入っていた。
「今までで一番まともかのう」
「せめてMP回復薬なら良いんだけどね。まあ、期待しないでおこう。ちょっと休んでから行こうか」
「そーだな、後でまとめて休もうっても無理そうだしよ」
マキナは疲れたとばかりにソーマに椅子とテーブルを催促し、五人は再度短いティータイムを取ることにした。
こういった精神的にキツいダンジョンの攻略において、温かい淹れたての紅茶とお菓子を食べられることは非常に大きい。
一瞬の気の緩みで命を落とすこともあるダンジョンにおいて、心身の疲労の蓄積は命取りである。
まさにムフフの袋を持つ丸眼鏡様様であった。
「しっかしここは何階層あんだろうな。こんなのが20もあったら心が折れるぜ」
「たしかにね。10層くらいだとありがたいんだけど」
「今までのダンジョンはどんくらいあったんだ? アマテラんとこは10層だったよな」
リュージの問いにソーマが思い出しながら答える。
「世界樹が15で魔神が30でしょ。海龍神が15でアマテラが10か。魔神の所は特別深かったけど、10か15ってとこかな」
「難易度的にはやはり一番高いですか?」
「そうだね、魔神も厳しかったけどここほどじゃないかな。戦闘無しの罠のみって結構精神的にキツいよね」
「だよなー、せめて人間国は戦闘アリがイイぜ。あたしはこういうとこが一番嫌いだ」
五人は紅茶を飲みながら、クッキーと焼き菓子をつまんだ。
尚、すぐそばの毛虫もどきは気持ち悪いので地壁で壁を作って見えないようにしている。
その後は他愛の無い話をしながら休憩した五人は、地震を合図に第五層に転移する準備を終えた。
「はぁー、まだ四層だもんな。早く終わらせてぇぜ」
「一応聖地復活が掛かってるダンジョンだし、これくらい難易度が高いのが当たり前なのかもしれないよ。今までが簡単だったのかもね」
「ううむ。とにかく油断せず、一層ずつクリアしようかの」
五人は気合いを入れ直すと、慎重に第五層へと転移した。
いつもお読み頂きありがとうございます。
楽しんで頂けたら嬉しいです!