第15話 碧竜刀
「だからよぉ! もうちょっと進もうぜって!」
先程からソーマとマキナは進むか戻るかを討論していた。
「いや、二人で進むなら食料が足りなくなるから。10層ならまだしも15層だと帰れないって」
「だからボスぶっ倒せば入り口に転移するんだっつの!」
「じゃあ15層まで行ってボスいなかったら?」
「さらに進めば良いだろうが!」
「それだと食料が……」
そんな調子でかれこれ10分ほど押し問答を繰り広げている。
「よし、じゃあこうしよう。とりあえず10層の終着点まで進む。二人で進むのと一人で進むのじゃ進行速度が変わるかもしれないから、9層と10層の進み具合を見て行けそうと判断したら15層まで進む。それで良いか?」
「おうよ、助けてもらった恩もあるからお宝は三つに二つはおまえにやるが、三つに一つはあたしがもらうからな」
「それで良い。じゃあ早速探知する」
そう言うとソーマは風を走らせる。
「……何やってんだ?」
「先に風を走らせて地図を作る」
「おまえこんな広さの迷宮全部に風探知使えるのかよ……」
「通路一本ずつしらみつぶしだから時間かかるけどな」
会話しながらもソーマは地面に探知先の通路で地図を作っていく。
(ここまで来た道とそれまでに探知した道はなんとなく覚えてるから、まだ探知してない道を優先してっと……)
どんどん出来上がっていく地図を見てマキナは「チートかよ」と呟いていた。
10分ほどで運良く終着点を引き当てたソーマは立ち上がり、マキナを促す。
「見つかった、行くぞ。途中に狼っぽい魔物がいるな」
「戦闘はあたしに任せてくれ、じゃないとやることがなくなっちまう」
マキナは立ち上がると、立て掛けていた弓矢を持ち、弦の張りを確認して背負う。
「遠距離攻撃主体か?」
「はっ! ソロ専のトレジャーハンターに近いも遠いもねぇよ」
マキナは腰の左右に下げた……短めの剣を指差す。
「珍しい形だな……双剣?」
「お目が高いねぇ、カットラスってんだ。幅広で反りのあるショートソードみたいなもんだな。ドワーフ製の特注品だぜ。っていうかおまえ、強そうなくせして装備は随分貧弱だな、そんな装備で大丈夫か?」
「……出来ればもっと良い装備が欲しい」
大丈夫だ問題ないと言いたいソーマだったが、自身の装備とマキナの装備を見比べると、五段くらいは見劣りする見た目にソーマは羨ましさと恥ずかしさを覚えたのだった。
(街ではわりと高級品の部類だったのに……)
「宝箱を自分が開けるタイミングで装備が出ることを祈るんだな」
「装備も出るのか」
「自慢だがこの弓は世界樹の枝だぜ、こいつはエルフ大陸のダンジョンで出たやつだ、今までで一番のお宝だな。こればっかりはいくら金を積まれても売る気はねぇ」
そう言って弦をビヨンビヨンと鳴らすマキナを見てソーマは誓ったのである。
(こううんの高さをここで活かさずどこで使う……絶対装備引き当てるぞ……)
罠を解除しながら進むと同時に魔物の気配も察知する。
「あの右曲がり角の先に狼型の魔物がいるぞ」
「よーし任せろ、進みながらで構わねぇ」
マキナはそういうと歩きながら世界樹の弓を引く。
そして未だ魔物が見えぬというのに、左の壁ぎりぎりに矢を射った。矢は綺麗に弧を描いて曲がり角を曲がり、直後に魔物の小さな呻き声が聞こえた。
「殺ったはずだぜ」
「どういう原理であんな射出速度の矢を曲げたんだ……スキル? 魔法?」
「冒険者のスキルを詮索するったぁ良い度胸だな。まあおまえのとっておきを見せてくれたら教えてやっても良いぜ」
(そう言えばそうだったな、今思えばダンとエルとしかパーティ組んだことがないからつい忘れてた)
「悪かったよ、次は俺のを見せよう」
「冗談だ、あたしはそういう細けぇことは気にしねぇよ。別にオリジナルってほどでもないしな」
「気楽で良い」
「そうそう、そうゆうこと」
曲がり角を曲がるとかなり大きめの真っ赤な狼の眉間に、深々と矢が突き刺さっていた。おそらく脳まで達して即死だろう。
マキナはその矢を真っ直ぐに引き抜くと狼は青い光となって消えていく。
「時間が惜しい、どんどん行こうぜ」
「ああ」
8層の終着点にはすぐに着いた。
ソーマは丹念に木箱の周りの罠を調べている。
「ホントに着いちまったよ。おまえほどの風探知使いはなかなかお目にかかれねぇな」
「そうなのか? 周りにあまり冒険者がいないから基準が分からない」
「ダンジョン専門パーティなら引く手数多だろうよ」
「そういうものか。まあいい、この木箱は俺ので良いんだな? ここまで全部空だったからね」
「そりゃあたしが全部頂いたからな。こっからはさっき言った通りだ。それと木箱ってのやめようぜ、ありがたみがねぇ。あたしはこの宝箱を開ける瞬間が生きてて一番ワクワクするね」
なるほど、とソーマは得心し、改めて初めて中身が入ってるであろう宝箱に向き合う。
そして期待と不安に胸を膨らませ、手を伸ばした時。
「おう待てよ、おまえもしかしてダンジョンの宝箱は初めてか?」
「そうだけど」
「じゃあ知らねぇと思うが、ダンジョンの宝箱は開ける人によって中身が変わるんだ」
どういうことだ? とソーマは首を傾げる。
「不思議と宝箱は最初に触れたやつに合わせたものが出る。剣士なら剣、それもそいつが両手剣使いなら両手剣が出るし、防具もサイズがピッタリ合うんだ」
神の試練と揶揄されるダンジョンだが、たしかに自然復活する報酬のアイテムやボスを考えると、宝箱も開けた者に合わせたものが出ると言われても不思議ではない。
「こううんのステータスが高いやつは良いものが出やすいって噂もあるが、結局そいつの職業なんかにまつわるものしか出ねぇし、そもそもこううんだけ突出して高いなんてやつもいない。さらに言えばお宝級の装備やアイテムなんてほとんど出やしねぇ。大抵は売り飛ばせばそこそこ金になる程度のもんだからな。せいぜい開ける前に祈るんだな」
マキナはその言葉とは裏腹に早く中身を見たそうにしている。
表情から察するに、ゴミが出たら笑ってやろうと思ってるに違いない。
(見てろよ……)
「幸運の女神よ、我と生涯を添い遂げる剣をお与えください!!」
マキナが「こいつマジかよ!」と笑いを堪え切れずに吹き出す横で、ソーマは宝箱を開けた。
そこには深い海のような青瑠璃色の鞘に収められた一本の日本刀が入っていた。
そのあまりの美しさに二人は声を失う。
ソーマは吸い寄せられるように刀を手に取り、ゆっくりと抜刀してその刃を掲げた。まるで発光するかのごとき神々しい刀身には美しい波のような刃文が浮かび、鍔は刀身と同じ材質であろう白銀の金属に三つの丸い穴が開き、柄は強靭であろう黒の革巻き仕上げとなっている。
長さは脇差より少し長いくらいで、小太刀に属する異世界産の日本刀といったところだ。
「なんだこれ……こんな形の剣見たことねぇぞ。それに……なんつーかすげぇ魔力、みたいなものを感じる」
「……碧竜刀?」
ソーマは小さくそう呟く。
「……知ってるのか?」
「いや、なんとなくこれ握った時に直観的にそう感じたんだ」
そういうとソーマは碧竜刀を数振りしながら感触を確かめる。
「ホントに宝箱は開ける人で中身が変わるんだな、ある意味これは俺にしか出てこない剣だし、重さも長さも感触も全部、長年使い馴染んだ剣みたいだよ」
「いや、ああは言ったけどよ、それおそらくとんでもないお宝だぜ。そんなの普通出ねぇよ……」
「運は良い方なんだ、幸運の女神に祈ってしまったし、生涯大切にするさ」
ったく妬ましいぜ、というマキナの声と同時に、二人は石壁に手を触れて9層へと転移した。
本日三話更新致します、17話はソーマとマキナのステータス等です!




