第171話 竜人族の島
ソーマ達は現在クルーザーにて予定通り竜人族大陸を目指していた。
マキナは無事息継ぎなしで泳ぎ切ったようで得意げな顔で「一流の海賊」について語っていた。
その日はドワーフ国最西端で一晩を明かし、翌日からさらに西に進む。
寝ている間に自動操縦で西に向かう案もあったが、何かあったら対処が遅れるので大事を取ることになった。
尚、移動中の稽古の際にソーマは青と紫のマグマライト結晶をスキルや魔法のブーストに使えないか試した。
威力が上がったり上がらなかったりしたが、ソーマと丸眼鏡が検証と考察を重ねた結果、碧竜刀の穴に加工した結晶を嵌めこむことで安定して魔法やスキルのブーストが可能になった。
やはり色によって含有魔力が違うようで、希少な紫で試した所、おおよそ10倍ほどの威力になった。
一度使うと結晶は無色になり、使い物にならない。
ソーマは切り札として良いものを手に入れたと、丸眼鏡と共に時間を見つけては結晶を加工し続けた。
そして現在、午後の船番を任されたソーマは海ばかりでつまらないので、最速で西へとクルーザーを進めていた。
マキナ達三人は例の秘密基地で稽古の真っ最中である。
(にしてもドワーフ国の西っても、ドワーフ国もそこそこ南北に長いからな……竜人族大陸がどれだけ大きいか分からないけど、このまま世界一周しちゃったら面倒だな)
ソーマはそんなことを思いながらも操縦席で計器を見つめる。
方位磁石も方角修正機能も標準装備なので、西に向かっていたつもりが北西にズレていた、なんてことはないのだが、それでも竜人族大陸に辿り着く保証は無い。
デッキから遠くを見渡したり操縦席で計器を確認しながら、クルーザーはひたすら西に進んでいた。
それから一時間ほど経った頃、遥か南に陸地らしきものをソーマは見つけた。
(蜃気楼かもしれないけど何かあるっぽいな。一度三人を呼び戻すか)
一旦クルーザーを停泊させたソーマは転移レリーフで秘密基地に行き、三人をクルーザーに呼んだ。
「大陸見つけたってか?!」
「大陸かどうか分かんないけど、陸地っぽいもの見えない?」
四人はデッキから、ソーマが指差す南の方角に目を凝らした。
「あー、ありゃ陸地だな。こっからだと大きさは分かんねぇけどな」
「よく分かりますね、私は目を凝らしても海と言われればそんな気もしてきてしまいます」
目を細めて見るフィオナが信じられないと言った感想を漏らすと、マキナは一応海賊だったからなと得意げに胸を張った。
「丸眼鏡、探知出来る?」
「うむ、大陸と呼ぶには小さいかもしれぬが、島と言うにはちと大きいかの。いびつな円のような形で……竜人族もいるようじゃ」
一応聞いてみたソーマだが、改めて遥か遠くの陸地の全容とそこに住まう竜人族まで確認出来るその探知能力に、驚きを通り越して呆れていた。
「丸眼鏡ッち、こっからあの陸地全部を探知出来んのか?!」
「う、うむ、賢王になってからと言うもの、探知範囲がさらに広くなったからのぅ……」
「ソーマ様も六属性にSランクスキル10個と異常ですけど、ココネさんもここまでくるとちょっと異常な域ですね」
マキナとフィオナも流石に人外染みてる能力に驚愕の表情だ。
対して丸眼鏡は「モブキャラとしては不覚じゃ」と言っているが、出会った当初からモブキャラの域を出ているので、何を今更と言った具合である。
「よし、ちなみにゲイブロス派と光の神の信者に分かれてると思うんだけど、ゲイブロス派の村か街がどの辺か分かる?」
「ちと待つのじゃ……」
丸眼鏡は島中を探知しているらしく、真剣な顔付きで集中している。
ソーマがゲイブロス派とファーストコンタクトを取りたいのは、その方が友好的な展開に持ち込みやすいと思ってのことである。
こちらにはゲイブロスとの面識や秘密基地の書物と装備、それに竜人族のカムイの資料等もあるので、話がしやすい。
「ふむ、今見えてるのが島の北の岬なのじゃが、あの岬からそのまま東側を南下すればゲイブロス派の街があるようじゃな」
「へー、見た目に特徴とかあるの?」
「光の神を信仰する種族の街には決まって特徴的な門があるの。崩壊した聖地跡地のような場所にも同じ門があるゆえ、その門が一切見られない方がゲイブロス派と思われるのじゃ」
なるほどね、とソーマは納得すると、ゲイブロス派の街を目指してクルーザーを進めることにした。
島の北東が主にゲイブロス派の街となっており、島の真ん中に大きな山、そして島の南西が光の神の信者達の街になっているとのことだ。
全速力でクルーザーを進めること数十分、ようやく島の全容が見えてきたという所でクルーザーに何かが当たる。
「あ? なんだ? 魔物でも出たか?」
マキナはデッキから海を覗くも、そもそもクルーザーは認知阻害結界を纏っているので魔物には見付からない。
「いや、おそらくじゃが、島全体を覆う結界に入ったようじゃの。ちと変わった結界ゆえ、見破れなかったのぅ」
「はー、島全体を覆うなんて相当の術者だな」
「さすが光の種族と言ったところかな。もしかしたら魔道具的な何かで作ってるのかもね」
「あ、空から数人の竜人族が向かってきますよ!」
フィオナの声に三人も進行方向の上空を見つめる。
どうやら結界に侵入したことで向かってきているようなので、ソーマは速度を極限まで落として様子を見ることにした。
竜人族達はすぐに上空までやってきたが、流石に神の船の認知阻害結界を見破れないのか、必死に結界内に侵入したものを探しているようだ。
「で、どうするよ」
「んー海の上で空の竜人族を相手にしたくないから、出来れば上陸してから話し合いたいかな」
「ではこのままゆっくり進めば大丈夫そうですわね」
依然として竜人族はソーマ達を認識出来ないようなので、ソーマ達も極力波を立てない範囲でゆっくりと島を目指したのだった。
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