第175話 リュージの必殺技
リュージは葉巻の煙で輪を作りながらマキナが起き上がるのを待っていた。
「あ、あの人、剣を素手で受けましたよね……そんなことが可能なんでしょうか?」
「うーん、あの赤いオーラが関係してるか、もしくはぼうぎょ特化でステータスを最大限まで使いこなしてるか……いずれにしてもちょっと驚いたね」
(まあそれも驚いたけど、金髪リーゼントがヤンキー用語用いたり葉巻吸って煙で輪っか作ったりと、お手本のようなヤンキーっぽさにも驚くね)
リュージはついにヤンキー座りをして暇そうにマキナを眺め始めた。
「おーい、マジで終わりか? そんなんでよくデケェ口叩けたよナァ」
「……っかー! まさか剣を素手で受けると思わなかったぜ」
マキナは仰向け状態から身を屈めると、ピョンと跳ねて立ち上がった、
口からは血が流れているが、どうやら元気そうだ。
「そう来ねぇとな、ワンパンじゃつまんねぇゼ」
「目覚ましにゃ丁度良かったけどな、マキナ様が起きちまったからにはテメェに勝ち目はねぇぜ」
「口が減らねぇクソアマだ、かかってこいや!」
(どう見てもヤンキーとレディースのタイマンなんですけど)
ソーマは二人のやり取りを見ながら、特攻服でバイクに乗る二人の姿を思い描いていた。
一方マキナはもう一本のカットラス・ジュリアも抜刀し、紅竜刀とそれぞれ黒炎剣を付与した。
双剣に漆黒の炎を纏わせたマキナが、一瞬駆けた後に消える。
「っらぁ! くらえ心眼黒炎剣!」
直後、リュージの後ろに現れたマキナは背後から連撃を見舞った。
不意を突かれたリュージはまともに食らうも、すぐに振り返って蹴りを見舞った。
しかしマキナも瞬時に間合いを取り直しており、リュージの足は空を切る。
ソーマ達からは薄い切り傷と火傷の跡が付いたリュージの背が見えた。
「ふむ、やはりあのオーラかぼうぎょが関係しておるのかの」
「丸眼鏡の鑑定で見えないのか?」
「うむ、ステータスプレートを持っておらぬせいか、竜人族だからなのかは分からぬが、スキルは持っておらんことになっておるのじゃ。ステータスはHPとちから、ぼうぎょに特化しておるが、それでも1000程度じゃの」
(なるほどね。ステータスプレートを持てばスキルが発現する可能性はあるな。にしてもぼうぎょりょく1000程度でマキナの斬撃をあそこまで抑えるのは凄いな。なんかゴルム戦を思い出すぞ)
ソーマは、魔神神殿最下層にて魔神ゴルムと戦った時のことを思い出していた。
あの時もゴルムは二人の剣を素手で受けており、身体を切り刻もうとするも薄い切り傷を付けるばかりであった。
尚、現在はマキナが一方的に攻め続けており、リュージはひたすら受けに回っている。
「おっさん、ちからとぼうぎょはハンパねぇが速度は大したことねぇなぁ!」
「だからリュージだっつってんだろうが! テメェマジでいっぺん死なねぇと分かんねぇようだな!」
途端、リュージの身に纏っていたオーラは黄金色へと色を変え、激しく立ち上る。
「お、オーラの色が変わったね。軍神の覇闘気に似てるけど、かなり激しいし空気の流れまで変わってるぞ」
「うむ、見たことのないスキルばかり使いよるの。さすが他種族と交流を持たぬ竜人族と言うべきかのぅ」
リュージはさらにオーラを大きくしながら、力を込めるように構えていた。
「おうおっさん、必殺技ってやつか? 受けてやっからさっさと打ってみな!」
「こいつはちぃとばかし時間が必要でな……溜めてる間にヤらねぇと後悔すんぞクソアマ」
「あたしは優しーんだ、待っててやるから本気で撃ってきな!」
マキナはそう言うと、双剣に黒炎剣を纏わせたまま、リュージの技を待った。
――それから数分が経過した。
リュージが纏うオーラは数倍に膨れ上がり、チリチリと甲高い音を時折走らせていた。
まるで極小の雷が嘶くように走るオーラの中、リュージは上半身の筋肉を思いきり膨らませ、顔を真っ赤にして血管が千切れんばかりに浮き出ていた。
「おいおっさん、自爆とか勘弁しろよ? まだかかんのか?」
「準備完了だ。マキナちゃん、あの世で後悔しな!」
リュージは口角を上げて笑いを浮かべると、海を背にしたマキナに向かって両手を合わせるように突き出した。
「くらえ、神滅竜砲!!!」
直後、リュージが纏っていたオーラは一気に手の平へと集約され、莫大なエネルギーが特大のビーム状に放たれた。
轟音と共に弾けたように放たれたビームの余波は砂浜を吹き飛ばし、マキナの後ろの海を二つに分かち、特大の水しぶきが水平線に向かって走っていく。
あまりの衝撃に近くで見ていたソーマ達も吹っ飛ばされた。
おおよそ二秒にも満たないあいだ放たれた神滅竜砲。
リュージはその特大ビームの反動を両足で踏ん張ったせいか、190cm近くはあろう身長を半分ほど砂浜に沈め、その先には特大の大穴が海まで続いていた。
「いやいや……シャレになってないでしょこれ……」
「マ、マキナさん!!! あの男、許せません!! 私がマキナさんの仇を!!」
「フィオナ殿落ち着きなされ、直前に縮地で回避しておる」
マキナは何事もなかったようにリュージの後ろに着地すると、とんでもない威力の技に目を丸く見開いていた。
「チッ……どいつもこいつもまともに受けねぇ。オレの負けだ、もう指先すら動かす力が残ってねぇよ」
そう言うと、リュージはえぐれた砂浜の中にドサりと倒れ込んだ。
「おいおっさん……これどうやった? あたしにも教えてくれよ」
「……リュージだっつってんだろうが」
「あ? リュージ、これは魔法か? スキルか? あたしにも出来んのか?! おいフィオナ! こいつ回復させてくれよ!」
フィオナを呼ぶマキナの目は、何かおもちゃを見つけた子供のように輝いていた。
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