第168話 パーリーピーポー
翌朝、ソーマ達は早朝稽古で昨夜のように1対2の模擬戦をした後、宿に帰ってシャワーを浴びた。
丸眼鏡にピアスを通して連絡すると、王城で両親と朝食を取るとのことだったので、ソーマ達は三人で広場で朝食にすることにした。
尚、ピアスで会話する際は漏れなくエルにも聞こえているので、エルの手が空いてる時は時々会話もしていた。
ここ一ヶ月ほどはダンとエルも早朝と夕方に自主訓練を行なっているらしい。
エルは二属性を持っているので大魔術師の取得を目指しているらしく、時折ダンからどうすればこれ以上強くなれるかと聞かれ、ソーマは詳細に答えることにしている。
「さて、飯も食べたことだし我らがココネ博士を迎えに行きますか」
「おう!」
「はいっ!」
三人が城に行くと、丸眼鏡は入り口で待っていた。
「おはよう。昨日はお疲れ様」
「うむ。して、ちょうど竜人族の住まう地の見当が付いたのじゃ。詳しくは街を出た後にでも話すつもりじゃが、まずは王に出立の挨拶に行こうかの」
「おーさすが丸眼鏡ッちだぜ!」
マキナはそう言いながら丸眼鏡の狼耳をもふもふと撫でている。
「ちょ、くすぐったいのじゃ! さて、行こうかの!」
いそいそと城に入る丸眼鏡を小走りで追いかけるマキナを見て、フィオナが小声でソーマに話し掛ける。
「ふふ、マキナさん一日ココネさんと会えなくて寂しかったんですかね」
「えーそうなのか? なんだかんだ丸眼鏡もみんなと仲良いからなぁ」
和気あいあいと丸眼鏡にちょっかいを出すマキナを見て、確かにマキナがああいう感じで接するのは丸眼鏡だけだなと思うソーマであった。
謁見の間にそのまま入った四人はライル王に一礼をする。
「おおソーマ達か。もう発つのか?」
「ええ、一応出発前の挨拶に来ました」
「気遣い感謝する。また是非寄ってくれ。それまでに私も騎士団も強くなって待っておるぞ」
ソーマは基本的にあまり国や王と積極的に関わりたいと思っていないが、ライル王だけは別であった。
本来なら城が開く前に街を出たい気持ちもあるが、こうして挨拶にくればその気遣いへの感謝を言葉にしてくれるので、ソーマも気持ちが良い。
「分かりました。次戻ってきた時も言ってもらえれば稽古には協力します。古代文字の解読の件も宜しくお願いします」
「分かった! 無事四人で帰ってくるのを待ってるぞ! いや、もしかすると仲間が増えて5人になるかもしれんな!」
王は豪快に笑いながら、次も美女だと良いなと茶化すので、ソーマは「次は絶対男って決めてますから」と各地で言い回っている言葉を王にも言って、城を後にした。
城下町では必要な物の買い出しをする。
今回はソーマの発案もあってクルーザーの上でイベントを開くので、ソーマ達は食材や水着の買い出しに出た。
丸眼鏡がソーマの分は自分とマキナで選ぶと言って聞かないので、ソーマは一人で街を歩きながら、派手な花柄のシャツとサングラスを人数分購入し、一人広場でパルテドリンクを飲んでいた。
(マキナと選ぶって言っても、絶対マキナに聞いたところで『それで良いんじゃねぇか?』ってなる気がするんだけど)
ソーマの予想は案の定的中しており、水着屋ではむしろフィオナが丸眼鏡に茶々を入れてあーでもないこーでもないとソーマの水着を選んでおり、マキナはあまり関心が無いようであった。
結局丸眼鏡はマキナの水着選びでもかなり口出ししていたようで、ジッと待っているのに耐えられなかったソーマはライル王都内を散歩しながら街並みを見て回った。
二時間ほどで買い物を終えた三人がピアスでソーマに声を掛け、ようやく出発となった。
王都を出ると北西の海岸を目指して走り、認知阻害で見えなくなっている帆船風クルーザーに乗り込むと、すぐに海に出た。
時刻はちょうど二時、今日のところはせっかく買い物もしたしということで件のイベントを開くことになった。
皆は早速水着に着替え、ソーマはサングラスと花柄のシャツも羽織る。
デッキに土魔法でバーベキューセットを作ると、肉に魚に貝に野菜と次々に並べ、マキナは酒を並べ、丸眼鏡とフィオナはカットフルーツも皿に持って準備を整えた。
「よーし良いね! みんな今日はテンキュー! パーリィーを楽しもうゼー!」
「誰だおめぇ!」
「違うんだよ、こういう感じなんだよパリピって。きっと。多分」
そう、ソーマがやって見たかったのはクルーザーでバーベキューをしながらパーティーを開くセレブのパリピ(パーティーピープル)スタイルのイベントだったのだ。
「よく分かんねぇけどいいや、とりあえず乾杯だ!」
「「「かんぱーい」」」
ソーマはノリノリで肉を焼いては皿に盛り付け、三人も海の上で水着を着ながら酒を飲む開放感を楽しんでいた。
「にしてもなんだよそのダセーシャツはよ」
「え、なんかパリピってこういう感じかなと思って。マキナの水着は白にしたんだね」
ライル王国の祝賀会では漆黒のドレスに身を包んでいたマキナだが、今日は丸眼鏡の勧めもあってシンプルなビキニにリボンの付いた、綺麗且つ可愛さもある物だった。
褐色肌とビキニのコントラストが美しく、白髪との色のバランスも非常に良い。
マキナのスタイルや美しさを引き立たせる水着となっていた。
「おう、ど、どうだ?」
「え、凄く良いと思う。マキナって黒のイメージがあったけど、白も凄く似合うね。なんていうかマキナの美しさが際立ってる感じがする」
「あ、ああ、あんがとよ」
ソーマに露出の高いビキニ姿を見られ、褒められたことに照れたのかマキナはグイッと葡萄酒を煽って目を逸らした。
「ソーマ様! 私はどうですか?」
負けじとフィオナがソーマに駆け寄る。
フィオナこそ白のイメージが強かったが、今回はマキナが白を着ているのもあって可愛らしい水色のビキニだった。
真っ白で透き通るような肌と爽やかな水色がフィオナの雰囲気によく似合っている。
フィオナの神秘的で可憐な雰囲気が際立つと言えば良いのだろうか。ピンクではこうならなかっただろう。
「へー、ピンクとか選ぶのかと思ったけど水色凄く似合うね。さすが世界樹の巫女というか、フィオナの神秘的で可憐な感じにピッタリだね」
「ほ、ほんとですか! 嬉しいです!」
フィオナが満面の笑みでソーマの腕に抱き着く。
ソーマもさすがにこの露出の高さでこの密着感は刺激が強いぞと目を逸らしながらフィオナを引き剥がした。
「全くふしだらな女じゃのぅ……」
「ふふ、でもソーマ様今顔赤くなりましたね? 私のこと女として見てくれてるんですねっ!」
嬉しそうにはしゃぐフィオナの横では水着の上に、薄手の長いパーカーのような青い服を着た丸眼鏡が卑しいものでも見る目付きでフィオナを見ていた。
「丸眼鏡は水着じゃないの?」
「ふふ、ココネさんも可愛い水着なんですよ!」
そういうとフィオナはズバッと丸眼鏡のパーカーを脱がした。
紺色に白と赤のストライプが入ったフリル付きのオシャレなデザインのビキニで、可愛らしく且つセンスがあった。
ストラップ部分にもリボンが付いており、小さい獣人の丸眼鏡にはよく似合っている。
尻尾の部分は穴が開いて尻尾を出せるようになっており、フリルがその穴の周りに付いているのでそれもまた可愛かった。
「やっぱ丸眼鏡ってセンスというか審美眼があるよね。めっちゃセンス良いし可愛いじゃん」
「わ、わたくしはモブキャラゆえ、視界の外にでも置いといて下されば良いのじゃ」
(にしても丸眼鏡は結構胸が大きいんだな。いつもローブ着てたから分かんなかったけど)
フリルの付いた谷間に視線が行き、そんなことを思っているとフィオナがジト目でソーマを覗き込む。
「ソーマ様、今ココネさんの胸見てましたよね?」
「……え? ……いや、見てないよ?」
「いえ! 絶対見てました! マキナさん! ソーマ様がココネさんの胸見てましたよ!」
エルフは高身長でスレンダーな者が多く、結果的に胸が大きくなりにくい種族のためか、フィオナは同じ境遇のマキナを味方に付けようと必死なようだ。
「てめぇ女に興味ねぇって振りしつつフィオナが密着すりゃ顔赤くして丸眼鏡ッちの胸もちゃっかり覗くとはどういうこった?! あぁっ?!」
「ち、違うから、そう言うんじゃ――」
「違いませんっ! ソーマ様にはお仕置きです!!」
直後、フィオナとマキナはそれぞれソーマの手を持つと覇王の豪闘気を使って助走を付けて空高くに向かってぶん投げたのであった。
投げる寸前に肩の関節が外れる音を聞いた気がするが気にしない。
さらに二人はそのソーマに向かって全力で局所突風を用いて加速させる。
ソーマはクルーザーから打ち上げられたロケット花火のように空目掛けて飛んでいき、遥か遠くの海面に打ち付けられて盛大な水しぶきを上げた。
船ではその様子を見ていた三人が大爆笑し、丸眼鏡はこれは後でムフフの記憶で見直そうと一人ヌフヌフしていた。
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