第20話 恋バナとスタンピード
一旦世界樹の上まで登り、街の位置の見当を付けた二人は“疾風”で風を身に纏い、山間を駆け抜け元の洞窟の入り口のある森へと戻っていた。
新たなSランクスキルの世界樹の加護のおかげか、疾風と突風の効果がかなり上がり、今までとは比べ物にならない速さを二人は手に入れている。
ちなみに世界樹の上から見下ろした時にマキナが気付いたことだが、山脈の西にソーマの住む町があり、南側にはエルフの国が見えた。
エルフ族は世界樹を信仰の対象としていたが百年程前に姿を消した世界樹に気を病んでいたそうで、おそらくこの世界樹の復活はエルフ族の悲願となるはずとのことだ。
マキナに関しては混血のせいか育った環境のせいかは分からないが、特に世界樹に関して強い想い入れはないらしい。
「それじゃあたしはこの辺りでテキトーに野営しながら待ってるからな」
マキナはそう言うと洞窟の脇に腰を下ろした。
「あれ? 一緒に来ないのか?」
「おまえよぉ……まあいいや、ダークエルフも魔族もヒト族には好かれてねぇかんな。港町とかそこそこ栄えてる街なんかにゃそれなりの混血もいるけどよ、田舎町だと偏見も強え場所もあるだろうし、あたしはそういう場所には行きたかねぇよ」
そういうものか、色々めんどくさいんだな、とソーマは得心する。
「とりあえず今日はもう遅い。良くしてもらってる夫婦には挨拶しなきゃならないし借りてる宿も引き払うから、早ければ明日の昼に来る。もし色々あって遅れるようでも、とりあえず遅れる旨は伝えに来るよ」
「……ああ。もし気が変わってもそれを伝えに来てくれよ。あたしは別に良いからな」
ソーマは素直じゃないやつだな、と思う反面、これまでに色々と苦労してきただろうことは想像出来たので、念を押す。
「良いか、俺はマキナと旅に出たいしマキナとパーティを組みたいんだ。絶対戻ってくるからそこは安心してくれ」
「……っせぇな早く行けよ。待ってっからよ!」
暗がりの中でも喜びで頬と長い耳を染めるマキナの照れ隠しに、やれやれと天を仰いだソーマは、もう一度念を押してから疾風を纏い帰路へ着いた。
門番にステータスプレートを見せて街に戻る。
街の入り口は物々しい雰囲気で何事かと思ったが、とりあえずまずはダンとエルに顔を見せなければと気にせず広場へと足を進めた。
街並みを見たソーマは随分久々に帰ってきた気分だなと思ったが、実質その間は三日ほどであった。
(かなり濃い三日間だったからな……とりあえず久しぶりにベッドで寝れるのと美味い飯を食えるのが楽しみだ)
ソーマは何を食べるかななどと考えながら、まずはダンとエルの家へと向かった。
ダンとエルに帰宅を告げると、二人は心配したように揃って出てきて家へと上げてくれる。
「いやー心配お掛けしてすみませんでした、思ったより長くなっちゃって」
ポリポリと頭を掻きながら弁明をするソーマに対し二人は心底安堵した表情だ。
「いや、無事ならいいんだ、何が起こるか分からねぇのが冒険者だからな」
「うんうん、ホントにソーマくんが無事で戻ってきてくれて何よりよ」
まるでこっちの世界の両親のようだな、と二人の気持ちを嬉しく思うと同時に、早々に街を出ると言いにくくなってしまうソーマ。
「にしても何があったんだ? いや言いたくねぇなら別に良いんだがよ、なんかこの三日でまた顔付きが変わったな」
「え、えーーっと……年の近い、女の子の冒険者と仲良くなりまして、それでー、その子がダンジョン巡りが趣味らしくて、一緒にダンジョンに潜ってました」
何があったかと聞かれると何もかもがあり過ぎた上に、言っていいのかどうか分からない、もしかするとトンデモないことを起こした気もしなくもないので、とりあえず事実を掻い摘んで説明した。
そしてそんなソーマの言葉を聞いてエルは「まあ!」と息子の初恋とデートを喜ぶような反応をした。
「はぁーいつの間に! 隅に置けねぇ男だな! 俺たちも昔は二人で魔物狩りデートに出かけたもんよ」
(……まあそうなるよな。でも容姿はたしかに可愛いけど中身はダンにも劣らない男勝りな、お宝大好きの才能オバケなんだよなぁ)
そんなソーマの想いを他所に、二人は懐かしむように想い出に浸っている。
「で、いつ俺たちに紹介してくれるんだ? まさか今来てるのか?」
ダンは勿論だが隣のエルの目の輝きが怖い。
「あ、いや、なんっていうか、凄く照れ屋で、紹介したいのはやまやまなんですけどー……いずれ紹介しますね!!」
明らかに残念そうなエルの横で、ダンは「焦らなくて良いんだからな」と包容力のある父親の顔である。
(うわぁぁ……なんか凄いこじれてきたぞ、とりあえず今なら言える! 今しかない!)
「そ、それでその子……えっとマキナって言うんですけど、マキナと一緒に旅をしたいなと思って」
そこまで言い終えるとエルは「あらぁ~!」と高い声を上げて両手を頬に当て、頭をフリフリし始めた。
(エルさんってこういうキャラだっけ!? 女の人って分からないな!?)
そんなエルとは裏腹にダンは少し真剣な顔でソーマと向き合う。
「そいつは信用出来るんだな?」
その声のトーンとダンの表情から、ソーマはダンが言わんとしていることを察した。
四属性に回復も使え、剣も才のある人材などどこに行っても引く手数多である。
マキナが言っていたように、ダンもソーマが利用されるのではないかと心配なのだ。
ソーマが四属性をマキナに見せたかどうかはダンの知るところではないが、ずっと隠し通せるものでもないだろう。
それが分からないソーマではないので、ソーマも真剣な想いを言葉に乗せる。
「ええ、僕と似たような境遇ですし、お互い信頼し合いたいと思ってるはずです。まだ日が浅いので信頼出来るとは言い切れませんが、少なくともこの人と信頼し合えるようになりたいとは思わせてくれる人です。それに何より、一緒にいてとても楽しいんです」
ダンはその言葉を受け止めると、口角を上げて頷く。
「ははー、おまえほどの男にそこまで言わせるったぁ相当な女だな、そのマキナってやつはよ。あんまり急で寂しくなるが、いずれこの街からは出てくんだろうし、俺は応援するぜ。その代わり、何かあったらいつでも帰ってきて良いからな」
「うんうん、私もたまに帰ってきて二人で顔を見せてくれればそれで良いから!」
“二人で”というところからエルの欲求が溢れ出ているのが分かりつつも、こじらせるのも嫌なので素直にそうですね、と答えるソーマであった。
「それでいつ頃発つ予定なんだ?」
「早ければ明日の昼頃を予定しています」
「そいつはまた急な話だな……いや、実はまだ正式に公表はされてないんだが王国がスタンピードを感知してな、この街も警戒区域に指定されたらしくてよ」
(スタンピード?)
聞き慣れない言葉にソーマは首を傾げていると、エルが補足をしてくれる。
「スタンピード、いわゆる魔物の大群ね」
「え、それがこの街に向かってるってことですか?」
「いや、それがまだ分からねぇ。おそらく明日には公表されるだろうがしばらくの間は出入り禁止になる可能性が高い」
街の門付近が物々しい雰囲気だったのはそのせいか、とソーマは納得した。
「それって普通はどれくらいかかるものなんですか?」
「おそらくだが、王国から派遣される探知術師が安全を確認すればすぐに解かれる。それは2、3日で済むはずなんだが……もし危険があると分かればいつまでかはその時次第だな」
ソーマは一瞬考え込む。
「その話っていつ頃出たんですか?」
「数時間前に緊急通達が着いたって話だから、おそらく今日の昼頃じゃねぇか? たしかに珍しくその時間にちょっと地震があったからよ、俺たちも心配してるんだ」
(世界樹が出現したのと時間的にはピッタリ合うな。この世界における世界樹の位置付けはよく分からないけど、エルフに関してはマキナも悲願って言ってたし、もしかすると世界を震撼させるビッグニュースって感じかもしれないな)
「王国の感知って何をどう感知したりするんです?」
「さあな、その辺は俺はよく分からねえが……知ってるか?」
「前に聞いた話だけど、各国の国境付近には小さな魔道具の探知結界石っていうのが点在してるらしくて、それが大きな揺れとか何者かによって一度に複数個破壊されると調査隊が派遣されるらしいわね」
(となると世界樹が現れた場所は国境付近だった可能性があるな。街を出れるか分からないけど一応マキナに知らせておくか)
「分かりました、ありがとうございます。一応そのことをマキナに報告してきます。街を出るのは落ち着いてからにしますね」
そういうとソーマは席を立ち、ダンとエルは玄関まで見送ってくれた。
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