第18話 打倒・悪魔の木
お互いの手の内をある程度明かしあった二人は14層終着点の石壁の前に並び立つ。
「手順はいいな?」
「おうよ、任せとけ」
「よし、じゃあ行くぞ」
二人は石壁に手を添え、第15層へと転移した。
全ての階層と同じく転移先は真っ暗闇から幕を開けた。
マキナは常夜眼を使い瞬時に状況を把握する。
「灯篭特大! 上空20メートル!」
その声を聞いたソーマは瞬時にボスの間と把握し、オーダー通りの灯篭を上に放つ。
一瞬にして明かりが部屋に灯ると、そこには禍々しい瘴気を纏った大樹と呼ぶにしても大きすぎる木の魔物がそびえ立っていた。
「弱点の火以外は魔法耐性が異常に高けぇ! 斬撃は通るぞ!」
マキナは双種の魔眼を用いて即座に敵の弱点と耐性をソーマに伝える。
「斬撃は通るってもな……大きすぎてどこ狙って良いか分からないぞこれ」
ソーマがボヤきながら抜刀し、碧竜刀にファイアブレードを纏わせた。
「しばらく様子見だ、MPと体力節約しながら突破口開くぜ!」
マキナも紅竜刀に、先ほどソーマから教えてもらったばかりのファイアブレードを付与し、潤沢なMPにモノを言わせて開幕から広範囲の二属性複合中位魔法『炎熱嵐』を放った。
高温度の炎に風属性の突風を合わせることにより、眼前には炎渦の嵐が巻き起こり、敵の多くの枝葉を炭化させていく。
「ああ? 効いてんのかぁ?!」
「マキナ来るぞ!」
マキナの文字通り熱い一撃で眼を覚ました悪魔の木は気味の悪い、低い轟音を轟かせ、周囲の枝葉や根をうねらせた。
直後、ソーマは身体に違和感を覚える。
「なんだ? 力が湧いてくるぞ?!」
「挑戦スキルだ! あたしも同じだ、こいつ強いぞ!」
悪魔の木は蔓を二本射出し二人を襲う。
マキナはバックステップで避け、ソーマはバックラーでそれを受けた。
「さすがに蔓のクセして結構重いな……それに変な粉が舞ったところを見ると状態異常にでもなるのか?」
ソーマは風で粉を遠ざけながら近い場所にある炭化した、人の胴ほどはある太さの根を一線薙ぎ払う。
根は中心部こそ燃えずに残っていたものの、それは空を切るかのようにあっさりと切断された。
「随分柔いな……全部切り刻んで薪にすれば勝ちなのか?」
「油断すんなよ! とりあえず端から斬ってくぞ!」
マキナはそう言うと適度にソーマと距離を保ちながら素早い身のこなしで近場の根や枝を切り刻み始めた。
それから30分ほど、ソーマとマキナは同じような攻防を続けていた。
その間、4度ほど二人は毒と麻痺に掛かったが都度ソーマの魔法によって回復している。
「全然埒があかねぇ! 斬っても気付いたら新しく伸びてきやがる!」
マキナは適当に近場の枝を斬り払いながら、時折襲い来る蔓の攻撃を余裕綽々で躱すものの、表情は険しい。
「向こうの攻撃は慣れれば大したことないんだけどな、ダンジョンも敵はそこまで強くなくて罠が多かったことを考えると、こいつそのものとまともに戦うこと自体が罠なんじゃないか?」
ソーマも適当に枝を剪定しつつも攻撃は無意味と判断し、相手の攻撃を受けないことを重視した立ち回りをしていた。
「あ? こいつがボスじゃなくてどっかに別のがいるってか?」
「操ってるか、憑依みたいな同化か、もしくはあのバカみたいな太い幹の芯にコアのようなものがあるとか……」
「よっしゃ! モノは試しだな、あたしが幹にとっておきをぶちかまして炭にするからよ、穴開けれっか!?」
「任せろ!」
それを合図に二人は詠唱に入る。
マキナの双眼が揺らめく光を帯びたかと思うと、高位魔術師が妙齢になってようやく取得すると言われる高位魔法を放った。
「くらえ! 灼熱天柱!!」
もはや炎とは思えぬ、金色輝煌の閃光が天へと向かってそびえ立ち、辺りを焼き尽くす。
あまりの明るさにソーマはバックラーで視界を覆うが、マキナはその魔眼で真っ直ぐに対象を見つめていた。
視界が戻ると眼前には、大半の部分が黒く炭化し煙を上げる悪魔の木。
「ソーマ! やれ!」
「おう! 穿通礫錐!!」
風と地の二属性複合中位魔法である穿通礫錐。
本来は円錐状の石を回転させて対象を穿つ魔法だが、ソーマはそれを先端部のみ浅い円錐型にした円柱にアレンジし、その代わりに先端に切れ刃、材質が逃げるよう溝を切り込みそれを螺旋状に捻じっていた。
これはいわゆる電動ドリルの刃を模した形状をしており、貫通力、掘削力ともにこちらの世界の魔法を遥かに凌駕する。
ソーマはその特大ドリルを炭化した幹にねじ込んだ。
柔木を穿つがごとく幹の奥深くまで進んだドリルをソーマは魔力を切って消すも、貫通には至っていなかったのですぐさま二発目のドリルを打ち込む。
しかし悪魔の木の太い幹は枝葉に比べて数倍以上の速度で再生し、さらには枝や蔓での攻撃が激化してソーマとマキナを襲った。
「おお、如何にもそこはやめてくれって感じだな」
「やっぱあの幹の中になんかあるっぽいな! 貫通するまで灼熱天柱とお前のなんとかって魔法で行くぜ!」
マキナは迫りくる枝や蔓を一度炎熱嵐で焼き払うと、再度ソーマが穿った穴に灼熱天柱を放った。
直後ソーマが穿通礫錐を打ち込み、穴の確認をせずにそれをもう二回繰り返す。
マキナはホルスターバッグからMP回復薬を取り出すと一本をソーマに投げ、一本を自身で飲み干し様子を見た。
ようやく貫いた巨大な穴の奥には禍々しい瘴気の塊のような黒紫色の霧が蠢いていた。
刹那、マキナの魔眼が再度光りを帯びる。
最適解を導き出すその眼により、再度火属性高位魔法の詠唱に入るマキナを、悪魔の木が黙っていなかった。
気味の悪い轟音の低周波と共にボスの間全体が激しく揺れる。
ただならぬ空気を察知するマキナが最速で灼熱天柱を、物凄い速度で再生していく幹の大穴へと放つと同時、地振動探知によって地中よりマキナに迫る“何か”を探り当てたソーマは、マキナの横からシールドバッシュを放ちマキナを吹っ飛ばした。
突然の衝撃に飛ばされたマキナの視界には地中から飛び出した黒紫色の瘴気に直撃したソーマの宙を舞う姿が、灼熱天柱の煌めく閃光によって鮮明に映し出されていた。
マキナの灼熱天柱によって大樹の中の瘴気が消え、静寂が辺りを包む。
ソーマが意識を失ったことにより灯篭を失い暗闇に閉ざされた中で、双眼から二筋の血を流したマキナは常夜眼を用いてソーマに駆け寄った。
「おい! おい!! 大丈夫か!?」
返答なくだらりと横たわるソーマに焦るマキナ。
「馬鹿野郎! 死ぬんじゃねぇぞ!! ふざけんなよ!!」
眼から溢れるのは涙か血か。
必死に声を掛けマキナは容態を探る。
(息はあるな……でも全身に痣のような紫斑が広がってやがる。瘴気の類か……表情もとんでもなくキツそうだ)
自分ではどうしようもないと判断したマキナは迷うことなく世界樹の粉塵を振りまいた。
黄金の粉塵は光無き暗闇の中でなお美しくきらめき辺りを覆う。
次第にソーマの身体を覆っていた紫斑は消えて穏やかな表情へと戻り、同時にマキナの両眼の痛みも引いてゆく。
マキナはそのソーマの様子にようやく安堵しながら、徐々に空間に広がる金色の粉塵を眺めた。
(初めて使ったがこんなに綺麗なのか、幻想的だぜ……)
空間に広がる粉塵を眺めているマキナだったが突如違和感に気付く。
(……おいおい、まさか木も再生してるのか!?)
無秩序に広がっているように見えた粉塵だが、徐々に粉塵が触れた根や葉が再生し始めてからは木が粉塵を求めるように吸い寄せはじめ、生気を取り戻している。
さすがにもう戦えねぇとソーマを背負い逃亡を計るが、広いボスの間に加速度的に再生する大樹。
あっという間にソーマが開けた大穴が塞がるとともに、先ほどとは比べ物にならない轟音と地震によってマキナはバランスを失い転倒してしまった。
「やべえ!! おいソーマ起きろ!!」
頬を叩くマキナと轟音と地震によって意識が戻ったソーマだが、現状が全く把握出来ずただただ動転している。
「なんだなんだなんだ?!?」
「うるせえあたしにも分かんねぇよ!!」
ソーマが即座に灯篭を打ち上げると、大樹は戦闘の跡など微塵も残さず、幹からどんどんと枝葉を伸ばし、根がとんでもない速度でダンジョン内へと伸びてゆく。
そして次の瞬間、大樹は急速に天へと幹を伸ばし始めた。
ソーマとマキナが倒れた地面の底からもとてつもない大きさの枝が現れ、二人を乗せたまま天井へと迫る。
「うあああああ天井に潰されんぞおいい!!!」
「しっかり捕まってろ!! このまま一緒に上まで行くぞ!!」
ソーマはそう言うとマキナを抱き寄せ頭上に向けて“穿通礫錐”を作り出す。
その形は先ほどとは違う円錐状で、上に向けて飛ばさずにその場で回転させている。
ソーマはその円錐状の下部にスペースを作り、二人を守る傘のような形に変形させた。
幾度もの衝撃と轟音の果て、全てが止み穿通礫錐が解けると……そこは空高くそびえ立つ大樹の中腹ほどの枝であった。
書き始めてユニーク1000、8000PV超えました!
多くの方々に読んで頂けて本当に嬉しく思います!当分一日2話ペースで更新していきますので、今後ともよろしくお願い致します!
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