第134話 王都ミュランローゼ
全速力で護衛を置き去りにしたソーマ達はしばらくしてから少し速度を落とし、街道を走っている。もちろん速度を落とした所で、護衛達には追いつける速度ではないのだが。
「どうだ丸眼鏡ッち!」
「うむ、将軍殿に檄を飛ばされて一応追いかけてるようじゃが、あまりやる気は無いようじゃの」
「へっ、そりゃあんな速度見せられりゃやる気もなくなるだろーぜ」
マキナは散々馬鹿にされたのが気に入らなかったようで、清々しい表情だ。
普段ならフィオナもマキナに乗っかるのだろうが、同郷の者にあのような対応をされたことが残念そうである。
「フィオナから聞いてたけどやっぱりエルフ国もあんまり対話出来る感じじゃないね。獣人国が珍しいのかもしれないけど、この調子なら王都も面倒なことになりそうだ」
「すみません……女王様はもう少し話が出来るとは思うんですけど」
俯きがちに話すフィオナに対し、フィオナが謝ることじゃないと制した三人は、そのまま真っ直ぐミュランローゼを目指す。
ミュランローゼに着いたのはおおよそ二時間半後であった。
ソーマ達は南側の城下町の門まで回って、門番にステータスプレートを見せて中に入る。
門番はフィオナの名を確認すると、管理室のような所で何やら色々確認した後に官吏を呼ぶと言ったが、官吏が到着するまで一時間ほどかかると言うので、どの道王城にこれから向かうと告げ、半ば無理矢理その場を後にした。
ミュランローゼは他の国の王都と違ってなだらかな丘の上にあり、周囲は見渡す限りの草原だった。
その代わり、石造りの高い街壁に囲まれており、街壁の中にも人が入れるようになっている。小さな窓が無数にあることから、高い街壁から矢を放ち敵を近付けない方法を守りの主体としているのだろう。
城下町の街並みも非常にシンプルで且つ品が良く、他の国に比べてやはり木造家屋が多くみられ、さらには公園のように木々や花が植えられている広場もあり、街中に水路や噴水が作られているので、非常に自然と調和の取れた美しい街並みであった。
「うわーめちゃくちゃ綺麗な街だな。今まで見てきたどの国の王都より綺麗だね」
「あら、ソーマ様お気に召しました? ここミュランローゼは連合国内でも街並みの美しさが話題となってまして、観光地としても栄えてるんです。そうですわ、エルフ国への報告が落ち着いたら一日デートしませんか? 前にココネさんともお買い物したんですよね?」
「ああ、デートって言うとちょっと気が進まないけど、フィオナの買い物とかオススメの店なんかがあれば付き合うよ」
フィオナはまさか了承してもらえると思っていなかったのか、顔に両手を添えて頬を赤らめ喜んでいる。
その様子を見ていたマキナがソーマに詰め寄る。
「おい、丸眼鏡ッちとフィオナとは買い物してあたしとはしねぇのか?」
まるで喧嘩腰のマキナに、丸眼鏡とフィオナは素直じゃないなぁと微笑みを漏らして見つめるのであった。
「え、いや、マキナはあんまり買い物ってイメージ無いからな。なんか見たいものってあるのか?」
「……特にねぇけどよ」
いくらマキナが自身の気持ちを自覚したとしても、この二人が進展するのは時間が掛かるのぅと、丸眼鏡はまた策を講じる決意をしたのであった。
三人は緩やかな上り坂の街の途中、露店でサンドイッチと飲み物を買って少し軽食と休憩を取った後、城の正門前まで来ていた。
城には城の門番がおり、そこで書簡とステータスプレートを渡す。
「ん? ファルメル将軍からの書簡か? それにフィオナ様もいらっしゃるとは。少々お待ちください」
門番は衛兵を呼びつけるとすぐに内容を伝え、遣いに走らせた。
ソーマ達は門から城下町を見下ろしながら、その美しい街並みを眺め、フィオナは建物を指差しながら街の説明をしつつ待っている。
しばらくすると一人のエルフがやってきた。
長身で金髪、穏やかな表情のメガネを掛けたエルフで、緑のローブが良く似合っている。
「これはこれはフィオナ様、よくぞご無事で戻られました。獣人国から使いが来て無事とは聞いておりましたが……かなり雰囲気が変わられましたね」
「フルート参謀長官、お久しぶりです。こちらがパーティリーダーのソーマ様です。そしてこちらがメンバーのマキナさんとココネさんです」
フィオナはフルート参謀長官とやらにメンバーの紹介をし、皆各々握手を交わした。
「皆さん宜しくお願いします。して、ファルメル将軍から書簡を頂いておりますが……」
「先日の魔族とダークエルフ軍による世界樹の奪還の件で、私達も不本意ながら関り、事の顛末には詳しいのでその件で報告に上がりました」
フィオナはそのまま自身で説明をすると、フルート参謀長官は驚きの表情を見せた。
先ほどからマキナのことをチラチラと見ているが、その眼が少し厳しくなったように見える。
「なるほど……その件に関しては、役職柄私も現在調査が急務となっておりまして、是非お伺いしたい。しかし参りましたね……フィオナ様が帰還されたとなると女王陛下への報告も急がねば。キミ、ちょっと良いかな」
フルート参謀長官は先ほど遣わされた衛兵を再度呼び戻し、言伝を残すとソーマ達に向き直る。
「まずは私の個室で話を伺います。途中で女王陛下から呼び出しがあるかもしれませんが」
フィオナが三人に向き直ると、三人もそれで良いと了承したので、四人はフルート参謀長官に連れられ王宮内へと入った。
やはり王宮内も非常にシンプル且つ品がある造りとなっていた。
所々に木が植えられ、そのおかげか吹き抜けになっている場所も少なくない。
花や絵画なども多く飾られており、建物のシンプルな造りのおかげでそれらが良く目を惹く。
しかしその優雅で美しい王宮とは逆に、世界樹奪還の事件の影響か人は慌ただしく行き来していた。
フルートは足早に四人を連れるも、やはりマキナが目立つのかかなりの人が視線を向けている。
フィオナがマキナを案じて言葉を掛けていたが、当のマキナは慣れているのか全く気にしていない様子であった。
何度か角を曲がって二階に上がり、そこから少し歩くとフルートは扉を開け、四人を中に促した。
そこは小さなフルート専用の個室のようで、窓からは城下町を見渡せた。
やはり窓枠には小さな花が飾られており、部屋の隅には観葉植物か、天井ほどある鉢植えの木も置いてある。
四人は応接用の革張りのソファーに腰掛け、フルートと向き合う。
「見ての通り、世界樹の事件から皆大忙しですよ。それで早速だが……フィオナ様方はどのように関わられたのですか?」
「ええと、その件はリーダーのソーマ様に――」
「いや、事の顛末を全て見届けているのは丸眼鏡だから、丸眼鏡に話してもらおう」
ソーマは説明を丸眼鏡に譲ると、丸眼鏡がなるべく簡単に、しかし端折り過ぎないように概要を全て伝えた。
フルートは相槌を打ちながらもノートにペンを走らせ、記載してゆく。
その間、フィオナは全員分のお茶を淹れてお茶菓子も出してくれたので、ソーマとマキナはそれを摘まみながら話を聞いていた。
「なるほど……にわかに信じがたいが、事実なのですね?」
「うむ、少なくともわたくしが見た客観的事実に関しては嘘偽りはないのじゃ。もし生き残りがおるなら、ソーマ殿が使った魔法も目にしていると思うがの」
フルートは顎に手を当てて考え込んでいる。
実際にエルフ国が斥候と兵を派遣してから、斥候が走り通しですぐに持ち帰ってきた情報とはほぼ合致している。
その報告から伺える惨状にフルートは不可解な点を多々抱いていた。
魔族やダークエルフが街を襲うなら、必ず街を活かして自分たちの拠点にするはずである。
それが街一つが消し飛んでいると言うのだから、どういった戦いが繰り広げられたのか分からず、さらにはその魔族とダークエルフすら壊滅しているというのに理解が追い付かなかった。
今丸眼鏡が話した内容が事実なのであれば、全て合点が行く。しかし、たった一人の魔法で街一つ消し飛ぶ等というのもまた、考えにくいのであった。
捕虜やエルフの生き残りは現在捜索中であり、随時王都へ馬車で運ばれる手筈になっているが、まだ日数は掛かる。
ソーマは考え込むフルートに、口を挟む。
「フルートさん、俺たちは聞かれたことにはなるべく答えますし、全て真実をお伝えします。お互い時間は貴重ですから、真実ということを前提に話を進めてもらえるとありがたいです。魔法を実演してくれと言われればしますし鑑定術士がいるなら好きに鑑定もしてくれて結構です。俺たちは関わってしまった以上は全て報告して、エルフ国と関係を拗らせたくないというのが目的ですから」
ソーマがそこまで言い終えると、部屋の扉をノックする音が聞こえ、フルートが許可を出すと一人の女性が中へと入ってきた。
「フィオナ様、女王陛下がお呼びです。お連れの方々もご一緒下さい」
「そうだね、続きは後程また聞こう。私も同行するよ」
さて行こうか、とフルートの声に、四人は各々立ち上がり、遣いの官女に後に続いて女王の間へと向かった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
本日総合評価が2000を越えました。処女作でここまで評価して頂けると思っていなかったので、とても嬉しく思います。
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引き続き運スキを楽しんで頂けたら嬉しいです!
※誤字報告すみません!!ありがとうございます!!話と話し、気を付けます、すみません!!