第21話 待ち合わせとダンとの勝負
リルム街門の前で一悶着あったが、すぐに戻りますと伝えて街を飛び出したソーマは前方に灯篭を放ち全速力でマキナの元に走っていた。
突風と疾風の習熟度が上がったおかげで、一時間ほどでダンジョンの入り口まで辿り着く。
ソーマは木の上で眠っているマキナを見つけると、こっそり登ってマキナを起こした。
「……マキナさん、朝ですよー」
寝ぼけ眼のマキナは周囲をキョロキョロと見回した後、大きなあくびをしながら目を擦る。
「なんだよ随分早いな……もう出るのか?」
「いや、俺と早く旅に出たいって気持ちは嬉しいけどちょっと問題が発生してね、それを伝えに来た」
「……なんだよ」
未だ寝ぼけているのか、からかっても反応がイマイチなマキナに対し、そういえば随分寝てないし疲れてたのかもなと理解を示すソーマ。
「多分だけど世界樹の出現を王国はスタンピードと誤認したらしくて、明日にも街は緊急警戒区域に指定されるらしいんだ。王国の探知術師が調べて問題なければ2、3日で出られるようになるらしいから、出発が少し遅れる」
マキナは面白くなさそうにそうかよ、とだけ返す。
「それと多分この付近まで探知術師が調べに来ると思うから、マキナはそれまでどこかで身を潜めてて欲しい」
「……あーなるほどな、クソめんどくせぇ……もう出ちゃえば良いんじゃねえのか?」
「前も言ったけど、世話になってる夫婦がいてきちんと別れの挨拶をしたいんだ。それにマキナのこと話したら、今度会いたいって」
マキナはその言葉を聞いて、嬉しそうな嫌そうな複雑な表情を浮かべる。
「雑種のことは言ったのかよ」
「いや、言ってない。でも種族で人を判断する人達じゃないと思う。俺が黒髪でも全く気にしてないしね。剣も魔法も戦い方も全部その二人から教わったし、生活の面倒まで見てもらってたんだ」
ソーマがそう言うと、マキナはまるで自身の昔を思い出すかのように考え耽っていた。
「そいつら相当出来そうだな、おまえを見りゃ分かる。まあそういうことならあたしはどっかテキトーにダンジョンで手に入れたアイテムを換金でもしてくらぁ。飯も寝床も欲しいしな」
マキナの言葉に、ソーマは自分だけ食事と睡眠をきちんと取れる環境にいたことを申し訳なく思う。
「分かった、で、問題はいつどこで再会するかだな」
「それがめんどくせぇんだよな……王国の術師に探知で見つかるのもめんどくせぇからこの辺りじゃ待ってらんねぇし」
世界樹が発見されたとして、そんな騒動の最中にダークエルフがこの辺りで見つかればただの冒険者では済まされないとのことだ。
「街から出られるようになったらどこにでも行くよ。良い所はないのか?」
「……ヒト族の街で多種族と交易してる港町はたまに拠点にしてるぜ。ここからはちと遠いがおまえの脚なら3、4日ってとこだろ。ルトって街だ。そこのギルドで待つ」
「悪いな、気遣い助かる」
マキナは目を逸らしながら「……仲間だからよ」と呟く。
ソーマはマキナにそっと拳を突き出すと、マキナはニッと笑って拳を合わせ、眠りについた。
翌朝、ギルドと領主双方からリルムの街に緊急警戒区域の指定が発表された。
昼過ぎには王国騎士団の騎馬隊が先着し、領主と打ち合わせ後に騎士団と探知術師が例のダンジョンがある渓谷の奥へと調査に繰り出した。
王国兵を初めて見たソーマは、きちんとした身なりと歯を見せぬ姿勢、厳しい目つきに、あそこでは絶対に働きたくないなと思うとともに、今は物腰穏やかで幸せそうなダンとエルがそこに所属していたことが信じられなかった。
そしてソーマは今、そのダンとエルの家の裏庭でダンとの稽古に励んでいる。
どうせ街の外には出られないし、ダンとエルも口にこそ出さないがあまり騎士団とは顔を合わせたくないのか家から出たがらない様子だった。
それに街を出れば剣を交えることもなくなるので、二人は最後の時間を惜しむように剣を振るう。
「最初に剣を振った時から比べると、とてもじゃねぇが同じ人とは思えねぇなっ」
ダンもソーマも全身から汗を吹き出しながら激しく剣を交えていた。
ソーマは疾風を纏いながら手数と機動性を主軸に立ち回るが、ダンはその波状攻撃を全て見切りつつもさらにソーマの死角から剣と盾の攻撃をピンポイントで繰り出している。
ソーマは風探知も併用してダンの動きを見極め、疾風や局所突風で姿勢を変えつつ応戦していた。
「魔法剣士がこんな戦い方するなんてよ、考えたこともなかったな!」
ダンは力の篭ったシールドバッシュを繰り出し、ソーマはそれを躱せないと判断したのかバックステップで威力をいなす。
間合いを開けると疾風を持つソーマの方が有利になるのを嫌ってダンは即座に一歩踏み込むものの、長年鍛え上げてきた剣士の勘が猛烈な危険信号を察知した。
バックステップによりシールドバッシュをいなしたソーマは即座に後方に風壁、さらに突風と疾風を重ねがけすることにより、おおよそ剣士には考えられない動きで後方へ飛ぶ身体を一気に前傾の突進突きの姿勢へと変化させた。
ダンはえも言われぬ悪寒に身体が先に反応し、未だかつて稽古では出したことのない蹴りをソーマの顔面に入れてしまった。
当然警戒していなかったソーマはその蹴りをモロにくらい吹っ飛ぶが、ソーマも一瞬の出来事に冷静さを欠いたのか直後に無詠唱で礫弾をダンの顔面に放ち、ダンも同時に後方へと吹っ飛んだ。
岩の塊を受けたダンは鼻から大量の血を流している。
「……っててて……すみませんついカッとなって魔法使っちゃいました……」
そう言うとソーマは自分とダンにヒールをかけて謝罪する。
それを何とも言えぬ感慨深い表情でダンが見つめていた。
「……あれ? いや、すみません。次から気を付けます」
魔法はダメで蹴りはアリなのかと一瞬理不尽に思えたソーマだったが、騎士団の稽古を知らぬ上に武術と魔法であれば射程と汎用性がまるで異なるので、自分が武術を使えないことを棚に上げてるだけかとすぐに反省した。
「いや、そうじゃねぇ、むしろ蹴りを先に入れたのは俺の方だ、すまんかった。……ソーマ、剣持ってだいたい半年くらいか?」
どうだったかな、と首を傾げるソーマにダンは続ける。
「今ので分かった、たしかに剣だけならまだまだ負ける気がしねぇが、なんでもアリの勝負なら……ソーマ、おまえの方が強いだろう」
そう言うとダンは脇のベンチに座り、剣とバックラーを置いた。
「複雑な気分だよ。これでも何十年と努力し続けて騎士団でも良い所まで行ったんだ。そりゃ勝てねぇやつもいたが、俺より優れたスキルを持ってるやつも随分追い抜いたもんだ」
そう語るダンはどこか誇らしそうで、ここまでの半生を強くなることに捧げてきたのがよく伝わってきた。
ダンは汗をぬぐいながら水を一気に飲み干す。
「俺はな、スキルが強さって思いたくなかったんだよ。だから努力しまくった。今でも当時の騎士団で俺より努力したやつはいねぇと本気で思ってる。でもおまえ見てるとハッキリ分かるよ、スキルを持ってるやつが努力家だったら絶対に勝てねぇ。俺にはもう伸び代なんてさほど残されてないかもしれねぇが、お前はまだまだ伸び代の塊だもんなぁ」
そう言うとダンは遠い目をして空を見上げた。
ソーマも、ダンより強いのではないかというのは薄々感じていた。
ある時を境に、ここであの魔法を撃てばというような間を感じるようになり、日に日にその頻度は増えていった。
さらに言えばダンに速度で上回ることの出来るソーマにとって、間合いを大きく広げて一方的に魔法を撃ちながら逃げ回れば圧倒も出来るだろう。
もちろん、そんな芸当が出来るのはスキルの恩恵があるにせよ、無詠唱で様々な魔法を繊細にコントロールし、剣術も使いこなせるようソーマが努力したからである。
「……それでも、そんなダンさんに心を打たれて稽古に励んだ人たちは沢山いるんじゃないですか?」
「おまえの方が強いってのは否定しねぇか……。まあでもたしかにそうだな。若いクセに言うことが一丁前だぜ……ただな、ソーマ」
真剣な面持ちでダンはソーマと向き合い直す。
「よく聞けよ、剣だけならまだまだおまえにも負けねぇ、魔法もアリならおまえが勝つだろう。ただ、もう一つだけ俺でもおまえに負けねぇなんでもアリの戦いがある。なんだと思う?」
真剣な眼差しを受けて考えるソーマであったが、思い当たる節もなく、ふと浮かんだのが“美人な奥さんを射止めた人選手権”だったが場の雰囲気に削ぐわないので黙って首を横に振った。
「……それはな、殺し合いだ。いいかソーマ、当たり前だが殺し合いの勝負は負ければ死ぬ。だが、初めて人と殺し合いをする人間は、殺し合いの勝負に慣れている相手にまず気持ちで勝てねぇ。人を殺すってのは特別なことなんだ」
重みのあるダンの言葉にはっと気付くソーマは言葉を発することが出来なかった。
「人を殺すことを特別に思わねえやつにはなっちゃいけねぇが、人を殺すべき時に殺せねぇやつは戦いに身を置くなら長生き出来ねぇぞ」
そう言うとダンは大声でエルを呼び付けた。
「剣はあとは自分で極めろ、最後におまえに殺し合いの戦いを教えてやる」
直後ダンから放たれたのは剣気か威圧か、はたまた殺気か。
それを受けたソーマは、その場にへたり込んでしまうのを抑えることで精一杯であった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
気を付けてはいますが、誤字脱字報告、感想ありがたいです!
書き溜め分があるので当分の間は12時と17時の一日二話更新していきます!




