第193話 ダンジョン攻略
5人は光のダンジョンの第2層に転移した。
広く細長い空間がずっと奥まで続いている。白い岩で全体も明るいので、白い敵以外は戦いやすそうだ。
「奥に行けばどんどん敵が湧いてくる。何かに特化しているはずだから気を抜くな」
「ではバフを掛けておきますね」
フィオナは時間で効果が切れないバフから掛けると、最後に英雄神の歌を紡ぐ。
「では行こうかの」
5人は陣形を組みながら、身体強化系スキルを用いて駆ける。
コテツの言うように、すぐに前方に十数体の魔物が現れた。
金属のような光を帯びた甲羅を背負ったトカゲに似た魔物で、全長が約2メートルほどとかなり大きい。
「ふむ、防御力がかなり高いのぅ。魔法が有効と思われるのじゃ」
丸眼鏡は全知の神眼を揺らめかせながら、大範囲に凍土を放った。
4足歩行の甲羅トカゲが拘束されるのを見て、丸眼鏡はさらに甲羅トカゲの腹下から貫くように穿通礫錐を穿つ。
あっという間に青い粒子となって消える十数体の甲羅トカゲ。
「っかーまーた丸眼鏡ッち無双か?! たまにはあたしにもやらせろってんだ!」
「すまぬの、では次はマキナ殿に頼もうかのぅ」
止まることなく走り続ける五人の先に、数十体の甲羅トカゲが現れる。
マキナは地面に滑らせるように炎獄嵐を放った。
眼前の床一杯に広がる灼熱の炎渦に、甲羅トカゲはあっという間に青の粒子と化す。
「さすがは他種族だな、ここまでの攻撃魔法術者は島におらぬ」
「バフっつーのも具合が良いですぜ」
コテツとオニマルはいとも簡単に魔物を蹴散らしていく二人とフィオナのバフに感心しながら駆け抜けた。
その後も数えきれぬほどの敵を倒し、危なげなく第二層の終着点へを辿り着く。
最終地点では体高が5メートルほどの大型の甲羅トカゲが待ち構えていた。
甲羅オオトカゲは大きな咆哮を上げると、口から大範囲の火のブレスを放った。
「ふむ、任せてもらうかの」
丸眼鏡は障壁を用いてブレスを押し返し、ブレスが止んだところで今度は口に向かって穿通礫錐をねじ込んだ。
喉を貫かれ、声にならぬ叫びを上げる甲羅オオトカゲ。
その顎と前脚を鋼鉄壁で持ち上げた丸眼鏡は、マキナに向かって声を掛ける、
「マキナ殿!」
「いつでも良いぜ!」
直後、丸眼鏡が鋼鉄壁を消した瞬間にマキナは露わになった甲羅オオトカゲの腹に向かって灼熱覇王砲をぶち込んだ。
金色の波動が甲羅オオトカゲを包み、あまりの眩しさにコテツ達が手をかざして目を瞑る。
そして、次に見たのは消えかける青い粒子のみであった。
「っしいっちょ上がりだぜ!」
マキナと丸眼鏡はハイタッチを交わし、その後ろでフィオナが「やっぱり暇ですー」と文句を言っていた。
「本来我々の種族だと物理防御特化は最も苦手な部類なのだがな。恐れ入った」
「この調子だと楽して最下層まで行けそっすね」
コテツとオニマルはあっという間に第二層をクリアした三人を見て、頼もしさを感じていた。
「さーって、コテっちゃん、宝箱はどういう順番だ?」
マキナがウキウキした顔でコテツに歩み寄る。
「な、なんだその呼び名は。まあ良い、我々は装備も揃えているゆえ、お前達から開けて良いぞ」
「話の分かるヤツは好きだぜ! おい丸眼鏡ッち、フィオナ、誰から開ける!?」
宝箱の横に陣取りながら声を掛けるマキナに、二人はお先にどうぞと勧めると、恒例の祈りの言葉を唱えてマキナが宝箱を開けた。
中にはHP回復薬が一つ入っていた。
「ちっ、まあこんなもんか。早くソーマと潜りてぇな」
「んぬふっ! マキナ殿のそのセリフには胸がときめくのぉお!」
「なんだかココネさんのそれ、久々に見ましたね」
「そうなのじゃ! リュージ殿が加入してから船に野営にととにかく皆が一緒におる上、最近はマキナ殿とリュージ殿の会話が多すぎて推しカプ萌え成分が不足気味――って置いてかないでくだされ!!」
丸眼鏡が一人熱く語り出してしまったので、マキナとフィオナは竜人コンビを連れて第三層へと転移した。
第3層はローブに身を包んだ魔術師系の敵の群れで、コテツ一人が前に出てひたすら斬撃波を繰り広げた。
広範囲大威力なので魔法と殲滅速度は変わらず、その姿を見てマキナとフィオナも剣王や拳王を取ればこれが出来るのかと目を輝かせていた。
ボスは色違いローブの少し大きな魔術師で、コテツを主軸にマキナが斬空剣でサブアタッカーをこなし、敵の魔法ではオニマルがマキナを結界で守ることによって危なげなく勝利する。
「ここは私の得意な場だったな」
「コテっちゃんの剣技いいな、あたしも早く取得してえ!」
マキナが双剣を振り回している中、丸眼鏡が祈りの言葉を唱えて宝箱を開けると、そこには薬草が一つ入っていた。
「ううむ……なんだか獣人国時代にダンジョンに潜っていた日々が懐かしいのう。よくよく考えるとMP回復薬5個セットなども悪くない部類じゃったな」
丸眼鏡は海龍神ダンジョンで二度も引いたMP回復薬セットを思い出し、薬草に比べれば遥かにマシだったなと思うのであった。
第四層は物理攻撃力に特化した、犬歯が異常に長いサーベルタイガーやサーベルウルフの群れであった。
しかし、物理攻撃と魔法攻撃が通るのであれば敵の攻撃が当たる前に殲滅出来てしまうので全く問題ない。
最後の象ほどもあるサーベルタイガーも、コテツに突進するところを連撃の斬撃波とマキナの灼熱覇王砲で瞬殺だった。
フィオナは宝箱から果物を出したので、丸眼鏡はすぐに収納する。
「本当にレアアイテムが出る雰囲気がありませんわね」
「やはりソーマ殿のこううんはパーティ全体に作用しておる気がするのぅ」
「あいつがいねぇと宝箱開ける高揚感が足りねぇな」
一人一回しか開けていないのにガッカリしている三人を見て、コテツとオニマルはそんな簡単に出るわけがないのに何をガッカリしているんだと不思議がっていた。
まだまだ休憩するほど時間も経っていないので、五人はそのまま第5層へと転移する。
恒例のフィオナのバフが終わると全員が身体強化系スキルを施し、走る。
現れたのは特大のコウモリと後脚が異常に発達したウサギのような魔物の群れで、コウモリは上空をとんでもない速度で飛び回っており、ウサギもとてつもない速度で向かってくる。
「すばやさ特化じゃの。マキナ殿は上を!」
「おうよ!」
丸眼鏡の合図にマキナは上空に炎獄嵐を放つ。
いくら素早く動いたとは言え、広範囲大火力の魔法には為す術がない。
まるで溶けるように粒子化するコウモリを見て、これなら高位の炎獄嵐ではなく中位の炎熱嵐で良いかと、マキナは位を下げて炎熱嵐を連発し始めた。
一方地を掛けるウサギには丸眼鏡の凍土である。
瞬時に凍り付いた魔物がほとんどだが、中には跳躍して免れたウサギも数匹いる。
「コテツ殿は左を、フィオナ殿! 右側を頼むのじゃ!」
「待ってました!」
フィオナは前線に上がりながら、跳躍したウサギ達をホーリーアロウで次々に撃ち抜き、コテツも斬撃波を飛ばして間引きした。
丸眼鏡は凍土で足止めしたウサギ達を穿通礫錐で貫き屠っている。
「っしゃ、上は任せろ!」
「うむ、では今の手筈で行こうかのぅ」
五人は先ほどまでの速度よりは落ちたものの、落ち着いて終着点まで進む。
第5層のボスは丸眼鏡ほどの大きさの金のウサギであった。
速度はマキナより上で、とんでもない速度でコテツに向かって突進していく。
丸眼鏡は即座に特大水球を三つ作り上げると、金ウサギの行く手を阻む。
金ウサギも躱そうとするも、一つの水球に突っ込んでしまい、丸眼鏡はすぐに永久凍土で凍結させ、その後はオリハルコンの監獄を作り上げて凍土を解くと、そのまま拳大まで縮小して圧死させた。
「速すぎてちと焦ったのぅ」
「全然そう見えませんでしたけどね」
「丸眼鏡ッち最強説あるよな、悔しいけどよ」
マキナとフィオナが丸眼鏡の狼耳をモフモフと愛でながらちょっかいを出しているのを横目に、コテツとオニマルは流石に驚き始めていた。
「何者なんすかね、あいつら」
「さあな。あそこにソーマとリュージが入るのだろう。パーティ戦ならこちらもゲイブロス派も歯が立たぬぞ。ゲイブロス派との戦いの時に制圧されたのは油断だと思っていたが、どうやら思い違いのようだ」
オニマルはソーマとコテツの戦いは見ていないが、あのコテツとほぼ互角という話は聞いていたので、改めてパセドの誓いの実力に息を呑むのであった。
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