第16話 紅竜刀とボス対策
ソーマとマキナは10層の終着点まで来ていた。
9層を1時間弱でクリアし、10層は50分ほどでクリアしている。
風探知による正解ルートを探すのが運任せになるため、引きが悪ければ2時間ほどかかるところをこの時間でクリアしている辺りはさすがにこううんSSSのソーマである。
ちなみに9層の宝箱からはソーマがミスリル製のバックラーを手に入れていた。
そうそう当たりばかりは出ないかとボヤくソーマに対し、普通はミスリル装備なんて当たり枠だからな? ぶち殺すぞ? と死んだ目のマキナがツッコミを入れていたのは言うまでもない。
「さーて、ようやくあたしの番だな」
10層の宝箱の前でマキナはウキウキした目で宝箱の前に立つ。
「ようやく一般的な宝箱の中身を見れるわけだ」
奇跡の剣と当たりのバックラーを手に入れているソーマからすれば、どんな普通のものが出るのかと興味津々である。
「おまえ、マジで命の恩人じゃなきゃぶち殺してるからな」
漏れ出る殺気が怖いよとなだめるソーマの横で、マキナが宝箱に手を掛け……るのをやめてなにやら黙っている。
「どうした、開けないのか?」
「い、いや、開けるんだけどよ……」
そう言いつつもマキナは手を伸ばしては引っ込めを繰り返している。
「開けないなら俺が開けるぞ」
「……わーったわーった、開けっから!」
マキナは観念したとばかりに手を合わせ小声の早口で「女神様どうか素晴らしい装備をお与えください」と祈り、宝箱を開けた。
(ぷっ……こいつ俺が仰々しい祈りの言葉を唱えた時にバカにして笑ってたのに、碧竜刀が出たから真似してんのか)
二人は真剣な目つきで宝箱を覗く。
そこには……燃えるような深紅の鞘に納まる剣が現れた。
「……おいおい嘘だろ……おい! あたしにも出たぞ!!」
呆気にとられるソーマの横で大はしゃぎを見せるマキナ。
最上級のにんまり顔で鞘を手に取り、ゆっくりと刀身を引き抜くと、全てを映し出す鏡のように美しい白銀の刀身に揺らめく炎を思わせる刃文、そしてやはり同じ材質であろう白銀のナックルガード。
反りや刀身の幅を見ても、正真正銘のカットラスである。
柄も碧竜刀と同じく、強靭であろう革巻き仕上げであった。
「すげえ! すげえよ!! おまえの言ってた通り、長さも重心も重さも形も全部理想だぜ!! まさか揃いも揃って神具クラスのお宝が出るとはな!!」
飛び跳ねながら剣を嬉しそう振るするマキナを見て、ソーマは顔をほころばせた。
「おい聞いてんのかよ! おまえの剣も見せてみろ!」
二人は二振りの剣を目の前に掲げる。
鞘は漆塗り仕上げのような艶やかな光沢を帯び、反り伸びやかな深い青瑠璃と深紅の色が対となっている。
刀身は輝きを放つ白銀色で、碧竜刀には波を思わせる刃文が、マキナのカットラスには炎を思わせる刃文が浮かび上がる。
鍔も同じ材質と思われる白銀色で、形は碧竜刀は日本刀を思わせる楕円だが、カットラスは西洋のサーベルを思わせるナックルガードだ。どちらも小さな穴が三つずつ開いている。
長さも反りも小太刀とカットラスなので変わらず、カットラスの方が少し幅広になっていた。
「対の二振りみたいだな……。おまえの剣、名前なんつったっけ?」
「碧竜刀だね。意味はまんま、碧い竜の剣って意味だけど」
「じゃあこいつは紅竜刀ってとこだな。気に入ったぜ、最高だ。こいつなら竜でも斬れる気がするぜ」
マキナは紅竜刀を大事そうに腰に据え、ナックルガードを撫でた。
「マキナ」
「なんだよ」
「良かったな」
ソーマはそう言うと拳を突き出す。
へへっ、とマキナは嬉しそうに照れ笑いし、拳を合わせて返した。
その後二人は順調に階層を伸ばし、現在は14層目の終着点にいた。
主に石の壁と天井ばかりだったダンジョンは階層を追うごとに木の根のようなものが生え始めている。
その後の各階層の宝箱からは木の実や干し肉、MP回復薬など至って普通のものであったが、食料が不足していた二人にとってはある意味で“今一番必要なモノ”であったのかもしれない。
14階層の宝箱はマキナが開けることになった。
「へっ、そうそう何度も奇跡が起こると思っちゃいねぇがおまえもミスリル装備引いてるからな、あたしももう一個くらい装備引きてぇな」
「良いから早く開けろよ。腹減ったから特上ステーキで頼むぞ」
「おまえ……紅竜刀引いてなかったらケツの穴に矢ぶち込んでたからな」
ケラケラと二人で笑い合った後、二人は手を合わせて毎回恒例となった祈りの言葉を唱える。
『女神様、どうか我々に最上の装備をお与えください!』
最初はバカにしていたマキナも神具のごとき刀を手に入れてしまえば恥も吹っ飛ぶものである。
意気揚々と開けた宝箱には、美しい絹の袋があった。
「お? ステーキか?」
「アホか! どこに絹の袋に入ったステーキがあるんだよ! どれどれ……」
マキナが絹の袋を開けると、輝きを放つ黄金の粉が入っていた。
「こりゃあ……もしかして世界樹の粉塵か……?」
「なんだそれ」
「こいつとあたしは昔縁があってよ。どんな病でも傷でも、身体の欠損でも瞬時に直して全回復するって代物だ。しかもパーティで使えばパーティ全員が、戦争で使えば一中隊くらいには効果が及ぶって話だぜ」
そいつは凄そうだ、とソーマが感心していると、マキナが勝ち誇った顔で語る。
「ミスリルのバックラーは大金貨10枚くらいだがよ、こりゃ大金貨1000枚はいくぜ。今日だけで一生分稼いだかもな」
日本円に換算すればミスリルバックラーが100万、世界樹の粉塵は1億といったところだろうか。
たしかにどんなものも治癒するとなれば、その需要は計り知れない。
「大当たりだな、おめでとう」
「んだよちったぁ悔しそうな顔しろってんだ」
マキナは面白くねぇと言った顔をしながら、大事そうに世界樹の粉塵を革製のリュックに仕舞った。
「でだ、早けりゃ次でボスが出る」
ソーマはダンジョンも、そこの最下層のボスというのも初めてである。
「おそらくそんなに強い敵じゃねぇとは思うが、一応ボスだしダンジョンの性質を考えると状態異常系やトラップ系のスキルを使ってくる場合もあるから気を抜くんじゃねぇぞ」
「毒・麻痺あたりなら魔法でなんとかなるけどそれ以外ってなるとぶっつけ本番になるな。ボスの間って引き返せたりするのか?」
「いや、一度入っちまったら倒すか死ぬかだ」
それを聞いてソーマの顔が曇る。
「ビビってんのか? ここまで来て引き返すってのは無しだぜ」
「……正直迷うな。今までボスと戦ったことはあるのか?」
マキナは過去に3度ほど戦ったダンジョンボスについて色々と語ってくれた。
「ってわけで、ソロで始めてからは初めてのボスだがここより深い階層のボスとは戦ったことあるぜ。ましてや今回は四属性使えて回復や状態異常治癒も出来るおまえがいりゃ、まず15階層ボスなんて余裕だろ」
「……いや待ってくれ、もう少し色々確認しておきたい」
ソーマはその後、マキナが過去に一緒に組んだことのあるパーティの構成やレベル、分かる範囲でのステータスなどを確認し、お互いが出来ること、使える属性や魔法、スキルなどを、ある程度は隠しつつも確認し合った。
ダンとエルからは『冒険者は自分の手の内は明かさないもの』と言われていたが、ソーマはマキナの裏表のない性格を信用したいと思い始めていたし、何よりダンジョン攻略、ボス戦で出し惜しみをして死んでしまっては元も子もない。
それはマキナも同じのようで、スキルのランクまで話すことはなかったが、かなり強力なスキルと三属性持ちということも明かしてくれた。
(たしかに聞いた感じではイケそうだな。物理ダメージに関しては二人とも良武器があるし、近接が危ない場合はマキナの遠距離物理攻撃がある。矢の回収と補助は俺がやればいい。物理耐性が高くてもお互い魔法が使えるし弱点属性があるならそれを突けば良いだろう)
「よし、分かった。十分ほど休んだら行こう」
「そうこなくっちゃな。ボス報酬の宝箱を開けるのはおまえで、取り分は山分けな。専用装備品ならダンジョンボスが復活してからあたしの分の為にもっかい潜ってもらう」
「それでいい」
トレジャーハンターってやつは宝のことしか考えてないのかと思いもしたが、ボス報酬とやらにはソーマも興味があったので、勝つためにも再度念入りにステータスプレートの確認を始めた。
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