第170話 ジュリアの剣と謎の壺
ジュリア=ローゼルのメモ紙を見てテンションが上がったマキナはどこに宝があるのかと躍起になって探している。
その横で丸眼鏡は小声でソーマに話しかけた。
「ううむ……あれは自身で見付けたいのかのぅ」
「もう少し待ってやろう。それが大人ってもんだろ」
まるでマキナを子供扱いするソーマだが、事実精神年齢を疑ってしまうようなことが過去に何度もあるので致し方が無いことだ。
「うがぁぁどこだ! どこに宝がある!」
既に地振動探知で隠し部屋への入り口を探り当てているソーマと丸眼鏡は、叫びを上げて部屋中をひっくり返しているマキナを静かに見守っていた。
「おい! おまえらも突っ立ってねぇで探せよ!」
「おお、じゃあお言葉に甘えて」
そう言うとソーマは重厚な木製の机をずらし、岩の床の小さな切れ目に碧竜刀を差し込んで煽るように持ち上げた。
そこには正方形の隠された地下室への入り口があった。
「んだよ分かってたのかよ!」
「丸眼鏡に聞かないとこ見ると、てっきり自分で探し当てたいのかと思ってね」
分かってんなら言えよと階段を下りながら言うマキナに、ソーマ達も続いた。
地下は小さな部屋になっており、木製の美しいテーブルの上には一本の剣と、不思議な骨とう品のようなものが置いてあった。
「見ろよこれ、多分ジュリアの使ってた……カットラスか」
マキナは剣を手にするとソーマ達に見えるように掲げた。
漆黒の鞘には黒銀のアダマンタイトと思しき装飾が施され、ところどころに宝石が埋め込まれている。
剣を引き抜くと、幅広の反りがある刀身。
刀身とナックルガード、柄も全て黒銀で、アダマンタイト製のようである。
いずれもデザイン性の高い彫刻が施されており、刀身の根元には穴が二つ。翠と紫の魔石が埋め込まれていた。
「如何にも海賊が好きそうなデザインだね。シンプルさの対極にあると言うか」
「ああ、滅茶苦茶好みだぜ。長さも丁度良いしな」
マキナは重心を確かめるようにクルクルと上に放り投げてはキャッチし、何度かカットラスを振るって満足そうな笑みを浮かべると、鑑定の為に丸眼鏡に渡した。
「ふむ……想像の通り、アダマンタイト製じゃの。魔石は風と闇のようじゃ。わたくし達が持っている大精霊の宝玉と同等で、風と闇の魔法のダメージと効果を大きく上昇させるようじゃの」
「へっ、なるほどな。風は海賊にゃ持って来いの属性だ。闇は大方ジュリアの象徴的な属性ってこったな。マキナ様にはおあつらえ向きだぜ」
「にしてもツイてるね。双剣の片方はミスリルのドワーフ製だったし、紅竜刀の相方には最高の一本じゃないか」
マキナは早速ドワーフ製のカットラスをムフフの袋に仕舞ってもらうと、両腰に紅竜刀とジュリアのカットラスを帯刀させ、両手を交差させるように抜刀した。
「見ろ! 神剣・紅竜刀と伝説のカットラス・ジュリアの双黒炎竜剣だっ!」
さらに双剣に黒炎剣を付与し、踊るような乱舞を見せつけるマキナだが、水着のせいもあってどうにも締まらない。
「うんうん、カッコいいカッコいい」
「うむ、決まっておるのぅ」
「……ソーマ様はこういうのがお好きなんですか」
パチパチと乾いた拍手を送るソーマと丸眼鏡に、フィオナは本当にカッコいいと思っていると勘違いしたのかこめかみを抑えて呆れていた。
「はー今日は最高の一日だぜ! で、もう一個の宝はなんだ?」
上機嫌のマキナはもう一つの骨とう品のようなものを丸眼鏡に鑑定しろと促す。
そちらはオリハルコンのような白銀で、取っ手の付いた壺のような形をしている。
丸眼鏡は全知の神眼を用いて鑑定するも、時間が掛かっていた。
「分からない?」
「ううむ……素材はオリハルコンがメインだと思うのじゃが、合金素材が謎じゃ。魔力回路なのかの、何らかの回路があるのも分かるのじゃが、魔力を流しても特に反応せんのじゃ。用途も不明じゃのぅ」
「あ? 壊れてるんじゃねぇのか?」
マキナは壺を振るも、中に何か入っているわけではないようだ。
「回路があるってことは用途はあるってことだろうね。ただのオリハルコンの壺ってわけじゃなさそうだし、とりあえず貰っておこう。どこかで何かに使えるかもしれないし」
そうじゃの、と丸眼鏡は謎の壺をムフフの袋に収納した。
「あとは何でジュリア=ローゼルが竜人の血を吸わせろって言ったかだね。ジュリア=ローゼルの伝説ってジュリアの消息については語られてないのか?」
「あーなんでも天災かとんでもねぇ魔物に半全滅させられたって話だぜ。あの大海竜すらも倒したって言われてる海賊だからな」
ふむ、とソーマは顎に手を当てて考える。
「憶測だけど、それが天災や魔物じゃなくて竜人族だったとしたら何となく辻褄が合うね」
「こじ付けみてぇな気もするけどな。まあ行ってみりゃ分かるんじゃねぇか?」
相変わらず楽天的なマキナだが、言っていることは正しいのでソーマは「それもそうだな」と、ジュリア=ローゼルのアジトを出ることにした。
来た道を戻り、再度海の底の横穴に潜ろうとした時、ソーマは思いついたように謎の壺を出してもらった。
そして、その壺を海に沈めてみるも、特に何も起こらない。
「これが水を吸ってここまでの入り口を作るのかと思ったけど違うようだね」
「一流の海賊ならここまで息継ぎ無しで泳げるぜ」
マキナはそう言うと、見せてやるぜと一人勇んで飛び込んでいった。
「ふふ、途中で溺れてたら面白いですわね」
「そうなったら上がったあとのマキナの言い訳が楽しみだね」
フィオナのブラックジョークにソーマも悪戯な顔をして笑い、三人もマキナの後に続いた。
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