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運に寵愛された転換転生者【完結済】  作者: 大沢慎
第6章 世界の秘密編
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第166話 講習会


 ライル王国騎士団の稽古はまず、ソーマ達個人と騎士団員多人数での模擬戦を行うことになった。

 300人ほどの騎士団は最初に5人1組の60組に分かれ、王とソーマ達は一組と5分間の模擬戦を一時間半ほど掛けてこなした。

 次に10人一組の分隊に分かれ、王が一旦実務に戻るというので、一組五分間の模擬戦を一時間ほど掛けて終わらせた。


 普段から組や隊で分けた訓練もしているのか、非常にスムーズに稽古は進み、模擬戦でもある程度の戦略や統率は取れていたが、それでも強力な個の力に対して数で制圧するという訓練はそもそも強力な個無しには不可能なので、今回の訓練は獣人国騎士団にとっても貴重な機会となるだろう。


 王は実務から戻ってくるとソーマ達に感想を聞いた。


「なんつーんだろうな、人数の多さが活かせてねぇよな」

「そうですね……結局スキルとステータスで押し切れてしまうというか」

「うん、強力な個人に対する多人数戦のセオリーとか戦略をきちんと立てた方が良いね。それに加えて個々人の戦力の底上げは必須かな」


 やはりそうか、と王は問題点を改めて認識したといった様子だ。


「して、どのような訓練が効果的だと思う?」

「とにかく強い相手との模擬戦だね。騎士団長の……ラングドックさんか。彼が小隊長や分隊長とある程度の期間をみっちり毎日模擬戦して育てて、小隊長と分隊長がその後同じように自分の隊員を育てれば良いんじゃないかな。その過程でスキルもトップダウン式に伝えていけば良いと思うよ」

「ふむ、何故模擬戦なのだ?」


 王の問いに、ソーマはシンプルに「強くなるにはそれが一番早い」と答えた。

 ステータスは数値よりも使いこなす方が重要である。スキルに関しても実際に戦った方が取得しやすいものも多いので、とにかく戦うことは最重要項目であると、ソーマは思っていた。

 ただ、斬空剣や不斬剣のような概念の取得に関しては戦うことよりも考える工程や体に覚え込ませる稽古が重要になる場合もある。


「ちなみにヴァンは剣豪と大魔術師は取得したの?」

「ああ、おかげさまでな。なかなか苦労したぞ」

「さすがだね。じゃあ騎士団員は最低でも剣士クラスのスキル取得と、騎士団長と小隊長クラスは剣豪スキル取得も必須にした方が良い。少数精鋭で行くなら金を掛けてでも回復術士とバフ持ちは集めた方が良い気もする」


 王は淡々と語るソーマの言葉にしっかりと耳を傾け、頷いていた。

 一冒険者からここまで学び取ろうとする王がいるからこその獣人国の強さだろう。


「助言感謝する。やはり基準値が高い者の意見は参考になるな」

「でも今の話が実現すれば獣人国は強くなると思うよ」

「だろうな。ではもう一周、10人の小隊と戦ってくれるか。私は観戦して一対多人数戦の戦略を立てよう」


 ソーマ達は了解し、それぞれの持ち場へと戻った。



 昼休憩時は稽古場にて支給された弁当を、ソーマ達は騎士団員達と食べていた。

 各々騎士団長や小隊長達に囲まれながら質問に答えつつの食事を取っている。

 ソーマの隣には騎士団長のラングドックが座り、今後の育成方針などについて議論を重ねていた。

 ラングドックは騎士団の中でも王の特別な訓練をパスした唯一の人物とあって、戦闘力も突出している。


「では全員が身体強化を得ることは可能ということですか?」

「そうですね、俺の父親もMPの無い剣士だったけどレベル50を越えてから突如MPが増え始めて身体強化を使えるようになってたんで、MPは上がるようになるという意志を持ってれば上がると思いますよ」

「そうですか! ちなみに小隊長以上は剣豪スキル必須とのことですが、現実的に可能でしょうか」

「出来るかどうかじゃなく、絶対にやるって意志とそれに伴う行動が必要です。出来るか出来ないかと考えている時点で迷いがあるんですよ。スキルの取得は意志力が不可欠なので、王やラングドックさんが絶対にそうするという強い意志を団員に伝播させていくことが大切ですね」


 なるほど、と武者震いをしているラングドックを見て、ソーマもこの調子であれば一先ず大丈夫かと安心しながらも議論を続けた。


 午後はソーマ一人とマキナ・フィオナのペアが、隊長クラスと一般兵を別々に分けて講義をしていた。

 内容は取得必須スキルとその説明、取得のコツについてだ。

 マキナ・フィオナペアに関しては主にフィオナが講義をし、剣に関してはマキナが実演をしている。

 途中からは合同でソーマとマキナが自身のこうげきりょくを明かしながら鉄柱に斬鉄剣を見舞う実演も為され、同等のこうげきりょくとスキルを有していてもステータスを使い切っているかどうかでまるで威力が変わると言う説明もされた。


 さすがに王は一日騎士団に付きっ切りというわけにも行かないらしく、度々顔を出しては実務に戻っていた。

 おそらく昼食すら取っていないだろうが、それでもソーマ達が騎士団に稽古を付けてくれているのが嬉しそうだ。

 講義内容は専門の書記が付いており、後に全て王に伝えられることになっている。


 約二時間に渡る講義と質疑応答が終わるころに、王が装備を整えて顔を出した。


「ご苦労。ソーマ達もありがとう、感謝するぞ。してフィオナ、疲れてなければ私と模擬戦はどうだ?」


 強くなった弟子との戦いが楽しみな王の意気揚々とした様子に、相変わらずだなとソーマ達は顔を綻ばせた。


「光栄です! 是非お願いします!」


 フィオナも乗り気なようで、ソーマとマキナ、それに騎士団員は観客席へと素早く移動した。

 どうやら王の特別な訓練を受けていたフィオナにはある程度のファンもいるらしく、時折フィオナへの歓声や激励が飛び交う中、二人の模擬戦は幕を開ける。


「ライル王様、宜しくお願いします!」

「うむ、手加減無しで行くぞ!」


 直後、二人の身体はオレンジ色のオーラを纏う。

 フィオナは真っ先に英雄神の歌を紡ぐと、順次歌のバフを重ね掛けしていく。

 緊張感漂う空気の中、美しい歌声が音色を変えて響き渡った。どうやら王はバフを掛け終えるのを待っているらしい。


「手加減無しじゃありませんでしたの?」

「ふっ、本気の状態になってからだ! いくぞ!」


 王は今回、大剣ではなく片手剣とバックラースタイルでフィオナ戦に臨んでいた。

 やはり格闘家相手に大剣では分が悪いとの判断だろう。

 王はまず、斬空剣の連撃を用いて中距離から牽制する。

 剣豪取得の必須スキルである斬空剣をフィオナは易々と避けながら王へと距離を詰めていく。


「どっちが強えと思う?」

「んー、剣豪取っちゃったヴァンは滅茶苦茶強そうだね。フィオナは近接じゃなくて魔法戦の方が有利だろうけどそういうつもりも今のところなさそうだし」


 剣豪や大魔術師を取得するとソーマ達はクラスチェンジしてステータスも増加したが、王は職業が王なのでクラスチェンジは考えにくい。

 その場合、剣豪と大魔術師取得によるステータス上昇ボーナスが付くのかどうかがソーマは気になっていた。


 フィオナは距離を詰めると一足飛びに王の間合いへと入り、回し蹴りを繰り出した。

 王はバックラーによるシールドバッシュで蹴りを弾き返すと、片手剣で剣撃を繰り出す。

 フィオナも弾かれた反動で身体を捻りながら剣撃を躱しつつ、剣を持つ右手に狙いを定めて打撃を繰り出した。


 ステータスが圧倒的に高い王だが、フィオナは各種バフに加えて覇王の豪闘気に気功の重ね掛けが出来、さらに挑戦系スキルの不退転の魂もあるので、そのステータス差を埋めることが出来ている。


 しかし、ライル王はステータスの差を埋めた程度で勝てる相手ではない。

 フィオナは、ローガンの前でソーマと戦った際に特にそれを痛感していた。

 相手の動きを読みながら最低限の動きで防御と回避を繰り出し、意識の隙間を狙うように攻撃してくるその技は、いくら手数と速度で上回る格闘家とは言え躱し難い。

 フィオナは戦いながら、常に自身の隙や死角がどこにあるのかを意識しながら立ち回っていた。


(おお、マキナもかなり立ち回り方を変えたけどフィオナも工夫してるな。前みたいに真っ直ぐ攻める感じじゃなくて相手と自分のことを意識して戦ってる)


 ソーマはフィオナの戦いをみながら、成長を感じ取っていた。

 そしてそれは王も同じのようで、一瞬攻めに転じようと剣先がピクリと動くもすぐにフィオナがカバーするのでなかなかカウンターを狙いに行けない様子であった。


(まあでもヴァンならすぐにそれも見切ってくるだろうけど、どうなるかな)


 一流の剣士は勘や読み等の嗅覚が異常に鋭い。

 それを体感で知っているソーマは、この状態もそう長くは続かないだろうと思っていた矢先、フィオナは大量のホーリーアロウを用いて先手を取った。


 まるで十指から別々に放っていると見紛うほどの大量のホーリーアロウが、フィオナの両手両足の攻撃に加えて王を囲むように襲い掛かる。

 王は即座に背後に鉄の地壁を作り上げると、それを盾に後退して間合いを取った。

 後退る王に対して追いかけるように放たれるホーリーアロウに、さらにフィオナは追撃で凍土を使って足元を狙っていく。


 跳躍すれば光の矢の餌食となるが足元は凍土が襲い来る。

 フィオナ得意の搦め手は王を追い詰めていった。

 王はすかさず高位範囲魔法の炎獄嵐で反撃に出るも、フィオナは結界を使えるので相手の魔法は歯牙にもかけない。

 少し間合いがあいたので、フィオナは再度英雄神の歌を重ね掛けするほどの余裕が生まれていた。


「はーっ、相変わらずえげつねぇな。こっちの魔法は結界で防いで地と空の両方から遠距離攻撃だろ。近付きゃ格闘も使えてこっちの有効打も即座に回復だもんな。反則だぜあんなの」

「どうかな。ある程度の速度とHPとぼうぎょりょく、圧倒的なこうげきりょくがあれば突破は出来ると思うけどね。ある意味で大剣の方が有利は取れたかもしれないけど、ヴァンのステータスなら片手剣でも全然イケるだろ」


 どういうことだ? と問うマキナに、ソーマはヴァンの目を見て考えることを予測すると、そろそろ頃合いだから見てなよと諭す。


 直後、ヴァンは大盾のような鉄の地壁を目の前に作り出すとフィオナに向かって突進した。

 フィオナは凍土を放って対処するも、跳躍でそれを躱す王。

 ホーリーアロウは次々に鉄の地壁を穿つも、王もそれを破壊されぬように何重にも鋼鉄地壁を作り出していた。

 小手先の攻撃では破れぬと判断したフィオナは特大のホーリースピアを鋼鉄地壁に向かって射出する。

 数枚重ねの地壁を突き破ったホーリースピアを王はシールドバッシュで弾き飛ばすと、そのまま大上段で振りかぶった片手剣から、豪速の斬撃波を飛ばした。

 

(なるほど! 斬空剣じゃないのか!)


 フィオナは紙一重で斬撃波を躱すも、それが災いした。

 ソーマやマキナを相手に斬空剣は見慣れていたフィオナだが、空間を斬り裂く斬空剣に対して斬撃波は剣圧を飛ばす技だ。

 王のステータスで放った全力の斬撃波は空気を斬り裂く。その通り道は真空状態となり、通り過ぎた後は周囲の空気を巻き込んで強烈に引き寄せる力が働いた。


 紙一重で躱したフィオナも当然斬撃波が通った空間に引き寄せられるように一瞬態勢を崩してしまい、その隙に王は素振りの心眼斬空剣をフィオナの首に放ち、優雅に着地する。

 死を予感したフィオナはなんとか両腕のガントレットで首を守ってハイヒールを重ね掛けしていたが、実際には斬空剣が放たれることはなかった。

 もし王が心眼斬空剣を本気で放っていれば、今頃フィオナの首は身体と繋がってなかっただろう。


「強くなったなフィオナ。だが、私も強くなっているぞ」


 切断される首の残像が脳裏に過ったフィオナは、いつの間にか止まっていた呼吸を思い出したかのように始めると、肩で息をするように深呼吸を何度も繰り返していた。


「い、いえ、さすが王様です! まだまだ精進致します!」


 恭しく礼をして敗北を認めたフィオナに、観客席からは拍手と歓声が上がっていた。


「はーなるほどな。ああいう押し切り方があるのか。あたし好みだな」

「隙を突いたり裏をかいたりって戦い方がああいう大胆な攻撃を引き立たせるって面もあるだろうね」


 なるほどねぇ、とマキナは感心したように頷いていた。


 盛り上がる稽古場で最後に為されたのは威圧系スキルの取得であった。

 まずソーマが王に対して死神の威圧眼を叩き込んだ。

 Aランクスキルの覇王の豪威圧を取得している王にとって、本来ならSランクスキルの死神の威圧眼はかなりキツいはずなのだが、最初の1回だけは一瞬気圧されたように見えたものの、その後は持ち前の精神力と気合いで豪胆に笑いながら受け続け、数回受けた後に死神の威圧眼を発現させた。


「はっはっは、死神の威圧というからどんなものかと思ったが大したことないな!」


 マキナとフィオナもこの訓練の際には凄い剣幕で思い切りテンションをぶち上げて取得していたが、王に至っては笑っているので、やはり肝が据わっているというかぶっ飛んでるのだろう。


 さらに王の特訓に耐えたと言われる騎士団長も持ち前の気迫で死神の威圧眼を取得し、その後300人の騎士団に対してなるべく出力を下げてソーマは威圧を放った。

 騎士団員達は大声で気迫を叫びにしながら威圧に耐えており、次々に『威圧』や『覇気』を発現させていた。

 中には30人ほど『覇王の豪威圧』を発現させた者もおり、最終的に一人残らず威圧系スキルを取得するまで稽古を続けると、終わり際には多くの騎士団員達が仲間を称え、歓喜と涙で稽古の幕を閉じたのであった。



いつもお読み頂きありがとうございます

楽しんで頂けたら嬉しいです。

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