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運に寵愛された転換転生者【完結済】  作者: 大沢慎
第1章 人間国編
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第14話 異世界人っぽい少女


 ソーマはダンジョンに入ってから8番目のエリアの入り口に立っていた。

 基本的にはずっと変わらず迷宮が続いているが、罠の殺傷能力やバリエーションは増え、敵も強さを増してきている。


 ダンジョンに入ってからおおよそ20時間ほど経過していると思われる。前世では連日徹夜仕事をしていた(させられていた)ソーマに取ってはまだまだ体力的には余裕があった。


(一応二人に稽古は2日ほど休むかもしれないと言っておいて良かったな……とりあえず食料はあと3日分余裕があるし身体もまだまだいけるけど、どっちかって言うと集中力と敵の強さの方がキツくなってきた感じはあるな。あと、孤独感が(ひど)い、人と話したい)


 ずっと景色の変わらぬ石穴の中で、集中力を要する風探知による地図作成と生死に関わる罠の看破(かんぱ)、徐々に強くなっていく魔物との戦闘。

 それらは確実にソーマの精神を(むしば)んで行った。

 実は100エリア以上あって自分のような駆け出しの冒険者が入るものではなかったのではないか、どれだけ進んでも何もないのではないか、いつか罠にかかり死んでしまうのではないか、など弱気な思考が浮かんでは否定するということを繰り返している。


(いや、とりあえず10エリアまで行って何も無ければ引き返そう。何気にここまで来て何も得られずに引き返すって時の帰り道が一番危なそうだし、余力は残しておかないとな。こんな極限状態なかなか経験出来ないはずだし絶対自分の力になるはずだ)


 ソーマは自分にそう言い聞かせ、気を取り直して風探知を進めた。



 とある違和感のようなものを感じたのは30分ほど探知を進めていた時である。

 一つの通路の行き止まりに、魔物とは違う、何か生き物のような形の反応があった。

 比較的新しい遺体かとも思ったが、丁寧に風を操作して形を確かめようとするとどうやら動いている感じがする。


(うーん……人、っぽいよな、この感じ。壁を背にして寄りかかってる感じか?)


 沢山の遮蔽物の先の遠く離れたものを風の動きのみで把握するのは、一流の風探知使いでも決して簡単なことではない。

 超々短期間でそれを一応は形にしたのはSランクスキルと、ソーマのたゆまぬ努力の賜物(たまもの)であった。


(あれ、寝っ転がったか? 休んでるのか、あるいは怪我でもしているのか……)


 ソーマは迷っていた。

 明らかに魔物とは異なる人型の生物。

 手負いの冒険者であれば助けたいとは思うが、悪党であれば殺されてもこんな場所では文句は言えない。


(無難なのは放置なんだろうけど……なにせ人との会話が恋しくなってきたし、好奇心が抑えられんぞ)


 まあなるようになるか、とソーマは探知した人型の生物のところへと向かうことにした。



 あと曲がり角一つで着く、というところでソーマは一旦足を止めた。灯篭は少し前に消してある。

 ここまでの道のりの罠は全て発動しており、やはり誰かが通ってきたと考えられる。

 距離が近づいた分、分析もしやすくなるのでもう一度風探知を発動して相手の様子を探ることにした時。


「……おい、誰かいるんだろそこに。さっきから風の動きがおかしい」


 その声はかなり若そうな女の声だった。


(女か? さて参ったな、こういう時はどう返答するのが正解なんだろうか)


「わりぃが助けてくれねぇか……どうせこのままならあたしはここで死んじまう。礼はするからよ……頼む」


 言葉は強気だが、その語気は弱々しく、ソーマにはそれが嘘には思えなかった。


(ま、ここまで来たんだしな)


「風探知の件はすまない、魔物以外の反応があったから様子を見に来たんだ。大丈夫か?」


 ソーマは意を決して灯籠を唱え、角から姿を現すと、壁に寄りかかる形で白髪で褐色肌の少女が腰を下ろしていた。


「……随分若ぇんだな」

「そっちも大差ないだろ」


 明らかに弱った見た目をしている少女だが、あくまで強気な姿勢は崩さないようだ。


「……あんた一人か?」

「そうだ」

「……わりぃが回復薬か薬草の類、それに毒消しを譲ってくれねぇか、もちろんこんなところだ、破格で買い取る。もし余裕がありゃあ食料も売って欲しい」


 ソーマは頭をフル回転させていた。

 回復させた後に襲われれば元も子もない。

 ただ、現状は圧倒的に優位な立場での交渉である。前世で業務外の営業をさせられていた時の記憶を辿り、最善手を考える。


「なにがあったんだ?」

「チッ……何もかにも罠にハマっちまったんだよ。魔物との戦闘で油断しちまった。ここは魔物はそうでもねぇがえげつない罠が多いからな……」


(なるほど、ということは探知系は非実用的か使えない、回復魔法も使えない、戦闘能力で言えばここの魔物は余裕を持って倒せるってとこか。俺より強いとは思うけど、たしかに補助系の魔法が強くないとここは厳しいだろうな)


 ソーマは分析を進める。


「どうしてこんなところに来たんだ?」

「おいおい尋問か? まあいいや、久々に見つけた未開のダンジョンだからな、当然お宝目当てさ。他に聞きたいことはあるかよ」

「いや、十分だ」


 そういうとソーマは少女にミドルヒールとキュアポイズンをかけ、リュックからウサギの干し肉と木製のカップを取り出し、カップには水魔法で水を注いだ。


「金はいらないよ。食料は……足りなかったらあとパン一個くらいなら良いかな」

「ありがてぇ……助かった……ここで終わりかと思ったぜ……」


 少女は涙を目に浮かべ、干し肉と水を頬張り始めた。

 その横にソーマは腰を下ろし、せっかくだからと自分も食事を取る。

 一応探知、灯篭、水球に回復と補助的なことは一通り出来ることを見せたので、殺されはしないだろうと考えた。

 それに……礼を言って涙を流して食事をする少女が悪人には思えなかった。


 少女があっという間に干し肉を平らげたので、ソーマは何も言わずにパンも差し出すと、「良いのか?!」と目を輝かせてパンもあっと言う間に平らげた。

 近くでよく見ると少女は耳が長く、額の上には一角の角が生えており、瞳は右眼が真紅、左眼が黒紫色だった。

 ソーマは内心、めっっちゃ異世界っぽい!! とテンションが上がっていた


「ホントに助かった、あんた命の恩人だよ。あたしはマキナ」


 マキナがそう言って手を差し出す。

 握手なんて久々だな、とソーマも手を差し出したが、一瞬身体がお辞儀しそうになるのをすんでのところで抑えた。


「俺はソーマだ、よろしく」

「ソーマか、変わった名前だな。よろしく。にしても風探知に灯篭に水球、おまけに回復魔法ったぁ、さすがにソロでダンジョン攻略するだけあるな。黒髪ってことはあんたも雑種か?」

「雑種……?」

「ん? わかんねぇか? あたしは見ての通り、ダークエルフと魔族のハーフだよ。あんたも人間となんかの混合じゃねぇのか? 黒髪の人間なんて見たことねぇ」


(やっっぱりぃぃ!!! しかもなんか強そうな組み合わせ!!!)


 ソーマはやはり内心テンションが爆上がりだったが、努めて冷静を装う。


「……ダークエルフと魔族の混血なんているんだな」

「珍しい組み合わせだからな、おかげで忌み子扱いさ」


 ソーマは悪かった、と謝罪し、自分について考えていた。


(黒髪の人間はいないのか、となると親が人間って説は通らないよな……)


「俺は……親は分からないんだ」

「あんたも訳ありってわけか、こっちこそ悪かったよ」


 訳ありという点では女神に異世界転生させられたのだから訳ありなのだが、そんなことを言うと何が起こるか分からないので他言はしない。


「で、 マキナ。ここはやっぱりダンジョンなのか?」

「間違いねぇな。あたしもそこまで多くのダンジョンに潜ったことはないけどな。敵はそこそこだけどよ、罠が尋常じゃねぇからあんたみたいに上位の探知系がいねぇとここは相当キツいと思うぜ」

「なるほどな、ちなみに最深層まであとどれくらいだと思う?」

「んーそうだな、あたしの勘だと15層か20層でボスの間ってとこか」


 15層だと現在で半分、20層だと三分の一ってとこか。

 おおよそここまで20時間、ここからさらに難易度が上がることを考えると、食料と精神力、体力が心許ない。


「あんたはまだ先に行くのか?」

「うーん……最深層まで行くのでギリギリって感じだから、ボス戦は厳しそうだしそこから帰ること考えると出直すかな」

「慎重だねぇ、長生きしそうだ」

「褒められてるのか皮肉を言われてるのか分からないな」

「両方だ」


 そう言って笑うマキナを見ていると、ソーマも懐かしい楽しさを感じていた。

 この世界に来て初めて敬語を使わず気兼ねなく話せる相手とのくだらない会話。

 そんなものを、こんな場所で得られたことが嬉しかった。


初なろう小説、初異世界転生モノですが、自身が思っていた以上に読んで頂けているみたいで嬉しいです。

楽しんで頂けたら書き手冥利に尽きます。

当分は毎日二話更新していくので、今後とも運スキ!を宜しくお願いします!


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